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家族信託で後悔しないために:失敗の型と契約前に確かめる10項目

この記事のもくじ
  1. なぜ家族信託の後悔は取り返しにくいのか
  2. 失敗の型1・2:信託する財産が足りない/受託者の権限が足りない
  3. 失敗の型3・4:次の受託者がいない/兄弟の合意がない
  4. 失敗の型5・6:口座が作れない/制度への期待がずれている
  5. 契約後によく聞かれる場面:受託者が病気になったとき、財産を足したいとき
  6. 契約前に確かめる10項目

家族信託で後悔が生まれる原因は、制度の仕組みから見ると、**契約を結んだ時点では見えにくい「書き漏れ」と「思い違い」**の2つに分けられます。親の判断が難しくなった後は契約をほとんど直せないため、そのときになって「この財産も入れておけばよかった」「売る権限を書いていなかった」と気づいても手遅れになります。ここでは、制度の仕組みから起きる失敗の型を6つに分けて示し、契約前に確かめる10項目のチェック表にまとめます。

なぜ家族信託の後悔は取り返しにくいのか

信託の変更は、委託者・受託者・受益者の合意でできます(信託法149条1項)。信託の終了も、委託者と受益者の合意でいつでもできます(164条1項)。一見すると直しやすい仕組みですが、親が委託者と受益者を兼ねる形の家族信託では、親の判断が難しくなると、この「合意」そのものが成り立たなくなります。

民法3条の2は、意思能力がない状態でした法律行為を無効としています。つまり、家族信託が本当に役に立つ場面(親の判断が難しくなった後)は、同時に、契約を直せなくなる場面でもあります。後悔を防ぐには、元気なうちに、その後の何年分もの出来事を見越して契約を作る必要があります。

失敗の型1・2:信託する財産が足りない/受託者の権限が足りない

型1:信託する財産の範囲が狭い たとえば実家だけを信託して預金を入れていないと、受託者は実家を管理する立場にあっても、固定資産税や修繕費を信託財産から払えません。受託者が立て替えるか、親の口座から出す必要が出てきますが、親の口座は本人の意思確認が前提で、全国銀行協会も「家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない」ことを基本に考え方を示しています。管理に要るお金も一緒に託しておくのが基本です。

型2:受託者の権限が足りない 受託者の権限は信託財産の管理・処分などですが、契約(信託行為)で制限することもできます(信託法26条)。「管理する」としか書いていない、売却はできても買い替えや建て替えが書いていない、借入れや担保の設定に触れていない、といった書き方だと、いざ実家を売る・アパートを建て替えるときに、その権限があるかどうかで止まります。将来やりうることは、目的と一緒に具体的に書きます。

失敗の型3・4:次の受託者がいない/兄弟の合意がない

型3:次の受託者を決めていない 受託者の任務は、受託者の死亡や、受託者が後見開始・保佐開始の審判を受けたことで終わります(信託法56条1項)。契約に新しい受託者の定めがなければ、委託者と受益者の合意で選ぶことになりますが(62条1項)、親の判断が難しければその合意ができず、裁判所に選任を申し立てる手間がかかります(62条4項)。受託者が欠けて新しい受託者が就かない状態が1年続くと、信託は終了します(163条3号)。受託者が親より先に亡くなる場合も考え、次の受託者を名前で決めておきます。

型4:受託者にならない兄弟の理解がない 名義が受託者の子に移るため、ほかの兄弟から「財産を独り占めされた」と受け取られることがあります。受託者には帳簿をつけ、毎年1回報告する義務がありますが(37条)、報告先は受益者(親)です。兄弟にも見えるようにしたい場合は、通帳や報告書を共有する取り決めや、信託監督人(131条)を置くことを契約で考えます。親の死後の財産の行き先を信託で決めても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分(民法1042条)があるので、行き先の決め方もあらかじめ家族で話しておきます。

失敗の型5・6:口座が作れない/制度への期待がずれている

型5:信託口口座が作れない 預金を信託するには、受託者が管理する信託用の口座が要ります。銀行によっては扱っていない、契約書の条項が銀行の条件に合わない、という理由で口座が開けないことがあります。契約書案の段階で取引予定の銀行に見せておくのが防ぎ方です。確かめ方は家族信託の信託口口座:金融機関で作れるかを確かめる方法で扱っています。

