相続で親族から脅し・嫌がらせを受けたら:身の安全を先に守る方法
この記事のもくじ
相続をめぐって親族から脅し・嫌がらせを受けているなら、遺産の話より先に、身の安全を守ってください。危険が迫っているときは110番、いますぐではないが怖い・つきまとわれているときは警察相談専用電話の#9110に相談できます。何を言われたか・されたかを記録に残し、話し合いは自分で続けずに弁護士に任せる道があります。脅されて押したハンコや書いた書類も、そのままにせず相談につなげます。
いま危険があるなら110番、緊急でなければ#9110へ
次のどれかに当てはまるなら、相続の手続きより身を守ることを優先します。
- 「殺す」「家を燃やす」など、身体や財産に害を加えると言われた
- 自宅や職場に押しかけられる、待ち伏せされる
- 物を壊される、暴力を振るわれた
- 夜中の電話や大量のメッセージが続き、眠れない・外に出るのが怖い
| 状況 | 連絡先 | 受付 |
|---|---|---|
| いま危険が迫っている、暴力を受けた | 110番 | 24時間 |
| 緊急ではないが、脅し・つきまといを相談したい | 警察相談専用電話 #9110 | 平日8:30〜17:15が基本(都道府県警察で異なる。時間外は当直や音声案内) |
| 相手が配偶者・元配偶者で、暴力がある | DV相談+ 0120-279-889 | 電話は24時間 |
| 追い詰められて「消えたい」「死にたい」と感じる | #いのちSOS 0120-061-338 | 24時間 |
#9110は、都道府県警察が運営する、緊急の対応を必要としない相談の窓口です。相談するときは「誰に・いつ・何を言われたか」「相手が相続の関係でどういう立場か」を伝えます。その場で危険を感じたら、#9110ではなく110番にかけてください。
- 危険が迫っている → 110番 → 安全な場所へ
- 緊急ではない → #9110で相談 → 記録をそろえる
- 相続の話し合い → 自分で続けない → 弁護士に代理を頼む
- 心が限界に近い → #いのちSOS・よりそいホットラインへ
何をされたかを記録に残す方法
警察への相談でも、弁護士への相談でも、記録があるかどうかで動き方が変わります。怖い思いをした直後は記憶があいまいになりやすいので、その日のうちに残します。
- 日時・場所・相手・言われた言葉を書く:言葉は要約せず、言われたままに書きます。そばにいた人の名前も残します。
- 電話・メッセージを保存する:着信履歴の画面、メール・SNSのメッセージを画面ごと保存し、別の端末やクラウドにも写しを置きます。相手に削除されても残るようにします。
- 手紙・貼り紙・壊された物を残す:捨てずに保管し、写真も撮ります。
- 会話を録音する:身を守るための記録として、自分が当事者の会話を録音しておく方法があります。録音した日時と相手をメモに添えます。
- 体や心への影響を記録する:けがをしたら病院で診てもらい、眠れない・食べられない状態が続くなら受診して、日付の分かる記録を残します。
記録の例:「〇月〇日(〇曜日)19時ごろ、自宅前。叔父〇〇が来て『遺産分割の書類にハンコを押さないなら、お前の会社に乗り込んで全部ばらす』と言った。妻が玄関で聞いていた。約10分で帰った。」
記録は、時系列で1冊のノートかファイルにまとめておくと、相談のたびに説明し直す負担が減ります。
脅されて押したハンコ・書いた書類はどうなるか
脅されて遺産分割協議書に署名・押印した、相続放棄をすると約束させられた、という場面でも、あきらめる前に確かめられることがあります。法律には、こうした場面に関わる定めがあります。ここでは条文の仕組みを示すだけで、自分の場合にどうなるかは弁護士の判断です。
| 場面 | 関わる定め | 意味(要旨) |
|---|---|---|
| 脅されて協議書に署名・押印した | 民法96条1項 | 強迫による意思表示は取り消すことができる |
| 害を加えると告げて脅された | 刑法222条(脅迫) | 生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告げて人を脅迫する行為を処罰の対象にしている |
| 脅して義務のないことをさせられた | 刑法223条(強要) | 脅迫や暴行で人に義務のないことを行わせる行為を処罰の対象にしている |
| 亡くなった人を脅して遺言を書かせた・書くのを妨げた | 民法891条 | 強迫で遺言をさせた・妨げた人などは相続人となることができない(相続人の欠格) |
取り消しや欠格を主張するには、そのときの状況を示す記録が要ります。上で残した記録と、署名した書類の写しを持って相談してください。署名させられた書類がまだ相手の手元にあり、登記や預金の手続きに使われそうなときは、急いで弁護士に伝えます。
顔を合わせずに手続きを進める:弁護士を代理人にする
