相続の手続きと期限 / 制度解説

生命保険は相続財産?受取人固有の財産と相続税での扱いの違い

この記事のもくじ
  1. 生命保険は相続財産か:民法と相続税法で答えが違う
  2. 民法での扱い:受取人固有の財産だと何が起きるか
  3. 相続税での扱い:みなし相続財産と契約形態
  4. 死亡保険金の請求手続きの流れと期限
  5. 生前に契約を見直すときの考え方

生命保険の死亡保険金は、見る法律によって答えが変わります。**民法(遺産の分け方)では、契約で決めた受取人が自分の権利として受け取る財産で、遺産分割で分ける遺産とは別に扱われます。**一方、相続税では「みなし相続財産」として課税の対象になり、相続人が受け取った分には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。この二つを分けて考えると、相続放棄・遺産分割・申告のどこで保険金を数えるのかが整理できます。

生命保険は相続財産か:民法と相続税法で答えが違う

まず結論を表で並べます。

見方 死亡保険金の扱い 何が決まるか
民法(遺産分割・相続放棄) 受取人が自分の権利として取得する。遺産分割の対象となる遺産とは別 誰が受け取るか、分け方の話し合いに入れるか
相続税法(課税) 相続で取得したものとみなして課税する(みなし相続財産) 相続税の計算に入れるか、非課税枠を使えるか

なぜ扱いが分かれるのでしょうか。民法では、相続人は亡くなった人(被相続人)の財産に属した権利義務を引き継ぎます(民法896条)。死亡保険金は、被保険者が亡くなったときに保険会社が契約で定めた受取人に払うもので、受取人は「保険給付を受ける者として契約で定めるもの」です(保険法2条)。被相続人がもともと持っていた財産ではないため、遺産の外に置かれます。最高裁判所も、相続人の一人を受取人とする死亡保険金の請求権は、遺産分割で持ち戻しの対象となる遺贈・贈与の財産(民法903条1項)には当たらないと判断しています(平成16年10月29日決定)。

これに対し相続税は、保険料を払っていたのが被相続人なら、実質的に被相続人の財産が形を変えて渡ったと考えて課税します。そのため、遺産分割の外にあるお金でも、相続税の計算には入るのです。

民法での扱い:受取人固有の財産だと何が起きるか

受取人固有の財産であることから、相続の場面で次のような結果になります。

  • 遺産分割協議を待たずに請求できる。 受取人が単独で保険会社に請求します。ほかの相続人の署名や遺産分割協議書は原則として求められません。
  • 相続放棄をしても受け取れる。 相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)が、保険金は相続で受け取るものではないため、受取人として請求できます。ただし相続税では、国税庁の説明のとおり、相続を放棄した人は非課税枠の対象になる「相続人」に含まれず、その人が受け取った保険金に非課税枠は使えません。放棄と一緒に受け取れるものの一覧は相続放棄しても受け取れるもの:生命保険・遺族年金・未支給年金にあります。
  • 遺産の取り分は原則として変わらない。 受取人が保険金を受け取っても、遺産分割での法定相続分はそのままです。

ただし例外があります。保険金の額や遺産全体に占める割合、家族の生活の実態などから、受取人とほかの相続人との不公平が著しいと評価される「特段の事情」があるときは、特別受益に準じて持ち戻しの対象になると最高裁は示しました。どんな場合に当たるかの考え方は生命保険の受取人が相続で問題になる時:受取人死亡と独り占めの扱いで整理しています。

一方、被相続人自身が受取人だった給付金(本人が受け取るはずだった入院給付金など)は、被相続人が持っていた請求権なので、相続財産として遺産分割の対象になると考えられます。保険会社から届いた書類の「受取人」欄で、誰の権利かを見分けます。

相続税での扱い:みなし相続財産と契約形態

相続税で課税されるのは、被相続人が保険料の全部または一部を負担していた死亡保険金です(国税庁 コード4114)。誰が保険料を払っていたかで、かかる税金の種類そのものが変わります。

契約形態でかかる税金が変わる早見表(国税庁 コード1750)
被保険者 保険料を負担した人 受取人 かかる税金
A(亡くなった人) A B 相続税
A(亡くなった人) B B 所得税(一時所得など)
A(亡くなった人) B C 贈与税

相続税の対象になる保険金について、受取人が相続人なら、相続人全員が受け取った保険金の合計のうち「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。相続人以外(相続放棄をした人を含む)が受け取った保険金には非課税枠がありません。法定相続人の数は、放棄した人がいても放棄がなかったものとして数えます。非課税枠の計算と注意点は生命保険の相続税の非課税枠:500万円×法定相続人の計算と注意で詳しく扱います。

