家族信託で委託者が死亡した場合:信託の終わり方と財産の行き先
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家族信託(法律上は信託の一つ。民事信託とも呼ばれる)で委託者の親が死亡した場合、信託が終わるか続くかは、信託契約書に書いた「信託の終了の事由」で決まります。「委託者兼受益者の死亡で終了する」と定めていれば信託は終わり、受託者が清算をして、契約書で指定した帰属権利者(多くは子)に財産を引き渡します。「母を第二受益者とする」などと定めていれば信託は続きます。どちらの場合も、信託していた財産は相続税の計算では遺贈で受け取ったものとみなされます。
Q1 家族信託で委託者が死亡した場合、信託はすぐ終わりますか?
契約書に「委託者の死亡」を終了の事由として書いていれば、その時点で終わります。 信託法163条は信託が終わる場合を並べ、その9号に「信託行為において定めた事由が生じたとき」を挙げています。親の死亡を終了の事由にするかどうかは、契約を作るときに家族で決めることで、法律が一律に決めているわけではありません。
契約書が手元にない場合は、法務局で不動産の登記事項証明書を取り、信託目録を確かめます。信託目録には信託の終了の事由も記録されます(不動産登記法97条1項10号)。
| 契約書の定め | 親の死亡後に起きること |
|---|---|
| 「委託者(兼受益者)の死亡で終了」+帰属権利者を指定 | 信託が終わり、清算をしてから帰属権利者へ財産を引き渡す |
| 「受益者が死亡したら次の受益者に」(受益者連続型) | 信託は続き、次の受益者(例:母)のために受託者が管理を続ける |
| 終了の事由も次の受益者も書いていない | 他の終了の事由(目的の達成など)に当たるかを確かめる。専門家に契約書を見てもらう |
親が亡くなった後は、委託者と受益者の合意で信託を終わらせる方法(信託法164条1項)は使えません。同条4項が、委託者がいない場合にはこの方法を適用しないとしているからです。後から「やっぱり終わらせたい」と思っても終わらせにくいので、終了の事由は契約時に具体的に書いておくことが大切です。
Q2 信託が終わったら、財産は誰のものになり、どんな手続きをしますか?
信託が終わると清算が始まり、清算が終わるまでは信託が続いているものとみなされます(信託法175条・176条)。清算をするのは清算受託者で、多くの場合はそれまでの受託者がそのまま務めます。清算受託者の仕事は、続いている事務を終わらせ、債権を取り立て、債務を払い、最後に残った財産(残余財産)を渡すことです(同法177条)。
残余財産の行き先は、契約書で決めた順に決まります(信託法182条)。
- 残余財産受益者、または帰属権利者として契約書で指定された人
- 指定がない場合や指定された人が全員権利を放棄した場合は、委託者またはその相続人などを帰属権利者に指定したものとみなされる
- それでも決まらないときは、清算受託者に帰属する
帰属権利者として指定された人は、契約書に別の定めがない限り、当然に残余財産の給付を受ける権利を取得します(信託法183条1項)。
- 親(委託者兼受益者)が死亡=終了の事由が発生
- 清算受託者が清算(未払いの費用・税金の支払い、帳簿の締め)
- 帰属権利者へ不動産・預金を引き渡す
- 法務局へ「所有権移転の登記」と「信託の登記の抹消」を同時に申請
- 相続税がかかる場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告
不動産は、帰属権利者への所有権移転の登記と、信託の登記の抹消を同時に申請します(不動産登記法104条1項)。登記の原因や添付書類の組み立ては、信託登記を担当した司法書士に頼むのが一般的です。
Q3 帰属権利者への名義変更の登記には、どれくらい税金がかかりますか?
