相続した土地や家がいらない:3か月以内か後かで変わる判断の順番
この記事のもくじ
相続した土地や家がいらないときに取れる道は、今どの時点にいるかで変わります。亡くなったことを知ってから3か月以内なら、相続放棄で全財産ごと手放せます。放棄をしないなら、遺産分割で誰が取得するかを決め、名義を引き継いだ後に売却・買取・国庫帰属などで土地だけを手放します。いちばん避けたいのは、放棄するか決める前に家を売ったり壊したりして、放棄できなくなることです。
相続した土地がいらない場合の判断:3つの時点で選択肢が変わる
選択肢は、次の3つの時点で入れ替わります。自分がどこにいるかを先に確かめてください。
| 時点 | 取れる道 | 手放す範囲 | 期限・前提 |
|---|---|---|---|
| ①相続を知ってから3か月以内 | 相続放棄、限定承認、相続する | 放棄なら全財産 | 家庭裁判所への申述。財産の処分をしない |
| ②遺産分割の話し合い中 | 自分は取得しない、売って代金を分ける | 自分の取り分の中で調整 | 相続人全員の合意 |
| ③名義を引き継いだ後 | 売却・買取・隣地への譲渡・寄付・国庫帰属 | その土地や家だけ | 相続登記を済ませる |
総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、空き家は900万2千戸、住宅全体の13.8%で、過去最多・最高でした。いらない家や土地を抱える相続は珍しいことではありません。大事なのは、①の3か月を、何もしないまま過ぎてしまわないことです。
- 親の借金が財産より多い、または多いかもしれない → ①で放棄か限定承認を検討(3か月以内)
- 借金はなく、預金などは受け取りたい → ②で土地や家を誰が取得するかを話し合う
- 自分が取得することになった → ③で相続登記をしてから、売る・譲る・国に引き取ってもらうを比べる
- ほかの相続人が取得する → 自分の手を離れる。ただし共有にすると後で同意を求められる
3か月以内:相続放棄を考えるときにしてはいけないこと
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったとみなされます(民法939条)。いらない土地だけでなく、預金・自宅・株などもすべて受け取れません。そのかわり借金も引き継ぎません。期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内で(915条)、家庭裁判所に申述して行います(938条)。財産の調査が間に合わないときは、この期間を延ばすよう家庭裁判所に申し立てる方法もあります(915条1項ただし書)。
この期間に気をつけたいのが、相続財産の「処分」です。財産の全部や一部を処分すると、単純承認したものとみなされ、放棄できなくなるおそれがあります(921条1号)。放棄するか迷っている間は、次のことを避けてください。
- 不動産会社と売却の契約をする、買取業者に売る
- 家を解体する、大がかりなリフォームをする
- 家財をまとめて売る、捨てる
戸締まりや雨漏りの応急処置のように、財産の価値を保つための行為は、処分とは区別されています。迷う作業は、写真で状態を残してから専門家に確かめます。期限・費用・手順は相続放棄とは?期限3か月の手続き・費用・してはいけないことの全体にまとめています。
放棄した後の空き家は、次の順位の相続人に引き継がれ、全員が放棄すれば家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が清算します。放棄の時にその家を現に占有していた人は、引き渡すまで保存の義務を負います(940条)。詳しくは相続放棄した空き家はどうなる?保存義務の範囲と手放すまでの流れを読んでください。
遺産分割の段階:誰が取得するかで後の手間が決まる
放棄をしない場合、土地や家を誰が取得するかは、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます(907条)。「いらない」と思う人が多い不動産ほど、次のどれかに落ち着くことが多くなります。
- 使う人が取得する:住む、畑や駐車場に使う相続人がいれば、その人が取得し、代わりに預金を多めにほかの人へ回します。
- 売って代金を分ける:相続人の代表者が登記をして売り、代金を取り分に応じて分けます。売るまでの役割と費用の分担を、協議書に書いておきます。
- 1人が取得して手放す:取得した人が、国庫帰属の申請や譲渡を進めます。手放す費用を誰が持つかを先に決めます。
