家族信託の信託口口座は金融機関で作れる?確かめ方と問い合わせの文例
家族信託(法律上は信託の一つ。民事信託とも呼ばれる)の信託口口座を作れるかどうかは、金融機関ごとに取り扱いの有無と条件が違い、国や業界団体が出している一覧はありません。「どこなら作れるか」を一覧で答えられる公的な資料はなく、たとえば日本郵便の案内は、ゆうちょ銀行では家族信託の信託口口座を開設できないとしています。つまり、候補の銀行ごとに自分で聞いて確かめるしかありません。確かめる方法は一つで、信託契約書を作る前(契約書案の段階)に、口座を作りたい金融機関へ「受託者名義の信託口口座を開設できるか、条件は何か」を直接聞くことです。条件に「公正証書で契約すること」「専門家が関与していること」などがあれば、それに合わせて契約の作り方を決めます。
信託口口座とは何か:金融機関で作る理由
信託口口座は、受託者(多くは子)が、信託されたお金を管理するために、自分の名前に「信託口」などの表示を付けて開く口座です。名前は受託者でも、中のお金は受託者の財産ではなく信託財産として扱われます。
なぜ専用の口座が要るのかは、受託者の義務から説明できます。受託者は、信託財産と自分の財産(固有財産)を分けて管理しなければならず、お金については「その計算を明らかにする方法」で分けることが求められます(信託法34条1項2号ロ)。さらに受託者は帳簿を作り、毎年1回、受益者に報告します(同法37条)。信託のお金だけが入った口座があれば、入出金の記録がそのまま帳簿の土台になります。
| 信託口口座が役立つ場面 | 根拠・理由 |
|---|---|
| 受託者の生活費と、親の施設費用を混ぜずに払う | 分別管理義務(信託法34条) |
| 毎年の受益者への報告を作る | 帳簿の作成と報告(同法37条)の材料が通帳に残る |
| 受託者がお金の問題を抱えた場合 | 信託財産には受託者の債権者が強制執行できない(同法23条1項)。受託者が破産しても信託財産は破産財団に入らない(同法25条1項) |
| 受託者が先に亡くなった場合 | 受託者の任務は死亡で終わり(同法56条1項1号)、信託財産は法人とされて受託者の遺産とは区別される(同法74条1項) |
ただし、法律が守ってくれても、それを金融機関に分かってもらえる口座の形になっていなければ、実際の手続きで困ることがあります。受託者の個人口座に信託のお金を入れておくと、受託者が亡くなった時に銀行から見て「受託者の遺産」と区別がつかず、手続きが止まるおそれがあります。信託口口座は、この区別を口座の名義で示すための手段です。
金融機関で信託口口座を作れるかを確かめる手順
信託口口座は、銀行にとって一般の預金と違う管理が要る商品なので、扱うかどうか、どんな条件を付けるかは各金融機関が決めています。全国銀行協会が会員の銀行向けに示した「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年)も、認知判断能力が低下した人との取引の考え方を整理したもので、信託口口座の扱いは定めていません。
確かめる順番は次のとおりです。
- 候補の金融機関を2〜3行に絞る:親の年金の振込先、施設費用の引き落とし先、受託者が通いやすい支店のある金融機関を候補にします。
- 契約書案ができる前に問い合わせる:口座の条件が契約書の書き方に関わるため、契約書を固める前に聞きます。家族信託を専門家に頼んでいる場合は、専門家が取引実績のある金融機関を知っていることがあるので、最初に聞いておきます。
- 条件を一覧にして比べる:下の表の項目を、金融機関ごとに埋めます。
- 契約書に反映する:公正証書を条件にする金融機関なら公正証書で作る、契約書の事前確認を求めるなら案を先に出す、という形で合わせます。
- 契約後、開設の予約を取る:必要書類(契約書の写し、受託者の本人確認書類、印鑑など)を確かめてから窓口に行きます。
| 金融機関に聞く項目 | 聞く理由 |
|---|---|
| 信託口口座を扱っているか(個人の受託者でも可か) | 扱いがなければ候補から外す |
| 契約書を公正証書にする必要があるか | 公証役場での手続きと費用が加わる |
| 専門家(司法書士・弁護士)の関与や、契約書の事前審査があるか | 契約書の作り直しを避ける |
| 口座名義の表記(「委託者○○ 受託者○○ 信託口」など) | 振込や引き落としの登録で使う |
| 受託者が亡くなった時・交代した時の手続き | 第二受託者への引継ぎができるか |
| キャッシュカード・インターネットバンキングの可否 | 施設費用の支払いなど日常の使い勝手 |
| 口座開設や維持の手数料 | 長く続く費用になる |
- いつ聞く:信託契約書の案を固める前
- 誰に聞く:口座を作りたい金融機関の窓口(専門家に頼んでいれば、取引実績のある金融機関も聞く)
