相続の葬儀費用を立替えたら?遺産からの精算と相続税の控除の扱い
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葬儀費用を立替えた場合、相続人どうしで話し合い、遺産から精算する(立替えた人が遺産から多めに受け取る)方法を取るのが一般的な考え方です。遺産分割の前でも、亡くなった人の預金から一定額までは相続人1人で払い戻せる制度があり(民法909条の2)、葬儀代に充てることもできます。相続税がかかる家庭では、通夜・火葬・読経料などの葬式費用を遺産額から差し引けるので、領収書と支払いのメモを残しておくことが大切です。
葬儀費用は誰が負担する?立替えた分の精算のしかた
民法には、葬儀費用を誰が負担するかを正面から決めた規定は置かれていません。関係する条文としては、葬式の費用の先取特権(民法306条4号・309条)があります。債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額は、債務者の財産から優先して支払いを受けられる債権とされています。ただし、この条文は葬儀社などへの支払いの優先順位を定めたもので、相続人のうち誰が最終的に負担するかまでは決めていません。
実際には、葬儀社と契約した人(多くは喪主)が、まず支払いを求められます。そのうえで、立替えた分をどう扱うかは相続人の話し合いで決めます。よく取られる精算の形は次の3つです。
| 精算の形 | 中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 遺産から先に差し引く | 遺産の合計から葬儀費用を引き、残りを分ける | 預金が十分あり、全員が費用の額に納得している |
| 立替えた人の取り分を増やす | 遺産分割で、立替えた人が費用分を多く受け取る | 不動産が中心で、すぐに現金で精算できない |
| 香典を充てて、差額を分担する | 香典の受取額を費用に充て、足りない分を相続人で分ける | 香典が多く、遺産が少ない |
どの形にするかは、遺産分割協議書に「葬儀費用として◯円を相続人Aに支払う」のように書いておくと、後で蒸し返されにくくなります。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や弁護士への相談が選択肢になります。費用の分担を、法要の場で家族と確かめる項目に入れておく進め方は、相続手続きは四十九日の後でいい?法要の前と後にやることの早見表で紹介しています。
文例(相続人へのメール):「葬儀費用は合計◯◯円で、私が立替えて支払いました。領収書の写しと内訳の一覧を添付します。香典は◯◯円、香典返しは◯◯円でした。精算の方法は、四十九日のあとに皆で相談させてください」
亡くなった人の口座から葬儀費用を引き出してよい?
金融機関は、名義人が亡くなったことを知ると口座からの引き出しを止めます。そのため、原則として遺産分割が終わるまで預金は引き出せませんが、2019年7月1日から「遺産分割前の払戻し制度」ができました。
相続人は1人でも、口座ごとに「相続開始時の残高×3分の1×その相続人の法定相続分」を払い戻せます。上限は1つの金融機関につき150万円です(民法909条の2、法務省令)。条文は、上限を決めるときに考える事情として「平均的な葬式の費用の額」を挙げており、葬儀代のような当面の支払いに備える制度です。
- 筆者の計算例:相続人が子2人、A銀行の普通預金が600万円 → 600万円×1/3×1/2=100万円(上限150万円以内なので100万円)
払い戻した分は、その相続人が遺産の一部を受け取ったものとみなされ、後の遺産分割で差し引かれます。窓口での手続きに必要な書類と日数は金融機関ごとに違うので、取引のある金融機関に先に確かめてください。遺言で預金の受け取り手が決まっている場合などは使えないことがあると全国銀行協会は案内しています。相続放棄を考えているときは、払い戻す前に次の節を読んでください。残高が大きく上限の150万円に当たる場合の計算や必要書類は預金の相続の仮払い制度を見てください。
死亡を金融機関に伝える前にキャッシュカードで引き出すのは避けてください。他の相続人から使い込みを疑われる原因になり、後で説明を求められたときに困ります。やむを得ず引き出した場合は、引き出した日・額・使い道の領収書を残し、他の相続人に早めに伝えます。
相続放棄を考えているときの葬儀費用
借金が多く相続放棄を考えている人は、葬儀費用の払い方に注意が必要です。相続財産を処分すると、相続を単純承認したものとみなされ、放棄できなくなるおそれがあります(民法921条1号)。亡くなった人の預金から葬儀費用を払うことが「処分」に当たるかどうかは、費用の額や事情によって判断が分かれうるもので、一律には決まりません。
放棄の可能性があるうちは、次の順番で考えると安全側に寄せられます。
- 葬儀費用は、できるだけ自分のお金や香典で支払う
- 亡くなった人の預金や財産には手をつけない
