家族信託で実家を売却する流れ:受託者が売るときの手続きと税金
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家族信託(法律上は信託の一つ。民事信託とも呼ばれる)で実家を信託していれば、親が施設に入って判断能力が落ちた後でも、受託者になった子が売主として実家を売却できます。成年後見のように家庭裁判所の許可を待つ手続きはなく、流れは「契約書で処分の権限を確かめる→不動産会社と売り出す→受託者として売買契約→代金決済と登記→代金を信託財産として管理→受益者である親の所得として税金を申告」です。売却益の税金は、名義人の子ではなく受益者である親にかかります。
家族信託で実家を売却できる条件と、後見との違い
最初に確かめるのは、信託契約書に「受託者が信託不動産を売却できる」と書かれているかです。信託法26条は、受託者が信託財産の管理や処分をする権限を持つとしつつ、信託行為(契約書)で権限を制限できるとしています。契約書が「管理のみ」「売却には受益者の同意が要る」としていれば、その範囲でしか動けません。
権限の中身は、法務局の登記記録でも確かめられます。信託の登記には信託目録が付き、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由などが記録されます(不動産登記法97条)。買主側の司法書士や不動産会社は、この信託目録を見て受託者に売る権限があるかを確認します。
| 確かめること | どこを見るか | 売却への影響 |
|---|---|---|
| 受託者に売却(処分)の権限があるか | 信託契約書の「信託財産の管理・処分」の条項、登記の信託目録 | 権限がなければ、そのままでは売れない |
| 売却に条件があるか(受益者の同意・指図者の指図など) | 契約書の同じ条項 | 条件を満たす書面を用意する |
| 受託者は誰か(第二受託者に替わっていないか) | 登記事項証明書の権利部 | 売主として署名するのは登記上の受託者 |
| 信託不動産に住宅ローンなどの抵当権が残っていないか | 登記事項証明書の乙区 | 決済で返済し、抵当権を抹消する段取りが要る |
後見との違いは家庭裁判所の関わり方です。成年後見人が本人の住まいだった家を売るには家庭裁判所の許可が要り、許可なく処分すると無効になります(民法859条の3)。家族信託では、契約書の範囲内であれば受託者の判断で売り出せます。後見人が売る場合の手順は成年後見人が自宅を売るには:居住用不動産処分の許可の手続きで扱っています。
受託者が実家を売る手続きの流れ(売り出しから登記まで)
権限が確かめられたら、普通の売却とほぼ同じ順番で進みます。違うのは、売主の欄が「受託者 ○○(子の名前)」になることと、登記の手続きに信託の抹消が加わることです。
- 契約書と登記を不動産会社に見せる:査定を頼むときに、信託不動産であること、受託者が売主になることを伝え、信託契約書の写しと登記事項証明書を渡します。信託物件の取引に慣れているかもこの時に聞きます。
- 媒介契約を受託者の名前で結ぶ:仲介を頼むなら、受託者として媒介契約を結びます。査定額は売れる値段ではないので、査定の根拠(近くの成約事例など)を説明してもらいます。
- 買主と条件を決め、売買契約を結ぶ:契約書の売主は受託者です。受託者の本人確認書類・印鑑証明書などを用意します。必要な書類の細目は、決済を担当する司法書士の案内に従います。
- 決済と登記:代金の受領と同時に、買主への所有権移転の登記と、信託の登記の抹消を申請します。信託の抹消は所有権移転の登記と同時に申請しなければならず(不動産登記法104条1項)、受託者が単独で申請できます(同条2項)。抹消の登録免許税は不動産1個につき1,000円です(登録免許税法 別表第一)。
- 代金を信託財産として受け取る:売買代金は、信託財産を処分して受託者が得た財産なので、信託財産になります(信託法16条1号)。信託口口座など、受託者自身のお金と分けた口座で受け取ります。
- 帳簿と報告:受託者は帳簿を作り、毎年1回、貸借対照表などを作って受益者に報告する義務があります(信託法37条)。売却の年は、売却額・費用・残った代金の行き先を記録しておきます。
- 契約書と信託目録で売却の権限を確認
- 受託者名義で媒介契約→売買契約
- 決済日:所有権移転の登記+信託の登記の抹消(同時に申請)
- 代金は信託口口座へ(信託財産のまま)
- 翌年:受益者(親)の譲渡所得として確定申告
売却代金の管理:施設費用に充てるときの決まり
売った後のお金も、信託が続く限り信託財産です。受託者は善良な管理者の注意をもって事務を処理し(信託法29条)、信託財産を自分の財産と分けて管理しなければなりません(同法34条)。施設の利用料や医療費を代金から払う場合は、契約書の信託の目的(例:「受益者の生活・介護・療養のため」)に沿った支出かを考え、領収書を残します。
よく迷う支出を、考え方の材料として並べます。どれが認められるかは契約書の書き方によるので、最終的には契約書を作った専門家に確かめます。
| 支出の例 | 考え方 |
|---|---|
| 親の施設利用料・医療費 | 信託の目的が親の生活・介護なら、目的に沿う支出として記録して払う |
| 実家の売却にかかった仲介手数料・測量費 | 信託財産の処分にかかった費用として、代金から払って記録する |
| 受託者(子)の生活費・子の住宅ローン | 受益者のための支出ではないので、信託財産から出すと忠実義務の問題になり得る |
| 孫への学費の援助 | 受益者(親)から孫への贈与の扱いになり得る。税金の扱いも含め契約前に専門家に相談する |
売却代金が大きくなると、口座の扱いも変わることがあります。信託口口座をまだ作っていない場合は、金融機関ごとの対応の違いと確かめ方を家族信託の信託口口座:金融機関で作れるかを確かめる方法にまとめています。
売却益の税金は受益者(親)にかかる:申告の考え方
信託の受益者は、信託財産に属する資産を持っているものとみなされ、信託財産から生じる収益も受益者の収益とみなされます(所得税法13条)。そのため、登記上の売主が受託者の子でも、実家を売った利益(譲渡所得)は受益者である親の所得として扱われます。
譲渡所得は「売った金額−(取得費+譲渡費用)」で計算し、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として、所得税15%・住民税5%に、所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わります(国税庁No.3208)。取得費の計算の土台は親が実家を買ったときの契約書や領収書なので、信託を組んだ時点でこれらの書類も受託者が預かっておくと、売る年に困りません。
