相続放棄してもお墓は継げる?祭祀財産と仏壇・遺骨の扱い
相続放棄をしても、お墓や仏壇を継ぐことはできます。墓石や墓地、仏壇、位牌、家系図といった祖先をまつるための物(祭祀財産)は、借金や預金などの相続財産とは別のルールで引き継がれるからです(民法897条)。放棄は「相続については初めから相続人でなかった」とする効果(939条)なので、祭祀を継ぐ人になることとは両立します。ただし、仏壇の中の現金や価値の高い美術品のように、祭祀財産に当たるか迷う物の扱いには注意が要ります。
お墓・仏壇は相続財産と別:民法897条の決め方
相続では、亡くなった人の一切の権利義務を相続人が引き継ぐのが原則です(896条)。897条は、この原則にかかわらず、次の3つを「祖先の祭祀を主宰すべき者」が引き継ぐと定めています。
| 897条の言葉 | 具体的な物の例 |
|---|---|
| 系譜 | 家系図、過去帳など先祖のつながりを記した物 |
| 祭具 | 仏壇、仏具、位牌、神棚など |
| 墳墓 | 墓石、墓碑など遺骨を納める施設(墓地を使う権利の名義は霊園・寺院の規則で扱う) |
誰が引き継ぐかは、次の順で決まります。
- 亡くなった人の指定:遺言や生前の意思表示で「お墓は長男に」などと決めていれば、その人が引き継ぎます。
- 慣習:指定がなければ、その地域や家の慣習に従います。
- 家庭裁判所:慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定めます(897条2項)。
この仕組みのため、相続人のうち誰が放棄しても、祭祀を継ぐ人は別に決まります。相続人でない人(たとえば亡くなった人の兄弟やいとこ)が祭祀を継ぐこともあります。
- 残らない(放棄で手放す):預貯金、不動産、株式、車、借金や保証の債務など、896条で引き継ぐ相続財産
- 別に継げる(897条):墓石・墓地、仏壇・仏具・位牌、家系図・過去帳
- 迷いやすい物:仏壇の中の現金、高価な仏像・美術品、骨とう的価値のある仏具
放棄した人が祭祀を継ぐときの注意
祭祀を継ぐことと、相続財産に手を付けることは、はっきり分けて考えます。放棄を考えている人が気をつけたい点は次のとおりです。
- 迷いやすい物は動かさない:祭具に見えても、値の張る仏像や美術品、骨とう的な仏具は、祭祀財産か相続財産かで見方が分かれることがあります。相続財産に当たるのに売ったり持ち出したりすると、相続を認めたとみなされるおそれがあります(921条1号)。
- 墓地の使用の名義変更は管理者の規則で:公営霊園、民営霊園、寺院墓地で、名義変更の手続きや必要書類が違います。祭祀を継ぐ人が手続きをすることになるので、管理者に確かめます。
- 管理料やお寺との付き合いを引き受ける:年間の管理料や、寺院墓地での付き合いは、祭祀を継ぐ人が負担することになります。放棄しても、これらは別に考える必要があります。
- 費用の出どころに注意する:墓石の修理や法要の費用を亡くなった人の預金から出すと、相続財産を使ったことになり、処分の問題が生じえます。葬儀費用の扱いは相続の葬儀費用を立替えたら:遺産からの精算、放棄前に避けたい行為は相続放棄の前にしてはいけないことで整理しています。
税の面では、国税庁が「墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝をしている物」を相続税がかからない財産として挙げています。骨とう的価値がある物など投資の対象となる物は除かれるため、ここでも「価値の高い物は別扱いになりうる」という点は同じです。
遺骨はどうなる?納骨と墓じまいの許可
897条には「遺骨」という言葉は出てきません。お墓に納める前の遺骨を誰が引き取るかは、祭祀を継ぐ人を中心に親族で話し合って決めることになり、意見が分かれて決められなければ法的な判断が必要になる場面です。相続放棄をしたかどうかは、この話し合いに加わる妨げにはなりません。
すでにお墓に納めた遺骨を別のお墓や納骨堂に移す場合(いわゆる墓じまい)は、法律上「改葬」に当たり、市町村長の許可が必要です(墓地、埋葬等に関する法律5条1項)。許可を出すのは、遺骨が今ある場所の市町村長です(同条2項)。
改葬の一般的な進め方は次のとおりです。
- 移す先を決める:新しいお墓、納骨堂、永代供養の墓などの受け入れ先を確保します。
- 今のお墓の管理者に相談する:寺院や霊園に移す意向を伝え、申請に必要な書類をどう用意するか聞きます。
- 改葬元の市町村に許可を申請する:申請書に書く事項と添付書類は、下の表のとおり省令で決まっています。様式は、遺骨が今ある場所の市町村のページか窓口で確かめます。
