家族信託の手続きの流れ:相談から契約・信託登記・口座開設まで
家族信託の手続きは、①設計 → ②契約書案の作成 → ③公正証書での契約 → ④信託登記 → ⑤信託口口座の開設の5段階で進みます。相談を始めてから口座ができるまでの長さは、家族の話し合いと公証役場・銀行の予約しだいで変わります。大事なのは、③の契約の時点で親に契約の内容を理解する力(意思能力)が残っていることで、ここを過ぎると手続き全体が組めなくなります。各段階で決めること・使う書類・担う人を順に説明します。
家族信託の手続きは5段階
全体を1枚にまとめると次のようになります。
| 段階 | すること | 主な担い手 | 押さえる点 |
|---|---|---|---|
| ①設計 | 目的・財産・受託者・終わり方を決める | 家族+専門家 | 次の受託者と帰属先まで決める |
| ②契約書案 | 条項に落とし込み、銀行にも見せる | 司法書士・弁護士 | 売却・借入れなどの権限を書く |
| ③公正証書 | 公証役場で契約を結ぶ | 公証人 | 親の意思能力。信託の効力はここで生じる |
| ④信託登記 | 不動産の名義を受託者に移し、信託の登記 | 司法書士(本人申請も可) | 移転と信託の登記は同時に申請 |
| ⑤信託口口座 | 預金を受託者が管理する口座に移す | 銀行・受託者 | 扱いの有無と条件は銀行ごと |
①と②は行ったり来たりします。銀行の条件や家族の意見で条項を直すことがあるので、③の予約は②がほぼ固まってから入れます。
段階1:設計で決めること
設計は、のちに直せない部分を決める段階です。信託の変更は委託者・受託者・受益者の合意でできますが(信託法149条1項)、親の判断が難しくなった後は合意そのものが成り立たなくなります。次の項目は、最初に決め切っておきます。
- 目的:実家を売れるようにする、アパートを管理する、施設費を払う、など
- 信託財産:不動産(登記簿の所在・地番・家屋番号)と、預ける預金の額
- 委託者・受託者・受益者:親・子・親が典型
- 次の受託者:受託者が死亡したり後見開始の審判を受けたりすると任務は終わる(56条1項)ので、交代する人を書く
- 受託者の権限:売却、賃貸、建て替え、借入れ、担保の設定のうち、どれを認めるか
- 監督役:信託監督人や受益者代理人を置くか
- 終わり方:終了の事由(例:親の死亡。163条9号)と、残った財産を受け取る人(帰属権利者。182条)
- 変更の方法:親の判断が難しくなった後に、誰の合意で条項を変えられるか(149条は信託行為での別の定めを認めている)
この段階で、遺言との関係も確かめます。信託した財産は信託契約の定めに従って行き先が決まり、遺言では動かせなくなるので、遺言をすでに書いている人は内容が食い違わないかを見直します。
段階2・3:契約書案から公正証書での契約まで
設計が固まったら、専門家が契約書案を作ります。案ができた段階で、信託口口座を作る予定の銀行に案を見せ、口座を開く条件に合うかを確かめておくと、契約後に「この内容では口座が作れない」と言われる事態を避けられます。
契約書案が固まったら、公証役場を予約し、案を送って公正証書の原稿を作ってもらいます。当日の流れは次のとおりです。
- 委託者の親と受託者の子が公証役場へ行く(親が外出できなければ公証人の出張を頼む)
- 公証人が本人確認をし、親と話して契約の内容を理解しているかを確かめる
- 公証人が公正証書を読み上げ、親子が内容を確かめて署名する
- 手数料を払い、正本・謄本を受け取る
信託契約は、締結した時に効力が生じます(信託法4条1項)。公正証書の手数料は、目的の価額に応じた額に信託の加算1万3,000円が加わります(公証人手数料令22条の2)。計算例は家族信託の費用:契約書作成・公正証書・信託登記の内訳と比べ方に載せました。公証役場への相談は無料と、日本公証人連合会は案内しています。
この段階のつまずきは、親の意思能力です。民法3条の2は、意思能力がない状態でした法律行為を無効としています。物忘れが増えてきた段階なら、主治医の受診の記録や、親自身が言葉で目的を説明できるかを、専門家と一緒に確かめながら進めます。
段階4:信託登記の申請
不動産を信託したら、法務局に所有権の移転の登記と信託の登記を同時に申請します(不動産登記法98条1項)。信託の登記をしないと、その不動産が信託財産であることを第三者に主張できず(信託法14条)、受託者には登記をする義務があります(34条)。
申請で押さえる点は次のとおりです。
- 移転の登記は、委託者(登記義務者)と受託者(登記権利者)の共同申請で、親の登記識別情報(権利証)の提供が要ります(不動産登記法22条)
- 登記簿には、委託者・受託者・受益者、信託の目的、管理の方法、終了の事由などが記録されます(97条)。これらは信託目録として登記され、登記事項証明書を取れば第三者も見られるので、契約の中身の一部が公になる前提で条項を書きます
