相続人と遺産分割 / Q&A

遺産分割協議書が必要ない場合:遺言・相続人1人・法定相続分のとき

この記事のもくじ
  1. 遺産分割協議書が必要ない場合は3つ
  2. Q 遺言書があれば協議書はいらない?
  3. Q 相続人が1人、または放棄で1人になったら?
  4. Q 法定相続分どおりなら、本当に協議書なしで進められる?
  5. 不要でも協議書を作っておいたほうがよい場面

遺産分割協議書が必要ない場合は、主に3つです。①遺言で財産の行き先がすべて決まっている、②相続人が1人だけ(他の相続人が全員相続放棄した場合を含む)、③法定相続分どおりに分ける。この3つでは、協議書の代わりに遺言書や戸籍の証明書で登記や預金の手続きができます。ただし、相続税の特例を使う、不動産を一人の名義にする、後で売る予定がある、といった場面では、不要でも協議書を作っておいたほうが手続きが進めやすくなります。

遺産分割協議書が必要ない場合は3つ

遺産分割の協議は、共同相続人が遺産をどう分けるかを話し合って決めるものです(民法907条)。だから「分ける話し合いそのものが要らない」場面では、協議書も要りません。

早見表:協議書が要らない場合と、代わりに出す書類
場面 協議書 相続登記で出す主な書類 預金の手続きで出す主な書類(全国銀行協会の一覧)
遺言で行き先が決まっている 不要(遺言にない財産は協議が要る) 遺言書(自筆証書遺言は検認済みのもの)、戸籍の証明書 遺言書、検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外)、取得する人か遺言執行者の印鑑証明書
相続人が1人 不要 被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍 戸籍、金融機関所定の書類(印鑑証明書の要否は金融機関に確かめる)
法定相続分どおりに分ける 不要 戸籍の証明書(全員の持分を書いた申請書) 協議書がない場合として、戸籍と相続人全員の印鑑証明書

それぞれの場面で、手続きがどう変わるかを順に見ます。

Q 遺言書があれば協議書はいらない?

A 遺言で行き先が決まっている財産については、協議書はいりません。 法務局の申請書様式のページには、公正証書遺言による相続と自筆証書遺言による相続の記載例が、遺産分割とは別に用意されています。遺言書そのものが、誰が取得するかを示す書類になるからです。

気をつけたいのは次の3点です。

  1. 自筆証書遺言は検認を経る。 公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所で検認を受けてから使います(民法1004条)。法務局の自筆証書遺言書保管制度で預けられていた遺言は検認が要りません。
  2. 遺言に書かれていない財産は協議が要る。 遺言で家と預金の行き先だけが書かれていて、株式に触れていなければ、株式は相続人全員で協議して分けます。
  3. 遺言と違う分け方をしたいときは、先に専門家に遺言書を見せる。 遺言執行者が指定されている場合や、相続人以外に遺贈を受けた人がいる場合は、話し合いに加わる人や手順が変わります。遺言の内容と違う分け方を考え始めた段階で、弁護士や司法書士に遺言書を見せて進め方を確かめます。

Q 相続人が1人、または放棄で1人になったら?

A 相続人が1人なら、分ける相手がいないので協議書は作りません。 一人っ子で配偶者がすでに亡くなっている場合などです。相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人の戸籍で、相続人がほかにいないことを示します。

他の相続人が家庭裁判所で相続放棄をして、残った相続人が1人になった場合も同じです。放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。このときは戸籍に加えて、放棄が受理されたことを示す書面を用意します。受理証明書は、受理した家庭裁判所に申請書を出して交付を受けます。静岡家庭裁判所の案内では証明書1枚につき収入印紙150円分と返信用の切手が要りますが、額や書式は裁判所ごとの案内で確かめます。

一方、「自分は何もいらない」と家族の中で言っただけでは、家庭裁判所での相続放棄になりません。その人は相続人のままなので、他の相続人が財産を取得するには協議書が要ります。この区別は、借金を引き継ぐかどうかにも関わる大きな違いです。

Q 法定相続分どおりなら、本当に協議書なしで進められる?

