家族信託のデメリット:損益通算・遺留分・身上監護ができない点
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家族信託のデメリットは、大きく分けて①介護や入院の契約(身上監護)はできない、②信託したアパートなどの赤字を他の所得と損益通算できない、③遺留分の請求はなくならない、④受託者の負担が重く、監督が弱いと悪用の危険がある、⑤初期費用と毎年の事務がかかるの5つです。どれも制度の仕組みから来るもので、契約の書き方や他の制度との組み合わせで手当てできるものと、できないものがあります。以下、根拠の条文と、代わりの手段を並べます。
家族信託のデメリット早見表
先に5つのデメリットを1つの表にまとめます。
| デメリット | 根拠 | 手当て・代わりの手段 |
|---|---|---|
| 身上監護ができない | 受託者の権限は信託財産の管理・処分など(信託法26条) | 任意後見契約を併せて結ぶ/法定後見 |
| 信託の不動産所得の赤字は損益通算できない | 租税特別措置法41条の4の2 | 赤字が見込まれる物件を信託に入れるか、税理士と検討 |
| 遺留分の請求はなくならない | 民法1042条・1046条 | 兄弟への説明、遺言との組み合わせ、弁護士に設計を確かめる |
| 受託者の負担・悪用の危険 | 信託法29条〜31条・34条・37条・40条 | 信託監督人、帳簿の共有、次の受託者を決める |
| 費用と毎年の事務 | 公証人手数料令・登録免許税法・所得税法227条 | 見積もりの比較、年間の作業を家族で分担 |
デメリット1:身上監護はできない
家族信託で受託者が持つ権限は、信託財産に属する財産の管理・処分と、信託の目的の達成に必要な行為です(信託法26条)。親の介護サービスの契約、入院の手続き、施設の入所契約といった、本人の生活や療養看護に関する契約を代わりに結ぶ権限は、ここには入っていません。
このため、「家族信託をしておけば、親が認知症になっても全部子が手続きできる」とは言えません。生活や療養看護の事務まで備えるなら、次のような組み合わせを考えます。
| 備えたいこと | 使う制度 | ポイント |
|---|---|---|
| 不動産の売却・賃貸の管理 | 家族信託 | 契約で受託者に権限を渡す |
| 介護・入院・施設の契約 | 任意後見契約 | 生活・療養看護・財産管理の事務を委託できる(任意後見契約法2条1号)。効力は任意後見監督人の選任から |
| すでに判断が難しい場合 | 法定後見 | 後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態と生活に配慮して事務を行う(民法858条) |
3つの制度の違いは家族信託と任意後見・成年後見の違い:できることと費用の比較表で、任意後見の契約は任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約で詳しく扱っています。
デメリット2:信託の不動産所得の赤字は損益通算できない
賃貸アパートなどを信託すると、家賃収入による所得は受益者の所得として課税されます(所得税法13条)。ここで問題になるのが赤字のときです。租税特別措置法41条の4の2は、信託から生じる不動産所得の損失を、所得税の計算上「生じなかったもの」とみなしています。
この結果、次のことが起きます。
- 信託した物件の赤字を、受益者の年金所得や給与所得と差し引きできない
- 赤字を翌年以降に繰り越して使うこともできない(損失がなかった扱いになるため)
たとえば、築年数が古く大規模修繕を予定している物件や、借入金の利息が大きい物件は、年によって赤字になることがあります。信託に入れる物件の選び方や、修繕の時期の決め方は個別の税務判断になるので、設計の段階で税理士に見てもらいます。受託者が信託した実家を売る場合の税金は、家族信託で実家を売却する流れで扱っています。
デメリット3:遺留分の請求はなくならない
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に民法が認めている最低限の取り分です(民法1042条)。遺留分を侵害された相続人は、財産を受け取った人に侵害額に当たる金銭を請求できます(1046条)。
家族信託では、親が亡くなった後に財産を誰に渡すか(次の受益者や、信託が終わったときの帰属権利者)を契約で決められます。そのため「信託を使えば、特定の子に財産を集められる」と考える人がいますが、信託の契約で行き先を決めても、他の相続人の遺留分という権利を消す仕組みは信託法に置かれていません。信託で財産を受け取る人が、のちに遺留分の請求を受ける可能性は残ると考えておきます。
手当てとしては、受託者にならない兄弟に信託の目的と内容を説明しておくこと、遺言と組み合わせて全体の配分を考えること、遺留分を意識した設計になっているかを弁護士に確かめることが挙げられます。遺留分の割合や請求の期限は遺留分とは?もらえる割合・請求できる人・期限をわかりやすく整理にまとめています。