- 2025年4月21日からは、所有権の移転の登記を申請するとき、新しい名義人(受託者)の検索用情報(氏名のふりがな・生年月日・メールアドレスなど)を併せて申し出ることになっています。2026年10月5日以降の申請では国籍等も申し出るので、法務局の新しい様式を使います
- 登録免許税は、移転の登記が非課税、信託の登記が評価額の0.4%(土地は2029年3月31日まで0.3%)
登記の申請を他人の依頼で仕事として代理できるのは、司法書士(と弁護士)です(司法書士法3条・73条)。受託者自身が当事者として申請することは禁じられていません。
段階5:信託口口座と、始めた後の事務
預金を信託する場合は、受託者が管理する信託用の口座に移します。信託口口座を扱うかどうか、公正証書を条件にするか、専門家の関与を求めるかは銀行ごとに違い、全国一律の決まりはありません。確かめ方は家族信託の信託口口座:金融機関で作れるかを確かめる方法で扱います。
口座ができて手続きは一区切りですが、受託者の事務はここから続きます。
| 時期 | 受託者がすること | 根拠 |
|---|---|---|
| 日常 | 信託財産と自分の財産を分けて管理し、帳簿をつける | 信託法34条・37条1項 |
| 毎年1回 | 貸借対照表・損益計算書などを作り、受益者に報告 | 37条2項・3項 |
| 毎年1月31日まで | 信託の計算書を税務署へ(収益が年3万円以下なら不要) | 所得税法227条・同施行規則96条 |
| 書類の保存 | 帳簿や処分の契約書を原則10年保存 | 37条4項・5項 |
自分でやる場合に難しい点
家族信託の手続きは、専門家に頼まず家族だけで進めることも制度上はできます。段階ごとの難しさを並べると、次のようになります。
| 段階 | 自分でできるか | 難しい点 |
|---|---|---|
| ①設計 | できる | 次の受託者・変更の方法・終わり方の抜けに気づきにくい |
| ②契約書案 | できるが負担が大きい | 権限の書き漏れは、親の判断が難しくなった後に直せない |
| ③公正証書 | 公証人が作る | 原稿のもとになる案は自分で用意する |
| ④信託登記 | 本人申請はできる | 信託目録に載せる事項の書き方、共同申請の書類 |
| ⑤信託口口座 | 銀行しだい | 銀行の条件に合う契約書かを事前に確かめる必要がある |
書き漏れのリスクが大きいのは②です。費用を抑えたい場合でも、契約書案の点検だけを専門家に頼む方法があります。始める前に欠点も知っておきたい人は家族信託のデメリット:損益通算・遺留分・身上監護ができない点を読んでおくと、設計で見落としにくくなります。
よくある質問
Q. 親が入院中でも、家族信託の契約はできますか?
公証人に病院や施設へ出張してもらい、公正証書を作ることはできます。その場合は手数料の加算と日当・交通費がかかります。前提は、契約の内容を親自身が理解して意思を示せることで、そこは公証人が本人と話して判断します。
Q. 信託の登記は、受託者の子だけで申請できますか?
信託の登記そのものは受託者が単独で申請できますが(不動産登記法98条2項)、所有権の移転の登記と同時に申請しなければなりません(同条1項)。移転の登記は委託者の親と受託者の子が共同で申請する形になるので、親の登記識別情報(権利証)なども必要になります。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第3条・第4条・第14条・第34条・第37条・第56条・第149条・第163条・第182条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第3条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第22条・第97条・第98条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士法 第3条・第73条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人手数料令 第22条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 遺言(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 検索用情報の申出について(法務省)(法務省)
- 不動産登記の申請書様式について(法務局)(法務局)
- 所得税法 第227条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所得税法施行規則 第96条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。