遺言書があっても遺留分は請求される?作る側・受ける側の備え
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遺言書があっても、遺留分は請求されることがあります。遺留分は、亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人に法律が残している最低限の取り分で、遺言の内容がそれを下回ると、下回った分をお金で払うよう、多くもらった人に請求できます(民法1042条・1046条)。ただし請求するかどうかは相続人の自由で、期限(知った時から1年・相続開始から10年)を過ぎると請求できなくなります。この記事では、遺言を受け取った側と、これから遺言を作る側のそれぞれが何を備えればよいかを整理します。
遺言書があっても遺留分は請求できる:理由と範囲
遺言で財産を自由に分けられるのが原則です(民法964条)。そのうえで民法は、一定の相続人の生活や期待を守るため、遺言でも奪えない取り分として遺留分を置いています。遺言そのものが無効になるわけではなく、遺言は有効なまま、足りない分をお金で調整する仕組みです。
請求できるのは、配偶者・子(子が先に亡くなっていれば孫)・親などの直系尊属です。兄弟姉妹とその子の甥・姪には遺留分がありません。割合は、相続人が親などの直系尊属だけなら財産の3分の1、それ以外は2分の1で、これに各人の法定相続分を掛けます。
| 相続人の組み合わせ | 遺留分を持つ人 | 各人の遺留分(基礎となる財産に対して) |
|---|---|---|
| 配偶者と子2人 | 配偶者・子 | 配偶者 1/4、子 各1/8 |
| 子だけ(2人) | 子 | 各1/4 |
| 配偶者と親(父母2人) | 配偶者・父母 | 配偶者 1/3、父母 各1/12 |
| 親だけ(父母2人) | 父母 | 各1/6 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者のみ | 配偶者 3/8、兄弟姉妹は遺留分なし |
| (筆者の計算:例として配偶者と子2人は 1/2×1/2=1/4、1/2×1/4=1/8。配偶者と父母2人は 1/2×2/3=1/3、1/2×1/3×1/2=1/12。父母2人だけは 1/3×1/2=1/6。配偶者と兄弟姉妹は 1/2×3/4=3/8) |
基礎となる財産には、亡くなった時の財産だけでなく、一定の生前贈与も足し戻します。相続人以外への贈与は原則として相続開始前の1年間、相続人への贈与は10年間で、相続人への贈与は婚姻・養子縁組や生計の資本としてのものに限られます(民法1044条)。そこから借金を全額差し引きます(民法1043条)。具体的な数字の入れ方は遺留分の計算方法と具体例で順に示しています。
遺言で財産を受け取った側:遺留分を請求されたときの流れ
遺言で多く受け取った人のもとに、他の相続人から「遺留分を請求する」という通知が届くことがあります。慌てて返事をする前に、次の順で確かめます。
- 請求してきた人に遺留分があるか:兄弟姉妹・甥姪からの請求なら、そもそも遺留分がありません。
- 期限内か:相続の開始と、遺留分を侵害する遺贈や贈与を知った時から1年、または相続開始から10年を過ぎていれば、権利は消えています(民法1048条)。
- 金額の前提:基礎となる財産の評価(とくに不動産の価額)、足し戻す贈与、差し引く借金、請求した人がすでに受けた遺贈や贈与を一つずつ確かめます。侵害額は、遺留分から、請求者が受けた遺贈・生前贈与の額と、請求者が相続で取得する遺産の額を引き、請求者が引き継ぐ借金を足して出します(民法1046条2項)。
- 誰がどの順で負担するか:遺贈を受けた人が先、生前に贈与を受けた人が後です。遺贈を受けた人が複数なら、受けた価額の割合で負担します(民法1047条)。
話し合いでまとまらなければ、家庭裁判所の「遺留分侵害額の請求調停」を使えます。裁判所の案内では、申立ての費用は収入印紙1,200円分と郵便切手で、申立てだけでは相手への請求の意思表示にならないので、別に内容証明郵便などで意思を伝える必要があるとされています。流れの全体は遺留分侵害額請求の流れにまとめました。
返事の例:「通知を受け取りました。財産の評価と金額の根拠を確かめたうえで、〇月〇日までにご連絡します。」
