相続の手続きと期限 / 制度解説

預金の相続の仮払い制度:遺産分割前に引き出せる上限と手続き

この記事のもくじ
  1. 預金の相続の仮払い制度とは:上限の決まり方
  2. 払い戻せる額の計算例(筆者の計算)
  3. 仮払いの手続きと必要書類
  4. 家庭裁判所の保全処分との違い
  5. 引き出す前に確かめたいこと

預金の相続の仮払い制度(遺産分割前の相続預金の払戻し制度)は、遺産分割が終わる前でも、相続人が一人で、口座ごとに「相続開始時の残高×3分の1×自分の法定相続分」まで払い戻せる仕組みです。ただし同じ金融機関からは合計150万円が上限です。2019年7月1日に施行された民法909条の2と法務省令で決まっています。上限を超えるお金が必要なときは、家庭裁判所の保全処分(仮分割の仮処分)という別の方法があります。

預金の相続の仮払い制度とは:上限の決まり方

人が亡くなると預金は遺産になり、全国銀行協会の案内のとおり、以前は遺産分割が終わるまで引き出せないのが原則でした。同協会は、葬儀費用や遺族の当面の生活費が必要になる場面を挙げたうえで、2019年の相続法の改正で遺産分割の前でも一定額を引き出せる制度ができたと説明しています。

上限は2段階で決まります。

  1. 口座ごとの上限:相続開始時(死亡時)の残高 × 3分の1 × 払い戻しを受ける相続人の法定相続分(定期預金は明細ごとに計算する、と全国銀行協会のリーフレットにあります)
  2. 金融機関ごとの上限:1の合計が150万円を超えるときは150万円まで(法務省令)

150万円は口座ごとではなく、同じ金融機関(預貯金債権の債務者)ごとにかかります。全国銀行協会のリーフレットは、同じ金融機関の複数の支店に預金がある場合も、その全支店からの払い戻しの合計が150万円までとしています。別の金融機関に口座があれば、そちらは別に計算します。払い戻した額は、その相続人が遺産の一部の分割で取得したものとみなされます。

払い戻せる額の計算例(筆者の計算)

計算はすべて筆者の計算です。実際に払い戻せる額は、各金融機関で手続きのときに確かめます。

計算例:仮払いで払い戻せる額
例 相続人と申し出る人 口座と死亡時の残高 計算 払い戻せる額
1 子2人。子の1人(法定相続分2分の1) A銀行 普通預金 600万円 600万円×1/3×1/2=100万円 100万円
2 配偶者と子2人。配偶者(2分の1) A銀行 普通預金 300万円、定期預金(1口)900万円 50万円+150万円=200万円 A銀行の上限で150万円
3 例2の配偶者が、B銀行でも申し出る B銀行 普通預金 240万円 240万円×1/3×1/2=40万円 40万円(A銀行とは別枠)
4 配偶者と子2人。子の1人(4分の1) A銀行 普通預金 1,200万円 1,200万円×1/3×1/4=100万円 100万円

例2の計算は、普通預金が300万円×1/3×1/2=50万円、定期預金が900万円×1/3×1/2=150万円で、合わせて200万円です。同じA銀行なので150万円で頭打ちになります。例2と例3を合わせると、この配偶者が仮払いで受け取れるのは190万円です。

法定相続分は、配偶者と子なら配偶者2分の1・子が残りを等分、子だけなら等分、という民法の割合を使います。組み合わせごとの割合は法定相続人の割合の早見表で確かめられます。

仮払いの手続きと必要書類

金融機関の窓口で直接払い戻しを受けるときの書類は、全国銀行協会のリーフレットで次のとおり示されています。

  • 被相続人の除籍謄本・戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 払い戻しを希望する人の印鑑証明書

流れは、①口座のある金融機関に仮払い制度を使いたいと伝える、②所定の依頼書と上の書類を出す、③金融機関が上限額を計算して払い戻す、の順です。必要書類や日数は金融機関ごとに異なるので、最初の連絡で確かめます。戸籍の束を何度も出すなら法定相続情報一覧図の写しを使えるか聞き、印鑑証明書の期間の扱いは相続手続きの印鑑証明の有効期限と通数の記事を参考にします。

