親が認知症になる前にやること:財産・委任・信託の対策チェック表
この記事のもくじ
親の認知症対策でやることは、親が契約や手続きの内容を理解できるうちに、①財産と口座の一覧を作る、②銀行の代理人の手続きを済ませる、③任意後見や財産管理の委任で「代わりに動ける人」を決める、④実家など大きな財産は家族信託を検討する、⑤遺言を作る、の5つです。順番は一覧づくりが先で、どの制度を使うかは一覧を見てから決めます。どれも親本人の意思で結ぶ契約や遺言なので、判断能力が落ちてからでは間に合いません。
なぜ「なる前」なのか:判断能力が落ちると止まること
民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなかった法律行為を無効としています。預金の解約、家の売却、契約の締結は、親本人がその時に内容を理解して決めることが前提です。家族が代わりに署名しても、本人の意思に基づかない手続きは効力を持ちません。
銀行の考え方も同じです。全国銀行協会の「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年)は、預金は本人の資産なので、家族であっても本人の預金を払い出すことはできない、という前提に立っています。本人が認知判断能力を失い、代理権を持つ人もいない場合は、成年後見制度の利用を求めるのが基本と整理されています。
| 親の判断能力が落ちた後に起きやすいこと | 前もってできた備え |
|---|---|
| 定期預金の解約や、まとまった払出しができない | 銀行の代理人の届出、財産管理の委任契約、任意後見 |
| 実家を売って施設費用に充てられない | 家族信託(売却の権限を受託者に)、任意後見 |
| 介護サービスや施設入所の契約を誰がするか決まらない | 任意後見(身上監護の代理権) |
| 相続のときに兄弟でもめる | 遺言、家族での話し合いの記録 |
対策をしないまま判断できなくなった場合の道は、家庭裁判所での法定後見の申立てです。今ある制度の全体と2026年の改正の予定は成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定で、判断能力が落ちた後に家族ができることは親が認知症になったら財産管理はどうなる?口座凍結と家族ができることで扱います。
チェック表1:財産と口座の一覧を親子で作る
最初にやるのは、親の財産を一枚の表にすることです。どの制度を選ぶにしても、この一覧がないと、何を誰に任せるかが決められません。金額まで聞きにくければ、まず「どこに何があるか」だけで十分です。
- 預貯金:金融機関名・支店・口座の種類(普通・定期)・通帳と届出印の保管場所
- 年金:受け取っている年金の種類と振込口座
- 証券・投資信託:証券会社名、ネット取引のログイン方法の保管場所
- 生命保険・医療保険:保険会社、契約者・被保険者・受取人、証券の保管場所
- 不動産:所在地、固定資産税の納税通知書、権利証(登記識別情報)の保管場所
- 借入・保証:住宅ローン、カードローン、誰かの保証人になっていないか
- 毎月の引き落とし:公共料金、施設・介護サービスの費用、クレジットカード
- 貸金庫・自宅の金庫の有無と鍵の場所
- スマートフォン・パソコンのパスワードを書いたメモの保管場所(中身は親が管理)
- かかりつけ医と服薬の情報、介護保険の認定の有無
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 種類 | 預金/年金/証券/保険/不動産/借入 |
| どこに | 金融機関・会社名、物件の所在地 |
| 書類の場所 | 通帳・証券・権利証・納税通知書の保管場所 |
| 誰に任せたいか | 親の希望(例:長女に管理を頼みたい) |
| 備えの方法 | 代理人届/委任・任意後見/家族信託/遺言 |
一覧の最後の欄「備えの方法」は、次のチェック表を見ながら埋めていきます。
チェック表2:銀行の代理人・委任・任意後見で「代わりに動ける人」を決める
一覧ができたら、親が動けなくなった時に代わりに手続きできる人を決めます。手段は軽いものから順に3つあります。
- 銀行の代理人の届出・代理人カード:取引銀行ごとに、家族を代理人として届け出る手続きがあるかを聞きます。全国銀行協会の考え方でも、本人から有効な代理権の付与があり、銀行が任意代理人の届出を受けている場合の取引が整理されています。名称・条件・使える取引の範囲は銀行ごとに違います。
- 財産管理の委任契約:判断能力があるうちから、通帳の管理や支払いを家族に任せる契約です。任意後見契約と一緒に結ぶ形(移行型)が、日本公証人連合会の案内でも紹介されています。
- 任意後見契約:判断能力が落ちた後の財産管理と、介護・入院の契約などを任せる人と範囲を、親が決めておく契約です。公正証書で結ぶ必要があり(任意後見契約法3条)、効力は家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から生じます(同法2条1号)。公正証書の作成手数料は1契約1万3,000円です(公証人連合会)。
代理人の届出は手軽ですが、親の判断能力が落ちた後も使い続けられるかは銀行の判断によります。長い目で見て備えるなら、任意後見まで考えておくと穴が少なくなります。
文例(銀行への問い合わせ):「母の口座について、家族を代理人として届け出る手続きはありますか。代理人ができる取引の範囲と、母の判断能力が落ちた場合の扱いを教えてください。」
