相続手続きの委任状の書き方:銀行・法務局で使う文例と注意点
相続手続きの委任状は、「誰が(委任者)」「誰に(代理人)」「何を(委任する手続きと対象の財産)」「いつ(日付)」を1枚で特定できるように書くのが基本です。法務局の相続登記には法務局が示す委任状の例があり、委任者の印は認印でよいとされています。銀行などの金融機関は所定の相続手続書類で手続きを進めるので、先に委任の様式があるかを聞き、なければこの記事の文例を下書きに使います。
相続手続きの委任状が必要になる場面と、使えない場面
委任状が出番になるのは、相続人の一人が遠方に住んでいる、平日に窓口へ行けない、兄弟の代表者がまとめて動く、といった場面です。ただし、手続きによっては代理そのものが認められていません。
| 手続き | 家族が代理できるか | 委任状の形 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 相続登記の申請(法務局) | できる(記載例に代理人の例あり) | 法務局の委任状の例に沿う。委任者の印は認印でよい | 申請書にも代理人の記載が要る |
| 法定相続情報一覧図の申出(法務局) | 親族はできる | 法務局の様式ページの委任状 | 代理できるのは親族と法務局が示す資格者 |
| 戸籍謄本の請求(本籍地の市区町村) | できる(郵送も可) | 戸籍法10条の3が求める、依頼を受けたことを示す書面 | 本籍地以外で請求する広域交付は代理不可 |
| 預金の払戻し・名義変更(金融機関) | 各金融機関の扱いによる | 金融機関所定の様式が基本 | 実印・印鑑証明書を求められるかは各社 |
| 証券口座の開設先の調べ方(証券保管振替機構の開示請求) | 任意代理人が請求できる | 機構の様式の委任状に法定相続人の実印を押す | 印鑑登録証明書は発行から6か月以内のコピー |
戸籍法10条の3は、代理人が戸籍を請求するとき、請求者の依頼で請求していることを明らかにする書面を出すよう定めています。一方、2024年3月1日から始まった戸籍の広域交付(本籍地以外の窓口でまとめて請求する仕組み)は、法務省の案内で郵送や代理人による請求ができないとされています。代わりの家族に頼むなら、本籍地の市区町村へ郵送で請求する形を選びます。
他人の依頼を受けて登記の申請を代理する仕事は、司法書士会に入会した司法書士と司法書士法人でない者は行えません(司法書士法3条1項1号・73条1項)。家族が自分たちの相続のために代理人になることと、事務所に依頼することは別の話なので、外部に頼むときは司法書士かどうかを確かめます。
法務局で使う委任状の文例(相続登記・法定相続情報)
法務局の記載例にある委任状は、任せる中身を「下記の登記」に限ったうえで、5つの権限を並べています。家族に任せるときも、この形を下敷きにすると漏れがありません。
文例(相続登記の委任状) 委任状 私は、(代理人の住所)(代理人の氏名)に、次の権限を委任します。 1 下記の登記に関し、登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること 2 登記が完了した後に通知される登記識別情報通知書及び登記完了証を受領すること 3 登記の申請に不備がある場合に、当該登記の申請を取り下げ、又は補正すること 4 登記に係る登録免許税の還付金を受領すること 5 上記1から4までのほか、下記の登記の申請に関し必要な一切の権限 令和○年○月○日 (委任者の住所)(委任者の氏名)印 記 登記の目的:所有権移転/原因:令和○年○月○日相続/相続人:(被相続人 氏名)(住所・氏名)/不動産の表示:登記事項証明書のとおりに記載
「原因」の日付は、遺産分割協議が成立した日ではなく被相続人の死亡日を書く、と記載例の注に書かれています。不動産の表示は登記事項証明書の記載をそのまま写し、不動産番号を書けば所在・地番などを省略できます。
法定相続情報一覧図の申出を家族に任せるときは、法務局の様式ページにある委任状を使います。申出できる代理人は親族のほか、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士と法務局が示しています。
戸籍の請求と銀行で使う委任状の文例
本籍地の市区町村へ戸籍を請求する委任状は、その市区町村のサイトに様式があればそれを使います。見つからないときの下書きは次のとおりです。
文例(戸籍謄本の請求の委任状) 委任状 代理人 住所:○○県○○市…… 氏名:○○○○ 私は、上記の者を代理人と定め、次の権限を委任します。 1 被相続人○○○○(本籍:○○県○○市……、筆頭者:○○○○)の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本の交付を請求し、受領すること 2 使用目的:被相続人○○○○の相続手続き(預金の払戻し・相続登記)のため 令和○年○月○日 委任者 住所:…… 氏名:○○○○ 印 電話:……
金融機関の手続きは、全国銀行協会の案内でも、所定の相続手続書類に相続人が署名・捺印して出す流れです。代表の相続人が他の相続人から委任を受けるときも、まず金融機関の依頼書を取り寄せ、委任の欄や指定の委任状があるかを見ます。様式がなく、自分で書くよう言われたときの下書きは次のとおりです。
