遺産分割協議書の書き方とひな形:相続人の確定から署名押印までの全手順
この記事のもくじ
遺産分割協議書とは、相続人全員で話し合って決めた遺産の分け方を書面にし、全員が署名して実印を押したものです。作り方は、①遺言の有無を確かめる、②相続人を確定する、③財産を確定する、④全員で分け方を決める、⑤協議書に書く、⑥署名押印して印鑑証明書をそろえる、⑦法務局や銀行に出す、の7段階です。この記事では、法務局が公開している「遺産分割協議書の例」に沿って書き方を示し、段階ごとの詳しい記事へ案内します。
遺産分割協議書の書き方の全体像:7つの手順
遺産分割協議書が必要になる典型は、相続人が2人以上いて、遺産を法定相続分と違う形で分ける(たとえば実家を長男だけが相続する)場合です。不動産の相続登記、預金の払戻し、相続税の申告で、「相続人全員がこの分け方に合意した」ことを示す書類として使います。遺言で分け方が決まっている場合や相続人が1人の場合など、作らなくてよい場面は遺産分割協議書が必要ない場合で整理しています。
| 手順 | やること | 主な書類・確かめ先 |
|---|---|---|
| 1 | 遺言書があるかを確かめる | 自宅・法務局(遺言書保管)・公証役場 |
| 2 | 相続人を確定する | 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍 |
| 3 | 遺産を確定する | 登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、通帳・残高証明書 |
| 4 | 全員で分け方を決める | 財産目録と分け方の案 |
| 5 | 協議書に書く | 法務局の「遺産分割協議書の例」 |
| 6 | 全員が署名し実印を押す | 相続人全員の印鑑証明書 |
| 7 | 提出先に出す | 法務局・金融機関・税務署 |
協議そのものに期限はなく、民法は「いつでも」協議で分割できると定めています(907条1項)。ただし協議の結果を使う手続きには期限があり、たとえば相続登記は、遺産分割で法定相続分を超えて不動産を取得した人に、分割の日から3年以内の申請義務があります(不動産登記法76条の2第2項)。期限の全体は遺産分割に期限はあるかの記事で確かめてください。
手順1〜3:遺言の確認、相続人と財産の確定
手順1:遺言書を探す。 遺言で全部の財産の行き先が決まっていれば、協議書が要らないことがあります。逆に、遺言に書かれていない財産が残っていれば、その分は協議が必要です。
手順2:相続人を確定する。 協議は相続人全員でしなければならず、1人でも欠けると成立しません。亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をそろえ、配偶者・子・親・兄弟姉妹のうち誰が相続人かを確かめます。本人・配偶者・父母・子などの戸籍は、2024年3月1日から本籍地以外の市区町村の窓口でもまとめて請求できます(広域交付。請求する人が窓口に出向く必要があり、郵送や代理人による請求はできません。兄弟姉妹の戸籍は対象外です)。誰が相続人になるかは法定相続人の範囲の記事、集め方は戸籍謄本の集め方の記事で説明しています。
相続人の中に次の人がいると、そのままでは協議を進められません。
- 未成年の子と、その親権者が一緒に相続人のとき。 親と子の利益がぶつかるので、家庭裁判所に子の特別代理人を選んでもらいます(民法826条)。申立てには協議書の案を添えるので、分け方を先に決めておきます。
- 認知症などで判断する力が十分でない人がいるとき。 意思能力がない状態でした合意は無効です(民法3条の2)。成年後見人などが代わりに協議に加わります。後見人自身も同じ相続の相続人である場合は、利益が相反するため、後見監督人がいればその人が、いなければ家庭裁判所が選ぶ特別代理人が本人の代わりに加わります(民法860条)。
- 行方が分からない人がいるとき。 家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい、その管理人が許可を得て協議に加わります(民法25条・28条)。連絡が取れないだけの場合の進め方は兄弟と連絡が取れないときの記事にあります。
手順3:遺産を確定する。 不動産は登記事項証明書と固定資産税の課税明細書、預金は通帳や残高証明書、株は証券会社の残高、借金は請求書や信用情報で把握し、一覧(財産目録)にします。漏れを防ぐ照会先は相続財産の調べ方にまとめています。
手順4:全員で分け方を決める
