相続土地国庫帰属制度とは:国に引き取ってもらう条件と費用
相続土地国庫帰属制度は、相続や相続人への遺贈で取得した土地を、法務大臣の承認を受けて国に引き取ってもらう制度です。2023年4月27日に始まり、それより前に相続した土地も対象です。費用は、申請時に払う審査手数料(土地1筆14,000円)と、承認後に納める負担金(20万円が基本、市街地の宅地・一部の農地・森林は面積で計算)の2つ。ただし、建物がある土地、担保権がついた土地、境界がはっきりしない土地などは申請できず、審査の標準処理期間は8か月です。この記事では、条件・費用・申請先を条文と法務省の資料でまとめます。
相続土地国庫帰属制度とは:申請できる人と使える土地
この制度の法律名は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」です。目的は、所有者が分からない土地が増えるのを防ぐことにあります(1条)。いらない土地を相続した人が、手放す先がないまま放置するより、条件を満たした土地を国が引き取るほうがよい、という考え方です。
申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈で土地を取得した所有者です(2条1項)。売買や贈与で買った土地は、原則として対象になりません。
| 立場 | 申請できるか | 根拠・注意 |
|---|---|---|
| 親から相続した土地の所有者 | できる | 相続した時期は問わない |
| 遺言で相続人として土地をもらった人 | できる | 相続人以外への遺贈で取得した人は対象外 |
| 自分で買った土地の所有者 | 原則できない | 共有で、他の共有者が相続で取得している場合は一緒に申請できる(2条2項) |
| 相続した土地の共有者の1人 | 単独ではできない | 共有者全員で申請する(2条2項) |
| 相続放棄をした人 | 通常は申請者にならない | 放棄すると初めから相続人でなかった扱いになる |
農地や森林も申請できます。承認は土地の1筆ごとに行われます(5条2項)。複数の土地を相続した場合、引き取ってほしい土地だけを選んで申請できるのが、すべての財産を手放す相続放棄との大きな違いです。
申請できない土地(却下)と承認されない土地(不承認)
要件は2段階です。申請の入口で外れる「却下」の土地(2条3項・4条)と、審査の結果承認されない「不承認」の土地(5条1項)があります。
| 段階 | どんな土地か | 典型例 |
|---|---|---|
| 却下(申請できない) | 建物・担保権や使用する権利・他人の使用が予定されている | 空き家が残っている。抵当権や賃借権がある。現に通路になっている(施行令2条) |
| 却下 | 土壌汚染がある、境界が明らかでない・争いがある | 基準を超える特定有害物質。隣の人と境界の認識が食い違う |
| 不承認 | 管理に過分の費用がかかる、管理を妨げる物がある | 勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖(施行令4条1項)。放置車両、倒れそうな樹木 |
| 不承認 | 隣地との争いが続いている、その他過分の費用がかかる | 通行が妨げられている。土砂崩れの防止工事が要る、獣害が大きい(施行令4条3項) |
項目ごとの例と、止まりやすい点は相続土地国庫帰属制度が使えない場合:却下・不承認の典型と次の手で扱っています。
建物は、原則として取り壊してから申請します。申請後に事情が分かって却下・不承認になると、払った審査手数料は戻りません。どの項目で止まりやすいか、止まったときにどうするかは相続土地国庫帰属制度が使えない場合:却下・不承認の典型と次の手で詳しく扱っています。
費用:審査手数料と負担金の計算
費用は2つに分かれます。
- 審査手数料:土地1筆ごとに14,000円(施行令3条)。申請書に収入印紙を貼って納めます。まとめて申請しても安くならず、納めた後は返還されません(施行規則5条)。
- 負担金:承認されたときに、国が管理する10年分の標準的な費用を考えて決まる額を納めます(法10条1項)。基本は20万円で、次の区分の土地は面積に応じて計算します(施行令5条)。
| 区分 | 負担金の計算 | 法務省の資料の例 |
|---|---|---|
| 市街化区域(線引きがない都市計画区域では用途地域)内の宅地 | 地積の区分ごとに「地積×単価+固定額」 | 100㎡で約55万円、200㎡で約80万円 |
| 市街化区域・農用地区域・土地改良事業の区域などにある農地 | 同上(単価は宅地より低い) | 500㎡で約72万円 |
| 森林 | 同上(単価は1㎡あたり59円から6円まで下がる) | 1,500㎡で約27万円、3,000㎡で約30万円 |
| 上記以外の土地(市街化調整区域の宅地、一般の雑種地など) | 一律20万円 | — |
式に当てはめた例です(筆者の計算)。市街化区域の宅地100㎡は、50㎡超100㎡以下の区分で「100×2,720円+276,000円=548,000円」。200㎡なら100㎡超200㎡以下の区分で「200×2,450円+303,000円=793,000円」です。計算した額の1,000円未満は切り捨てます。面積は登記記録の地積を使い、隣り合う2筆以上が同じ区分なら、申し出て1筆とみなして計算できます(施行令6条)。個別の額は、法務省の負担金のページにある自動計算シートで試せます。
- 申請時:審査手数料 1筆14,000円(収入印紙・返還なし)
- 承認後:負担金 20万円が基本。市街地の宅地・一部の農地・森林は面積で計算
- 納付期限:負担金の通知が届いた日の翌日から30日以内(過ぎると承認が失効)
- 納付先:納入告知書を添えて日本銀行(代理店・歳入代理店を含む)へ。法務局の窓口で現金は払えない
