相続放棄した空き家はどうなる?保存義務の範囲と手放すまでの流れ
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相続放棄した空き家は、放棄した人の手を離れ、次の順位の相続人が引き継ぐか、全員が放棄した場合は家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が売却などで清算します。放棄した人に残るのは、放棄の時にその家を「現に占有」していた場合の保存義務だけです(民法940条、2023年4月施行の改正後)。遠方に住んでいて実家に関わっていなかった人は、通常は「現に占有」していないと考えられ、この義務の対象になりにくい仕組みです(鍵の管理状況などで判断が分かれることはあります)。ただし、放棄の前に解体や売却をすると、相続を認めたものとみなされるおそれがあります。
相続放棄した空き家はどうなる:持ち主が決まるまでの3つの道
放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。空き家の行き先は、ほかに誰が相続人として残るかで3つに分かれます。
| 状況 | 空き家を引き継ぐ人 | 放棄した人に残ること |
|---|---|---|
| 同じ順位の兄弟などが相続する | 相続した人(遺産分割で決める) | 占有していたなら、その人に引き渡すまで保存 |
| 同じ順位が全員放棄し、次順位が相続する | 親、兄弟姉妹など次の順位の人 | 同上。次順位の人へは、受理後に知らせておくと引き渡しの相手が明確になる |
| 次順位まで全員が放棄する | 相続財産清算人(家庭裁判所が選ぶ) | 占有していたなら、清算人に引き渡すまで保存 |
総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、空き家は900万2千戸、住宅全体の13.8%で、どちらも過去最多・最高でした。相続をきっかけに誰も住まなくなる家は珍しくなく、放棄を選ぶときには「誰に、いつ引き渡すか」まで考えておく必要があります。次順位へ移る順番は相続放棄したら次は誰が相続人か:次順位への連絡で確かめてください。
保存義務の範囲:2023年改正で「現に占有」している人だけに
民法940条1項は、放棄した人が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産と同一の注意で保存しなければならないと定めています。2023年4月1日施行の改正前は、放棄した人が「管理を継続」する義務と書かれており、誰がどこまで負うのかがはっきりしませんでした。改正で、義務を負う人と終わる時点が明確になりました。
| 放棄の時の状況 | 現に占有している、に当たるか | 考え方 |
|---|---|---|
| 亡くなった親と同居していた | 当たると考えられる | 住んでいる家そのものを占有している |
| 別に住んでいるが、鍵を持って定期的に出入りし管理していた | 当たりうる | 出入りや管理の実態で判断が分かれる |
| 遠方に住み、何年も実家に行っていない | 当たりにくいと考えられる | 鍵の有無や関わり方で変わりうる |
占有に当たるかどうかは、最終的には事実関係による個別の判断です。表は判断の材料として使い、自分がどれに当たるか迷うときは専門家に確かめてください。
保存義務の中身は、価値を保つための行為に限られます。たとえば、雨漏りや割れた窓の応急処置、戸締まり、郵便物の保管などです。売却・解体・大規模なリフォームのように財産の形を変える行為は、保存の範囲を超えます。また、940条2項は委任の規定(650条1項・2項)を準用しているため、保存のために必要な費用を出したときは、その償還を求める余地があります。領収書と作業の記録は残しておきます。
空き家を解体してもよいか
「相続放棄 空き家 解体」で調べる人が多いのは、倒れそうな家を前に、壊してから放棄できないかと考えるからです。放棄の前に家を解体すると、相続財産の「処分」に当たり、単純承認したものとみなされるおそれがあります(921条1号)。放棄した後でも、占有している人ができるのは保存までで、自分の判断で取り壊すことは想定されていません。倒壊や瓦の落下で近所に危険が迫っているときは、応急の安全措置にとどめ、市区町村の空き家の担当課と専門家に相談してください。
- してよいと考えられること:戸締まり、雨漏り・割れ窓の応急処置、郵便物の保管、近所への連絡先の伝達
- 避けること:売却・賃貸の新しい契約・解体・大規模なリフォーム・家財の売却
- 迷ったら:作業の前に写真で状態を記録し、司法書士・弁護士に確かめる
市区町村から空き家の連絡が来たとき
空家法は、空き家の「所有者等」(所有者または管理者)に、周辺に悪影響を及ぼさないよう適切に管理する努力義務を課しています(5条)。放置すれば特定空家等になるおそれのある管理不全空家等には、市区町村長が指導と勧告をし(13条)、危険な状態の特定空家等には助言・指導、勧告、命令へと進みます(22条)。所有者等が複数いるときは、できる限りすべての人に指導等を行うのが基本とされています(国土交通省のガイドライン)。相続人が多く全員の所在がすぐ分からないときは、連絡役の依頼、相続放棄、相続分の譲渡といった方法で意向確認を進めることが考えられると同ガイドラインは示しており、相続人だった人にも問い合わせが届くことがあります。
