相続人と遺産分割 / 手順

遺留分の計算方法:基礎となる財産の出し方と具体例で手順を確認

この記事のもくじ
  1. 遺留分の計算は5つの手順で進める
  2. 基礎となる財産の出し方:贈与は何年さかのぼるか
  3. 一人ひとりの遺留分額と侵害額の出し方
  4. 具体例1:子2人で、長男に全財産を相続させる遺言
  5. 具体例2:配偶者と子2人で、結婚資金の贈与がある
  6. 誰がいくら払うかの順番と、計算でずれやすい点

遺留分の計算は、①相続人と割合を確かめる、②基礎となる財産を出す、③一人ひとりの遺留分額を出す、④受け取った分を引いて侵害額を出す、⑤誰が払うかを決める、の5つの手順で進めます。基礎となる財産は「亡くなった時の財産+一定の生前贈与-借金の全額」で(民法1043条)、加える贈与は、相続人以外へは相続開始前の1年間、相続人へは10年間(婚姻・養子縁組のため・生計の資本としての贈与に限る)です(1044条)。以下、条文の順に手順を示し、最後に筆者の計算例で確かめます。

遺留分の計算は5つの手順で進める

全体の流れを先に一覧にします。数字を入れる欄を作っておくと、自分の家族に置き換えて計算の見通しを立てられます。

計算シート:遺留分侵害額を出す5つの手順
手順 出すもの 式・条文
1 相続人と、自分の遺留分の割合 全体の割合(1/2、親だけなら1/3)×法定相続分(1042条)
2 基礎となる財産 亡くなった時の財産+算入する贈与-借金の全額(1043条・1044条)
3 自分の遺留分額 基礎となる財産×手順1の割合
4 遺留分侵害額 遺留分額-自分が受けた遺贈・特別受益の贈与-遺産分割で取得すべき額+自分が承継する借金(1046条2項)
5 誰がいくら払うか 遺贈を受けた人が先、贈与を受けた人が後(1047条)

手順1の割合は、相続人の組み合わせで決まります。配偶者と子2人なら、配偶者が1/2×1/2=1/4、子が各1/2×1/4=1/8です。組み合わせごとの早見表と、遺留分を持つ人・持たない人の区別は遺留分とは:割合・請求できる人・期限にまとめています。兄弟姉妹には遺留分がないため、兄弟姉妹は計算の対象になりません。

基礎となる財産の出し方:贈与は何年さかのぼるか

基礎となる財産は、亡くなった時に持っていた財産に贈与した財産の価額を加え、借金の全額を差し引いた額です(1043条1項)。加える贈与の範囲は、受け取った人によって違います。

贈与を受けた人 さかのぼる期間 加える贈与 根拠
相続人以外(友人・孫・団体など) 相続開始前の1年間 贈与の全部 1044条1項
相続人以外で、双方が遺留分権利者に損害を与えると知っていた 1年より前も含む 該当する贈与 1044条1項後段
相続人(子・配偶者など) 相続開始前の10年間 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与に限る 1044条3項

贈与の価額は、贈与した時の値段ではなく、相続開始の時の価額で計算します。贈与を受けた人が使ったり壊したりしていても、相続開始の時に元のままあるものとみなして価額を決めます(1044条2項が904条を準用)。たとえば贈与した時に1,000万円だった土地が、相続開始の時に1,300万円になっていれば、1,300万円を加えます。

基礎となる財産を出すときに集める資料は次のとおりです。

  • 亡くなった時の財産:不動産の登記事項証明書と価額の根拠、預金の残高証明書、株式の残高の分かる書類
  • 生前贈与:通帳の取引履歴(10年分を目安にさかのぼる)、贈与契約書、不動産の登記の履歴
  • 借金:ローンの残高証明、カードの利用残高、未払いの税金などの請求書

一人ひとりの遺留分額と侵害額の出し方

基礎となる財産に手順1の割合を掛けると、一人ひとりの遺留分額が出ます。そこから、すでに受け取っているものを引き、引き継ぐ借金を足すと、遺留分侵害額になります(1046条2項)。

  • 引くもの(1):自分が受けた遺贈と、特別受益に当たる贈与(婚姻・養子縁組のため・生計の資本としての贈与。903条1項)の価額
  • 引くもの(2):遺産分割で自分が取得すべき遺産の価額(遺言で分けられていない財産があるとき)
  • 足すもの:亡くなった人の借金のうち、自分が承継する額

特別受益の引き算には、遺留分の計算で加える贈与のような10年の期間の区切りが条文にありません。何が特別受益に当たるかは、特別受益とは:兄弟が生前贈与を受けていた時の持ち戻しで考え方を整理しています。