親の家を売るときに検討される特例は、売る時期で分かれます。
| 売る時期 | 検討する特例 | 主な要件(国税庁の案内から) |
|---|---|---|
| 親が存命で、施設に入って家に住まなくなった後 | 居住用財産の3,000万円特別控除(No.3302) | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る。親子・夫婦など特別な関係の人への売却は対象外 |
| 親が亡くなり、子が家を引き継いだ後 | 被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除(No.3306・No.3307) | 相続・遺贈で取得、昭和56年5月31日以前の建築、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(かつ2027年12月31日まで)に売却、売却代金1億円以下など。2024年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上なら控除は2,000万円まで。老人ホーム等に入所していた場合の要件あり |
親が存命のうちに売る場合、所得税法13条により受益者である親が資産を持っているものとみなされるので、居住用の特例の要件も親(受益者)を基準に考えることになります。ただし、国税庁のNo.3302のページには信託についての記載がないため、適用できるかは売る前に税理士か税務署で確かめます。空き家特例は「相続または遺贈で取得した」家が対象です。信託が親の死亡で終わり、子が帰属権利者として家を受け取る場合、相続税の上では遺贈で取得したものとみなされます(相続税法9条の2第4項)。ただし空き家特例は所得税の制度なので、信託で受け取った家に当てはめられるかは、売る前に税理士か税務署で確かめます。親の死亡後の信託の終わり方は家族信託で委託者が死亡した場合:信託の終わり方と財産の行き先で扱います。
特例を使うには確定申告が要ります。親が自分で申告書を書けない状態のときに誰がどう申告するかは、個別の事情で変わる税務の手続きなので、税理士に相談します。相続した空き家の特例の要件全体は相続した空き家の3000万円控除:特別控除の要件と2027年末の期限にあります。
まだ信託を組んでいない・契約書に売却の権限がないとき
いま契約書を見て売却の権限がなかった場合や、これから家族信託を組もうとしている場合は、親の判断能力の状態で道が分かれます。
- 親がまだ契約の内容を理解できる:契約書の変更や、これから信託契約を結ぶことを検討できます。売却を目的にするなら「受託者は信託不動産を売却できる」「売却代金は信託財産として管理する」と明記するかを専門家と詰めます。
- 親がすでに契約の内容を理解できない:新しく信託を組むことも、契約書を変えることも難しくなります。家庭裁判所に成年後見を申し立て、後見人が家庭裁判所の許可を得て売る道を検討します。
家族信託の契約書は、司法書士や弁護士が作ることが多く、信託登記は司法書士の仕事です。依頼先の選び方は家族信託を頼む司法書士の選び方:経験と見積もりで確かめる点で整理しています。
家族信託の相談サービスを使う場合は、契約書を作るのが弁護士か司法書士か、信託登記を担う司法書士は誰か、売却の場面でどこまで支援があるかを、見積書で確かめてから申し込みます。
よくある質問
Q. 信託した実家を売るのに、親の同意や署名はもう一度要りますか?
売主になるのは受託者なので、契約書に受託者の処分の権限が書かれていれば、売買契約書に親が署名する場面は原則としてありません。ただし契約書で「受益者の同意を得て売る」などの条件を付けている場合は、その条件に従います。親の判断能力が落ちていると同意が取れないので、契約書の条件を先に読みます。
Q. 売った代金は子の口座に入れてもよいですか?
代金は信託財産になるので、子自身のお金と混ぜずに管理します(信託法16条・34条)。信託口口座や、受託者名義で信託の財産と分かる口座で受け取り、何に使ったかを帳簿に残します。子の普段使いの口座に入れると、分けて管理する義務に反するおそれがあります。
Q. 親が施設に入ってから3年を過ぎると、税金は不利になりますか?
親が住まなくなった家の3,000万円特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件の一つです(国税庁No.3302)。その期限を過ぎると、この特例は使えなくなります。住まなくなった日(施設に入った日)から3年を経過する日の属する年の12月31日を期限として、売り出しの時期を逆算しておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 信託法 第16条・第26条・第29条・第34条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第97条・第98条・第104条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 登録免許税法 第7条・別表第一(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所得税法 第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第859条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税法 第9条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁タックスアンサー)(国税庁)
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁タックスアンサー)(国税庁)
- No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合(国税庁タックスアンサー)(国税庁)
- No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁タックスアンサー)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。