認知症・成年後見・家族信託 / 制度解説

家族信託とは?親の財産を子が管理するしくみと向いている家

この記事のもくじ
  1. 家族信託の3つの役:委託者・受託者・受益者
  2. 家族信託の始め方は3つ(信託法3条)
  3. 家族信託でできること:実家の売却・アパート管理・預金の例
  4. 家族信託でできないこと・向いていない家
  5. 相談する前に家族で決めておくこと

家族信託とは、親が元気なうちに、自分の財産(実家・アパート・預金など)の管理や売却を、信頼できる子などに託しておく信託契約のことです。法律上は信託法の「信託」の一つで、親族が受託者になるものを家族信託(民事信託とも呼ばれる)と呼んでいます。親がのちに認知症などで判断が難しくなっても、託された子が契約の範囲で財産を動かせる点が、親の口座や不動産が動かせなくなる事態への備えになります。ここでは仕組みと、向いている家・向いていない家の見分け方を整理します。

家族信託の3つの役:委託者・受託者・受益者

信託法2条は、信託に出てくる人を次のように定めています。親子で組む典型の形にあてはめると、表のようになります。

役 信託法の定義 親子の典型 していること
委託者 信託をする者(2条4項) 親 財産を託す
受託者 信託行為に従い、信託財産の管理・処分などをする義務を負う者(2条5項) 子 名義を預かり、管理・売却する
受益者 受益権を持つ者(2条6項) 親 家賃や売却代金などの利益を受ける

ポイントは、財産の名義は受託者(子)に移るのに、利益は受益者(親)が受けるという分かれ方です。信託財産は「受託者に属する財産」(2条3項)ですが、受託者自身の財産とは分けて管理しなければならず(34条)、受託者が自分のために利益を受けることは禁じられています(8条)。不動産なら信託の登記をして、登記簿の上でも子の固有の財産と区別されます。

「信託」と聞くと信託銀行を思い浮かべる人もいますが、信託を引き受ける営業(信託業)には内閣総理大臣の免許が必要です(信託業法2条1項・3条)。家族信託は、親族が営業としてではなく受託者になる形なので、この免許の話とは別の枠組みで行われています。

図解:家族信託のお金と名義の流れ
流れ 中身
親(委託者)→ 子(受託者) 実家・アパート・預金を「信託財産」として託す。不動産の名義は子に移り、信託の登記をする
子(受託者)の仕事 契約で決めた範囲で管理・賃貸・修繕・売却。帳簿をつけ、年1回報告する
子(受託者)→ 親(受益者) 家賃や売却代金を、親の生活費・施設費に充てる
信託の終わり 契約で決めた事由(例:親の死亡)で終了し、決めておいた人に財産が渡る

家族信託の始め方は3つ(信託法3条)

信託法3条は、信託をする方法を3つに限っています。

  1. 信託契約:委託者と受託者が契約を結ぶ方法。契約の締結で効力が生じます(4条1項)。家族信託の多くはこの形です。
  2. 遺言:遺言で信託を定める方法。効力が生じるのは遺言の効力が生じたとき、つまり亡くなった後です(4条2項)。
  3. 自己信託:自分が受託者になる意思表示を、公正証書などの書面で行う方法(3条3号)。

親の判断能力の低下に備える目的なら、生きているうちに効力が生じる信託契約を使うことになります。ここで大事なのは、契約を結ぶ時点で、親に意思能力が要ることです。民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなかった法律行為を無効としています。認知症と診断されたから直ちに意思能力がないとは限りませんが、症状が進んでからでは契約そのものが組めなくなるおそれがあります。

信託契約は、法律上は公正証書でなくても成り立ちます。それでも公正証書にすることが多いのは、契約の日付と本人の意思をはっきり残せることや、銀行が信託用の口座(信託口口座)を開く条件にしていることがあるためです。口座の扱いは銀行ごとに違うので、家族信託の信託口口座:金融機関で作れるかを確かめる方法で確かめ方を説明しています。手順の全体は家族信託の手続きの流れにまとめました。

家族信託でできること:実家の売却・アパート管理・預金の例

使い道を、代表的な3つの場面で見ておきます。どれも「契約に書いた範囲で、受託者ができる」のが前提です(受託者の権限は26条。信託行為で制限もできる)。

例1:親が施設に入った後、空いた実家を売る 親が実家を信託し、子を受託者にして「売却できる」と契約に書いておけば、親の判断が難しくなった後でも、受託者の子が売主として売却の手続きを進められます。成年後見人が本人の自宅を売るときは家庭裁判所の許可が要りますが(民法859条の3)、この許可は成年後見人の行為についての定めで、信託財産の売却には出てきません。売却代金は信託財産として受託者が管理し、親の施設費などに充てます。税金は受益者が負う仕組みで(所得税法13条)、譲渡所得は受益者である親の所得として扱われます。流れは家族信託で実家を売却する流れで詳しく扱います。

