家族信託と任意後見・成年後見の違い:できることと費用の比較表
家族信託と任意後見の違いは、家族信託は「信託した財産」の管理と売却を、親が元気なうちから子(受託者)に任せる仕組み、任意後見は判断能力が落ちた後に、財産管理と介護・入院などの契約(身上監護)を代わりに行う人を、親が元気なうちに決めておく契約という点にあります。成年後見(法定後見)は、判断能力が落ちた後に家庭裁判所が後見人を選ぶ制度で、親がもう契約できない場合の受け皿です。選び方は、親がいま契約の内容を理解できるか、何をしてほしいか(財産の売却か、介護の契約か)、費用をどれだけかけられるかで決まります。
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三つの制度の違いを、項目ごとに並べます。
| 項目 | 家族信託 | 任意後見 | 成年後見(法定後見) |
|---|---|---|---|
| 始められる時期 | 親が契約の内容を理解できるうち | 親が契約の内容を理解できるうちに契約。効力は判断能力が落ちて任意後見監督人が選ばれた時から | 判断能力が落ちた後に申立て |
| 誰を選ぶか | 親が受託者を選ぶ | 親が任意後見人を選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ(家族を候補者にできるが選ばれるとは限らない) |
| 根拠 | 信託法3条・4条 | 任意後見契約に関する法律2条・3条 | 民法の後見・保佐・補助 |
| 契約の形 | 契約書(法律上は方式の定めなし。金融機関の条件で公正証書にすることがある) | 公正証書が要る(任意後見契約法3条) | 契約ではなく家庭裁判所の審判 |
| 財産管理の範囲 | 信託した財産だけ | 契約で決めた代理権の範囲 | 本人の財産全体 |
| 介護・施設・入院の契約(身上監護) | できない(受託者の権限は信託財産の管理・処分) | 契約で代理権を与えればできる | できる |
| 親がした不利な契約の取消し | できない | 取消権の定めはない | 後見なら日常の買い物などを除き取り消せる(民法9条) |
| 自宅の売却 | 契約書に権限があれば受託者の判断で売れる | 代理権の範囲で売れる | 住まいの売却は家庭裁判所の許可が必要(民法859条の3) |
| 家庭裁判所の関わり | 原則なし | 任意後見監督人を通じて監督 | 後見人を監督し、報酬も決める |
いちばん大きな違いは、誰が監督するかとどこまで代わりにできるかです。家族信託は家庭裁判所が関わらない分、自由に動ける反面、受託者を見張るのは家族自身です。法定後見は家庭裁判所の監督がある分、後見人は本人の意思を尊重し本人の生活に配慮して事務を行う役目(民法858条)に沿って動くことになり、家族の都合で財産を動かすことはできません。
費用の比較:最初にかかる額と、続く額
費用は「最初にかかる額」と「毎月・毎年続く額」に分けて比べます。公的な金額が決まっているものだけを並べ、専門家の報酬は事務所ごとの見積もりで確かめます。
| 費用 | 家族信託 | 任意後見 | 成年後見(後見開始) |
|---|---|---|---|
| 公的な手数料など | 不動産の信託の登記:登録免許税 土地は固定資産税評価額の0.3%(2029年3月31日まで)、建物は0.4%。受託者への所有権移転は非課税 | 公正証書の作成手数料 1契約1万3,000円、登記嘱託手数料1,600円、収入印紙2,600円など。発効時の監督人選任の申立てに収入印紙800円+登記手数料1,400円 | 申立手数料800円、登記手数料2,600円、郵便切手(裁判所ごと)、必要なら鑑定費用 |
| 専門家への報酬 | 契約書の作成や登記を頼む弁護士・司法書士への報酬(見積もりで確認) | 契約書の作成を頼めばその報酬 | 申立書類の作成を頼めばその報酬 |
| 続く費用 | 受託者が家族なら報酬なしにもできる。専門家の継続支援を頼めばその費用 | 任意後見監督人の報酬(家庭裁判所が決める)。任意後見人への報酬は契約で決める | 後見人・監督人の報酬(家庭裁判所が決める) |
登録免許税は、信託の登記の税率が不動産の価額の1000分の4で(登録免許税法 別表第一)、土地は2029年3月31日までの間1000分の3に下がります(租税特別措置法72条)。筆者の計算で例を示すと、固定資産税評価額が土地1,500万円・建物300万円の実家なら、土地4万5,000円+建物1万2,000円で5万7,000円です(検算:1,500万円×0.003=45,000円、300万円×0.004=12,000円)。
成年後見の報酬は、家庭裁判所が本人の財産から相当な額を決めます(民法862条)。横浜家庭裁判所が平成23年に公表した「成年後見人等の報酬額のめやす」では、成年後見人の基本報酬は月額2万円、管理する財産が5,000万円を超えると月額5万〜6万円とされています。古い資料なので、申立先の家庭裁判所の最新の資料で確かめます。本人が亡くなるか判断能力が戻るまで後見は続くので、報酬も続きます。令和7年の統計では、後見人等に選ばれた人のうち親族は約16.4%で、親族以外(司法書士・弁護士・社会福祉士など)が約83.6%でした。
- 親が契約の内容を理解できる → 家族信託(財産の管理・売却)/任意後見(介護の契約も含めて備える)/両方
- 親が理解するのが難しくなった → 法定後見(家庭裁判所に申立て)
- どの段階でも:遺言は、作る時に遺言の内容を理解できることが前提
親の状態とやりたいことから選ぶ考え方
制度は「どれが得か」ではなく、親の状態とやりたいことで選びます。代表的な場面を並べます。
- 実家をいずれ売って施設費用に充てたい(親はまだ元気):売却の権限を受託者に持たせられる家族信託が候補です。成年後見で住まいを売ると家庭裁判所の許可が要り、後見はその後も続きます。
