認知症・成年後見・家族信託 / 制度解説

任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約と費用・手続き

この記事のもくじ
  1. 任意後見のしくみ:契約から効力が生じるまで
  2. 契約の費用と必要書類
  3. 法定後見・家族信託との違い
  4. 任意後見と家族信託、どう組み合わせるか

任意後見とは、本人に判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になったときに財産管理や契約を任せる人(任意後見受任者)と、任せる内容を、公正証書の契約で決めておく制度です(任意後見契約に関する法律2条1号・3条)。契約しただけでは効力はなく、本人の判断能力が落ちた後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から、受任者が「任意後見人」として動けるようになります。費用は、公証役場で1契約につき手数料1万3,000円、登記嘱託手数料1,600円、法務局に納める印紙2,600円で計1万7,200円、これに謄本代と郵送料が加わります(下の表。筆者の計算)。

任意後見のしくみ:契約から効力が生じるまで

任意後見の流れは、法定後見と順番が逆です。法定後見は判断能力が落ちてから家庭裁判所が後見人を選びますが、任意後見は元気なうちに本人が自分で人と内容を決めます。

  1. 任せる人と内容を決める:誰に、どの手続きを任せるか(代理権の範囲)を決めます。
  2. 公証役場で任意後見契約の公正証書を作る:法務省令で定める様式の公正証書でなければなりません(3条)。
  3. 登記される:公証人が法務局に登記を依頼し、契約の内容が後見登記に記録されます。
  4. 本人の判断能力が不十分になる
  5. 任意後見監督人の選任を申し立てる:申し立てられるのは本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です(4条1項)。本人以外が申し立てる場合は、本人が意思を表示できないときを除き本人の同意が必要です(4条3項)。
  6. 監督人が選ばれ、効力が生じる:受任者は任意後見人として、契約で決めた範囲で本人を代理します。監督人はその事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告します(7条1項)。

任せられる内容は契約で自由に決められます。日本公証人連合会は、財産の保存・管理・処分、金融機関との取引、年金などの受取り、医療・介護の契約、施設の入退所、登記や税の申告、遺産分割協議など17項目の標準の代理権目録を示し、そこから不要な項目を削ったり、居住用不動産の処分を除くなどの制限をつけたりできるとしています。

任意後見人になれない人も決まっています。民法847条の欠格事由(未成年者、家庭裁判所で解任された法定代理人など、破産者、行方の知れない人)に当たる人、本人に訴訟をした人とその配偶者・直系血族、不正な行為や著しい不行跡など任務に適しない事由がある人が受任者だと、監督人は選ばれません(4条1項3号)。親族や知人のほか、弁護士・司法書士などの専門職や法人に頼むこともできます。

契約の形は、本人の状態と希望で選びます。

形 中身 向いている人
任意後見契約だけを結ぶ 判断能力が落ちて監督人が選ばれるまでは何も始まらない 今は自分で管理でき、将来に備えたい
移行型(任意後見契約+財産管理などの委任契約) 元気なうちは委任契約で手続きを任せ、判断能力が落ちたら任意後見に移る 足腰が弱って銀行や役所に行くのが大変になってきた

全国銀行協会の「金融取引の代理等に関する考え方」でも、任意後見契約とともに委任契約を結んでいる場合は、監督人の選任前でも委任契約の受任者との取引が可能だと整理されています。実際の扱いは取引する銀行に確かめます。

契約の費用と必要書類

日本公証人連合会が示す費用は次のとおりです(現在の公証人手数料令による額)。

費用 額
公正証書作成の手数料 1契約1万3,000円(証書が3枚を超えると1枚ごとに300円加算)
登記嘱託手数料 1,600円
法務局に納める収入印紙 2,600円
書留郵便料 実費(登記のための謄本の送付)
正本・謄本 書面は枚数×300円、電磁的記録は1通2,500円(登記には書面の謄本1通が必要)
公証人に出張してもらう場合 手数料が6,500円加算されて1万9,500円、ほかに日当と交通費

1契約の基本の合計は、1万3,000円+1,600円+2,600円=1万7,200円に、正本・謄本と郵送料が加わる計算です(筆者の計算)。移行型で委任契約も結ぶと、その手数料が別にかかります。受任者が2人なら原則として2契約分ですが、2人が共同で権限を使う定めにすれば1契約として計算されます。

必要な書類は、本人が印鑑登録証明書と実印(または顔写真つきの公的な身分証明書と認印か実印)、戸籍謄本か抄本、住民票です。受任者は印鑑登録証明書と実印(または顔写真つきの身分証明書)と住民票です。印鑑登録証明書は発行から3か月以内のものを用意します。