使えない場面もあります。全国銀行協会は、遺言で預金を取得する人が決まっている場合などは制度を利用できないことがある、と案内しています。遺言書がある家は、先に遺言の内容と手続きの順番を遺言書あり・なしでの手続きの違いで確かめます。

家庭裁判所の保全処分との違い

150万円を超える額が必要なときや、窓口の制度では足りないときは、家庭裁判所の保全処分(家事事件手続法200条3項)を使う方法があります。遺産分割の調停か審判を申し立てていることが前提で、相続財産の債務の弁済や相続人の生活費の支払いなどのために必要と家庭裁判所が認めれば、特定の預貯金の全部または一部を仮に取得させることができます。他の共同相続人の利益を害するときは認められません。

比べる点 窓口での払い戻し(民法909条の2) 家庭裁判所の保全処分(家事事件手続法200条3項)
前提 不要(相続人が単独で申し出る) 遺産分割の調停・審判の申立て
上限 口座ごとに残高×1/3×法定相続分、金融機関ごとに150万円 条文に上限の定めはない
判断する人 金融機関が書類で確かめる 家庭裁判所が必要性を判断する
遺産分割での扱い 払い戻した額は、その相続人が遺産の一部分割で取得したものとみなされる(民法909条の2) 仮払いされた預貯金債権を含めて審判される(全国銀行協会)
主な書類 戸籍一式と払い戻す人の印鑑証明書 審判書謄本(確定証明書が要る場合あり)と払い戻す人の印鑑証明書

保全処分は裁判所の手続きなので、申立ての書類づくりや必要性の示し方で迷うなら、弁護士や法テラスに相談します。

引き出す前に確かめたいこと

相続放棄を考えていないか。 相続財産を処分すると単純承認とみなされることがあり(民法921条)、仮払いを受けて使うことがこれに当たるかは使い道によって争いになりえます。借金があるかもしれず放棄を考えているなら、引き出す前に相続放棄の前にしてはいけないことを読み、司法書士や弁護士に相談します。

何に使ったかを残せるか。 払い戻した額は遺産分割で精算されます。葬儀代を立て替えて精算する考え方は相続の葬儀費用を立て替えたときの記事で扱っています。領収書と、払い戻しの明細を一緒に保管しておきます。金融機関に相続を連絡すると口座の入出金は原則として制限されるため(全国銀行協会)、公共料金などの引き落としの切り替えは相続で口座凍結されたときの解除までの流れで進めます。

ほかの相続人に知らせたか。 制度は単独で使えますが、知らせずに引き出すと不信の種になります。使う額と目的を先に伝えておくと、後の遺産分割がまとまりやすくなります。払い戻しの全体の流れは預金の相続手続きの流れと必要書類で確かめられます。

よくある質問

Q. 仮払いで引き出したお金は、何に使ってもよいのですか?

民法909条の2は使い道を限っていません。ただし、払い戻した額はその相続人が遺産の一部分割で取得したものとみなされ、最終的な遺産分割で精算の対象になります。葬儀代など他の相続人のためにも使ったお金は、領収書を残して遺産分割のときに説明できるようにしておきます。

Q. 相続人のうち一人が勝手に仮払いを受けることはできますか?

制度は各相続人が単独で使えるもので、他の相続人の同意は条文上の要件ではありません。払い戻した額はその人が取得したものとして遺産分割で精算されます。他の相続人に知らせずに使うと後の話し合いがこじれやすいので、使う前に連絡しておくのが穏当です。

Q. 定期預金も仮払いの対象になりますか?

条文の対象は「遺産に属する預貯金債権」で、普通預金に限っていません。全国銀行協会のリーフレットは、口座ごと(定期預金は明細ごと)に計算し、同じ金融機関の全支店からの払い戻しは合計150万円までとしています。満期前の定期預金を払い戻せるかなど具体的な手続きは、各金融機関に確かめます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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