- 財産は多くないが、介護や入院の手続きを頼める人を決めておきたい:身上監護の代理権を与えられる任意後見が候補です。家族信託では介護の契約はできません。
- すでに親が契約を理解できない:家族信託・任意後見の契約は結べないので、法定後見の申立てを検討します。
- 家族の間で受託者を見張る人がいない、使い込みが心配:家庭裁判所や監督人の目がある任意後見・法定後見のほうが安心な家もあります。家族信託でも、信託監督人などの見張り役を置く設計があります。
迷ったときは、財産の一覧(不動産・預金・年金・保険)を作り、「どの財産を、誰が、何のために動かすか」を書き出すと、どの制度でどこまで備えるかが見えます。準備の順番は親が認知症になる前にやること:財産・委任・信託の対策チェック表にまとめています。
家族信託と任意後見を組み合わせる考え方
家族信託と任意後見は、守る範囲が違うので、組み合わせて穴を埋める使い方ができます。
| 備えたいこと | 家族信託で | 任意後見で |
|---|---|---|
| 実家の管理・売却、まとまった預金の管理 | 信託財産として受託者が管理・売却 | ― |
| 年金の受け取り口座、信託していない預金 | 対象外 | 代理権で管理 |
| 介護サービス・施設入所・入院の契約 | できない | 代理権で契約 |
| 家族の見張り | 受託者の帳簿と報告(信託法37条) | 任意後見監督人の監督 |
組み合わせるときは、受託者と任意後見人を同じ子にするか分けるか、信託口口座と年金口座をどう分けるかを先に決めます。金融機関の実務では、任意後見監督人が選ばれて任意後見が始まった後に、任意後見人の代理で取引するのが一般的です。そのため、任意後見が動き出すまでの期間をどう過ごすか(財産管理の委任契約を併せて結ぶ「移行型」など)も一緒に考えます。
成年後見の仕組みは、2026年6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)で、後見・保佐を補助に一元化し、必要がなくなれば終われるようにする予定です。任意後見についても、補助が始まっても任意後見契約を続けられるようにするなどの見直しが入りました。ただし成年後見の見直しは施行前で、施行日は政令で決まります。今の手続きと改正の中身は成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定で、家族信託そのものの仕組みは家族信託とは?親の財産を子が管理するしくみと向いている家、任意後見の契約の手順は任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約と費用・手続きで扱います。
家族信託の相談サービスを使うときは、任意後見や遺言との組み合わせまで提案に入っているか、契約書を作る資格者と信託登記を担う司法書士が誰か、継続の費用がいくらかを見積書で確かめます。
よくある質問
Q. 家族信託と任意後見は、両方結んでもよいですか?
両方結ぶことはできます。家族信託は信託した財産の管理だけを受託者に任せる仕組みなので、介護サービスや施設入所の契約、信託していない年金口座の手続きなどは任意後見で備える、という分け方がされます。それぞれの受託者・任意後見人を誰にするか、役割が重ならないように契約書で決めます。
Q. 親がすでに認知症と診断されていたら、成年後見しか選べませんか?
診断名だけでは決まりません。家族信託も任意後見も契約なので、契約の時に親がその内容を理解できるかで決まります(民法3条の2)。内容を理解できる状態かは医師の意見を聞き、公証人や専門家と確かめます。理解できない状態なら、家庭裁判所に法定後見を申し立てる道になります。
Q. 費用が一番かからないのはどれですか?
最初の費用は法定後見の申立てが小さく、家族信託は専門家への報酬や登記の費用で大きくなりがちです。一方、法定後見で専門職が後見人になると、本人が亡くなるまで報酬が続きます。最初の費用と、続く年数をかけた合計で比べます。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第3条・第4条・第26条・第29条・第34条・第37条・第131条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 任意後見契約に関する法律 第2条〜第4条・第10条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第3条の2・第9条・第858条・第859条の3・第862条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 登録免許税法 第7条・別表第一(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 租税特別措置法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 後見開始(裁判所)(最高裁判所)
- 任意後見監督人選任(裁判所)(最高裁判所)
- 成年後見人等の報酬額のめやす(横浜家庭裁判所 平成23年4月1日)(最高裁判所)
- 成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月(最高裁判所事務総局家庭局)(最高裁判所)
- 任意後見契約(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)概要資料(法務省民事局)(法務省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。