デメリット4:受託者の負担と、悪用の危険
受託者は、親の財産を預かる以上、重い義務を負います。
| 受託者の義務 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 善管注意義務 | 善良な管理者の注意で事務を処理する | 信託法29条 |
| 忠実義務 | 受益者のために忠実に処理する | 30条 |
| 利益相反の制限 | 信託財産を自分の財産にするなどの行為の禁止 | 31条 |
| 分別管理 | 自分の財産と分けて管理し、不動産は信託の登記 | 34条 |
| 帳簿・報告 | 帳簿をつけ、毎年1回、貸借対照表などを作って受益者に報告 | 37条 |
| 損失の責任 | 任務を怠って損失を出せば穴埋め | 40条 |
受託者にとっては、仕事や自分の家庭と並行して、何年も続く事務になります。反対に、ほかの家族から見ると、名義が受託者に移るので「財産を握られた」と感じやすい仕組みでもあります。監督が弱いと、受託者が信託財産を自分のために使ってしまう危険もあります。
これを防ぐ道具として、信託法は信託監督人(131条)や受益者代理人(138条)を契約で置けるようにしています。受託者が任務に反して信託財産に著しい損害を与えたときなどは、委託者や受益者の申立てで裁判所が受託者を解任できます(58条4項)。とはいえ、使われてしまった後の回復は負担が大きいので、通帳や帳簿を家族で定期的に見る取り決めを、最初の段階で作っておくほうが現実的です。こうした取り決めの抜けから起きる失敗は、家族信託で後悔しないために:失敗の型と契約前に確かめる10項目で整理しています。
デメリット5:費用と毎年の事務がかかる
家族信託には、専門家の報酬・公証人手数料・登録免許税といった初期費用がかかります。日本司法書士会連合会のアンケート(2024年3月)では、自宅と預金を信託する設例で、契約書案の作成支援から信託登記の申請代理まで頼んだ報酬の平均が327,576円(税込み)でした。始めた後も、受託者は帳簿と年1回の報告を続け、収益が一定額を超えれば信託の計算書を毎年1月31日までに税務署に出します(所得税法227条)。内訳と計算例は家族信託の費用の内訳と比べ方にまとめました。
5つのデメリットのうち、身上監護と遺留分は信託の外の制度で補うもの、損益通算は物件の選び方で向き合うもの、受託者の負担と費用は契約の作り方と家族の分担で軽くできるものです。自分の家にどれが重く当てはまるかを確かめてから、組むかどうかを決めます。
よくある質問
Q. 家族信託は悪用されることがありますか?
受託者は財産の名義を持つので、契約や監督の仕組みが弱いと、受託者が信託財産を自分のために使う危険はあります。信託法は受託者の利益享受を禁じ(8条)、損失を出した受託者に穴埋めの責任を負わせていますが(40条)、使われた後で取り戻すのは負担が大きくなります。信託監督人を置く、通帳や帳簿を家族に定期的に見せる、といった仕組みで防ぎます。
Q. 家族信託をすれば相続税は減りますか?
家族信託そのものに相続税を減らす効果はありません。相続税法9条の2第2項は、対価を払わずに新たに受益者となった人を、前の受益者から贈与(前の受益者の死亡によるときは遺贈)で取得したものとみなすので、親の死亡で子が受益者になれば相続税の対象になります。節税を目的に信託を組むのではなく、財産の管理の手段として考えます。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第8条・第26条・第29条〜第31条・第34条・第37条・第40条・第58条・第131条・第138条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 租税特別措置法 第41条の4の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所得税法 第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税法 第9条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第858条・第1042条・第1046条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 任意後見契約に関する法律 第2条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士の報酬(報酬アンケート 2024年3月)(日本司法書士会連合会)
- 所得税法 第227条(信託の計算書)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。