成年後見人と遺産分割:協議に参加する時の注意と特別代理人
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成年後見人は、本人(成年被後見人)に代わって遺産分割協議に加わります(民法859条)。後見人は本人の利益を守る立場なので、本人の法定相続分が確保されているかを家庭裁判所に示しながら協議を進めます(東京家庭裁判所のハンドブックの案内)。後見人自身も同じ遺産の相続人である場合は、本人と後見人の利益がぶつかるため、家庭裁判所に「特別代理人」を選んでもらい、特別代理人が本人の代わりに協議します(民法860条・826条)。後見監督人がいれば、監督人が本人を代理するので特別代理人は要りません。
Q1 後見人は遺産分割協議で何をする?どこまで譲れる?
後見人は本人の財産について本人を代表し(民法859条)、本人の意思を尊重し、心身の状態と生活に配慮する義務を負います(民法858条)。遺産分割協議では、本人の代わりに分け方を話し合い、協議書に本人の代理人として署名します。
東京家庭裁判所のハンドブックは、遺産分割をするときは事前に連絡票で裁判所に知らせ、遺産分割協議書の案、相続財産目録、不動産の全部事項証明書、預貯金通帳のコピーなどを付けて、本人の法定相続分が確保されているかどうかを書くよう求めています。記載例では「本人が預金を、母が不動産を相続し、本人の法定相続分(2分の1)は確保されている」という形で説明しています。
法定相続分は民法900条で決まっています。例えば相続人が配偶者と子2人なら、配偶者2分の1、子は各4分の1です(筆者の計算)。本人がどの立場の相続人かで、確保すべき割合が変わります。
| 協議の内容 | 後見人としての考え方 |
|---|---|
| 本人が法定相続分以上を取得する | 裁判所に連絡し、内容を説明して進める |
| 遺産の種類は違うが、価額で法定相続分を確保する(本人は預金、他の相続人が不動産など) | 遺産の評価の根拠(評価証明書・残高証明書など)を付けて説明する |
| 本人の取得分が法定相続分を下回る | 本人にとっての利益を説明できるかを、協議の前に家庭裁判所に相談する |
「家族が困るから本人の分を譲る」という考え方は、後見人の立場ではとりにくくなります。東京家裁のハンドブックは、本人の財産を配偶者や子・孫に贈与することを原則として認めておらず、遺産分割で本人の取り分を他の家族に回す案も、同じ目で見られると考えて準備します。
Q2 後見人も相続人のときは?特別代理人の申立て
親が亡くなり、残った親(本人)とその子(後見人)がともに相続人になる場面がよくあります。この場合、後見人が本人の代理人として協議すると、自分の取り分を増やせば本人の取り分が減る関係になるため、裁判所が選んだ特別代理人が本人を代理します。東京家裁のハンドブックも、後見人と本人が共同相続人である遺産分割は利益が相反する行為なので特別代理人の選任が必要と説明しています。
申立ての要点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てる人 | 後見人、本人、本人の親族、利害関係人 |
| 申立先 | 後見開始(保佐開始・補助開始)の審判をした家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分+郵便切手(額は裁判所ごと) |
| 添付書類 | 申立書、遺産分割協議書の案など利益相反に関する資料、特別代理人候補者の住民票または戸籍附票(3か月以内) |
| 審理期間の目安 | 3週間〜1か月程度(東京家裁のハンドブック) |
特別代理人は、選ばれればどんな分け方でも同意してよいわけではありません。東京家裁のハンドブックは、遺産分割なら本人の取得分が法定相続分を下回らないようにするなど、本人の利益を十分守るよう求めています。また、推薦した候補者が選ばれるとは限りません。
保佐・補助の場合は、遺産分割に保佐人の同意が要り(民法13条1項6号)、保佐人と本人が共同相続人なら臨時保佐人を選びます(民法876条の2第3項)。補助人も同じように臨時補助人です(民法876条の7第3項)。
Q3 協議から名義変更までの流れは?