財産目録ができたら、誰が何を取得するかを話し合います。分け方には、現物をそのまま分ける方法、家を1人が継いで他の兄弟にお金を払う方法(代償分割)、売ってお金を分ける方法(換価分割)、共有にする方法があります。家が遺産の大半を占める家族ほど、どれを選ぶかで将来の負担が変わるので、遺産分割の方法4つの違いと代償分割の注意点を読んでから決めると後悔が少なくなります。
話し合いで、ある相続人が「生前に援助を受けていた」「介護をしてきた」という事情があれば、特別受益や寄与分として取り分を調整する話が出ることがあります。不公平感の整理は相続が兄弟で不公平と感じたときの記事で扱っています。話し合いで決まったことは、その場でメモにして全員に送り、協議書の案を作る前に食い違いがないかを確かめておくと、署名の段階で「そんな約束はしていない」と言われるのを防げます。全員の合意ができなければ協議書は作れないので、その場合は家庭裁判所の遺産分割調停を検討します。
手順5:協議書の書き方と、法務局の記載例
法務局は、相続登記の申請書の記載例の中で「遺産分割協議書の例」を公開しています。妻と子2人が相続人で、実家の土地と建物を長男1人が相続する場合の例で、骨組みは次のとおりです。
- 題名:「遺産分割協議書」。
- 前文:亡くなった日、亡くなった人の最後の住所と氏名、共同相続人全員の氏名を書き、「その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った」とする。
- 分割の内容:「相続財産のうち、下記の不動産は、〇〇が単独で相続する」のように、取得する人と財産を書く。
- 作成通数:「本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、各自1通を保有する」。
- 日付。
- 相続人全員の住所・氏名と実印。
- 財産の表示:土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積を、登記事項証明書のとおりに書く。
文例(分割の内容の部分):「相続財産のうち、下記の不動産は、法務一郎が単独で相続する。」
この例は不動産だけの書き方です。預金・株・車を入れる場合、代償金を払う場合、後から財産が見つかった場合の書き換え方は遺産分割協議書のひな形と書き換え箇所で文例とともに示しています。パソコンで作るときの体裁や、遠方の相続人との持ち回りは遺産分割協議書を自分で作成する手順にまとめました。
書き上げたら、提出先で止まりやすい次の点を見直します。
- 亡くなった日を、戸籍に載っている死亡日のとおりに書いたか(協議が成立した日ではない)。
- 相続人の住所・氏名が、住民票や印鑑証明書の表記と一字一句そろっているか。
- 不動産を「実家」「自宅」ではなく、登記事項証明書の地番・家屋番号で書いたか。
- 預金を、金融機関名・支店名・種類・口座番号まで書いたか。
- 誰も取得しない財産が残っていないか。残るなら、後から見つかった財産も含めて誰が取得するかを書いたか。
- 相続人の人数分の通数を作り、全員の署名押印がそろっているか。
なお、法務局は遺産の分け方や協議書の作成についての相談には応じないと、法務省民事局の手続案内に書かれています。法務局で聞けるのは、協議書を添えて出す登記の申請手続のほうです。
手順6〜7:署名押印、印鑑証明書、提出先
協議書には、相続人全員が署名し、**印鑑証明書と同じ印(実印)**を押します。法務局の手続案内では、相続登記に添える協議書には相続人全員の実印を押し、印鑑証明書を各1通添付するとされ(登記を申請する相続人の分は除く)、この印鑑証明書は作成後3か月以内のものでなくてもよいとされています。複数枚になるときは、差し替えを疑われないよう全員でつづり目に契印をしておくと安心です。押し間違えたときの直し方は押印で失敗したときの訂正と作り直しで説明しています。
主な提出先と、協議書と一緒に出すものは次のとおりです。
| 提出先 | 協議書と一緒に出す主なもの |
|---|---|
| 法務局(相続登記) | 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、印鑑証明書、取得する人の住民票の写し(住民票コードを書けば省略可) |
| 金融機関(預金の払戻し) | 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、相続人全員の印鑑証明書(金融機関により異なる) |