具体例1:子2人で、長男に全財産を相続させる遺言

筆者の計算例です。母は先に亡くなっており、父が亡くなって相続人は長男Aと二男Bの2人。遺言は「全財産をAに相続させる」とします。

項目 内容
亡くなった時の財産 自宅の土地建物3,000万円、預金1,400万円(借金なし)
生前贈与① 5年前、Aに住宅購入資金600万円(生計の資本としての贈与と扱う前提)
生前贈与② 2年前、友人Cに200万円(相続人以外で1年より前。損害を与えると知っていた事情はない前提)
  1. 基礎となる財産:4,400万円+600万円=5,000万円(Cへの200万円は1年より前なので加えない)
  2. Bの割合:1/2×1/2=1/4
  3. Bの遺留分額:5,000万円×1/4=1,250万円
  4. Bの侵害額:Bは遺贈も贈与も受けておらず、遺言で全財産がAに渡るので遺産分割で取得する分もない。1,250万円-0-0+0=1,250万円
  5. 払う人:遺言で財産を受けたA。Aが負担する限度は、受けた財産4,400万円からA自身の遺留分1,250万円を引いた3,150万円で、1,250万円はこの範囲に収まる

検算:Bの1,250万円は基礎となる財産5,000万円の25%で、1/4と一致します。Cへの贈与が亡くなる半年前だった場合は、基礎となる財産が5,200万円になり、Bの遺留分額は1,300万円に変わります。

具体例2:配偶者と子2人で、結婚資金の贈与がある

同じく筆者の計算例です。相続人は配偶者Wと子A・Bの3人。遺言は「全財産をAに相続させる」、亡くなった時の財産は6,000万円(借金なし)、Bは7年前に結婚資金として300万円の贈与を受けていた(婚姻のための贈与と扱う前提)とします。

  1. 基礎となる財産:6,000万円+300万円=6,300万円(相続人への婚姻のための贈与で10年以内なので加える)
  2. 割合:Wは1/2×1/2=1/4、Bは1/2×1/4=1/8
  3. 遺留分額:Wは6,300万円×1/4=1,575万円、Bは6,300万円×1/8=787.5万円
  4. 侵害額:Wは何も受けていないので1,575万円。Bは受けた贈与300万円を引いて787.5万円-300万円=487.5万円
  5. 払う人:A。Aの負担の限度は6,000万円-A自身の遺留分787.5万円=5,212.5万円で、WとBの合計2,062.5万円はこの範囲に収まる

検算:Bは贈与300万円と侵害額487.5万円で合計787.5万円となり、Bの遺留分額と一致します。Aの手元に残るのは6,000万円-2,062.5万円=3,937.5万円です。

誰がいくら払うかの順番と、計算でずれやすい点

侵害額を払う人には順番があります(1047条1項)。

  • 遺贈を受けた人(遺言で財産を受けた相続人を含む)と、贈与を受けた人がいるときは、遺贈を受けた人が先に負担します。
  • 遺贈を受けた人が複数なら、受けた価額の割合で負担します(遺言に別の定めがあればそれに従う)。
  • 贈与を受けた人が複数なら、後の贈与を受けた人から順に、前の贈与へさかのぼって負担します。
  • 負担する人が相続人のときは、受けた価額から自分の遺留分額を引いた額が負担の限度です。

払う側がすぐにお金を用意できないときは、裁判所に支払いの期限を延ばすよう求めることができます(1047条5項)。

計算でずれやすいのは、次の点です。

  • 不動産の価額:1043条は「価額」とだけ定め、評価の方法を決めていません。相続税の評価額を使うか、売れる値段に近い価額を使うかで、結果が大きく動きます。
  • 借金の承継:手順4で足す借金は「自分が承継する」額です。遺言の書き方によって誰が借金を引き継ぐかが争点になることがあり、ここは条文の式だけでは決まりません。
  • 3つの「期間」の混同:遺留分で加える贈与の1年・10年、遺産分割で特別受益・寄与分を主張できる相続開始から10年(904条の3)、相続税の生前贈与の加算は別々の決まりです。

計算した額は、請求の見通しを立てるためのものです。実際の請求には、相続の開始と侵害する遺贈・贈与を知った時から1年という期限があり、意思表示の方法を含めた進め方は遺留分侵害額請求の流れ:話し合いから調停・訴訟までで示しています。自分の事案の金額の見込みは、個別の事件についての法律判断として弁護士に確かめる場面です(弁護士法72条)。兄弟姉妹が相続人になる家族では遺留分そのものがないため、兄弟姉妹に遺留分はない?遺言で外された兄弟ができることを先に確かめてください。

よくある質問

Q. 遺留分の計算に、相続税の生前贈与加算の7年は関係しますか?

関係しません。遺留分の計算で加える贈与は、相続人以外への贈与が相続開始前の1年間、相続人への贈与が10年間(婚姻・養子縁組のため・生計の資本としての贈与に限る)という民法1044条の決まりです。相続税の生前贈与加算は税法の別の決まりで、期間も対象も違います。

Q. 不動産は、どの価額で計算すればよいですか?

民法1043条は「財産の価額」とだけ定めていて、相続税の路線価や固定資産税評価額を使うとは決めていません。当事者がそれぞれ価額の根拠(査定書・評価証明書など)を示して話し合い、合意できなければ不動産の価額そのものが争点になります。不動産の割合が大きい相続ほど、計算の前に価額の根拠をそろえておくことが大切です。

Q. 計算した遺留分侵害額は、そのまま受け取れる金額ですか?

計算は請求の目安を立てるためのもので、実際の支払額は相手との話し合い・調停・訴訟で決まります。財産の価額や、どの贈与が特別受益に当たるかで結果が動くためです。自分の事案の金額の見込みは、弁護士に資料を見せて確かめる場面です。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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