限定承認のデメリット:手間・費用・みなし譲渡の税金を比べる
この記事のもくじ
限定承認のデメリットは、大きく3つです。相続人全員がそろわないと使えないこと、受理された後に官報公告と清算という長い作業が残ること、そして不動産や株を持っていた場合は、亡くなった人(被相続人)に所得税(みなし譲渡)がかかりうることです。財産の範囲でだけ借金を払えばよい、という長所の裏で、相続放棄や単純承認にはない負担がつきます。この記事では、その負担を項目ごとに並べ、費用の調べ方まで示します。
限定承認のデメリット3つ:全員の一致・清算の手間・税金
限定承認は、相続で受け取った財産の限度でだけ借金や遺贈を払うという条件をつけて相続する方法です(民法922条)。借金の額が読めないときに使える選択肢ですが、選ぶ前に次の3点を知っておく必要があります。仕組みそのものは限定承認とは?借金がどれだけあるか分からない時の選択肢と流れで説明しています。
- 相続人全員の一致が要る。 相続人が複数いるときは、全員が共同してでなければ申述できません(923条)。1人でも「普通に相続したい」と言えば使えないので、兄弟の足並みがそろうかが最初の関門です。
- 受理された後の作業が長い。 相続放棄は受理されれば手続きが終わりますが、限定承認は受理が始まりです。債権者に向けた官報公告、知れている債権者への個別の催告、財産のお金への換え(換価)、割合に応じた支払いまでを、相続人側が進めます(927条〜932条)。
- 亡くなった人に所得税がかかりうる。 限定承認による相続は、相続の時の時価で財産を売ったものとみなされます(所得税法59条1項1号)。値上がりした土地や株があると、亡くなった人の譲渡所得として申告が必要になる場合があります。
このほか、相続財産の目録を作って家庭裁判所に出す手間もあります(924条)。相続放棄の申述には目録の提出がないので、この点も負担の差になります。
相続放棄・単純承認と比べた手間とリスク
3つの選び方を、デメリットの側から並べます。どれが得かは家ごとに違うので、表は「何がついてくるか」を見るためのものです。
| 比べる点 | 限定承認 | 相続放棄 | 単純承認 |
|---|---|---|---|
| 誰が決めるか | 相続人全員で共同して申述(923条) | 1人ずつ申述できる | 何もしなくても3か月が過ぎればそうなる(921条2号) |
| 借金の負担 | 受け取った財産の範囲まで | 引き継がない | 全部引き継ぐ |
| 家庭裁判所に出すもの | 申述書と相続財産の目録 | 申述書 | なし |
| 受理の後の作業 | 公告・催告・換価・弁済の清算 | 原則なし | なし |
| 税金の特徴 | みなし譲渡で亡くなった人に所得税がかかりうる | 放棄した人は相続しない | 取得費は引き継がれる |
| 後から問題になる行為 | 財産を隠す・勝手に使う・目録にわざと書かない(921条3号) | 同じ(921条3号) | — |
見落とされやすいのが表の最後の行です。限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、勝手に使ったり、わざと目録に書かなかったりすると、単純承認をしたものとみなされます(921条3号)。相続人が数人いて、その一部にこの事情があると、債権者は財産から払いきれなかった分を、その人の相続分に応じて請求できます(937条)。
清算の途中で決まりに反した払い方をした場合にも責任が生じます。公告や催告を怠ったり、申出の期間中に一部の債権者だけに払ったりして、ほかの債権者が払いを受けられなくなったときは、損害を賠償する責任を負います(934条1項)。「早く終わらせたいから、催促の強い所から払う」というやり方はできません。
- 申述前:相続人全員の一致、相続財産の目録づくり
- 受理後:官報公告(5日以内、相続人が複数なら清算人の選任から10日以内)と2か月以上の申出期間
- 清算:知れている債権者への催告、換価(原則は競売)、債権額の割合での支払い
- 税金:みなし譲渡による亡くなった人の所得税、相続を知った日の翌日から4か月以内の申告
清算の手間:手間がかかる点の一覧
受理されたあとの作業は、相続人が自分の仕事や生活と並行して進めることになります。手間がかかる点だけを挙げます。日数の数え方や順番は限定承認の手続き:申述・官報公告・清算までのスケジュールに任せます。
- 官報への公告: 債権者に申出を促す公告を、受理後すぐ(5日以内)に出す必要がある(927条1項)。相続人が数人なら、清算人の選任が先に要る(936条)。
- 知っている債権者への個別の連絡: 公告とは別に、1人ずつ知らせる(927条3項)。借金の相手の洗い出しが不十分だと、ここで漏れが出る。
- 財産を売るときの競売: 支払いのために売る必要があるときは競売が原則(932条)。家を残す例外は限定承認で家を残すには?先買権のしくみで扱う。
- 債権額の割合での支払い: 申し出た債権者らに割合で払う(929条)。優先権のある債権者は別扱いになる。
限定承認を検討するときは、清算を担う人を誰にするか、専門家に頼むかを先に話し合っておくと、受理後に慌てずに済みます。
みなし譲渡の課税と確定申告:亡くなった人に所得税がかかる仕組み
限定承認で最も見落とされやすいのが税金です。所得税法59条1項1号は、限定承認による相続を、その時の価額で資産を譲渡したものとみなすと定めています。亡くなった人が買った時より値上がりした土地・建物・株などがあると、その差が亡くなった人の譲渡所得になりうるということです。