連絡が来たら、次の順で対応すると話が進めやすくなります。
- 放棄が受理されたことを伝える:受理した家庭裁判所の名前と受理日を伝え、受理証明書の写しを出せるようにします。
- 次順位の相続人の有無を伝える:分かる範囲で、ほかの相続人や次順位の人がいるか、全員が放棄したかを伝えます。
- 占有の状況を正直に伝える:鍵を持っているか、最後に入ったのはいつかなどです。保存義務があるなら、応急の措置について相談します。
市区町村長は、空き家の適切な管理のために特に必要があるとき、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を請求できます(空家法14条1項)。全員が放棄した空き家では、この仕組みが使われる場合があります。
手放すまでの流れ:相続財産清算人に引き渡す
全員が放棄した空き家は、相続財産清算人が選ばれ、清算人に引き渡した時点で、占有していた人の保存義務が終わります。清算人は家庭裁判所が選び、選任の申立ては利害関係人(亡くなった人の債権者など)か検察官がします(952条1項)。
- 申立て:被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。費用は収入印紙800円分、郵便切手、官報公告料5,582円で、財産から清算人の報酬などをまかなえないおそれがあると、予納金を求められることがあります。
- 選任と公告:清算人が選ばれると、相続人を探す公告(6か月以上)と、債権者・受遺者への公告(2か月以上)が行われます。
- 引き渡し:占有していた人は、鍵や家の資料を清算人に渡します。これで保存義務は終わります。
- 清算:清算人が必要に応じて家や土地を売却し、債権者への支払いや特別縁故者への分与をして、残りは国庫に入ります(959条)。
予納金の額は事案ごとに家庭裁判所が決めるもので、条文に一律の額はありません。保存義務を負う人が申し立てられるかを含め、申立ての前に申立先の家庭裁判所の手続案内で確かめてください。清算の流れ全体は法定相続人がいない場合の財産:相続財産清算人と特別縁故者に詳しく書いています。
放棄する前に比べたい選択肢
空き家だけが負担で、ほかに大きな借金がない場合は、放棄以外の道が合うこともあります。放棄は財産を全部手放す手続きで、預金など欲しい財産だけを残すことはできません。
- 相続してから売る・手放す:相続した人なら、売却のほか、条件を満たせば土地を国に引き取ってもらう制度も使えます。判断の順番は相続した土地や家がいらないときの判断の順番で比べています。
- 限定承認:借金がどれだけあるか分からないときに、プラスの財産の範囲で借金を払う方法です。仕組みは限定承認とは:借金が分からない時の選択肢を見てください。
- 放棄する:借金が財産を上回るなどで放棄するなら、家財の片付けも処分に当たりうるので、相続放棄と遺品整理:どこまでしてよいかを先に読んでください。
放棄の手続きそのものの期限と費用は相続放棄とは:期限3か月の手続き・費用にまとめています。
よくある質問
Q. 実家の鍵を預かっているだけでも、保存義務がありますか?
民法940条の義務は、放棄の時に相続財産を「現に占有している」ときに生じます。鍵を持っていることだけで占有に当たるとは言い切れず、住んでいたか、出入りして管理していたかなど、事実関係で判断が分かれます。迷うときは、鍵の扱いも含めて司法書士や弁護士に確かめてから動いてください。
Q. 放棄した空き家の固定資産税の通知が届いたら、どうすればよいですか?
通知を出した市区町村の資産税の担当課に、相続放棄が受理されたことを伝え、受理証明書(受理した家庭裁判所に申請、収入印紙150円分)の写しを出せるようにしておきます。誰に課税するかは市区町村が判断するので、自分で払うか決める前に、担当課の説明を聞いてください。
Q. 次順位の親族も放棄したら、空き家は誰も管理しないまま残りますか?
相続財産清算人が選ばれるまでは、引き受ける人がいない状態が続きます。その間も、放棄の時に占有していた人は保存義務を負います。清算人の選任は利害関係人が申し立てるほか、空家法14条により市区町村長が家庭裁判所に請求できる仕組みもあります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第650条・第921条・第939条・第940条・第952条・第957条〜第959条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 空家等対策の推進に関する特別措置法 第5条・第13条・第14条・第22条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)(国土交通省)
- 相続財産清算人の選任(裁判所)(最高裁判所)
- 家事事件Q&A(裁判所)(最高裁判所)
- 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(確報集計)結果(総務省統計局)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。