A 登記も預金も、協議書なしで進められます。 法務省の「登記申請手続のご案内(法定相続編)」は、法定相続分による相続登記の添付書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人全員の戸籍を挙げており、協議書は入っていません。相続人のうちの一人が申請人になって登記を申請することもできますが、その場合は申請しなかった相続人に登記識別情報(いわゆる権利証)が通知されない、と同じ手引きは注意しています。

預金については、全国銀行協会の一覧が「遺産分割協議書がない場合」の書類として、被相続人の戸籍、相続人全員の戸籍と印鑑証明書を挙げています。協議書がなくても、相続人全員が金融機関の所定の書類に署名押印する形で進むということです。また遺産分割の前でも、各相続人は預金の一部を単独で払い戻せる制度があります(民法909条の2)。

ただし、法定相続分での登記は不動産を兄弟の共有にすることになり、後で売るときや貸すときに共有者全員の協力が要ります。共有のまま次の相続が起きると、権利を持つ人が増えていきます。共有にしてよいかの判断材料は相続登記で共有名義にしてよいかで整理しています。

不要でも協議書を作っておいたほうがよい場面

協議書が法律上いらない場面でも、次に当てはまるなら作っておくと後の手続きが進めやすくなります。

  • 相続税の申告で特例を使う。 小規模宅地等の特例は、申告書に遺産分割協議書の写しなどを添付し、原則として申告期限までに分割済みであることが要件です(国税庁 No.4124)。配偶者の税額の軽減も、申告期限までに分割されていない財産は対象外が原則で、申告に添える遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書も付けます(No.4158)。申告期限までに分割が決まらないときは、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添える方法があり、その申告の仕方は No.4208 で確かめます。
  • 不動産を一人の名義にしたい、または後で売る予定がある。 法定相続分で共有にした後に一人が取得すると、遺産分割の日から3年以内に改めて登記を申請する義務が生じます(不動産登記法76条の2第2項)。最初から協議書で取得者を決めて登記するほうが、登記が一回で済みます。
  • 遺言に書かれていない財産がある、または後から見つかるかもしれない。 後日見つかった財産の扱いを協議書に書いておけば、再度の話し合いを省けます。書き方は次の協議書の作成後に新たな財産が見つかったらで扱います。
  • 預金を誰が受け取るかをはっきりさせたい。 協議書がないと、預金は相続人全員の書類をそろえて払い戻す形になりやすく、その後の分け方は口約束に頼ることになります。協議書で取得者と金額を決めておけば、受け取った後の行き違いを防げます。

協議書を作るかどうか迷ったら、手続きの先にある「登記」「税の申告」「売却」を書き出し、その中に協議書の写しや取得者の特定を求めるものがあるかを見ると判断しやすくなります。作ると決めたら、書き方は遺産分割協議書の書き方とひな形で、誰に頼むかは遺産分割協議書の依頼先の比べ方で確かめてください。

よくある質問

Q. 相続人が母と私の2人で、全部を母が相続すると口約束しました。協議書はなくてもいいですか?

相続人が2人以上いて、法定相続分と違う分け方をするなら、協議書が要る場面が多くなります。実家の名義を母だけにする相続登記では、相続人全員が署名し実印を押した協議書と印鑑証明書を法務局に出します。口約束だけでは登記も銀行の手続きも進まないので、合意した内容を協議書にしておきます。

Q. 遺言書があれば、遺言に書かれていない財産も協議書なしで分けられますか?

遺言に書かれていない財産は、遺言では行き先が決まっていないので、相続人全員で協議して分けることになります。遺言で大部分が決まっていても、書かれていない預金や後から見つかった土地があれば、その部分だけの協議書を作ります。「その他一切の財産は〇〇に」と遺言に書かれていれば、その条項で行き先が決まります。

Q. 法定相続分で共有の相続登記をした後に、やはり一人の名義にしたくなりました。どうなりますか?

後から遺産分割の協議をして一人が取得することはできます。その場合は遺産分割協議書を作り、法定相続分を超えて取得した人が登記を申請します。不動産登記法76条の2第2項により、この登記は遺産分割の日から3年以内に申請する義務があります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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