認知症・成年後見・家族信託 / Q&A

認知症の親の不動産売却に罰則はある?勝手に売った場合に起きること

この記事のもくじ
  1. Q1 認知症の親の不動産売却に罰則はある?
  2. Q2 家族が代わりに売った契約は、どう扱われる?
  3. Q3 買主や不動産会社との間で、何が問題になる?
  4. Q4 もう契約してしまった・売りかけているときは?
  5. 正しく売るための順番と、元気なうちの備え

認知症の親の不動産売却そのものに「罰則」を定めた条文があるわけではありません。問題は誰が、どんな権限で売ったかです。親に意思能力がないのに家族が親の名前で売買契約を結ぶと、民法上は契約が親に効力を持たない(無効になりうる)うえ、買主から責任を問われることがあります。さらに、親の名前で契約書や委任状を作る行為は、刑法の私文書偽造などの定めに触れる可能性があります。どれに当たるか、どんな責任になるかは個別の事情で決まり、判断するのは裁判所や捜査機関です。正しい道は、成年後見を申し立て、選ばれた後見人が売り、親の住まいなら家庭裁判所の許可を得てから売る、という順番です。

Q1 認知症の親の不動産売却に罰則はある?

民事(契約の効力や損害の賠償)と、刑事(罪になるかどうか)を分けて考えます。

分け方 関係する条文 何が起きうるか
契約の効力 民法3条の2(意思能力のない法律行為は無効)、113条(代理権のない人が結んだ契約は本人が追認しなければ本人に効力が及ばない) 売買が成り立たず、登記や代金の返還をめぐって争いになる
買主への責任 民法117条(代理権のない代理人の責任) 代理権を証明できず本人の追認も得られないとき、買主の選択で、契約の履行か損害の賠償の責任を負う
後見人の権限外の処分 民法859条の3、裁判所の案内 後見人が許可なく本人の住まいを売った処分は無効
刑事 刑法159条・161条(私文書偽造・偽造私文書行使)、157条(公正証書原本不実記載) 他人の名義の文書を作って使う、登記官に虚偽の申立てをするといった行為を罰する定めがある

刑法の条文は、行為の目的や名義の使い方など細かい要件で成り立つかどうかが決まります。家族の行為がこれに当たるかは、このサイトでは判断できない個別の問題で、弁護士の仕事です(弁護士法72条)。表は「こうした定めがある」という地図として使ってください。

Q2 家族が代わりに売った契約は、どう扱われる?

よくある形ごとに、民法の仕組みを当てはめます。

よくある形 民法の仕組み 起きやすいこと
判断が難しい親に、家族が説明して署名だけしてもらった 署名の時に意思能力がなければ、その売買は無効になりうる(3条の2) 後で親族の一人が無効を主張する、買主が引き渡しを受けられない
家族が親の名前を書き、親の印鑑を押した 代理権のない人による契約として、本人が追認しなければ本人に効力が及ばない(113条) 本人は判断できないので追認もできず、契約が宙に浮く
親の名前の委任状を家族が作り、自分が代理人として契約した 委任状が本人の意思によらなければ、代理権がないのと同じ扱いになりうる 不動産会社や登記を担う司法書士の確認で手続きが止まることがある
後見人がついているのに、別の家族が売った 本人を代理できるのは後見人 後見人が契約を認めない可能性がある

代理権のない人が結んだ契約は、本人が後から追認すれば、契約の時にさかのぼって効力を持ちます(116条)。親に判断能力がなければ親自身は追認できませんが、後見人が選ばれた後、後見人が本人の利益になるかを考えて追認するかどうかを決めることになります。家族の都合ではなく、本人にとって得か損かで判断される点に注意が要ります。

Q3 買主や不動産会社との間で、何が問題になる?

買主の側から見ると、代理権のない人と契約したことになります。民法は買主に次の手段を用意しています。

  1. 本人に追認するかを催告する:相当の期間を決めて確答を求め、期間内に答えがなければ追認を拒絶したものとみなされます(114条)。
  2. 契約を取り消す:本人が追認する前で、契約の時に代理権がないことを知らなかった場合に限ります(115条)。
  3. 代理人として契約した人に責任を求める:履行か損害の賠償を、買主が選んで求められます(117条1項)。代理権がないことを買主が知っていた場合などは除かれます(同条2項)。買主が過失で知らなかった場合も原則は除かれますが、契約した人が自分に代理権がないと知っていたときは責任を免れません。

