相続放棄と借金の相続 / 基本ガイド

相続放棄とは?期限3か月・手続きの流れ・費用・してはいけないこと

この記事のもくじ
  1. 相続放棄とは:借金も財産も引き継がないことにする手続き
  2. 期限は3か月:いつから数えるか、間に合わないとき
  3. 放棄するか決める材料:単純承認・限定承認との比べ方
  4. 手続きの流れ:申述から受理証明書まで
  5. してはいけないこと、放棄しても受け取れるもの
  6. 状況別に詳しく読む記事と、誰に相談するか

相続放棄とは、家庭裁判所に申述して、亡くなった人(被相続人)の借金も財産も一切引き継がないことにする手続きです。受理されると「初めから相続人とならなかった」とみなされます(民法939条)。期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内で、費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。この記事では、放棄の効果・期限・決め方・手続きの流れ・してはいけないことを通しで示し、それぞれの詳しい記事へ案内します。

相続放棄とは:借金も財産も引き継がないことにする手続き

相続が始まると、相続人は亡くなった人の「一切の権利義務」を引き継ぎます(民法896条)。預金や家だけでなく、借金・未払いの代金・保証人としての責任も含まれます。何もしなければ、このまま全部を引き継ぐことになります。これを止めるのが相続放棄です。

放棄の効果は、条文で次の3点に整理できます。

  1. 初めから相続人でなかったことになる(939条)。 借金を払う立場からも、遺産を分ける話し合いからも外れます。
  2. 家庭裁判所への申述でしか成立しない(938条)。 兄弟に「放棄する」と伝える、念書を書く、遺産分割協議で何ももらわない、といった「事実上の放棄」は、法律上の相続放棄ではありません。財産を受け取らなくても、借金の請求を受ける立場は残ります。
  3. 受理された後は撤回できない(919条1項)。 3か月の期間内であっても取り下げて元に戻すことはできず、取り消せるのは詐欺・強迫を受けたなど民法の総則・親族編が定める場合に限られます。

放棄した人の子どもが代わりに相続すること(代襲相続)は起きません。その理由と、代襲が起きる場合との違いは代襲相続と相続放棄:親が放棄したら子は代襲できるかで説明しています。代わりに起きるのは、同じ順位の人がいなくなったときに次の順位の親族へ相続人の立場が移ることです。子が全員放棄すれば亡くなった人の父母(いなければ祖父母)へ、それもいなければ兄弟姉妹へ移ります。次の順位の人への連絡のしかたは相続放棄したら次は誰が相続人か:次順位への連絡と全員放棄の流れにまとめています。

早見表:相続放棄で変わること・変わらないこと
項目 放棄が受理されると
借金・未払い金・保証債務 引き継がない
預金・不動産・株・車 受け取れない
遺産分割協議 参加しない(相続人でないため)
自分の子への代襲 起きない
次の順位の親族 同じ順位に誰もいなければ相続人になる
受取人に指定された死亡保険金 受け取れる(非課税枠は使えない)
お墓・仏壇(祭祀財産) 相続とは別のルールで承継者が決まる(897条)

期限は3か月:いつから数えるか、間に合わないとき

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に申述しなければなりません(民法915条1項)。相続するか放棄するかを決めるこの3か月を、熟慮期間と呼びます。数え始めは死亡日とは限りません。裁判所の家事事件Q&Aは、亡くなったことと、自分が法律上相続人になったことを知った時から3か月、と説明しています。疎遠だった親の死亡を後から知った人や、先の順位の人が全員放棄したことで相続人になった人は、それを知った時から数えます。起算日の考え方を立場ごとに並べた表と、日付の数え方は相続放棄の期間3か月はいつから?起算日の考え方にあります。

3か月のうちに放棄も限定承認もしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされ(921条2号)、借金も含めて引き継ぐことが確定します。期限を過ぎた後の申述でも、財産が全くないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合には、財産の存在を知った時から3か月以内なら受理されることもある、と裁判所は案内しています。ただし受理されるかは家庭裁判所の判断で、督促状が届いた日を示す封筒や通知書を残しておくことが大切になります。

借金の全体が3か月で分からないときは、期限が来る前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法があります(915条1項ただし書)。申立ても3か月以内にしなければならないので、迷った時点で動き始めるのが安全です。申立ての書類と理由の書き方は相続放棄の期間の延長:伸長の申立てのやり方で順に説明しています。