| 税務署(相続税の申告) | 特例を使う場合などに協議書の写し。配偶者の税額の軽減では印鑑証明書付き |
通数の数え方や、印鑑証明書の期限が提出先でどう違うかは遺産分割協議書の必要書類で一覧にしています。戸籍の束は、法務局の法定相続情報証明制度で一覧図の写しを作っておくと、提出先ごとに出し直す手間を減らせます。
協議書の作成は、自分でするほか、行政書士(書類作成)、司法書士(相続登記と合わせて)、弁護士(争いがある場合)に頼めます。頼み分けは遺産分割協議書の依頼先の比較を見てください。
戸籍集めから協議書、登記、預金の解約までをまとめて頼める相続手続きの代行サービスもあります(PR)。選ぶときは、登記は司法書士、申告は税理士というように、どの手続を、どの資格者の名前で行うかを見積書で確かめてください。相続人の間で分け方に争いがある場合は、代行サービスではなく弁護士に相談します。
状況別に読む記事:協議書の前後で迷ったとき
協議書の作り方より前の「そもそも誰が相続人か」「取り分はいくらか」「もめている」から入った人は、次の記事から読むと早く進めます。
- 相続人と取り分を確かめたい。 家族のうち誰が相続人かは法定相続人とは、順位の一覧は相続の順位の早見表、組み合わせごとの割合は法定相続人の割合の早見表にあります。亡くなった子の子が加わるときは代襲相続の記事を見てください。
- 遺言や生前贈与、介護で偏りがあるとき。 最低限の取り分は遺留分の記事、生前の援助の扱いは特別受益の記事、介護の貢献は寄与分の記事で説明しています。
- 家をどう分けるか決めかねているとき。 家を継ぐ人が代金を払う方法は代償分割の記事、売って分ける方法は換価分割の記事にまとめています。
- もめているとき。 まず相続トラブルの典型10類型で自分の状況を見分け、兄弟との話し合いは兄弟がもめるときの記事、話し合いで決まらなければ遺産分割の審判の記事へ進みます。
- 未成年・認知症・行方不明の相続人がいるとき。 上の手順2で触れた特別代理人や後見人、不在者財産管理人の手続きは、連絡が取れない相続人の場合なら兄弟と連絡が取れないときの記事に、住所の調べ方から書いています。
よくある質問
Q. 遺産分割協議書は、相続人全員が同じ日に集まって署名しないといけませんか?
同じ日に集まる決まりはありません。内容に全員が合意していれば、1通の協議書を郵送で順番に回して署名押印する方法や、同じ内容の協議書を人数分作って各自が署名押印する方法がとられます。協議書の日付は、最後の人が署名押印した日以降の日にしておくと、全員の合意がそろった日と食い違いません。
Q. 遺産分割協議書は手書きでないといけませんか?
手書きでなければならないという決まりは民法にありません。パソコンで作った書面に、各自が署名して実印を押す形でもかまいません。大事なのは、相続人全員の住所・氏名と実印、財産を特定できる書き方、誰が何を取得するかがはっきりしていることです。
Q. 遺産分割協議書に期限はありますか?
民法は、相続人はいつでも協議で遺産を分割できると定めていて、協議書の作成そのものに期限はありません。ただ、相続税の申告や特例、相続登記の義務、10年を過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなる決まりなど、協議の結果を前提にした期限が別にあります。
出典・参考にした公的な情報
- 法務局 所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)記載例と「遺産分割協議書の例」(令和8年10月5日以降の申請用)(法務局)
- 法務省民事局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和8年4月(法務省)
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」(法務局)
- 民法 第3条の2・第25条・第28条・第826条・第860条・第904条の3・第907条・第909条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第76条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」(一般社団法人全国銀行協会)
- 裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」(裁判所)
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。