相続放棄と借金の相続 / チェックリスト

相続放棄の前にしてはいけないこと:預金の引き出し・解約・処分

この記事のもくじ
  1. 相続放棄の前にしてはいけないことの原則:921条の「処分」
  2. 行為ごとのチェック表:処分に当たりうる行為・保存として除かれうる行為
  3. 預金の引き出しと「仮払い」:相続放棄の前に気をつけたいこと
  4. 受け取ってしまった・使ってしまったときの動き方
  5. 放棄の後もしてはいけないこと・しておくこと

相続放棄の前にしてはいけないことは、亡くなった人の財産を「処分」することです。民法921条1号は、相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなす、と定めています。単純承認になると財産も借金も引き継ぐことが確定し、放棄が認められない原因になりえます。一方、財産の現状を保つための「保存行為」などは、同じ条文で処分から除かれています。この記事では、行為ごとにどちらに近いかを表で分け、すでにしてしまった場合の動き方を示します。どちらに当たるかの最終的な判断は、事情を聞いた司法書士・弁護士に委ねてください。

相続放棄の前にしてはいけないことの原則:921条の「処分」

921条が単純承認とみなす場面は3つあります。

号 単純承認とみなされる場面 放棄を考えている人への意味
1号 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為と、602条の期間を超えない賃貸は除く) 申述の前に財産に手を付けない
2号 3か月の熟慮期間内に限定承認も放棄もしなかったとき 期限を過ぎない
3号 限定承認・放棄の後でも、相続財産を隠した、ひそかに使った、悪意で財産目録に載せなかったとき 放棄が受理された後も財産を自分のものにしない

1号のただし書きにある「602条の期間」は、処分の権限を持たない人がする賃貸借の上限で、建物は3年、土地は5年(植林や伐採が目的の山林は10年)、動産は6か月と決まっています。

相続人は、承認か放棄かを決めるまでの間、自分の財産と同じ注意で相続財産を管理する立場にあります(918条)。つまり、守る・調べるはしてよく、使う・売る・手放すは避ける、というのが基本の線引きです。財産の調査は915条2項で認められているので、残高証明を取る、登記事項を確かめるといった調べものは処分に当たりません。

行為ごとのチェック表:処分に当たりうる行為・保存として除かれうる行為

よく問題になる行為を3つに分けました。「当たりうる」「除かれうる」は傾向を示すもので、同じ行為でも金額や目的で評価が変わります。

行為 区分 理由と気をつけること
預金を引き出して自分の生活費や買い物に使う 処分に当たりうる 相続財産を消費する行為
口座を解約して残高を受け取る 処分に当たりうる 預金という財産を自分のものとして受け取る
家・土地・車を売る、名義を変える 処分に当たりうる 典型的な処分
遺産分割協議に加わり財産を取得する 処分に当たりうる 相続人として財産を取得する行為
亡くなった人が貸していたお金を取り立てて受け取る 処分に当たりうる 相続財産である債権を行使して受け取る
価値のある時計・着物・骨とう品を持ち帰る、売る、捨てる 処分に当たりうる 経済的な価値のある物の処分
亡くなった人が借りていた部屋の賃貸借契約を、相続人として解約する 判断が分かれうる 賃借権という財産を手放す面がある。家主と話す前に相談
亡くなった人の預金から葬儀費用を払う 判断が分かれうる 金額・事情で評価が分かれる。払うなら自分のお金で、領収書を残す
写真・手紙など経済的な価値の乏しい品を手元に置く 判断が分かれうる 形見分けの範囲は相続放棄と遺品整理:形見分けはどこまでしてよいかで確かめる
雨漏り・割れた窓の応急の修理 保存として除かれうる 現状を保つための行為
郵便物を受け取り、捨てずに保管する 保存として除かれうる 財産を減らさず、調査にも使える
残高証明・登記事項証明書などを取り寄せる 処分に当たらない 915条2項の調査

表の中で特に相談が多いのが、賃貸アパートの解約です。家主や管理会社から解約や明け渡しを急かされることがありますが、相続人として解約の手続きをする前に、放棄を考えていることを伝え、専門家に進め方を確かめてください。

迷ったときの3つの問い
  1. その行為で、亡くなった人の財産は減るか・自分のものになるか → なるなら手を付けない
  2. 財産の今の状態を保つためだけの行為か → それなら保存行為に近い
  3. 自分のお金で払えるか → 払えるなら相続財産を使わない