文例(預金の相続手続きの委任状) 委任状 私は、(代理人の住所・氏名)に、下記の預金の相続手続きに関する次の権限を委任します。 1 ○○銀行○○支店に対し、被相続人○○○○名義の預金(普通預金 口座番号○○○○○○○)の相続手続きを申し出ること 2 相続手続きに必要な書類を提出し、受領すること 3 上記預金の払戻金を、代理人名義の○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○で受領すること 令和○年○月○日 委任者 住所:…… 氏名:○○○○ 実印
払戻金の受取口座を代理人の口座にしてよいかは金融機関ごとに決まっているので、依頼書の受取口座の欄や窓口で先に確かめ、認められない場合は3の項目を相続人本人の口座に書き換えます。代理人の口座で受け取る形にするなら、後で各相続人へ分ける金額を遺産分割協議書に書いておくと、受け取った人と他の相続人のあいだの行き違いを防げます。
被相続人が上場株式などを持っていたかもしれない場合は、口座のある証券会社を調べる証券保管振替機構の開示請求も、家族に任せられます。機構の案内では、代理人が請求するときは委任状が要り、機構のホームページの様式を使うなら法定相続人の実印を押して原本のまま出せます。それ以外の様式の委任状はコピーを出すのが原則で、委任状には代理人の本人確認書類のコピーも付けます。あわせて、法定相続人の印鑑登録証明書(発行から6か月以内のもの)のコピーも出します。
白紙委任にしない書き方と、渡す前のチェックリスト
委任状で一番避けたいのは、空欄を残したまま署名押印して渡す「白紙委任」です。代理人の名前や対象の財産が空いていると、意図しない手続きに使われても止める手がかりがありません。家族の間でも、次の点を確かめてから渡します。
- 委任者の住所・氏名が、印鑑証明書や住民票の記載どおりになっている
- 代理人の住所・氏名が書かれ、空欄がない
- 任せる手続きが「下記の登記」「○○銀行○○支店の預金」のように特定されている
- 「一切の権限」と書くなら、上の特定された手続きに限る書き方になっている
- 日付が入っている(提出先が日付からの期間を指定していないかも確かめる)
- 押した印が、提出先の求める印(認印でよいか、実印と印鑑証明書か)に合っている
- 複数枚になったときは、つづり目に契印をしている
- 渡す前に全体をコピーして、委任者の手元に控えを残している
- 任せるのは手続きの実行で、遺産の分け方の決定までは含めていない
委任状で任せられるのは、書類を出す・受け取るといった手続きの実行です。誰がどの財産を取るかを決める遺産分割協議の中身まで白紙で任せることは、勧めません。代理人が相続人の一人で、自分の取り分にも関わる協議を他の相続人の代理人として進めると、民法108条の利益相反の問題が生じえます(本人があらかじめ許諾した行為は別とされています)。分け方は、本人が内容を見たうえで遺産分割協議書に署名押印します。
実印と印鑑証明書を求める提出先では、委任状と一緒に印鑑証明書も出します。印鑑証明書の通数や期間の数え方は相続手続きの印鑑証明の有効期限と通数の記事、戸籍謄本に期限があるかは相続手続きの謄本に有効期限はあるかの記事で続けて確かめられます。兄弟のうち誰が代表者になるかで迷っているなら、相続手続きを兄弟で分担する方法と代表者の決め方も参考になります。
よくある質問
Q. 相続手続きの委任状は手書きでないといけませんか?
法務局の委任状の例はパソコンで作った文面に住所・氏名と押印をする形で、全文を手書きにする決まりは示されていません。大切なのは、委任する人の住所・氏名、任される人、任せる中身、日付が特定できることです。金融機関の手続きは所定の相続手続書類で進むと全国銀行協会が案内しているので、金融機関の様式があればそちらを優先します。
Q. 委任状の印は実印でないといけませんか?
法務局の相続登記の記載例では、委任状の委任者の印は認印でよいとされています。一方、金融機関が実印と印鑑証明書を求めるかどうかは各社の様式で決まります。出す先ごとに確かめ、迷ったら実印で押して印鑑証明書を用意しておくと、出し直しを防げます。
出典・参考にした公的な情報
- 法務局 所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)記載例と委任状の例(令和8年10月5日以降の申請用)(法務局)
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」(法務局)
- 戸籍法 第10条・第10条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」(広域交付)(法務省)
- 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」(法務局)
- 全国銀行協会「預金相続の手続の流れ」(一般社団法人全国銀行協会)
- 司法書士法 第3条・第73条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第108条(自己契約及び双方代理等)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 証券保管振替機構「登録済加入者情報の開示請求(相続人用)」(2026年10月版)(株式会社証券保管振替機構)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。