チェック表3:家族信託と遺言で、実家と相続に備える
実家や大きな財産をどうするかは、家族信託と遺言で備えます。どちらも親自身が決めるものです。
- 家族信託:実家を将来売って施設費用に充てる可能性があるなら検討します。信託は契約の締結で効力を生じ(信託法4条1項)、受託者(子)が契約の範囲で管理・売却できます。介護の契約などはできないので、任意後見と組み合わせるかを決めます。
- 遺言:誰に何を残すかを親が決めます。遺言は15歳から作れますが(民法961条)、作る時に遺言の内容を理解できる能力が必要です(同法963条)。自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で書き、印を押します(同法968条1項)。法務局で預かる自筆証書遺言書保管制度を使うと、申請の手数料は3,900円です。
- 家族への共有:決めた内容と書類の保管場所を、子ども全員に同じように伝えます。一人の子だけが知っている状態は、後のもめごとのもとになります。
2026年6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)では、自筆証書遺言の押印を任意にする見直しなどが決まりましたが、施行前です。施行日は政令で決まるので、いま書く自筆証書遺言には押印をします。施行前に作った遺言は、作った時の決まりで判断されます。
家族信託の相談サービスを使う場合は、遺言や任意後見との組み合わせを提案してもらえるか、契約書の作成と信託登記を誰が担うかを確かめます。三つの制度の違いと費用は家族信託と任意後見・成年後見の違い:できることと費用の比較表で比べています。
進める順番と、親への切り出し方
全部を一度にやろうとすると、親も子も疲れます。半年から1年をかけて、次の順で進めると止まりにくくなります。
| 時期の目安 | やること | 誰と |
|---|---|---|
| 最初の1か月 | 財産の一覧(どこに何があるか)、書類の置き場所の確認 | 親と、まとめ役の子 |
| 2〜3か月目 | 銀行の代理人の手続き、毎月の支払いの整理 | 親と取引銀行 |
| 3〜6か月目 | 任意後見・家族信託・遺言のどれを使うかを決め、専門家・公証役場に相談 | 親、子ども全員、専門家 |
| 6か月目以降 | 契約・遺言の作成、家族への共有、年1回の見直し | 親、子ども全員 |
文例(親への切り出し):「最近、友だちの親が急に入院して、通帳の場所も分からなくて大変だったんだって。お母さんに何かあった時に困らないように、どこに何があるかだけ一緒に書き出しておかない?決めるのはお母さんだから、考えを聞かせて。」
相続全体の対策(贈与や相続税の準備)は生前の相続対策は何から?財産の一覧・遺言・贈与・信託の順番で、親が亡くなった時に後見人がしてくれることは本人が亡くなった後の成年後見人:死後事務の範囲と引継ぎで扱います。
よくある質問
Q. 親が「まだ大丈夫」と言って話し合いに乗ってくれません。
「認知症になったら」ではなく「入院や事故で急に動けなくなったら」と切り出すと、親も自分ごととして考えやすくなります。最初は財産の一覧づくりと、通帳や保険証券の置き場所を教えてもらうことから始め、制度の話はその後にします。親の考えを聞き、決めるのは親だという姿勢を崩さないことが続けるコツです。
Q. 物忘れが出始めた段階でも、任意後見や家族信託の契約はできますか?
物忘れがあっても、契約の時にその内容を理解できれば契約はできます。理解できるかは契約ごとに判断され、公証人も本人の説明や医師の診断などを参考に判断します。迷う段階なら、主治医に相談したうえで、早めに公証役場や専門家に相談します。
Q. 対策をしないまま親が判断できなくなったら、どうなりますか?
親名義の預金の解約や実家の売却は、本人の意思が確かめられないため進めにくくなります。その場合は家庭裁判所に法定後見を申し立て、選ばれた後見人が手続きをします。令和7年の統計では、申立ての動機(複数回答)は預貯金等の管理・解約が93.4%で最も多くなっています。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第3条の2・第961条・第963条・第968条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 任意後見契約に関する法律 第2条・第3条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 信託法 第3条・第4条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 金融取引の代理等に関する考え方(全国銀行協会 2021年2月18日)(全国銀行協会)
- 任意後見契約(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月(最高裁判所事務総局家庭局)(最高裁判所)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について(法務省)(法務省)
- 自筆証書遺言書保管制度 手数料(法務省)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。