相続放棄と借金の相続 / 手順

限定承認の手続き:申述・官報公告・清算までのスケジュール

この記事のもくじ
  1. 限定承認の手続きとスケジュールの全体
  2. 申述までの準備:全員の同意・財産目録・戸籍
  3. 受理後の官報公告と催告:5日以内・10日以内の数え方
  4. 申出期間の後:換価と弁済の順番
  5. 自分でやるか頼むか:限定承認の手続きの分け方

限定承認の手続きは、①3か月以内に相続人全員で家庭裁判所に申述する、②受理されたら5日以内(相続人が数人なら清算人の選任から10日以内)に官報で公告する、③2か月以上の申出期間の後に財産をお金に換えて債権者に割合で払う、という3段階で進みます。途中で、亡くなった人の確定申告の期限(知った日の翌日から4か月)も来ます。この記事では、日付の例をつけてスケジュールを示し、各段階でやることを手順で説明します。

限定承認の手続きとスケジュールの全体

まず全体の日程を表で示します。日付は、親が亡くなったことを2026年11月10日に知った場合の例です(筆者の計算。民法140条・143条により初日を数えず、暦で数える)。

段階 期限・期間 日付の例 根拠
財産の調査・全員の意思確認 申述までに 11月10日〜 915条2項
申述(目録を添える) 知った時から3か月以内 2027年2月10日まで 915条1項・924条
亡くなった人の準確定申告 知った日の翌日から4か月を経過した日の前日まで 2027年3月10日まで 所得税法125条1項
官報公告(相続人1人) 限定承認をした後5日以内 受理の日から数える 927条1項
官報公告(相続人が数人) 清算人の選任から10日以内 選任の日から数える 936条3項
請求の申出期間 2か月以上 公告で定める 927条1項
換価・弁済 申出期間の満了後 財産の内容による 929条〜932条

この表で目立つのは、申述の期限と準確定申告の期限が1か月しか離れていないことです。限定承認では、相続の時の時価で資産を譲渡したものとみなされるため(所得税法59条1項1号)、亡くなった人に不動産や株があると、清算の途中で所得税の申告の準備が要ります。税金の仕組みと費用は限定承認のデメリット:手間・費用・みなし譲渡の税金で比べています。

3か月の期限が日曜日や祝日に当たる場合の扱いや、自分の起算日がいつになるかで迷うときは、申述先の家庭裁判所に確かめてください。財産の調査が3か月に間に合わないときは、期限内に期間の伸長を申し立てられます。やり方は相続放棄の期間の延長:伸長の申立てのやり方で説明しており、限定承認を考えている場合も同じ申立てを使います。

スケジュール表:限定承認の手続き(知った日を2026年11月10日とした例)
  • 2026年11月10日:相続の開始を知る。財産と借金の調査を始める
  • 2027年2月10日まで:相続人全員で申述(財産目録を添える)
  • 2027年3月10日まで:亡くなった人の準確定申告(みなし譲渡を含む)
  • 受理から5日以内(清算人は選任から10日以内):官報公告、知れている債権者へ催告
  • 公告から2か月以上:請求の申出期間(この間は支払いを拒める)
  • 期間満了後:換価(原則は競売)、債権額の割合で支払い、残りは相続人へ

申述までの準備:全員の同意・財産目録・戸籍

申述までの3か月でやることを、順番に並べます。

  1. 相続人を確定する。 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をそろえ、誰が相続人かを確かめます。限定承認は相続人全員が共同してでなければできないので(923条)、1人の漏れも許されません。
  2. 全員の意思を確かめる。 限定承認に同意しない人がいれば使えません。その人が家庭裁判所で相続放棄をすれば、残りの相続人全員で申述できます(裁判所の家事事件Q&A)。
  3. 財産と借金を調べ、目録を作る。 限定承認では、相続財産の目録を作って家庭裁判所に出します(924条)。預金、不動産、株、車などのプラスの財産と、借入れ、未払い金、保証債務などのマイナスの財産を書きます。わざと書かなかった財産があると、限定承認の後でも単純承認をしたものとみなされます(921条3号)。
  4. 申述書を書く。 裁判所の書式ページに、限定承認の申述書と記載例が載っています。申述は申述書を家庭裁判所に出してする決まりで(家事事件手続法201条5項)、書式の各欄は記載例に沿って埋めます。相続人が数人なら、全員が申述人として名を連ねます。
  5. 必要書類をそろえて出す。 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手を添えて出します。
必要書類(共通) 取る場所
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 本籍地の市区町村
被相続人の住民票除票または戸籍附票 住所地または本籍地の市区町村
申述人全員の戸籍謄本 各自の本籍地の市区町村
死亡している子(と代襲者)がいる場合、その出生時から死亡時までの戸籍謄本 本籍地の市区町村