保険金とあわせて受け取る配当金(剰余金の分配金)、割戻金、払い戻される前納保険料も、保険金と同じくみなし相続財産に含まれます(相続税法基本通達3-8)。保険会社の支払明細で、保険金と配当金が別の行に書かれていても、相続税では合わせて考えます。

相続税がかかるかどうかは、保険金の課税分も含めた遺産の合計が基礎控除を超えるかで一次判定します。手順は相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法を見てください。

死亡保険金の請求手続きの流れと期限

請求は受取人が行います。契約が分からないところから始める場合も含めて、次の順番で進めます。

  1. 契約を探す。 保険証券、保険会社からの郵便(契約内容のお知らせ・控除証明書)、通帳の保険料の引き落とし、勤め先の団体保険を確かめます。それでも分からない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」で、加盟会社に契約の有無をまとめて照会する方法があります(利用条件と費用は同協会の案内で確かめる)。
  2. 保険会社に死亡を連絡する。 証券番号・被保険者の氏名・死亡日を伝え、請求書類を取り寄せます。
  3. 書類をそろえて請求する。 保険会社が案内する書類(死亡の事実が分かる書類、受取人の本人確認書類など)を出します。
  4. 保険金を受け取る。 受取人の口座に振り込まれます。支払明細は相続税の申告で使うので保管します。

請求の権利は、行使できる時から3年間行使しないと時効で消えます(保険法95条)。また、保険金と相続の手続きを並べると次のようになります。

手続き 保険金の扱い
遺産分割協議 原則として分ける対象に入れない
相続放棄の判断(3か月) 放棄しても受取人として請求できる
相続税の申告(10か月) みなし相続財産として計算に入れ、申告書の生命保険金の明細に記入
準確定申告(4か月) 被相続人の所得税の申告で、死亡保険金は扱わない

生前に契約を見直すときの考え方

保険金が受取人固有の財産であることは、生前対策にも関わります。受取人は、保険事故が起きるまでは保険契約者が変更でき(保険法43条)、遺言でも変更できます(同44条)。受取人がすでに亡くなっていたり、家族の事情が変わったりしたまま放置すると、相続のときに受取人の扱いでもめる原因になります。

家族で確かめておくとよい点は次のとおりです。

  • 受取人が今も生きているか、意図した人になっているか
  • 保険料を誰が払っているか(かかる税金の種類が変わる)
  • 受取人以外の家族との取り分の差が、著しい不公平と言われるほど大きくないか

受取人の変更や遺産全体の分け方まで含めて考えるときは、特別受益の考え方を特別受益とは:相続で兄弟が生前贈与を受けていた時の持ち戻しで確かめておくと、家族への説明がしやすくなります。

よくある質問

Q. 死亡保険金は、遺産分割協議書に書かなくてよいのですか?

受取人が決まっている死亡保険金は受取人自身が保険会社に請求するもので、遺産分割で分ける財産の一覧に入れなくても受け取れます。ただし相続税の申告ではみなし相続財産として計算に入るので、協議書とは別に申告書の明細に載せます。家族の納得のために、協議書の末尾に「保険金は受取人○○が受け取った」と事実として書き添える家庭もあります。

Q. 保険金の請求を忘れていたら、いつまで請求できますか?

保険法は、保険給付を請求する権利は行使できる時から3年間行使しないと時効で消えると定めています(95条)。約款で手続きの期間を別に定めていることもあるので、亡くなってから時間がたって保険証券が見つかった場合も、まず保険会社に連絡して請求できるかを確かめます。

Q. 受取人が「相続人」とだけ書かれている契約はどうなりますか?

受取人の欄の書き方によって、誰がどんな割合で受け取るかの扱いが変わります。保険証券の受取人欄の記載をそのまま保険会社に示し、請求できる人と必要書類の案内を受けるのが手戻りの少ない順番です。家族の間で受け取り方の意見が分かれるときは、受取人の問題として[生命保険の受取人が相続で問題になる時:受取人死亡と独り占めの扱い](/seimeihoken-uketorinin/)を参照してください。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

生命保険の受取人が相続で問題になる時:受取人死亡と独り占めの扱い

生命保険の相続税の非課税枠:500万円×法定相続人の計算と注意

相続放棄しても受け取れるもの:生命保険・遺族年金・未支給年金

相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法