後見人がついた本人が相続人になったときの流れを、順に並べます。後見人がまだいない場合は、先に後見の申立てが必要で、その全体は相続人に認知症の人がいる相続手続きで説明しています。
- 遺産を調べる:本人が相続人の遺産で、まだ分けていないものがあれば、東京家裁では初回報告や定期報告で相続財産目録を出します。
- 分け方の案を作る:本人の法定相続分が確保されているかを、遺産の評価とともに確かめます。
- 利益相反を確かめる:後見人も相続人なら特別代理人の選任を申し立てます(監督人がいれば不要)。
- 家庭裁判所に連絡する:連絡票に協議書の案などを付けます。
- 協議書に署名押印する:本人の欄は、後見人(または特別代理人)が代理人として署名します。金融機関や法務局には、後見人の権限を示す登記事項証明書や、特別代理人の選任審判書を添えます。
- 名義変更と報告:預金の解約や相続登記を済ませ、受け取ったお金を本人の口座に入れ、裁判所に報告します。
- 本人に後見人(保佐人・補助人)はいるか → いない:後見などの申立てが先
- 後見人も同じ遺産の相続人か → ちがう:後見人が代理して協議
- 相続人である → 後見監督人はいるか → いる:監督人が代理
- いない → 特別代理人(臨時保佐人・臨時補助人)の選任を申し立てる(審理3週間〜1か月が目安)
- どの場合も:本人の法定相続分が確保されているかを家庭裁判所に示す
協議書そのものの書き方は遺産分割協議書の書き方とひな形を参考にし、本人の欄の署名の形だけを後見人用に変えます。遺産に本人の自宅が含まれ、分けた後に売る予定があるなら、売る前に家庭裁判所の許可が要ります。流れは成年後見人が自宅を売るには:居住用不動産処分の許可にあります。
Q4 話し合いがまとまらないとき・相続放棄を考えるとき
協議がまとまらなければ、後見人が本人の代わりに家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てたり、相手方として出席したりします。調停は相続人の1人または数人が他の相続人全員を相手に申し立て、まとまらなければ審判に移ります。東京家裁のハンドブックは、疎遠な親族との話し合いが難航したため弁護士に委任する例を挙げ、委任契約案と見積書を付けて裁判所に連絡する形を示しています。
調停にかかわると、専門職の後見人には付加報酬がつく場合があります。横浜家庭裁判所の「報酬額のめやす」(平成23年)は、本人の配偶者の死亡による遺産分割調停で、約4,000万円の遺産のうち約2,000万円相当を本人に取得させた例で約55万〜約100万円を挙げています。
亡くなった人に借金が多く、本人に相続放棄をさせたい場合は、後見人が本人の法定代理人として家庭裁判所に申述します。相続するか放棄するかを決める3か月(熟慮期間)は、本人が成年被後見人なら後見人が相続の開始を知った時から数えます(民法917条)。東京家裁のハンドブックは、相続放棄をするときも事前に連絡票で理由を知らせるよう求めています。後見人も相続人の場合に誰が申述するかは、利益相反に当たるかで変わるので、申述の前に家庭裁判所に確かめます。
ここから先、他の相続人と取り分を交渉したり、調停で主張を組み立てたりするのは、弁護士の仕事です(弁護士法72条)。令和7年の概況では、成年後見の申立ての動機のうち「相続手続」が約25.6%で、遺産分割は後見を使うきっかけとして多い場面です。親が元気なうちなら、遺言や任意後見で備える方法もあります。次は任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約に進んでください。
よくある質問
Q. 後見人がいれば、本人の取り分をゼロにする遺産分割もできますか?
後見人は本人の利益を守るために代理するので、本人の取り分を法定相続分より減らす分け方は、その理由と本人にとっての利益を家庭裁判所に説明することになります。東京家庭裁判所のハンドブックは、遺産分割の前に裁判所へ連絡する際、本人の法定相続分が確保されているかを書くよう求めており、特別代理人についても本人の取得分が法定相続分を下回らないようにするなど本人の利益を守るよう求めています。法定相続分と違う分け方を考えるなら、その理由と本人にとっての利益を説明できるかを、事前に家庭裁判所に相談します。
Q. 特別代理人には誰を候補者にすればいいですか?
本人と利益がぶつからない人を候補者にします。同じ遺産分割の相続人は本人と取り分を分け合う立場なので、候補者に向きません。家庭裁判所は本人のために公正に代理できる人を選び、第三者の関与が相当と判断すれば推薦した候補者が選ばれないこともあります。東京家裁は審理期間を3週間から1か月程度が目安としています。
Q. 後見人の親が亡くなり、本人(もう一人の親)と後見人の子が相続人です。協議の前に何をそろえればいいですか?
遺産の一覧(不動産の登記事項証明書、固定資産の評価証明書、預金の残高証明書など)、遺産分割協議書の案、相続人を確かめる戸籍です。後見人と本人がともに相続人なので、協議書の案を付けて特別代理人の選任を申し立て、選ばれた特別代理人と協議書を作ります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第13条・第826条・第858条・第859条・第860条・第876条の2・第876条の7・第900条・第907条・第917条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 特別代理人の選任(成年被後見人等と後見人の利益相反)(裁判所)(最高裁判所)
- 成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック 令和7年4月版(東京家庭裁判所)(最高裁判所)
- 弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 遺産分割調停(裁判所)(最高裁判所)
- 成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月(最高裁判所事務総局家庭局)(最高裁判所)
- 成年後見人等の報酬額のめやす(横浜家庭裁判所・平成23年4月1日)(最高裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。