数次相続の相続登記:祖父名義の家を登記する順番と中間省略
この記事のもくじ
数次相続とは、祖父の相続の遺産分割や登記が終わらないうちに、相続人だった父も亡くなり、次の相続が重なった状態をいいます。祖父名義の家を登記するときは、祖父の相続人のうち存命の人と、亡くなった父の地位を受け継いだ人(母や子など)が全員で遺産分割協議をします。途中の相続で家を受け継ぐ人が1人だけなら、法務局への1件の申請で祖父名義から今の相続人へ直接登記でき、これを「中間省略」と呼びます。途中で2人以上が受け継ぐ場合は1件ではできず、相続ごとに登記を重ねます。2024年4月1日より前の相続も登記の義務の対象で、期限は最短で2027年3月31日です。
数次相続とは:再転相続との違いと、相続人が増える仕組み
民法第896条は、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を受け継ぐと定めています。祖父の家について父が持っていた「相続人としての権利」も、父が亡くなれば父の相続人に受け継がれます。だから、祖父の遺産を分ける話し合いには、父の代わりに父の相続人が加わることになります。
よく似た言葉に「再転相続」があります。こちらは、相続人が相続を承認するか放棄するかを決める前(熟慮期間の3か月の間)に亡くなった場合を指し、その相続人の相続人は、自分のために相続の開始を知った時から熟慮期間を数えます(民法916条)。数次相続は、遺産分割や登記が終わらないうちに次の相続が起きた場合を広く指す言い方として使われます。登記の場面で問題になるのは、ほとんどが数次相続です。
時間がたつほど相続人が増えます。次の例は筆者の計算です。
| 状況 | 祖父の家の協議に加わる人 | 法定相続分 |
|---|---|---|
| 祖父が死亡(祖母は先に死亡)、子は父と叔母 | 父、叔母 | 各2分の1 |
| その後、父が死亡(相続人は母・自分・弟) | 母、自分、弟、叔母 | 母4分の1、自分8分の1、弟8分の1、叔母2分の1 |
| さらに叔母が死亡(相続人は従兄弟3人) | 母、自分、弟、従兄弟3人 | 従兄弟は各6分の1 |
父の持っていた2分の1を、父の相続人が民法第900条の割合(配偶者2分の1、子は残りを等分)で分けるので、母は2分の1×2分の1=4分の1、自分と弟は2分の1×4分の1=8分の1ずつになります。協議の人数が2人から6人に増えるのに、それぞれの割合は小さくなるので、話し合いの手間に比べて受け取る額が見合わないと感じる人が出てきます。これが古い相続の登記が止まりやすい理由です。
祖父名義の家を登記する順番
数次相続の相続登記は、次の順で進めます。
- 今の名義を確かめる。 法務局で登記事項証明書を取り、甲区(所有権の欄)の最後の名義人が誰か、いつの登記かを見ます。曾祖父の名義だった、という例もあります。
- 戸籍を集める。 祖父の出生から死亡まで、父の出生から死亡まで、それぞれの戸除籍謄本と、今の相続人全員の戸籍謄抄本を集めます。亡くなった人ごとに範囲が分かれるので、法定相続情報一覧図も1人ごとに作ることになります。
- 相続関係説明図を作る。 誰がいつ亡くなり、誰が誰の相続人かを1枚の図にします。法務局の記載例にも図の例があり、申請時に相続関係説明図を出すと、戸籍の原本を登記の調査が終わった後に返してもらえます(原本還付)。
- 遺産分割協議をして協議書を作る。 誰がこの家を受け継ぐかを、当事者全員で決めます(書き方は後の見出し)。
- 中間省略できるかを判断し、申請書を作る。 途中の相続で受け継ぐ人が1人なら1件、2人以上なら相続ごとの件数で申請します。
- 管轄の法務局に申請する。 窓口か郵送で出します。相続登記の申請書は法務局の様式に「遺産分割(数次相続)」の記載例があり、2026年10月5日以降の申請では申請人の国籍等を書く新しい様式を使います。
戸籍の集め方や、法定相続情報一覧図を亡くなった人ごとに作る手間は法定相続情報証明制度のデメリット:作れない場合と使えない手続きで整理しています。期限の数え方は昔の相続も相続登記の義務化の対象?過去分の期限2027年3月31日で確かめてください。
中間省略できる場合・できない場合
法務局の数次相続の記載例は、「第1の相続が開始し、その相続の登記が未了の間に、その相続人が死亡して第2の相続が開始した場合」のものです。そして注意書きとして、最終の相続以外の相続について共同相続人の数名が権利を取得している場合には、1件の申請では登記できないとしています。
| 途中の相続(祖父→父)の結果 | 最後の相続(父→今の相続人)の結果 | 1件で申請できるか | 登記原因の書き方(例) |
|---|---|---|---|
| 父1人が取得(相続人が父だけ、または協議で父1人に決めた) | 自分1人が取得 | できる | 法務局の記載例(相続)は「平成2年3月21日父の氏名相続 令和7年6月20日相続」。遺産分割で取得した場合の書き方は様式のページで確かめる |
| 父1人が取得 | 母と自分の共有 | できる | 同上(最後の相続は複数でも可) |
| 父と叔母が2分の1ずつ取得 | 誰が取得しても | できない | 祖父→父・叔母、父の持分→父の相続人、の順に申請を重ねる |
法務局の記載例では、登記原因を「平成2年3月21日法務春夫相続 令和7年6月20日相続」のように、第1の相続の日と取得した相続人の氏名、続けて第2の相続の日を並べて書きます。申請人は最後の相続人で、記載例では2人が2分の1ずつ取得しています。課税価格2,000万円に対し登録免許税は8万円(1,000分の4)で、1件分の税で済む形になっています。
中間省略ができず、途中の相続人の名義にいったん登記する場合は、租税特別措置法第84条の2の2第1項の免税が使えることがあります。相続で土地を取得した人が登記をしないまま亡くなったとき、その人を名義人にする登記は、2027年3月31日までの登記なら登録免許税がかかりません。対象は土地だけで建物は含まれず、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と書かないと受けられません。