例2:親のアパートの管理を引き継ぐ 賃貸借契約の更新、修繕の発注、入居者の募集などを受託者が行えます。建て替えや借入れまで任せるなら、その権限を契約にはっきり書く必要があります。注意したいのは税で、信託から生じた不動産所得の赤字は所得税の計算上なかったものとされます(租税特別措置法41条の4の2)。くわしくは家族信託のデメリットで表にしています。

例3:預金を託して、生活費や医療費の支払いに使う 全国銀行協会は「家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない」ことを前提に、判断能力が低下した人との取引の考え方を示しています。預金をあらかじめ信託財産として受託者の管理に移しておけば、受託者が信託の口座から支払いをできます。

家族信託でできないこと・向いていない家

家族信託は財産を託す仕組みなので、財産以外のことには効きません。受託者の権限は、信託財産の管理・処分と信託の目的に必要な行為に限られます(信託法26条)。介護サービスの契約、入院や施設入所の手続きを本人に代わって行う権限は、信託からは生まれません。こうした生活や療養看護の事務を任せたいなら、任意後見契約(任意後見契約法2条1号)を併せて考えます。

向いている家と、別の手段を考えたほうがよい家を並べると次のとおりです。

家の状況 家族信託の相性 理由・代わりの手段
親は元気で、実家を将来売るかもしれない 向いている 判断が難しくなった後も、受託者が売却を進められる
親が賃貸物件を持ち、管理を子に移したい 向いている(税の確認が要る) 管理は引き継げる。赤字の扱いは税理士に確かめる
信頼できる受託者と、その次の受託者が決められる 向いている 受託者が亡くなったときの交代先を契約に書ける
親がすでに契約の内容を理解できない 組めない 成年後見の申立てを考える
財産は年金と少しの預金だけ 効果が小さい 銀行の代理人の届出や任意後見で足りることがある
介護や入院の手続きを任せたいのが中心 合わない 任意後見・法定後見の分野
兄弟の間で親の財産をめぐる不信がある 慎重に 受託者の監督役(信託監督人)や家族への説明が先

親がすでに判断できない状態なら、使える制度は成年後見になります。なお、2026年6月24日に成年後見の見直しを含む改正法(令和8年法律第45号)が公布されましたが、成年後見の部分はまだ施行されておらず、今日申し立てるなら現行の後見・保佐・補助で手続きします。制度の全体と改正の予定は成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定で、3つの制度の比べ方は家族信託と任意後見・成年後見の違いで扱っています。

相談する前に家族で決めておくこと

専門家に相談すると、最初に次のことを聞かれます。家族で答えを持っておくと、相談の時間を設計に使えます。

  • 何のために信託するか:実家を売れるようにする、アパートの管理を移す、施設費の支払いに備える、など
  • 何を信託するか:不動産の所在地と固定資産税の評価額、預金の額
  • 受託者を誰にするか:主に動ける子。受託者が亡くなったり病気になったりしたときの次の受託者も(信託法56条で、受託者の死亡や後見開始で任務は終わる)
  • 受託者にどこまで任せるか:売却、賃貸、建て替え、借入れ
  • 信託をいつ終わらせ、残った財産を誰に渡すか:終了の事由は契約で決められ(163条9号)、残余財産を受け取る人も指定できる(182条)
  • ほかの兄弟にどう伝えるか:受託者にならない兄弟の理解があるか

費用の内訳は家族信託の費用:契約書作成・公正証書・信託登記の内訳で、依頼先の選び方は家族信託を頼む司法書士の選び方で説明しています。

元気なうちに組んでおく必要があることと、財産のことしか任せられないこと。この2点を押さえておけば、自分の家に家族信託が合うかどうかを判断しやすくなります。

よくある質問

Q. 家族信託を始めると、その時点で贈与税がかかりますか?

相続税法9条の2は、対価を払わずに受益者になった人を、委託者から贈与を受けたものとみなすと定めています。親が委託者と受益者を兼ねる形なら、別の人が受益者になる場面に当たらないため、設定の時点で贈与とはみなされない、というのが条文の組み立てです。受益者を子にするなど形を変えると扱いが変わるので、設計の段階で税理士に確かめます。

Q. 受託者になった子は、信託した財産を自分のために使えますか?

使えません。信託法8条は、受託者が受益者として受ける場合を除き、信託の利益を受けることを禁じています。受託者には受益者のために忠実に事務を処理する義務(30条)があり、任務を怠って信託財産に損失を出せば、受益者から損失の穴埋めを求められます(40条)。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

家族信託の費用:契約書作成・公正証書・信託登記の内訳と比べ方

家族信託と任意後見・成年後見の違い:できることと費用の比較表

任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約と費用・手続き

成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定