脅しがあった相手と、自分で話し合いを続ける必要はありません。弁護士を代理人にすれば、相手との連絡は弁護士が受け、遺産分割の交渉や調停にも代理人として出てもらえます。家事事件の手続きの代理人は、原則として弁護士に限られています(家事事件手続法22条)。
顔を合わせずに進めるために、次のことを弁護士に相談できます。
- 相手からの連絡を弁護士あてにしてもらう
- 遺産分割調停を申し立て、手続きの中で話し合う
- 住所を相手に知られたくない事情を伝え、住所等を秘匿する裁判の申立てを検討する(家事事件手続法38条の2・民事訴訟法133条)
- 調停の期日で、相手と同じ空間にいない段取りを家庭裁判所に相談する(裁判所の家事事件Q&Aは、相手と同じ空間にいると安心して話せない場合に、家庭裁判所が相当と認めればウェブ会議で期日を行えるとしています。家事事件手続法258条1項・54条)
会わずに遺産分割を進める方法は、相続で兄弟に会いたくないときの、顔を合わせずに進める方法でも整理しています。お金の使い込みをめぐってこじれている場合は、相続で兄弟の使い込みが疑われるときの取引履歴の取り方で記録の集め方を確かめておくと、弁護士との相談が進めやすくなります。
相談先と、費用が心配なときの入口
身の安全と相続の手続きは、相談先が分かれます。
| 相談したいこと | 窓口 |
|---|---|
| 脅し・つきまとい・暴力(身の安全) | 110番、#9110 |
| 相続の話し合いを任せたい、書類を取り消したい | 弁護士(各地の弁護士会の法律相談センター) |
| どこに相談すればよいか決められない、費用が心配 | 法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(IP電話からは 03-6745-5600。平日9:00〜21:00、土曜9:00〜17:00) |
| 不安で眠れない、気持ちが限界 | よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)、#いのちSOS |
法テラスは、法制度と相談窓口を案内する機関で、個別の事件の判断はしません。収入や資産が一定以下の人には無料の法律相談などの制度があるので、使えるかどうかをサポートダイヤルで尋ねます。弁護士会と法テラスの使い分けは相続の弁護士無料相談の使い方に、ほかの窓口は相続手続きの無料相談窓口一覧にまとめています。怖いと感じた自分の感覚を疑わず、一人で抱えずに外の窓口を使ってください。
よくある質問
Q. 相続の話し合いで「ハンコを押さないとただでは済まない」と言われました。警察は相続の争いに関わってくれますか?
遺産をどう分けるかという争いそのものは、警察ではなく話し合い・家庭裁判所・弁護士の領域です。一方で、身体や財産に害を加えると告げて脅す行為は刑法の脅迫罪などの定めに関わるもので、身の危険については警察に相談できます。緊急なら110番、緊急でなければ#9110に、何を言われたかを記録をもとに伝えます。
Q. 怖くて遺産分割協議書に署名してしまいました。もう取り消せませんか?
民法は、強迫による意思表示は取り消すことができると定めています(96条1項)。ただし、自分の場合に強迫に当たるか、取り消しをどう主張するかは事実関係で決まる個別の判断です。署名した書類の写しと、そのときの状況の記録を持って、早めに弁護士に相談してください。
Q. 相手に自分の住所を知られたくありません。調停を申し立てると住所が伝わりますか?
家事事件の手続きにも、住所などが相手に知られると社会生活に著しい支障が出るおそれがあるとき、申立てによって住所等を秘匿する裁判の仕組みがあります(家事事件手続法38条の2が民事訴訟法133条を準用)。使えるかどうかは裁判所が決めるので、申立ての前に代理人の弁護士か、家庭裁判所の手続案内で相談します。
出典・参考にした公的な情報
- 犯罪被害者白書 資料9(警察相談専用電話(警察庁)
- DV相談+(配偶者からの暴力に関する相談)(内閣府男女共同参画局)
- 電話相談(#いのちSOS・よりそいホットライン ほか)まもろうよ こころ(厚生労働省)
- 刑法 第222条・第223条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第96条・第891条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件手続法 第22条・第38条の2・第54条・第258条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事訴訟法 第133条(申立人の住所、氏名等の秘匿)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件Q&A(裁判所)(最高裁判所)
- 法テラス・サポートダイヤル(法務省)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。