放棄するか決める材料:単純承認・限定承認との比べ方

相続人が選べる道は3つあります。どれを選ぶかは、財産と借金のどちらが多いか、残したい財産があるか、ほかの相続人がどうするか、で変わります。

選び方 中身 向いている場面の例 注意点
単純承認 財産も借金も全部引き継ぐ(920条) 借金がない、または財産で十分に払える 3か月何もしないとこれになる(921条2号)
限定承認 受け取った財産の範囲でだけ借金を払う(922条) 借金の額が分からない、家を残したい 相続人全員でしかできない(923条)。財産目録・官報公告など手間がかかる
相続放棄 財産も借金も引き継がない(939条) 借金が明らかに多い、相続に関わりたくない プラスの財産も失う。撤回できない。次の順位へ移る

判断の前に、まず財産と借金の全体をつかみます。民法も、承認・放棄の前に相続財産を調査できると定めています(915条2項)。預金・不動産・借入れの照会先は相続財産の調べ方:預金・不動産・借金を見つける照会先一覧にまとめました。調べた結果を「放棄で失うもの」「兄弟への影響」と並べて考える判断表は、相続放棄すべきか判断する材料で作っています。借金の額が読めないときの選択肢である限定承認は限定承認とは?借金がどれだけあるか分からない時の選択肢へ、親の借金が相続されるかと借金の調べ方は親の借金は相続する?相続放棄の前に借金を調べる方法と払う義務の考え方へ進んでください。

相続放棄のデメリットとして押さえたいのは、次の4つです。

  • 住み続けたい家や、思い入れのある財産も含めて、プラスの財産をすべて手放すことになる
  • 受理された後は撤回できない(後から財産が見つかっても戻せない)
  • 次の順位の親族(亡くなった人の父母や兄弟姉妹)が新たに相続人になり、借金への対応を迫られる
  • 受取人として受け取った死亡保険金に、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えない(国税庁 No.4114)

手続きの流れ:申述から受理証明書まで

申述先は、申述する人の住所地ではなく、亡くなった人の最後の住所地を受け持つ家庭裁判所です。流れは次のとおりです。

  1. 財産と借金を調べる。 放棄するかを決める材料を集めます。この間は財産を処分しないようにします。
  2. 戸籍などの書類をそろえる。 共通して亡くなった人の住民票除票(または戸籍附票)と申述する人の戸籍謄本が要り、立場(配偶者・子・父母・兄弟姉妹)によって必要な戸籍の範囲が広がります。範囲の表は相続放棄の必要書類:立場ごとの戸籍の範囲にあります。
  3. 申述書を書く。 裁判所の書式ページに申述書と記入例があります。書き方は相続放棄申述書の書き方:記入例と放棄の理由で欄ごとに説明しています。
  4. 家庭裁判所に出す。 収入印紙800円分(申述人1人につき)と、裁判所ごとに額が違う連絡用の郵便切手を添えます。兄弟3人なら印紙も3人分です。
  5. 照会や呼出しに応じる。 家庭裁判所は、書面で事情を尋ねたり、直接事情を聞いたりすることがあります。届いたときの答え方は相続放棄の照会書が届いたら:回答の書き方を参照してください。
  6. 受理の通知を受け取り、必要なら受理証明書を申請する。 受理証明書は、受理した家庭裁判所に150円分の収入印紙を添えて申請します。借金の請求をしてきている相手に、受理されたことを伝えるときに使えます。

申述先の家庭裁判所は、裁判所ウェブサイトの「申立書提出先一覧(家庭裁判所)」で都道府県ごとに確かめられます。全体の段取りと日数の考え方は相続放棄の手続き:期限・費用・申述から受理通知までの5段階で詳しく扱い、自分でする場合と専門家に頼む場合の費用の比べ方は相続放棄の費用:自分でやる実費と専門家に頼む場合にあります。

してはいけないこと、放棄しても受け取れるもの

放棄を考えているときに一番気をつけたいのは、相続財産を処分すると、単純承認したものとみなされることです(民法921条1号)。そうなると、その後に放棄の申述をしても認められない原因になりえます。放棄が受理された後でも、財産を隠したり、ひそかに使ったりすると同じ扱いになります(921条3号)。