手付金をすでに受け取っていれば、その返還が問題になり、仲介した不動産会社との間でも、仲介手数料や費用の扱いが問題になります。こうした相手方とのやりとりは交渉そのものなので、このサイトでは個別の進め方を示しません。

後見人自身が本人の財産を不正に扱った場合については、裁判所の家事事件Q&Aが、解任、損害賠償、背任罪・業務上横領罪などの刑事責任を問われる可能性を挙げています。家族が後見人になったときも、本人の財産を本人のために使う義務からは外れられません。

図解:勝手に売った場合と、正しい順番
  • 勝手に売った場合:親の名前で契約 → 本人の追認なし → 契約は本人に及ばない → 買主から履行か賠償を求められる/書類の作り方によっては刑法の定めが問題になる
  • 正しい順番:主治医に相談 → 後見の申立て → 後見人の選任 → 査定・買主と条件 → 住まいなら処分許可の申立て → 許可の後に決済

Q4 もう契約してしまった・売りかけているときは?

まだ決済や登記が済んでいないなら、次の順で動きます。

  1. 決済の日を進めない。 代金の受け取りや登記の申請を止め、不動産会社に事情を伝えます。
  2. 手元の書類をそろえる。 売買契約書、委任状、重要事項説明書、手付金の領収書、親の診断書や介護認定の書類。いつ、誰が、どこに署名したかを時系列でメモします。
  3. 弁護士に相談する。 契約の扱い、買主への対応、刑事上の問題の有無は、個別の事情を見て判断する必要があります。費用が心配なら法テラスや弁護士会の法律相談の窓口があり、番号と受付時間は相続・不動産売却の相談窓口一覧にまとめています。
  4. 成年後見を申し立てる。 売る必要がある事情が続くなら、後見人を選んでもらい、改めて正しい手続きで売ります。申立ての準備は成年後見の申立ての流れ:必要書類・費用・審判までの期間へ。

すでに決済と登記まで終わっている場合も、無効を主張する人が出れば登記の抹消や代金の返還が問題になりえます。親族の一部だけで抱えず、早めに弁護士に状況を見てもらいます。

正しく売るための順番と、元気なうちの備え

親の意思能力がない場合の正しい順番は、①後見の申立て、②後見人の選任、③査定と買主・条件の決定、④住まいなら居住用不動産の処分許可の申立て、⑤許可の後に決済、です。売却の全体像と期間の目安は認知症の親の不動産売却は誰がどう進める?意思能力で分かれる3つの道、許可の書類は成年後見人が自宅を売るには:居住用不動産処分の許可で確かめてください。

親がまだ判断できる段階なら、親自身が売主になり、家族は委任状を受けて手伝う形がとれます。将来の売却に備えるなら、元気なうちに家族信託で受託者に売却の権限を渡しておく方法もあります。信託は信託契約などの方法で行い(信託法3条)、結んだ時から効力が生じます。どの備えが合うかは成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定で比べられます。

よくある質問

Q. 親が「売っていい」と言っていれば、家族が代わりに署名してもいいですか?

親がその時に売る意味を理解して決めているなら、親自身が署名するか、親から委任状を受けて家族が代理人として手続きする形をとります。代理人であることを示さずに親の名前を家族が書く形は、後から親の意思だったかを証明しにくく、争いのもとになります。親の理解が怪しい場合は、口頭の「いいよ」を根拠に進めず、主治医に相談したうえで成年後見の申立てを検討します。

Q. 家族信託をしてあれば、親が認知症になっても家を売れますか?

親が元気なうちに信託契約を結び、受託者に売却の権限を与えていれば、受託者が契約の範囲で売主になって売れます。信託契約は結んだ時に効力が生じる(信託法4条)ため、後で親の判断能力が落ちても受託者の権限は残ります。ただし、判断能力が落ちた後に新しく信託契約を結ぶことはできません。

Q. 買主に事情を話して、売買をなかったことにできますか?

契約がどう扱われるかは、署名の経緯や本人の状態で変わります。代理権のない人が結んだ契約なら、買主の側も、本人が追認するまでは取り消せる場合があります(民法115条)。ただし代金の返還や違約金の扱いなど、当事者どうしの話し合いは交渉そのものです。弁護士に相談してから動きます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

認知症の親の不動産売却は誰がどう進める?意思能力で分かれる3つの道

成年後見の申立ての流れ:必要書類・費用・審判までの期間

成年後見人が自宅を売るには:居住用不動産処分の許可の手続き