- 所有権が国に移る時:負担金を納めた時
- 別にかかりうる費用:建物の解体、境界の目印の設置、書類の取得、専門家への報酬
負担金は、法務局から届く納入告知書を使って、通知が届いた日の翌日から30日以内に日本銀行(本店・代理店・歳入代理店)へ納めます。期限内に納めないと承認が効力を失います(10条3項)。その場合は最初から申請し直すことになり、手数料もまたかかります。
申請先・期間・流れ
申請書は、土地がある都道府県の法務局・地方法務局の本局(不動産登記部門)に出します(施行規則1条)。支局・出張所では受け付けていません。窓口に持参するか、書留郵便などで送ります。インターネットでの申請はできません。
- 相談:本局で予約制の相談(対面・電話・ウェブ、1回30分)を受け、土地が要件に当たりそうかを見てもらう
- 申請:申請書と添付書類(土地の位置と範囲の図面、形状の写真、隣との境界点の写真、印鑑証明書など)を出し、手数料を納める
- 審査:書類の審査と、必要に応じて職員の実地調査(6条)。隣接地の所有者にも申請の通知が送られる(施行規則13条)
- 結果の通知:承認なら負担金の額も通知される(9条・10条2項)
- 負担金の納付:納めた時に所有権が国に移り、登記は国が行う(11条)
標準処理期間は8か月で、土地によってはそれより長くかかります。承認から納付までの間も土地はまだ申請者のものなので、草刈りなどの管理は続けます。書類の集め方や相談予約の取り方は相続土地国庫帰属制度を自分で申請する手順にまとめました。申請書づくりを人に頼む場合は、業務として代行できるのが弁護士・司法書士・行政書士に限られるので、国庫帰属の申請書を作れる専門家と費用で頼み先を比べてください。
承認後に、申請時からあった却下・不承認の事情を知りながら黙っていたことが分かると、国から損害賠償を求められることがあります(14条)。偽りの申請で承認を受けた場合は取り消されます(13条)。土地の状態は、分かっていることを正直に書くのが前提です。
実績と、使う前に比べたいこと
法務省の速報値(2026年9月30日現在)では、申請は6,125件(田・畑2,372、宅地2,135、山林928、その他690)、国に帰属したのは3,231件でした。却下は86件、不承認は103件、取下げは1,162件です。取下げの理由で多いのは「有効活用の見込みが生じた」(595件)で、申請をきっかけに隣の人や自治体が使うことになった土地が含まれます。申請件数には審査中の分も入っているため、帰属件数を申請件数で割った数字は承認率ではありません。
この制度は、費用と手間をかけて「最後に国へ渡す」道です。先に次の選択肢と比べると、費用を抑えられることがあります。
- 売る・譲る:隣地の所有者や地元の人が欲しがることがあります。不動産会社の買取も含めて比べ方は田舎の土地が売れない相続:手放す5つの方法と費用の比べ方にあります。
- 寄付する:自治体は使い道がある土地に限って受けることが多いので、相続した土地は自治体に寄付できるかを読んで見込みを確かめてください。
- 相続放棄:相続の開始があったことを知った時から3か月以内なら、借金も含めて全部手放す選択肢があります。土地だけを放棄することはできません。
どの道がよいかの順番は相続した土地や家がいらないときの判断の順番で整理しています。山林や農地は事情が違うので、山林は相続土地国庫帰属制度で手放せるかと農地は相続土地国庫帰属制度で手放せるかも合わせて読んでください。
よくある質問
Q. 相続したのが何十年も前の土地でも申請できますか?
できます。制度が始まった2023年4月27日より前に相続した土地も対象です。ただし、登記の名義が亡くなった親や祖父母のままだと、相続で取得したことを示す戸籍などの書面を申請書に添付します。名義の整理を先にしておくと、申請の準備が進めやすくなります。
Q. 審査に落ちたら、払ったお金は戻りますか?
審査手数料は、取り下げ・却下・不承認のどの場合も戻りません。負担金は承認された後に通知されて納めるものなので、承認されなければ払うことはありません。手数料を無駄にしないために、申請前に法務局の相談で土地の状態を見てもらうのが一般的な進め方です。
Q. 承認されたら、その日から国の土地になりますか?
承認の時点ではまだ申請者の土地で、通知された負担金を納めた時に国の所有になります。それまでの草刈りなどの管理は申請者が続けます。所有権の移転の登記は国が行うので、申請者が登記を申請する必要はありません。
出典・参考にした公的な情報
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条〜第14条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 同法施行令 第2条〜第6条(手数料・不承認の土地・負担金の算定)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 同法施行規則 第1条〜第5条・第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続土地国庫帰属制度の概要(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度に関するQ&A(令和7年9月1日現在)(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度の負担金(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年9月30日現在)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。