相続人と遺産分割 / 手順

遺留分侵害額請求の流れ:話し合いから調停・訴訟までの段階と準備

この記事のもくじ
  1. 遺留分侵害額請求の5つの段階と、それぞれの準備
  2. ①意思表示と②資料集め:請求額の見当をつけるまで
  3. ③話し合い:合意したら書面に残す
  4. ④家庭裁判所の調停:申立先・費用・書類
  5. ⑤訴訟:どの裁判所に、いくらの手数料で起こすか
  6. 弁護士に頼むかどうかの分かれ道

遺留分侵害額請求は、①請求の意思表示 → ②資料集めと額の見当 → ③話し合い → ④家庭裁判所の調停 → ⑤訴訟の順に進みます。最初の意思表示だけは、相続の開始と侵害する遺言・贈与を知った時から1年以内にしておく必要があり(民法1048条)、その後の段階は相手の出方しだいで、③で終わることも⑤まで進むこともあります。この記事では、段階ごとにどこで何をし、何が要るかを並べます。

遺留分侵害額請求の5つの段階と、それぞれの準備

遺留分侵害額請求は、遺言で財産を受け取った人(受遺者)や生前贈与を受けた人(受贈者)に、侵害額に当たる金銭を払うよう求めるものです(民法1046条1項)。遺言や贈与を取り消す手続きではなく、財産はそのままで、お金で差を埋める仕組みです。

段階ごとの早見表:遺留分侵害額請求の進み方
段階 どこで 実費の例 主な準備
①意思表示 相手に直接(内容証明郵便など) 郵便料金 相手の特定、被相続人と遺言・贈与の特定
②資料集め・額の見当 役所・法務局・金融機関 戸籍・証明書の手数料 戸籍、遺言の写し、財産と借金の資料
③話し合い 当事者どうし(代理人を立てることも) ほぼなし 計算の根拠、合意書の案
④調停 家庭裁判所(相手の住所地か、合意で決めた所) 収入印紙1,200円+郵便切手 申立書と添付書類
⑤訴訟 地方裁判所(請求額140万円以下は簡易裁判所) 請求額に応じた手数料 訴状と証拠

段階に入る前に、3つの前提を確かめます。遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人であること(民法1042条1項)、1年・10年の期限が過ぎていないこと、亡くなったのが2019年(令和元年)7月1日以後であることです。2019年7月1日より前の相続は、裁判所の案内で改正前の遺留分減殺の手続きになるとされています。期限の数え方は遺留分の時効:1年と10年はいつから数える?で扱っています。

①意思表示と②資料集め:請求額の見当をつけるまで

意思表示は、配達証明つきの内容証明郵便で相手に届けるのが一般的な方法です。調停の申立てだけでは相手への意思表示にならない、と裁判所は注意を促しています。

届けた後は、請求額の根拠を固めます。遺留分侵害額は、自分の遺留分から「自分が受けた遺贈や特別受益の贈与」と「遺産分割で取得すべき遺産」を引き、「自分が引き継ぐ借金」を足して出します(民法1046条2項)。そのために集める資料は、調停の添付書類とほぼ重なります。

  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本と、相続人全員の戸籍謄本
  • 遺言書の写し、または家庭裁判所の検認調書の謄本
  • 不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書
  • 預貯金の通帳の写しや残高証明書、有価証券の資料
  • 借金の資料(ローンの残高、請求書など)
  • 生前贈与を示す資料(振込の記録、贈与契約書、贈与税の申告の控えなど)

相続人への贈与は、相続開始前10年間の、婚姻・養子縁組のためか生計の資本としての贈与が計算に入ります(民法1044条3項)。不動産の評価額や、どの贈与が計算に入るかは争いになりやすい部分なので、ここで自分の計算と相手の計算の差がどこにあるかを把握しておくと、次の話し合いが具体的になります。計算の手順は遺留分の計算方法:基礎となる財産の出し方で確かめられます。

③話し合い:合意したら書面に残す

資料がそろったら、相手と金額と払い方を話し合います。相手が複数いる場合、遺言で受け取った人が生前贈与を受けた人より先に負担するなど、負担の順番が民法1047条で決まっています。誰に、いくらを求めるかを整理してから話を始めます。

話し合いで決める項目の例です。

  1. 支払う金額と、その計算の元にした財産の評価
  2. 支払いの期限と方法(振込先、一括か分割か)
  3. 分割の場合の回数と、遅れたときの扱い
  4. この合意で遺留分の問題をすべて終えるかどうか
  5. 受け取り方。現金で受け取るのが原則で、不動産などの物で受け取るなら、その評価額と登記・税金の負担も書面に入れる

相手がすぐに払えない事情を訴えることもあります。裁判になった場合、裁判所は相手の請求で支払いに相当の期限を与えられる(民法1047条5項)ので、話し合いの段階でも分割や猶予が論点になりやすいところです。合意した内容は、日付と双方の署名のある書面にします。

あなたの代理人として相手と交渉できるのは、弁護士です。弁護士でない人が報酬を得る目的で法律事件の代理や和解を業として扱うことは、弁護士法72条で禁じられています。同条が対象にしているのは「報酬を得る目的」で「業として」行う場合です。相手が弁護士を立ててきたら、こちらも弁護士への相談を考える段階です。