型6:家族信託でできることへの期待がずれている 契約後に「こんなはずでは」となりやすい思い違いは、次の3つに絞れます。

思い違い 実際 根拠
介護や入院の契約も受託者がまとめてできる 受託者の権限は財産の管理・処分など。生活や療養看護の契約は任意後見などで備える 信託法26条
信託すれば相続税が減る 受益者が代わると贈与・遺贈で取得したものとみなされる。管理の手段で、節税の手段ではない 相続税法9条の2
受益者を子にしても税金は変わらない 対価なしに受益者になると、設定時に贈与とみなされる 相続税法9条の2第1項

アパートの赤字を他の所得と相殺できなくなる点(租税特別措置法41条の4の2)や、信託しても遺留分(民法1042条)が相続人に残る点は、家族信託のデメリット:損益通算・遺留分・身上監護ができない点で表にしているので、そちらで確かめてください。

契約後によく聞かれる場面:受託者が病気になったとき、財産を足したいとき

契約の前だけでなく、動き出した後の場面も、あらかじめ確かめ方を決めておくと慌てません。

受託者が病気やけがで動けなくなったとき 病気だけでは、受託者の任務は自動では終わりません。任務が終わるのは、受託者の死亡や、後見開始・保佐開始の審判を受けた場合などです(信託法56条1項)。動けない間の事務を誰が代わりにするかは、契約で決めておくのが前提です。受託者が辞任したいときは、委託者と受益者の同意を得ます(同法57条1項。契約に別の定めがあればそれに従う)。親の同意が得られない状態だと辞任も進まないので、「次の受託者」と「辞任の手順」の2つを契約に書いてあるかを確かめます。

信託する財産を後から足したいとき 追加して託すのは委託者である親の行為なので、その時点で親に意思能力が要ります。追加できる財産の種類と手順を契約に書いてあるか、追加のときに登記や口座の手続きを誰がするかを、契約の段階で確かめます。判断が難しくなった後には足せない前提で、最初に入れる財産を決めます。

契約前に確かめる10項目

ここまでの型を、契約書案ができた段階で家族と専門家で確かめるチェック表にしました。

チェック表:家族信託の契約前に確かめる10項目
# 確かめること 防げる失敗
1 管理に要るお金(修繕費・税金分の預金)も信託財産に入っているか 型1
2 将来追加しそうな財産と、その追加の方法が決まっているか 型1
3 売却・買い替え・建て替え・賃貸・借入れの権限が具体的に書かれているか 型2
4 親の判断が難しくなった後に、誰の合意で条項を変えられるか 型2
5 次の受託者(できれば2人目まで)が名前で決まっているか 型3
6 受託者にならない兄弟が内容を聞き、理解しているか 型4
7 帳簿・通帳を誰にどの頻度で見せるか、信託監督人を置くか 型4
8 取引予定の銀行が契約書案を見て、口座を開けると答えたか 型5
9 介護・入院の契約に備えて任意後見契約を併せるか 型6
10 終了の事由と、残った財産を受け取る人が遺言と食い違っていないか 型4・型6

10番について補足すると、信託は契約で決めた事由で終わり(信託法163条9号)、残った財産は契約で指定した人に帰属します(182条1項)。すでに遺言を書いている場合、信託した財産は遺言ではなく信託契約の定めで行き先が決まるので、両方を並べて矛盾がないかを確かめます。

このチェック表の多くは、専門家の経験で差が出る部分です。依頼先を選ぶときの質問の例は家族信託を頼む司法書士の選び方:経験と見積もりで確かめる点に、手続きの順番は家族信託の手続きの流れにまとめています。

よくある質問

Q. 家族信託を始めた後で、やめることはできますか?

信託法164条は、委託者と受益者が合意すればいつでも信託を終了できると定めています(契約に別の定めがあればそれに従う)。ただし、親が委託者と受益者を兼ねていて判断が難しくなった後は、その合意が成り立ちにくくなります。やめ方や見直し方は、親が元気なうちに契約に書いておきます。

Q. 契約した後に、信託する財産を増やせますか?

財産を追加して託すのは委託者である親の行為なので、その時点で親に意思能力が要ります。判断が難しくなってから増やすことは難しいため、将来追加しそうな財産があるなら、最初の契約で追加の方法を決めておくか、最初から信託財産に入れておきます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

家族信託のデメリット:損益通算・遺留分・身上監護ができない点

家族信託を頼む司法書士の選び方:経験と見積もりで確かめる点

家族信託の手続きの流れ:相談から契約・信託登記・口座開設まで