遺留分がいらない場合は?生前の遺留分放棄と相続開始後の扱い
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遺留分がいらない場合の手続きは、親が生きているうちか、亡くなった後かで全く違います。生前に放棄するときは家庭裁判所の許可を受けたときに限って効力が生じ(民法1049条1項)、亡くなった後は家庭裁判所の手続きは要らず、遺留分侵害額を請求しなければ、1年または10年の期限で請求の権利がなくなります(民法1048条)。どちらの場合も、遺留分を手放しても相続人であることは変わらない点に注意が要ります。
遺留分がいらない場合は「いつの時点か」で手続きが分かれる
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に法律が残している最低限の取り分です。いらないと考える理由は、親の事業や家を継ぐきょうだいに負担をかけたくない、生前にすでに十分な援助を受けた、などさまざまです。どの理由でも、まず時点で道が分かれます。
| いつ | 何をするか | 家庭裁判所 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 親(被相続人)の生前 | 遺留分放棄の許可を申し立てる | 許可が要る | 民法1049条1項 |
| 亡くなった後 | 遺留分侵害額の請求をしない | 手続きは要らない | 民法1048条(期限で消える) |
生前に放棄の許可を得ておく意味は、親が遺言を作るときに「この子からは後で遺留分を請求されない」と見通しを立てられることにあります。亡くなった後なら、請求するかどうかは本人がその時に決められるので、急いで何かを出す必要はありません。
生前に遺留分を放棄する手続き:申立先・費用・書類
裁判所の案内による手続きの要点です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てる人 | 遺留分を持つ相続人(になる予定の人)本人 |
| 時期 | 相続が始まる前(被相続人が生きている間) |
| 申立先 | 被相続人の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(切手の額は裁判所ごとに違う) |
| 書類 | 申立書、被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)、申立人の戸籍謄本(全部事項証明書) |
進め方は次の順です。
- 被相続人の住所を確かめ、裁判所の「申立書提出先一覧」で担当の家庭裁判所を調べる
- 裁判所のページから申立書の書式と記載例を取り、放棄する理由や事情を書く
- 戸籍謄本を2人分そろえ、収入印紙と郵便切手を用意する
- 申し立てた後に追加の書類や説明を求められたら応じる
裁判所の手続き案内には、許可するかどうかを決めるときの基準は書かれていません。許可は裁判所が事情を見て判断するもので、申し立てれば認められるという性質のものではないと考えておきます。親の意向で申し立てる場合でも、申立人は放棄する本人です。
文例(家族に気持ちを伝えるとき):「家は兄さんが継ぐと聞いているので、私は遺留分を求めるつもりはありません。そのうえで、家庭裁判所の許可の手続きをするかどうかは、内容を確かめてから決めたいです。」
放棄しても相続人のまま:相続放棄・遺産分割との違い
遺留分の放棄と相続放棄は、名前が似ていても効果が違います。相続放棄は、相続が始まったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述して行い(民法915条・938条)、放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。一方、遺留分の放棄を定めた1049条には、放棄した人が相続人でなくなるという定めはなく、「初めから相続人とならなかったものとみなす」と書かれているのは相続放棄の939条だけです。そのため、遺留分を放棄した人は、相続人としての立場は残るものとして整理されます。なお、相続が始まる前に相続放棄をする手続きは、民法にはありません。
| 遺留分の放棄 | 相続放棄 | 遺産分割で何も取得しない | |
|---|---|---|---|
| できる時期 | 生前(許可が要る)/死後(請求しないだけ) | 死後、知ってから3か月以内 | 死後の遺産分割協議で |
| 相続人のままか | 相続人のまま | 初めから相続人でなかったことになる | 相続人のまま |
| 借金 | 引き継ぐ | 引き継がない | 債権者には法定相続分で請求されうる |
| 遺言がない場合の遺産 | 遺産分割協議に加わり、法定相続分を前提に話し合う | 加わらない | 協議で取得しないと決める |
相続人は借金を含めた権利義務を引き継ぎます(民法896条)。遺言で相続分が決められていても、お金を貸した側は各相続人に法定相続分で請求できる(民法902条の2)ので、「遺産分割で何も受け取らないから借金も関係ない」とはなりません。借金を避けたい事情があるなら、相続放棄の期限と手続きを相続放棄とは?期限3か月の手続き・費用・してはいけないことの全体で先に確かめておきます。
もう1つの注意点は、生前に遺留分を放棄しても、親が遺言を作らなければ、亡くなった後は法定相続分を前提にした遺産分割になることです。放棄をきょうだいに財産を集める目的で使うなら、遺言とセットで考えることになります。遺言を作る側の備えは遺言書があっても遺留分は請求される?作る側・受ける側の備えで扱います。
亡くなった後に受け取らないとき:請求しなければよい
相続が始まった後は、遺留分を受け取らないための家庭裁判所の手続きはありません。民法1049条1項が許可を求めているのは「相続の開始前」の放棄だけで、開始後は、遺留分侵害額を請求しないまま、知った時から1年または相続開始から10年がたてば、請求の権利は時効で消えます(民法1048条)。
それでも、きょうだいから「後で請求されないか」と不安を伝えられることはあります。その場合は、請求するつもりがないことを日付入りの書面で伝えておくと、行き違いを防げます。書面にどこまでの効果を持たせるか(遺産分割の合意と一緒にするかなど)で後の扱いが変わるので、文面は弁護士に見てもらうと安心です。
最後に、決める前に確かめておきたい点です。
- 遺言や生前贈与の中身を、資料で見たうえで判断しているか
- 遺留分を手放しても、相続人として遺産分割協議や借金の問題は残ることを理解しているか
- 迷いがあるなら、期限(知った時から1年)の内側で考える時間があるか
請求するかどうか迷っている人は、請求する場合の段階と準備を遺留分侵害額請求の流れ:話し合いから調停・訴訟までの段階で、弁護士に頼んだときの費用感を遺留分の弁護士費用:着手金と報酬金の考え方で見比べてから決めると、後悔の少ない選び方になります。
よくある質問
Q. 兄が遺留分を放棄したら、そのぶん私の遺留分は増えますか?
増えません。民法1049条2項は、共同相続人の一人がした遺留分の放棄は、ほかの共同相続人の遺留分に影響しないと定めています。兄の放棄で軽くなるのは、遺言や贈与で財産を受け取った人が負うはずだった負担のほうです。
Q. 遺留分を放棄しておけば、親の借金を引き継がずに済みますか?
済みません。遺留分を放棄しても相続人であることは変わらず、相続人は借金を含めた権利義務を引き継ぎます(民法896条)。借金を引き継がないためには、亡くなった後に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があり、生前にはできません。
Q. 親から「遺留分を放棄してほしい」と頼まれたら、申立ては親がしてくれますか?
裁判所の案内では、申し立てるのは遺留分を持つ相続人、つまり放棄する本人です。親が代わりに申し立てる手続きではないので、放棄するかどうかは自分で判断し、自分の名前で申し立てることになります。
出典・参考にした公的な情報
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。