預金の引き出しと「仮払い」:相続放棄の前に気をつけたいこと

2019年7月から、遺産分割の前でも、相続人が単独で預金の一部を払い戻せる制度(預金の仮払い)が始まっています。全国銀行協会は、窓口で払い戻せる額を「相続開始時の残高×1/3×法定相続分」、1つの金融機関ごとに150万円までと説明しています。

この制度は相続人が遺産の一部を受け取る仕組みで、払い戻した分は遺産の一部分割で取得したものとみなされます(民法909条の2)。放棄を考えている人がこれを使うと、相続財産を自分のものとして受け取った、と見られるおそれがあります。放棄の可能性が少しでもあるなら、仮払いの手続きをする前に専門家に相談してください。制度の中身は預金の相続の仮払い制度:遺産分割前に引き出せる上限と手続きにあります。

亡くなった後に家族がキャッシュカードで引き出した場合も、引き出しの記録は口座の取引履歴に残ります。引き出したお金があるなら、次の章の手順で扱いを決めます。亡くなる前に本人の頼みで引き出した分は事情が違いうるので、日付と経緯を記録して専門家に伝えてください。

受け取ってしまった・使ってしまったときの動き方

すでに預金を引き出した、遺品を持ち帰ったという場合も、慌てて隠したり使い切ったりするのは逆効果です。放棄の後に財産を隠したり、ひそかに使ったりすると、それ自体が単純承認とみなされる場面になります(921条3号)。次の順に動いてください。

  1. それ以上使わない。 引き出した現金は自分のお金と混ぜず、封筒や別の口座に分けて保管します。
  2. 記録を作る。 いつ・いくら・何のために引き出し(持ち出し)、何に使ったかを書き出し、領収書を集めます。
  3. 期限を確かめる。 3か月の熟慮期間の最終日を確かめ、近いなら伸長の申立ても考えます。
  4. 申述の前に相談する。 記録を持って司法書士か弁護士に経緯を話し、放棄の申述ができるか、どう説明するかの見通しを聞きます。
  5. 裁判所からの照会には事実を答える。 家庭裁判所は書面などで事情を尋ねることがあります。記録に沿って答えます。

放棄の後もしてはいけないこと・しておくこと

放棄が受理された後は、相続財産を自分のものにしないことが続きます。裁判所の家事事件Q&Aは、受理された後、亡くなった人の財産を管理している場合は相続人に引き継ぐよう案内しています。

  • 隠さない・使わない。 921条3号の場面にならないよう、預かっている財産は手を付けずに引き継ぎます。
  • 占有している財産は保存する。 放棄の時に相続財産を現に占有していた人は、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存しなければなりません(940条1項)。同居していた家や、鍵を管理していた空き家が典型です。扱いは相続放棄した空き家はどうなる?保存義務の範囲と手放すまでの流れにあります。
  • 請求には受理を伝える。 債権者から請求があれば、受理されたことを伝えます。受理証明書は受理した家庭裁判所に申請できます。

放棄しても受け取ってよいお金(受取人に指定された死亡保険金、遺族年金など)は、相続放棄しても受け取れるもの:生命保険・遺族年金・未支給年金で分けて説明しています。手続きの全体は相続放棄とは?期限3か月の手続き・費用の全体に戻って確かめてください。

よくある質問

Q. 相続放棄の前に亡くなった親の預金を引き出したことは、バレますか?

引き出しの記録は口座の取引履歴に残ります。ただ、問題は知られるかどうかより、引き出して使ったことが相続財産の処分に当たり、単純承認したものとみなされうる点です(民法921条1号)。引き出したお金は使わずに分けて保管し、何に使ったかの記録を持って専門家に相談してください。

Q. 葬儀費用を亡くなった人の預金から払ってしまいました。もう放棄できませんか?

葬儀費用の支払いが処分に当たるかは、金額や事情によって判断が分かれます。一律に放棄できなくなるとは言えないので、領収書と、預金から出した額と使い道の記録をそろえて、申述の前に司法書士か弁護士に経緯を話してください。

Q. 相続放棄をした後も、気をつけることはありますか?

放棄の後でも、相続財産を隠したり、ひそかに使ったりすると単純承認したものとみなされます(921条3号)。また、放棄の時に相続財産を現に占有していた場合は、次の相続人などに引き渡すまで保存しなければなりません(940条1項)。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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