避けたいのは、決めきれずに全員の共有名義にしておくことです。共有の土地は、全体を売るにも国庫帰属を申請するにも共有者全員がそろう必要があり、年月がたつと持分がさらに次の世代へ分かれていきます。遺産分割で土地を受け取らないことは、家庭裁判所での相続放棄とは違い、借金の引き継ぎは止まらない点も覚えておいてください。
名義を引き継いだ後:土地だけを手放す道
自分が取得した後は、その土地や家だけを手放せます。最初にするのは相続登記です。取得を知った日から3年以内が期限で(不動産登記法76条の2)、2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日までです(相続を知った日が2024年4月1日以後なら、その日から3年以内)。売却にも国庫帰属にも、名義の整理が前提です。期限内に遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記で申請義務を果たしたとみなされる仕組みもあります(76条の3)。
手放し方は、仲介で売る・買取業者に売る・隣地の人などへ譲る・自治体へ寄付する・国庫帰属の5つです。どれが向くかは、買い手が想定できるか、古家付きや共有か、建物がなく境界がはっきりしているかで決まります。方法ごとの費用や向く土地は田舎の土地が売れない相続:手放す5つの方法と費用の比べ方に表でまとめているので、ここでは、先にそろえる名義の整理を押さえてください。
家が建っている場合、国庫帰属は解体してからでないと申請できません。解体費をかけるより、古家付きのまま買取業者に売るほうが手間も費用も少ない場合があります。
国庫帰属の条件は相続土地国庫帰属制度とは:国に引き取ってもらう条件と費用を見てください。
決めずに放っておくと残る負担
どの道も選ばずにいると、名義を引き継いだ人に負担が残ります。固定資産税は毎年かかり、空き家なら、所有者等には周りに悪影響を及ぼさないよう適切に管理する努力義務があります(空家法5条)。管理が不十分だと、市区町村長から指導や勧告を受けることがあります(13条)。相続登記を正当な理由なく怠れば、10万円以下の過料の対象です(不動産登記法164条)。
いらない家でも、すぐに手放せないことはあります。その間は、年に数回の見回りと草刈り、郵便物の整理だけでも続けておくと、売るときや譲るときに話が進めやすくなります。0円でも引き取り手を探したいときは、空き家を無料で譲ります:譲渡先の探し方と契約・税金の注意に進んでください。
よくある質問
Q. 遺産分割で「土地はいらない」と言えば、親の借金も引き継がずに済みますか?
済みません。遺産分割で土地を受け取らないことと、家庭裁判所に申述する相続放棄は別のものです。遺産分割で何も受け取らなくても、借金は法定相続分に応じて引き継ぐのが原則で、債権者から請求を受けることがあります。借金を引き継ぎたくないなら、3か月以内に家庭裁判所で放棄の手続きをします。
Q. いらない実家を、とりあえず相続人全員の共有名義にしておいてもよいですか?
登記の義務を果たす方法にはなりますが、売るときや国庫帰属を申請するときに共有者全員の同意が要ります。共有者の1人が亡くなると、その人の相続人に持分が引き継がれ、話し合う相手が増えていきます。手放すつもりなら、遺産分割の段階で1人の名義にするか、売って代金を分けるかを決めておくほうが後の手間は少なくなります。
Q. 放棄も売却もしないで放っておくと、どうなりますか?
名義を引き継いだ相続人が、固定資産税と管理の責任を負い続けます。相続登記は取得を知った日から3年以内が期限で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。空き家なら、管理が不十分だと市区町村から指導や勧告を受けることもあります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第907条・第915条・第921条・第938条・第939条・第940条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の3・第164条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続登記の申請義務化について(法務省)(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度の概要(法務省)(法務省)
- 空家等対策の推進に関する特別措置法 第5条・第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(確報集計)結果(総務省統計局)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。