- 何を聞く:扱いの有無/公正証書の要否/事前審査/名義の表記/受託者死亡時の扱い/カード・ネット/手数料
- 結果を契約書へ:条件に合わせて契約の形を決める
金融機関への問い合わせの文例
電話や窓口で聞くときは、「家族信託」という言葉だけでは担当が分からないことがあるので、何をしたいかを具体的に伝えます。
文例:「親を委託者、私を受託者とする家族信託の契約を予定しています。受託者である私の名義で、信託のお金を管理するための信託口口座を開設できるでしょうか。開設できる場合、契約書を公正証書にする必要があるか、契約書の事前の確認があるか、必要な書類を教えてください。」
文例(受託者の交代について):「受託者の私が亡くなったり、病気で務められなくなったりした場合、契約書で決めた第二受託者に口座を引き継ぐ手続きはできますか。」
答えはメモに残し、担当者の名前と日付も書いておきます。条件は変わることがあるので、契約の直前にもう一度確かめます。
信託口口座を作れないときの管理方法
候補のどの金融機関でも作れなかった場合や、信託するお金が少額で信託口口座までは要らないと考える場合は、受託者名義で信託専用の口座を新しく作り、そこに信託のお金だけを入れて管理する方法が取られます。信託法34条は、お金については計算を明らかにする方法での分別を求めているので、専用口座と帳簿で区別がつく状態を保ちます。
この方法の弱点も知っておきます。口座の名義が受託者の個人名なので、受託者が亡くなった時や、受託者自身にお金の問題が起きた時に、金融機関や第三者からは受託者の財産と見分けがつきにくくなります。弱点を補うために、次のことをしておきます。
- 口座を信託専用にし、受託者の給与や生活費を入れない
- 入出金ごとに帳簿をつけ、領収書を保管する
- 信託契約書の写しと口座の関係を、第二受託者や家族に伝えておく
- 毎年の受益者への報告書に、口座の残高を書く
信託のお金を移す操作は、口座の持ち主である親本人が行います。民法3条の2は意思能力がない人の法律行為を無効としているので、親の判断能力が落ちてからでは、お金を信託に移すこと自体が難しくなります。家族信託の手続き全体の順番は家族信託の手続きの流れ:相談から契約・信託登記・口座開設まで、費用の内訳は家族信託の費用:契約書作成・公正証書・信託登記の内訳と比べ方にまとめています。
家族信託の相談サービスを比べるときは、取引実績のある金融機関を紹介してもらえるか、契約書を作る資格者は誰か、口座開設まで支援が含まれるかを見積書で確かめます。家族信託と後見のどちらが合うかで迷っている場合は家族信託と任意後見・成年後見の違い:できることと費用の比較表、親が亡くなった後の口座と信託の扱いは家族信託で委託者が死亡した場合:信託の終わり方と財産の行き先を読んでください。
よくある質問
Q. ゆうちょ銀行で家族信託の信託口口座は作れますか?
日本郵便の「郵便局の終活日和」のコラムは、ゆうちょ銀行では家族信託のための信託口口座を開設できないと案内しています(掲載日の記載はありません)。取り扱いは変わることがあるので、契約書を作る前に、ゆうちょ銀行の窓口で現在の扱いを確かめます。開設できない場合は、信託口口座を扱う別の金融機関を候補にします。
Q. 信託口口座が作れなければ、家族信託は組めませんか?
信託契約そのものは、口座がなくても委託者と受託者の契約で効力を生じます(信託法4条1項の趣旨)。ただし受託者は信託のお金を自分のお金と分けて管理する義務があるので、受託者名義の信託専用の口座を用意し、帳簿で計算を明らかにする方法を取ることになります。この方法の弱点(受託者が亡くなった時の扱いなど)を理解したうえで選びます。
Q. 親の今の口座を、そのまま信託口口座に変えられますか?
親名義の預金は親の財産なので、名義を受託者の信託口に「変更」する形ではなく、受託者が信託口口座を開き、親の口座から信託するお金を移す形が一般的です。移す操作は親本人が行う必要があり、親の判断能力が落ちてからでは難しくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第4条・第23条・第25条・第29条・第34条・第37条・第56条・第74条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 金融取引の代理等に関する考え方 および 銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(全国銀行協会 2021年2月18日)(全国銀行協会)
- 郵便局の終活日和 家族信託のコラム(日本郵便)(日本郵便)
- 民法 第3条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。