成年後見の診断書と本人情報シート:医師への頼み方と書式
成年後見の診断書は、家庭裁判所が用意した書式「診断書(成年後見制度用)」で、医師に作ってもらいます。書式と記載例は裁判所の後見ポータルサイトからダウンロードでき、2026年10月時点の書式は令和7年10月版です。家庭裁判所は、補助と任意後見を始めるときは医師の意見を聴く決まりがあり、後見と保佐は原則として医師による鑑定をしますが、診断書から明らかに必要がないと認められれば鑑定はしません。そのため、どの類型でも申立てには診断書を付けるよう求められています。あわせて、ケアマネジャーなど本人を支える福祉関係者に「本人情報シート」を作ってもらい、医師に渡して診断の参考にしてもらうのが裁判所の想定する流れです。診断書は、申立てに使うのは発行から3か月以内のものです(裁判所の後見開始の案内)。
成年後見の診断書とは:何に使われ、いつ要るか
裁判所の手引は、診断書を「家庭裁判所が本人の判断能力を判断するための重要な資料」と位置づけています。使われ方を類型ごとに整理します。
| 類型 | 法律の決まり | 診断書の役割 |
|---|---|---|
| 後見 | 精神の状況について鑑定をしなければ開始できない。ただし明らかに必要がないときは不要(家事事件手続法119条) | 鑑定が要るかを判断する材料 |
| 保佐 | 後見と同じ(同法133条で準用) | 同上 |
| 補助 | 医師その他適当な者の意見を聴かなければ開始できない(同法138条) | 医師の意見そのもの |
| 任意後見 | 監督人の選任に医師の意見を聴く(裁判所の手引) | 同上。任意後見監督人選任の申立てでも「家庭裁判所指定の様式」の診断書を付ける |
令和7年の統計で鑑定をしたのは全体の約3.4%なので、多くの事件は診断書と本人情報シートなどの資料で判断されています。診断書は鑑定が要るかを判断する材料になるので、医師が判断しやすい情報をそろえて頼みます。申立て全体の書類と費用は成年後見の申立ての流れ:必要書類・費用・審判までの期間にまとめています。
診断書の書式の中身:判断能力の4つの選択肢
書式は表と裏の2ページです。表面には氏名、医学的診断(診断名、所見、長谷川式認知症スケールやMMSE・脳画像検査などの検査、短期間内に回復する可能性)、判断能力についての意見、裏面には判定の根拠を書く欄があります。
いちばん大事なのが「判断能力についての意見」のチェック欄です。裁判所のガイドラインは、一般的には次の対応関係にあると説明しています(申立てを受けた後、裁判官が診断書を含む資料で判断します)。
| 医師がチェックする選択肢 | 申立ての類型の目安 |
|---|---|
| 契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができる | 一般的には十分な判断能力があり、後見制度の利用の必要はないと見込まれる |
| 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある | 補助 |
| 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない | 保佐 |
| 支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない | 後見 |
ここでいう「契約等」は不動産や自動車の売買、自宅の増改築、お金の貸し借りなど契約書を作るような重要な財産行為、「支援」は家族などが本人に分かりやすい言葉で説明することを想定している、とガイドラインは説明しています。
裏面の「判定の根拠」では、見当識(時間・場所・人物の認識)、他人との意思疎通、一人での買い物や貯金の出し入れ・家賃や公共料金の支払い、最近の記憶と過去の記憶について、4段階で記入します。家族が普段の様子をメモにして医師に渡すと、この欄を書く助けになります。
| 診断書(成年後見制度用) | 本人情報シート | |
|---|---|---|
| 作る人 | 医師(資格の限定なし。精神科や主治医が想定) | 本人を職務として支える福祉関係者 |
| 中身 | 診断名・検査・判断能力の意見と根拠 | 日常生活・社会生活の様子、生活上の課題 |
| 使い道 | 家庭裁判所が判断能力を判断する資料 | 医師の診断の補助資料、後見人を選ぶ検討資料 |
| 申立てに | 付ける(出せない場合は鑑定で進むことが多い) | 写しを付ける(出せなくても申立ては可能) |
| 費用 | 本人側の負担(医療機関ごと) | 作成者と依頼者の取り決めによる |
医師への頼み方:手順と文例
裁判所の手引は、本人や親族から依頼があれば、この書式で診断書を作るよう医師に求めています。次の順で頼みます。
- 書式を印刷して持っていく。 裁判所の後見ポータルサイトから「診断書の書式」(Word形式)をダウンロードします。記載ガイドラインと記載例も一緒に渡せると親切です。
- かかっている医師に頼む。 手引の流れ図では、以前から本人を診ている医師や病状が明らかな場合は1回の診察で作ることが想定されています。かかりつけでない医師に頼む場合は、おおむね1か月程度の期間で2、3回の診察で作れないか検討してもらう想定です。より専門的な検査が必要なら、専門の医療機関を勧められることもあります。
- 本人情報シートを先に渡す。 シートが手元にあれば医師に提供し、診断に生かしてもらいます。