④家庭裁判所の調停:申立先・費用・書類

話し合いがまとまらない、または話し合いに応じてもらえないときは、訴訟の前に家庭裁判所の「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てるのが原則です(家事事件手続法257条1項。裁判所が調停に付さなくてよいと認める場合を除く)。裁判所の案内による要点は次のとおりです。

項目 内容
申し立てる人 遺留分を侵害された相続人(兄弟姉妹を除く)と、その承継人
申立先 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で決めた家庭裁判所
費用 収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手(切手の額は裁判所ごとに違う)
書類 申立書と相手方の人数分の写し、戸籍類、遺言書の写しか検認調書の謄本の写し、遺産と債務の資料、進行に関する照会回答書、送達場所等届出書

調停では、調停委員会が双方の事情を聴き、解決案を示したり助言したりして合意を目指します。申立て前にそろわない戸籍は、申し立てた後に追加で出すこともできます。申立書の書式と記載例は裁判所のページにあり、東京・京都・大阪の家庭裁判所には独自の案内もあるので、申立先のページを先に見ておきます。

⑤訴訟:どの裁判所に、いくらの手数料で起こすか

調停で合意できなければ、訴訟で決めることになります。家事事件手続法257条は、家庭裁判所が調停を行える事件(244条)について、訴えを起こそうとする人はまず調停を申し立てなければならないと定め(1項)、調停を経ずに訴えを起こしたときは、裁判所が職権で調停に付すとしています(2項。相当でないと認めるときを除く)。遺留分侵害額の請求は家庭裁判所の調停を使える事件ですから、訴訟から始めても調停に回される場合があると見込んで準備しておくのが安全です。この規定がどう働くかは裁判所の手続案内には書かれていないので、訴える前に弁護士に確かめます。

訴える裁判所は、請求額で分かれます。請求額(訴訟の目的の価額)が140万円以下なら簡易裁判所(裁判所法33条1項1号)、それを超えれば地方裁判所です(同24条1号)。場所は、相手の住所地の裁判所(民事訴訟法4条)のほか、遺留分に関する訴えは、亡くなった時の被相続人の住所地の裁判所にも起こせます(同5条14号)。

訴える時に納める手数料は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一で決まっています。100万円までは10万円ごとに1,000円、100万円を超え500万円までは20万円ごとに1,000円、500万円を超え1,000万円までは50万円ごとに2,000円を足していきます。

  • 請求額500万円の場合:1万円+2万円=3万円
  • 請求額1,000万円の場合:1万円+2万円+2万円=5万円

(筆者の計算。100万円までの部分が10区分×1,000円=1万円、100万円超500万円までが20区分×1,000円=2万円、500万円超1,000万円までが10区分×2,000円=2万円)

訴訟は書面と証拠で主張を組み立てる手続きで、不動産の評価で鑑定が必要になることもあります。この段階は弁護士に頼むのが現実的です。

弁護士に頼むかどうかの分かれ道

段階が進むほど、書面の書き方と証拠の出し方が結果を左右します。次のような場面は、頼むかどうかを具体的に考えるきっかけになります。

場面 考えること
相手が弁護士を立ててきた 相手と直接やり取りする前に、こちらの代理人を立てるか相談する
相手が連絡に応じない・内容証明が届かない 期限(1年)が迫るなら、意思表示の届け方を先に相談する
不動産や非上場株式の評価が食い違う 評価額の根拠の集め方を相談する。鑑定費用の負担も確かめる
受け取る相手が複数いる 誰にいくら請求するか(民法1047条の負担の順序)の整理を任せる
調停が不成立になった 訴訟に進むか、合意の条件を見直すかを請求額と見比べて決める

相談先は、法テラス(日本司法支援センター)や各地の弁護士会の法律相談があります。窓口と費用の確かめ方は相続手続きの無料相談窓口一覧:登記・税・売却まで番号と受付時間に整理されています。頼むときの費用の考え方と、請求額に比べて費用がかかりすぎないかの見極めは遺留分の弁護士費用:着手金と報酬金の考え方と費用倒れの見極めにまとめています。逆に、請求しないと決めた人の扱いは遺留分がいらない場合は?生前の遺留分放棄と相続開始後の扱いで整理しています。

よくある質問

Q. 遺留分侵害額請求をすると、遺言そのものが無効になりますか?

なりません。裁判所の案内でも、遺留分を侵害する贈与や遺贈は当然に無効になるわけではなく、遺留分権利者は侵害額に当たるお金の支払いを請求できると説明されています。遺言のとおりに財産が移ったうえで、お金で調整する仕組みです。

Q. 相手から「お金はないので不動産で払いたい」と言われたら、受けるしかないですか?

民法1046条が定めているのは金銭の支払いを請求する権利なので、不動産などの物で受け取るかどうかは当事者どうしの合意の問題です。受け取る財産の評価や、受け取った後の税金・登記の負担も関わるので、合意する前に弁護士と、税金面は税理士に確かめてから決めます。

Q. 調停で話がまとまらなかったら、そのまま審判に進みますか?

遺産分割の調停は不成立になると審判に移りますが、遺留分侵害額の請求は金銭の支払いを求める民事の請求で、まとまらなければ地方裁判所または簡易裁判所への訴訟で決めることになります。調停から訴訟に移るときは、請求額に応じた手数料と新しい書類の準備が要ります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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