数次相続の遺産分割協議書の書き方
数次相続の協議書で気をつける点は、誰の遺産についての協議かと、誰がどの立場で署名するかを読み手に分かる形で書くことです。一般的な形は次のとおりです。
- 冒頭に、祖父(第1の被相続人)の氏名、死亡日、最後の本籍・住所を書く。
- 父(第2の被相続人)も亡くなっていて、その相続人が協議に加わることを書く。
- 誰がどの不動産を取得するかを、登記事項証明書のとおりに書く(所在・地番・家屋番号など)。
- 署名欄では、立場を書き分ける。祖父の相続人は「相続人」、父の地位を受け継いだ人は「祖父の相続人亡○○の相続人」のように書く。
- 当事者全員が署名し、実印を押して印鑑証明書を付ける。
途中の相続を父1人の取得にまとめたい場合は、祖父の遺産について「父が取得する」と決めたことが分かる書き方にします。そのうえで父の遺産について誰が取得するかを決めます。1通の協議書にまとめるか、祖父の分と父の分で2通に分けるかは、相続人の顔ぶれや、他の財産の分け方によって変わります。書き方の基本は遺産分割協議書の書き方とひな形:相続人の確定から署名押印までの全手順で扱っています。個別の協議書を作ってもらう、内容が登記に使えるかを判断してもらう仕事は、司法書士や弁護士のものです。
相続人が多い・連絡がつかないときの進め方
代を重ねると、相続人が10人を超えたり、面識のない親族が加わったりすることがあります。法務省は、相続登記の義務の「正当な理由」の例として、相続人が極めて多数で戸籍の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合を挙げています。ただ、それだけで手続きが不要になるわけではないので、次の順で手を打ちます。
- 相続人申告登記で義務を果たしておく。 3年の期間内に、法務局へ「相続が始まったこと・自分が相続人であること」を申し出ると、申し出た人は義務を果たしたものとみなされます(不動産登記法76条の3)。登録免許税はかからず、1人でも申し出られます。
- 全員の住所を調べて、手紙で協議の案を送る。 戸籍の附票で住所を確かめ、経緯(なぜ今登記するのか)、案(誰が取得するか)、返信の期限を書いて送ります。
- 合意が得られない場合は家庭裁判所の手続きを考える。 協議が調わないときは、家庭裁判所に遺産分割を請求できます(民法907条2項)。
時間がたつと、別の不利益も出てきます。相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分の主張ができなくなります(民法904条の3)。古い相続ほど、「生前に援助を受けた分を考慮してほしい」といった話は通りにくくなるということです。なお、2023年4月1日より前に始まった相続には経過措置があり、「相続開始から10年」と「施行から5年(2028年3月末まで)」の遅いほうまでは、家庭裁判所への請求で主張の機会が残ります(筆者の計算:2023年4月1日+5年)。
手紙の文例は次のようなものです。
文例:「突然のお手紙失礼いたします。○○(祖父)名義のままになっている○○市の土地と建物について、相続登記が義務となったため、名義を整理したいと考えています。同封の案のとおり○○が取得することにご同意いただける場合は、協議書にご署名・ご捺印のうえ、印鑑証明書とともに○月○日までにご返送いただけますでしょうか。」
戸籍集めから協議書の取りまとめ、登記までを一括で頼む選択肢もあります。選ぶときは、登記の申請と申請書の作成を司法書士が担当するか、相続人間で意見が対立した場合に弁護士へどうつなぐか、を見積書と説明で確かめます。
祖父の代の家では、建物がそもそも登記されていないことも少なくありません。登記簿に建物が見当たらない場合は、次の未登記建物の相続登記:表題登記の手順としない場合の売却への影響で進め方を確かめてください。
よくある質問
Q. 祖父が亡くなったのは50年前です。今から登記できますか?
できます。遺産分割の協議は民法上いつでもでき(907条)、相続登記にも申請できなくなる期限はありません。逆に、2024年4月1日より前の相続で登記していない不動産も義務化の対象で、期限は最短で2027年3月31日です。ただ、時間がたつほど相続人が増えるので、戸籍で相続人を確定する作業から早めに始めます。
Q. 叔父や従兄弟と連絡を取ったことがありません。協議に加わってもらう必要がありますか?
祖父の相続人や、亡くなった相続人の地位を受け継いだ人は、全員が遺産分割協議の当事者になります。面識がなくても、全員の合意と署名押印がないと協議書は成り立ちません。まずは戸籍の附票で住所を調べ、経緯と協議の案を手紙で伝えるところから始めるのが一般的な進め方です。
Q. 協議がまとまらない間に、登記の義務の期限が来たらどうなりますか?
法務局に相続人申告登記を申し出れば、申し出た人は相続登記の申請義務を果たしたものとみなされます。登録免許税はかからず、相続人の1人が単独で申し出られます。ただし名義が変わるわけではないので、売却などには、協議がまとまった後で正式な相続登記が要ります。
出典・参考にした公的な情報
- 所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)記載例(令和8年10月5日以降)(法務局)
- 不動産登記の申請書様式について(法務局)
- 民法 第896条・第900条・第904条の3・第907条・第916条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 租税特別措置法 第84条の2の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続登記の申請義務化について(法務省)
- 相続登記の登録免許税の免税措置について(法務局)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。