- 普段の様子のメモを渡す。 買い物、お金の管理、薬の飲み忘れ、日付の分かり方などを具体的に書きます。
- 費用と受け取り日を確かめる。 診断書の作成費用は通常の診断書と同じく本人側の負担で、額は医療機関ごとです。発行から3か月以内のものを使うので、申立ての時期から逆算して頼みます。
受付や主治医には、次のように伝えます。
文例:「母の成年後見の申立てのために、家庭裁判所の書式の診断書(成年後見制度用)を書いていただきたく、ご相談に来ました。書式と、裁判所の記載ガイドラインを持ってきました。家庭での様子をまとめたメモと、ケアマネジャーさんに作っていただいた本人情報シートもあります。家庭裁判所の手引では、内容の問合せはあっても、先生に証言を求めることは通常想定されていないとされています。費用と、いつ頃お受け取りできるかを教えてください。」
本人情報シート:誰に頼み、何に使われるか
本人情報シートは、医師に本人の生活の様子を客観的に伝えるための書面です。裁判所の手引は、本人の身近なところで職務上の立場から支援している人が作ることが望ましいとし、具体的には介護支援専門員(ケアマネジャー)、相談支援専門員、病院・施設の相談員、市町村が設置する地域包括支援センターや社会福祉協議会が運営する権利擁護支援センターの職員などを挙げています。
- 親族や本人が作ることは想定されていない。 本人や家族が伝えたい生活の様子は、申立書(申立事情説明書など)に書きます。
- 作成費用は取り決め次第。 業務の一環として作る場合もあれば、合意した作成費用を依頼者が負担する場合もあるので、頼むときに確かめます。
- 出せなくても申し立てられる。 ただし、判断能力をより的確に判断するため、多くの事案で医師に提供されることが望ましいと手引は書いています。
- 後見人選びにも使われる。 家庭裁判所は、判断能力だけでなく、本人の身上保護の課題を把握し、ふさわしい後見人を検討する資料としても使います。家族が後見人を希望する場合の考え方は成年後見人に家族はなれる?選ばれ方と注意点へ。
鑑定が必要になる場合と費用
鑑定は、家庭裁判所が医師に依頼して、本人の判断能力を医学的に詳しく判定してもらう手続きです。後見と保佐では法律上の原則ですが、診断書などから明らかに必要がないと認められれば省かれます。鑑定の要否は診断書の記載などから判断され、本人が診断を拒んで診断書を付けられない場合は、多くのケースで申立人が鑑定費用を一時的に負担して進みます(裁判所の手引)。
令和7年の統計では、鑑定を実施したのは全体の約3.4%、鑑定の期間は1か月以内が約52.6%でした。鑑定費用は5万円以下が約43.7%、5万円超10万円以下が約42.1%で、10万円以下が約85.8%を占めます。費用は申立てとは別にかかり、申立人が負担することがあります。
鑑定を避けたいからといって、診断書の結論を医師に頼み込むことはしません。判断能力の程度は医師が医学的に判断し、最終的には裁判官が決めます。家族ができるのは、正確な生活の情報を医師と家庭裁判所に届けることです。なお、2026年6月に成立した改正法では、判断能力を欠く常況の人が使う「特定補助」で、医師2人以上の意見を聴いたうえで明らかに必要がなければ鑑定を不要とする予定です(施行前)。改正の全体は成年後見とは?2026年改正の予定で確かめてください。
よくある質問
Q. 成年後見の診断書は、精神科の医師でないと書けませんか?
裁判所の手引では、成年後見のための診断書を作る医師に資格などの限定はないとしています。そのうえで、本人の精神の状況について医学的に判断するものなので、精神神経疾患に関連する診療科の医師か、主治医など本人の精神の状況に通じた医師が作るものと考えられる、と説明しています。まずは今かかっている医師に相談します。
Q. 本人が受診を嫌がって、診断書が用意できません。申し立てられますか?
申し立てられます。裁判所の手引は、本人が診断を拒んでいるなどで診断書を出すのが難しい場合、診断書を付けずに申立てができるとしています。その場合、多くのケースで申立人が鑑定の費用を一時的に負担して手続きが進められます。受診の勧め方は、地域包括支援センターやケアマネジャーにも相談できます。
Q. 診断書を書いた医師が、裁判所に呼ばれて証言することはありますか?
裁判所の手引では、診断書の内容についてさらに確かめたい点があれば家庭裁判所から問合せがあることはあるが、診断書を作った医師に成年後見の手続きで証言を求めることは通常は想定されていない、と説明しています。医師に依頼するときに、この点を伝えると引き受けてもらいやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 成年後見制度における診断書作成の手引・本人情報シート作成の手引(裁判所)(最高裁判所)
- 診断書の位置付け(令和7年10月版の手引)(裁判所)(最高裁判所)
- 診断書記載ガイドライン(裁判所)(最高裁判所)
- 本人情報シートの位置付け(裁判所)(最高裁判所)
- 後見開始(裁判所)(最高裁判所)
- 家事事件手続法 第119条・第133条・第138条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月(最高裁判所事務総局家庭局)(最高裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。