ここで「払う・払わない」「この金額が正しい」と決めるのは、法律事務の判断になり、弁護士の仕事です(弁護士法72条)。相続人同士の連絡が難しいときは、相続の弁護士無料相談の使い方から窓口を選んでください。
遺言を作る側:遺留分を見込んで分け方を決める判断材料
これから遺言を作る人にとって大事なのは、「遺留分を下回る遺言は書けない」のではなく、下回る内容にしたときに、受け取る人が後でお金を払う側になるという点です。次の材料で、分け方を検討します。
| 考えること | 確かめる中身 | 選択肢の例 |
|---|---|---|
| 遺留分を持つ人がいるか | 子・配偶者・親の有無。子がいなければ兄弟姉妹には遺留分がない | 兄弟姉妹だけが他の相続人なら、遺言で配偶者に集める形も検討できる |
| 不動産に偏っていないか | 財産の大半が自宅なら、受け取った人に払うお金がない | 預金や生命保険金の受取人で、受け取る人の手元にお金を残す |
| 生前贈与をしているか | 相続人への生計の資本の贈与は10年分が計算に入る | 贈与の記録(日付・金額・目的)を残しておく |
| 誰に遺留分の負担が来るか | 遺贈と贈与の順番、複数の受遺者の割合 | 受遺者が複数いるとき、遺言で負担の割合について別の意思を書く方法がある(民法1047条1項2号ただし書) |
| 気持ちを伝えるか | 分け方の理由 | 付言で理由を書く(法的な効力はなく、気持ちを伝えるもの) |
生命保険金を備えに使うときは、保険金が遺留分の計算でどう扱われるかが事案ごとの判断になる点に注意します。どの財産をどう組み合わせるかは、遺言の作成を受ける弁護士・司法書士や公証人に、家族構成と財産の一覧を見せて相談するのが確実な進め方です。相談先の違いは遺言書の作成の相談先で比べています。
遺留分と遺言の関係でよくある誤解
最後に、遺言と遺留分をめぐって混同しやすい点を整理します。
- 「遺留分を侵害する遺言は無効」ではない:遺言は有効で、請求があったときにお金で調整します。請求がなければ遺言のとおりに進みます。
- 「遺留分は自動でもらえる」ではない:請求の意思を相手に伝えて初めて動きます。何もしなければ期限で消えます。期限の数え方は遺留分の時効:1年と10年はいつから数える?で扱っています。
- 「遺言で全部を長男にすれば、借金も長男だけ」ではない:お金を貸していた人は、遺言にかかわらず各相続人に法定相続分で請求できます(民法902条の2)。
- 遺留分の放棄と相続放棄は別:生前の遺留分の放棄は家庭裁判所の許可が要り、放棄しても相続人のままです(民法1049条)。
遺言のとおりに分けるのか、相続人全員で話し合って別の分け方にするのかという選び方は、次の遺言書と違う遺産分割はできる?で取り上げます。遺留分そのものの仕組みを最初から確かめたい人は遺留分とは?もらえる割合・請求できる人・期限から読んでください。
よくある質問
Q. 公正証書遺言なら、遺留分を請求されることはありませんか?
遺言の方式と遺留分は別の話です。公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、遺留分を持つ相続人の取り分を下回る内容なら、その相続人は侵害額を請求できます。公正証書にすることで変わるのは、方式の不備で争われにくくなる点や検認が要らない点です。
Q. 遺言に「遺留分の請求はしないこと」と書けば、請求を止められますか?
遺言でそう書いても、相続人の遺留分の権利そのものをなくす効力はないと考えておくのが安全です。相続が始まる前に権利を手放す方法は、家庭裁判所の許可を受けた遺留分の放棄だけと定められています(民法1049条)。遺言の付言で気持ちを伝えることはできますが、請求するかどうかは相続人が決めます。
Q. 遺留分を請求されたら、遺言でもらった不動産を返さなければいけませんか?
2019年7月1日以降に始まった相続では、請求の中身は「侵害額に当たるお金の支払い」です(民法1046条)。不動産そのものを返す制度ではありません。すぐに払えないときは、裁判所に支払いの期限を延ばしてもらう申立ての仕組みもあります(民法1047条5項)。
出典・参考にした公的な情報
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。