- 許可を受けてから移す:許可を受ける前に遺骨を取り出して移すことはしません。移した後の手続きも、移す先の管理者に確かめます。
| 申請書の記載事項・添付書類 | 中身 | 誰が用意するか |
|---|---|---|
| 申請書の記載事項 | 死亡者の本籍・住所・氏名・性別、死亡年月日、埋葬または火葬の場所と年月日、改葬の理由、改葬の場所、申請者の住所・氏名・死亡者との続柄 | 申請する人 |
| 添付書類1 | 墓地や納骨堂の管理者が作る、埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証する書面 | 今のお墓の管理者(寺院・霊園) |
| 添付書類2 | 申請者が墓地使用者などでないときは、墓地使用者などの改葬についての承諾書 | 墓地使用者など(申請者と別人のとき) |
| 添付書類3 | そのほか市町村長が特に必要と認める書類 | 市町村の窓口で確かめる |
表の根拠は墓地、埋葬等に関する法律施行規則2条です。受け入れ先の証明書など、自治体が様式で求める書類は、申請前に窓口で確認します。
放棄をした人が祭祀を継いでいる場合も、改葬の手続きは祭祀を継ぐ人として進めることになります。仏壇や人形、写真の手放し方は遺品の供養はどうする:仏壇・人形・写真の手放し方にまとめています。
祭祀を継ぎたくない・継ぐ人でもめるとき
祭祀を継ぐことは、家庭裁判所に申述する相続放棄(938条)の対象ではありません。放棄の申述をしても、祭祀の承継とは関係しない、ということです。
- 継ぎたくないとき:指定や慣習で自分が継ぐ立場になっても、親族のほかの人と話し合って引き受け手を決めることが考えられます。誰も継がない場合は、墓じまいや永代供養など、お墓のあり方を見直すことも選択肢になります。
- 誰が継ぐかでもめるとき:慣習が明らかでなければ家庭裁判所が定めます(897条2項)。家庭裁判所での手続きを考える段階では、弁護士への相談が考えられます。
お墓のことと借金のことは、分けて考えると整理しやすくなります。借金を理由に放棄を考えているなら、まず相続放棄とは:期限3か月の手続き・費用で期限を確かめ、遺品に手を付ける前に相続放棄と遺品整理:形見分けはどこまでしてよいかを読んでください。放棄の後になって財産が見つかった場合の考え方は相続放棄のあとから財産が見つかったらにあります。
よくある質問
Q. 仏壇の引き出しに入っていた現金も、祭祀財産として受け取れますか?
祭祀財産は、系譜・祭具・墳墓という祖先をまつるための物です。仏壇の中にあっても、現金や預金通帳、貴金属は祭具ではなく、相続財産として扱われます。放棄を考えているなら、見つけた現金は使わずに封筒に入れて保管し、相続する人に引き継いでください。
Q. お墓の名義変更をしないと、放棄の手続きに影響しますか?
相続放棄は家庭裁判所に申述する手続きで、お墓の名義変更とは別のものです。名義変更をしたかどうかで放棄の受理が左右される仕組みにはなっていません。墓地の使用者の名義をいつまでに変えるかは、霊園や寺院の規則で決まっているので、管理者に確かめてください。
Q. 相続税の計算で、お墓や仏壇は財産に入りますか?
国税庁は、墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝をしている物を、相続税がかからない財産として挙げています。ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となる物や、商品として持っている物には相続税がかかります。生前にお墓を買っておくと税が減るかどうかは、個別に税理士に確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 墓地、埋葬等に関する法律施行規則 第2条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第896条・第897条・第921条・第938条・第939条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 墓地、埋葬等に関する法律 第2条・第5条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.4108 相続税がかからない財産(国税庁)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。