効力を始めるときにも費用がかかります。任意後見監督人の選任の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に、申立手数料800円と登記手数料1,400円の収入印紙、郵便切手を納め、本人の診断書や任意後見契約公正証書の写しなどを付けます。鑑定が必要なら鑑定費用も要ります。その後は監督人の報酬が本人の財産から出ます。最高裁の令和7年7月〜12月の実情調査では、親族以外の任意後見監督人で付加報酬を求めなかった事件のうち、本人の流動資産が5,000万円未満の区分では1回の付与額は10万円台が最も多くなっています。報酬の考え方は成年後見の報酬:監督人に払う額の目安で確かめてください。

早見表:任意後見にかかるお金の時期
  • 契約のとき(公証役場):手数料1万3,000円+登記嘱託1,600円+印紙2,600円+謄本・郵送料(移行型は委任契約の手数料が別)
  • 効力を始めるとき(家庭裁判所):印紙800円+登記手数料1,400円+郵便切手、鑑定が必要なら鑑定費用
  • 始まった後(毎年):任意後見監督人の報酬(家庭裁判所が決める)、任意後見人の報酬(契約で決めた場合)

法定後見・家族信託との違い

任意後見は、法定後見と比べて「人と内容を自分で決められる」代わりに、「元気なうちにしか結べない」制度です。家族信託とも目的が違います。

比べる点 任意後見 法定後見(後見・保佐・補助) 家族信託
いつ決めるか 判断能力があるうち 判断能力が落ちた後 判断能力があるうち
誰が選ぶか 本人が契約で選ぶ 家庭裁判所が選ぶ 本人(委託者)が受託者を選ぶ
始まる時期 監督人が選ばれた時 審判の時 契約の締結の時(信託法4条1項)
できること 契約で決めた範囲の代理(介護や施設の契約も含められる) 法律で決まった範囲の代理・同意・取消し 信託した財産の管理・処分
家庭裁判所の監督 監督人を通じてある ある ない
本人がした契約の取消し 法定後見のような取消権の定めはない 後見人などに取消権がある ない

任意後見契約が登記されていると、家庭裁判所は「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限って法定後見を始められます(10条1項)。本人が自分で決めた備えが優先される仕組みです。監督人が選ばれた後に法定後見が始まると、任意後見契約は終わります(10条3項)。

契約は、監督人が選ばれる前なら、本人か受任者が公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できます。選ばれた後は、正当な事由があり家庭裁判所の許可を得た場合に限られます(9条)。

令和7年の最高裁の概況では、任意後見監督人の選任の申立ては881件、2025年12月末に任意後見を利用している人は2,833人で、成年後見の180,828人と比べると多くありません。2026年6月に公布された改正法では、家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときに監督人を選ばずに家庭裁判所が直接監督できる形などが決まりましたが、施行前です。改正の全体は成年後見とは?2026年改正の予定で確かめてください。

任意後見と家族信託、どう組み合わせるか

親の財産のうち、自宅や賃貸アパートなど「将来売ったり管理したりする財産」を家族に任せたいなら、家族信託という選択肢もあります。家族信託は、親(委託者)が子(受託者)に財産を託して管理や処分を任せる契約で、信託法3条の方法(信託契約・遺言・自己信託)で作ります。任意後見と同じく、親に判断能力がある間でないと契約できません(民法3条の2)。

一方で、介護サービスや施設の入所の契約を代わりに結ぶことは、信託の役割ではありません。そのため、財産は家族信託で、暮らしの契約は任意後見で、と両方を組み合わせる方法もあります。違いは家族信託と任意後見・成年後見の違い:比較表で詳しく比べています。

家族信託の仕組みそのものは家族信託とは?親の財産を子が管理するしくみで、親が元気なうちにやることの全体は親が認知症になる前にやること:対策チェック表で確かめられます。任意後見の契約の中身を決める段階で、受任者を誰にするか、報酬をどうするか、居住用不動産の処分を任せるかを家族で話し合っておくと、公証役場での相談が進みやすくなります。

よくある質問

Q. 任意後見の契約をしたら、すぐに子が親の預金を下ろせるようになりますか?

なりません。任意後見契約は、本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じます。契約しただけの段階では、子は任意後見受任者にすぎず、代理権はまだ使えません。元気なうちから手続きを任せたいなら、財産管理の委任契約を同時に結ぶ「移行型」を検討します。

Q. 親が認知症と診断されていても、任意後見の契約はできますか?

診断があることだけで、契約ができないと決まるわけではありません。日本公証人連合会は、認知症と診断されても直ちに判断能力が欠けるとは評価されず、行為の内容によって相対的に判断されると説明しています。契約ができるかは、公証人が本人の説明や医師の診断などを参考に個別に判断します。

Q. 任意後見人になった子に、報酬を払う必要はありますか?

任意後見人の報酬の有無と額は、本人と受任者の話し合いで契約に定めます。日本公証人連合会は、身内が引き受ける場合は無報酬の例が多いとしています。一方、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払います。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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