この所得は、亡くなった年の亡くなった人の所得税として扱われます。相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、亡くなった人の確定申告(準確定申告)をします(所得税法125条1項、国税庁 No.2022)。申述の期限(3か月)も準確定申告の期限(4か月)も「知った時」から数えるので、申述を期限ぎりぎりまで引っ張ると、申告までは1か月ほどしか残りません(筆者の計算)。清算が終わる前に申告の準備が必要になる、という順番に注意が要ります。
通常の相続では、相続人は亡くなった人の取得費と取得時期を引き継ぎますが、所得税法60条1項1号はこの引継ぎの対象から限定承認を除いています。相続人が後で家を売るときの税金の考え方も、通常の相続とは変わってきます。
どの財産にどれだけの譲渡所得が出るか、その税金をどう払うかは、財産ごとの取得費や時価で決まります。ここから先は税理士の仕事です(税理士法52条で、税理士でない人が他人の税額を計算して相談に乗ることは禁じられています)。不動産や株が財産に入っているなら、申述の前に税理士に見通しを聞いておくと、選んでから「思わぬ所得税」に驚く事態を避けられます。
限定承認の費用:裁判所の実費と専門家の費用の調べ方
限定承認にかかるお金は、裁判所に払う実費、公告と鑑定の費用、専門家の報酬の3つに分けて考えます。
| 費用 | 中身 | 調べ方 |
|---|---|---|
| 申述の実費 | 収入印紙800円分と連絡用の郵便切手 | 切手の額は申述先の家庭裁判所の案内 |
| 戸籍などの取り寄せ | 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍など | 市区町村の手数料表 |
| 官報公告の掲載料 | 927条の公告を官報に載せる費用 | 国立印刷局の案内にある官報サービスセンターに問い合わせる |
| 鑑定人の費用 | 家を残す・条件付きの債権がある場合など | 限定承認を受理した家庭裁判所に問い合わせる |
| 司法書士の報酬 | 申述書・目録など裁判所に出す書類の作成 | 事務所の報酬基準。依頼前に示す決まりがある(司法書士法施行規則22条) |
| 弁護士の報酬 | 申述の代理、清算の代理、債権者とのやり取り | 事務所の報酬基準で見積もり |
| 税理士の報酬 | 準確定申告(みなし譲渡) | 事務所の報酬基準で見積もり |
裁判所の手続案内に書かれている実費は、収入印紙800円分と郵便切手だけです。官報公告の掲載料と鑑定人の費用は、案件によって変わるので、問い合わせ先に条件を伝えて見積もりを取ります。国立印刷局は、公告の掲載の申込みを各都道府県の官報サービスセンター等で受け付け、掲載に関する質問にも応じると案内しています。
専門家の費用は、どこまで頼むかで大きく変わります。見積もりを比べるときは、①申述書と目録の作成だけか、②公告・催告まで含むか、③換価と支払いの清算まで含むか、④税金の申告は別か、の4段階に分けて書いてもらうと比べやすくなります。司法書士は裁判所に出す書類の作成ができ、清算での債権者との交渉や代理が必要な場面は弁護士の領域です。頼み先の違いは相続手続きの専門家の違いで整理しています。
デメリットを並べたうえで、それでも借金の総額が読めない、家を残したい、という事情があれば、限定承認は検討に値します。借金が明らかに多いなら相続放棄、明らかに少ないなら単純承認と比べることになるので、選び方の全体は親の借金は相続する?相続放棄の前に借金を調べる方法と払う義務の考え方を合わせて読んでください。
よくある質問
Q. 限定承認をしたときの確定申告はいつまでですか?
みなし譲渡の所得は亡くなった人の所得税として、相続人が準確定申告をします。期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです(所得税法125条)。申述の期限3か月のすぐ後に来るので、不動産や株がある場合は申述の前から税理士に準備を頼んでおくと間に合いやすくなります。
Q. 兄弟の1人が反対しています。賛成した人だけで限定承認できますか?
できません。限定承認は相続人全員が共同して申述する決まりです(民法923条)。ただし、反対している人が家庭裁判所で相続放棄をすれば、その人は初めから相続人でなかったことになるので、残りの全員で申述できます。
Q. 限定承認の手続きを司法書士に頼むといくらかかりますか?
報酬は事務所ごとに決めており、公的な相場の統計はありません。司法書士は依頼を受ける前に報酬の基準を示すことになっているので、申述書の作成だけか、公告や清算まで含むかを分けて見積もりを取ってください。清算で不動産を扱う場合は、鑑定人の費用と税理士の費用も別にかかります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第921条〜第937条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所得税法 第59条・第60条・第125条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件手続法 第201条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続の限定承認の申述(裁判所)
- 裁判手続 家事事件Q&A(相続の承認・放棄)(裁判所)
- No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁)
- 官報の書面・公告のお申込み(国立印刷局)
- 司法書士法施行規則 第22条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。