登録免許税は、誰が帰属権利者になるかで扱いが変わります。登録免許税法7条2項は、信託の効力が生じた時から引き続き委託者だけが元本の受益者である信託で、受託者から受益者に財産を移し、その受益者が委託者の相続人であるときは、相続による移転の登記とみなすとしています。相続による所有権移転の税率は不動産の価額の1000分の4(0.4%)です(同法 別表第一)。
| 場面 | 登録免許税の扱い(条文から) |
|---|---|
| 委託者だけが受益者だった信託で、委託者の相続人(子など)に移す | 相続による移転とみなし、不動産の価額の0.4%(7条2項) |
| 信託の終了で、委託者本人に戻す(委託者が存命の場合) | 非課税(7条1項2号) |
| 信託の登記の抹消 | 不動産1個につき1,000円(別表第一) |
| 上の条件に当たらない人(例:委託者の相続人ではない人)に移す | 7条2項の対象外。税率は司法書士に確かめる |
計算の例を筆者の計算で示します。固定資産税評価額が土地1,500万円・建物300万円の実家を、委託者の子が帰属権利者として受け取る場合、所有権移転は(1,500万円+300万円)×0.4%=7万2,000円、信託の登記の抹消は土地1個・建物1個で2,000円、合わせて7万4,000円です(検算:1,800万円×0.004=72,000円、1,000円×2=2,000円)。実際の課税標準は登記を申請する時点の評価額で決まるので、市区町村の評価証明書で確かめます。
Q4 信託が続く場合(第二受益者がいる場合)は何が起きますか?
契約書で「委託者兼受益者が死亡したら、配偶者を次の受益者とする」と決めていれば、信託は終わらず、受託者は次の受益者のために管理を続けます。名義は受託者のままで、法務局の信託目録の受益者を変える登記を行います。
このように受益者が死亡すると次の人が受益権を取得する信託(受益者連続型信託)には、期間の決まりがあります。信託がされた時から30年を経過した時以後に受益権を取得した受益者が死亡するまで(または受益権が消えるまで)しか効力を持ちません(信託法91条)。「孫の代、ひ孫の代まで何代でも」とは決められない点に注意します。
税金の面では、対価を払わずに新しく受益者になった人は、前の受益者から贈与(前の受益者の死亡がきっかけなら遺贈)で信託に関する権利を取得したものとみなされます(相続税法9条の2第2項)。母が第二受益者になった時点で相続税の対象になり、母が亡くなって子が次の受益者や帰属権利者になる時にも、もう一度相続税の対象になります。
Q5 親の死亡後、受託者と家族は何から始めればよいですか?
親が亡くなった直後は、普通の相続手続きと信託の手続きが並んで進みます。混ぜないように、信託の分だけ先に書き出しておくと迷いません。
- 信託契約書と登記の信託目録で、終了の事由・帰属権利者・次の受益者を確かめる
- 信託口口座のある金融機関に、受益者が死亡したことを伝え、手続きの方法を聞く
- 清算受託者として、未払いの施設費用や固定資産税など信託の費用を払い、帳簿を締める
- 帰属権利者への名義変更の登記と、信託の登記の抹消を司法書士に相談する
- 信託財産を含めて相続税がかかるかを判定し、かかる場合は申告の準備をする
- 信託していない預金・不動産は、遺言か遺産分割協議で分ける
相続税の一次判定は相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法で行えます。信託した実家を親の存命中に売っていた場合の税金の考え方は家族信託で実家を売却する流れ:受託者が売るときの手続きと税金、信託口口座の扱いは家族信託の信託口口座:金融機関で作れるかを確かめる方法にまとめています。遺留分との関係など、信託を組む前に知っておきたい弱点は家族信託のデメリット:損益通算・遺留分・身上監護ができない点で扱います。
よくある質問
Q. 信託していた実家について、遺産分割協議は必要ですか?
契約書で帰属権利者が決まっていて信託が終了する場合、帰属権利者は契約の定めによって残余財産の給付を受ける権利を取得します(信託法183条1項)。そのため、信託していた財産は相続人全員の遺産分割協議の対象とは別の流れで動きます。信託していない預金や不動産は、通常どおり遺産分割の対象になります。
Q. 親より先に受託者の子が亡くなっていたら、信託はどうなりますか?
受託者である個人が死亡すると、受託者の任務は終わります(信託法56条1項)。契約書で次の受託者(第二受託者)を決めていればその人が引き継ぎ、決めていなければ委託者と受益者の合意で新しい受託者を選びます(同法62条1項)。受託者が欠けたまま1年たつと信託は終了するので(同法163条3号)、早めに手当てします。
Q. 信託財産も相続税の計算に入りますか?
入ります。信託が親の死亡で終わり、帰属権利者が財産を受け取る場合は、受益者だった親から遺贈で取得したものとみなされます(相続税法9条の2第4項)。信託が続いて次の受益者が権利を得る場合も、前の受益者から遺贈で取得したものとみなされます(同条2項)。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第56条・第62条・第91条・第163条・第164条・第175条〜第177条・第182条・第183条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第97条・第104条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 登録免許税法 第7条・別表第一(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税法 第9条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。