気をつけたい行動 理由
亡くなった人の預金を引き出して自分のために使う・口座を解約する 相続財産の処分に当たりうる
家・土地・車を売る、名義を変える 相続財産の処分に当たりうる
遺産分割協議に加わって財産を受け取る 相続人として財産を取得する行為になる
価値のある遺品を持ち帰る・売る・捨てる 処分に当たりうる。形見分けの線引きは事情で分かれる

一方で、壊れた箇所の応急の修理など財産の現状を保つための行為(保存行為)は、921条1号ただし書で処分から除かれています。どこまでが保存でどこからが処分かは個別の事情で判断が分かれるので、迷う行為は手を付ける前に司法書士や弁護士に確かめてください。行為ごとの表は相続放棄の前にしてはいけないこと:預金の引き出し・解約・処分、部屋の片付けについては相続放棄と遺品整理:形見分けはどこまでしてよいかにあります。

放棄した後にも、責任が残る場面があります。放棄の時に相続財産を現に占有している人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存しなければなりません(940条1項)。亡くなった親と同居していた家や、鍵を預かって管理していた空き家が典型で、扱いは相続放棄した空き家はどうなる?保存義務の範囲で説明しています。

反対に、放棄しても受け取れるお金があります。受取人に指定された人が受け取る死亡保険金、法律が遺族に直接支給する遺族年金、遺族が自分の名で請求する未支給年金などです。どれが受け取れて、どれが相続財産として扱われるかの分け方は相続放棄しても受け取れるもの:生命保険・遺族年金・未支給年金にまとめました。お墓や仏壇は相続財産とは別に承継者が決まる(897条)ので、相続放棄してもお墓は継げるかも参考にしてください。

状況別に詳しく読む記事と、誰に相談するか

状況が決まっているなら、次の記事から先に読むと近道です。

相続放棄の申述は、書類をそろえれば相続人本人が出せます。 そのうえで、次のような場面では専門家に相談する意味が大きくなります。

  • 期限が迫っている、または3か月を過ぎてしまった
  • 預金を引き出した、遺品を処分したなど、すでに手を付けた行為がある
  • 借金の額や保証人になっていたかが分からない
  • 兄弟や次の順位の親族と、誰が放棄するかで話がまとまらない

家庭裁判所に出す書類の作成は司法書士の業務に含まれ(司法書士法3条)、放棄が認められるかの見通しや債権者との交渉は弁護士の仕事です。どちらに何を頼めるかの違いは相続手続きの専門家の違い:弁護士・司法書士・税理士・行政書士の頼み分けで、無料で相談できる窓口の番号と受付時間は相続手続きの無料相談窓口一覧で確かめられます。相談のときは、死亡を知った日、届いた督促状、分かっている財産と借金のメモを持っていくと話が早く進みます。

よくある質問

Q. 相続放棄をしたら、親の借金の督促はどうなりますか?

放棄が受理されると、その人は初めから相続人でなかったことになるので、亡くなった人の借金を払う立場ではなくなります。督促が来ている相手には、受理されたことを伝えます。書面で示すなら、受理した家庭裁判所に150円分の収入印紙を添えて申請する受理証明書を使えます。

Q. 家族に「相続はいらない」と伝えれば、それで相続放棄になりますか?

なりません。相続放棄は家庭裁判所に申述して受理される手続きで(民法938条)、口頭の宣言や念書では効果がありません。遺産分割協議で何も受け取らないと決めた場合も、相続人の立場は残り、借金を請求される側に入ったままです。

Q. 相続放棄のデメリットは何ですか?

預金や家などプラスの財産も一切受け取れなくなること、受理された後は撤回できないこと、同じ順位の人がいなければ次の順位の親族に相続人の立場が回ることが主なものです。放棄した人が受け取った死亡保険金には、相続税の非課税枠も使えません。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

相続放棄すべきか判断する材料:借金・家・兄弟への影響の確かめ方

相続放棄の手続き:期限・費用・申述から受理通知までの5段階

相続放棄の前にしてはいけないこと:預金の引き出し・解約・処分

限定承認とは?借金がどれだけあるか分からない時の選択肢と流れ