- 亡くなった人の財産から払う必要があるときは、払う前に家庭裁判所の手続案内や弁護士・司法書士に相談する
- 放棄するかどうかを、相続の開始を知った時から3か月以内に決める
放棄の前に控えたほうがよい行動は相続放棄の前にしてはいけないことで詳しく説明しています。
相続税で差し引ける葬儀費用・差し引けない費用
相続税の計算では、亡くなった人の葬式費用を、相続人などが取得した財産の額から差し引けます(相続税法13条)。条文は、相続や包括遺贈などで財産を取得した人が負担する部分を、その人の財産の価額から差し引くと定めています。国税庁は、控除の対象を一定の相続人と包括受遺者が負担した葬式費用としています。そのため、相続放棄をして財産を取得しない人が立替えた分は、この控除を受ける人には当たりません。放棄した人が立替えたときの扱いは、税務署か税理士に確かめてください。何が控除できる費用に入るかは、国税庁が示しています。
| 差し引ける(国税庁 No.4129) | 差し引けない(国税庁 No.4129) |
|---|---|
| 火葬・埋葬・納骨の費用(仮葬式と本葬式の両方) | 香典返しの費用 |
| 遺体・遺骨の回送にかかった費用 | 墓石や墓地の買入れ・借入れの費用 |
| 通夜など、葬式の前後に通常必要な費用 | 初七日など法事の費用 |
| お寺などへの読経料などのお礼 | — |
| 死体の捜索・運搬にかかった費用 | — |
香典は、個人から受ける社会通念上相当な額であれば贈与税がかかりません(国税庁 No.4405)。その一方で、香典返しの費用は葬式費用として差し引けません。相続税がかかるかどうかは基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)で一次判定できるので、相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法で先に確かめると、領収書の整理にどこまで力を入れるかを決めやすくなります。
健康保険の埋葬料・葬祭費も忘れずに
葬儀の費用の一部は、健康保険から戻ってくることがあります。会社員など協会けんぽの被保険者が亡くなったときは、被保険者に生計を維持されていた人に埋葬料5万円が支給され、そのような人がいないときは実際に埋葬を行った人に実費(上限5万円)の埋葬費が支給されます。健康保険組合や共済組合は上乗せがある場合があるので、加入先に確かめてください。
国民健康保険や後期高齢者医療制度に入っていた人の場合は、市区町村や広域連合の条例に基づいて葬祭費が支給されます。額は全国一律ではないため、住んでいた市区町村の案内で確かめます。どちらも時効は2年です(健康保険法193条、国民健康保険法110条)。年金の未支給分など、ほかに遺族が請求できるお金は親が亡くなった時の相続手続きと年金にまとめています。
よくある質問
Q. 葬儀費用を立替えたことを、他の相続人にどう伝えればよいですか?
領収書の写しと、費目ごとの合計を一覧にした表を添えて、文書やメールで伝えるのが行き違いの少ない方法です。香典の受取額と香典返しの額も並べておくと、差し引きの話がしやすくなります。精算の方法は遺産分割の話し合いで決め、協議書に書いておきます。
Q. 領収書がないお布施は相続税の計算で差し引けますか?
国税庁は、お寺などへの読経料などのお礼を、控除できる葬式費用に挙げています。領収書が出ない支払いは、支払った日・金額・支払先・名目をメモに残し、申告のときに説明できるようにしておきます。
Q. 喪主と、葬儀費用を払った人が違ってもよいですか?
かまいません。相続税の計算では、葬式費用は負担した相続人などの財産から差し引きます(相続税法13条、国税庁 No.4129)。誰が負担したかが後で分かるよう、支払いの記録と、遺産から精算したかどうかを残しておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第306条・第309条・第907条・第909条の2・第921条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 遺産分割前の払戻し制度のリーフレット(全国銀行協会)
- 民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 亡くなった親の預貯金、すぐに引き出すことは可能ですか?(全国銀行協会)
- 相続税法 第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.4129 相続財産から控除できる葬式費用(国税庁)
- No.4405 贈与税がかからない場合(国税庁)
- 埋葬料(費)について(よくある質問)(全国健康保険協会)
- 健康保険法 第100条・第193条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 国民健康保険法 第58条・第110条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。