申述人が親や兄弟姉妹の場合は、さらに戸籍が加わります。申述前に手に入らない戸籍は申述後に追加で出してもよく、法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合もあると裁判所は案内しています(使えるかは申述先に確認)。

受理後の官報公告と催告:5日以内・10日以内の数え方

受理されたら、すぐに清算が始まります。裁判所の家事事件Q&Aは、限定承認者は5日以内、相続財産の清算人は選任後10日以内に、限定承認をしたことと債権の請求をすべき旨の公告(官報掲載)の手続をするよう案内しています。

誰が清算を担うか。 相続人が1人なら、その人が限定承認者として進めます。相続人が数人なら、家庭裁判所が受理の際に、相続人の中から相続財産の清算人を職権で選びます(936条1項、家事事件手続法201条3項)。清算人は、相続人のために相続財産の管理と債務の弁済に必要な一切の行為をします(936条2項)。

5日・10日の数え方。 日で決まった期間は、初日を数えずに翌日から数えます(民法140条)。受理の日が2027年2月1日なら、相続人が1人の場合の5日以内は2月6日まで、相続人が数人で清算人の選任も同じ2月1日なら10日以内は2月11日までです(筆者の計算)。末日が休日にかかるときの扱いに期待して掲載の申込みを遅らせず、前倒しで進めてください。

公告に書くこと。 927条が定める中身は次のとおりです。

公告に入れる項目(927条1項・2項):①限定承認をしたこと、②相続債権者と受遺者は2か月以上の一定の期間内に請求を申し出ること、③期間内に申し出ないときは弁済から除斥されること

公告は官報に載せます(927条4項)。国立印刷局は、公告の掲載の申込みを各都道府県の官報サービスセンター等で受け付け、掲載に関する質問にも応じると案内しています。5日や10日はすぐに過ぎるので、受理の通知を待つ間に、掲載の申込み方法と必要な日数、掲載料を問い合わせておきます。

知っている債権者には個別に催告する。 公告とは別に、分かっている債権者には1人ずつ、申出の催告をします(927条3項)。通帳の引落し、郵便物、信用情報の開示で分かった債権者は、「知れている債権者」に当たるものとして催告しておくのが安全です。公告で外せない相手なので(927条2項ただし書)、催告の写しと送った日の記録を残します。

申出期間中は払わない。 期間が終わるまでは、債権者への支払いを拒めます(928条)。逆に、この期間中に一部の債権者にだけ払って、ほかの債権者が払いを受けられなくなると、損害を賠償する責任を負います(934条1項)。催促が強い所から払う、という対応はしないでください。

申出期間の後:換価と弁済の順番

申出期間が満了したら、財産をお金に換えて支払います。順番は条文で決まっています。

  1. 支払う相手を確定する。 期間内に申し出た債権者と、知れている債権者が対象です(929条)。期間内に申し出ず、限定承認者も知らなかった債権者は、残った財産についてだけ権利を行使できます(935条)。
  2. 財産をお金に換える。 支払いのために売る必要がある財産は、競売にかけるのが原則です(932条本文)。家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を払えば、競売を止めて手元に残せます(同条ただし書)。家を残したい場合の進め方は限定承認で家を残すには?先買権のしくみと鑑定費用で説明しています。
  3. 債権額の割合で支払う。 申出をした債権者と知れている債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて払います(929条)。抵当権など優先権を持つ債権者の権利は害せません。返済期限が来ていない借金も、この時に清算します(930条1項)。
  4. 受遺者に払う。 遺言で財産を受け取る人(受遺者)への支払いは、債権者への支払いの後です(931条)。
  5. 残りを相続人が受け取る。 支払いが終わって残った財産は相続人のものになります。不動産が残る場合は、相続登記の期限にも気をつけてください。

清算の途中も、限定承認者は自分の財産と同じ注意で相続財産を管理します(926条)。財産を隠したり勝手に使ったりすると、単純承認とみなされます(921条3号)。

自分でやるか頼むか:限定承認の手続きの分け方

限定承認の手続きは、相続人が自分で進めることもできます。ただ、申述より後の清算は、法律の順番を守りながら債権者とやり取りする作業が続きます。どこまでを自分でやり、どこから頼むかを、段階ごとに決めておくと現実的です。

段階 自分でやる場合の準備 頼むときの相手
申述書・目録の作成 裁判所の書式と記載例、戸籍の収集 司法書士(裁判所に出す書類の作成)
官報公告・催告 官報サービスセンターへの申込み、催告の発送記録 弁護士(清算の代理)、司法書士(書類の作成)
換価・弁済 競売か鑑定か、割合の計算、支払いの記録 弁護士(債権者とのやり取り・代理)
準確定申告 国税庁の準確定申告の案内 税理士(みなし譲渡の計算と申告)

専門家の役割の違いと探し方は相続手続きの専門家の違いで整理しています。そもそも限定承認を選ぶべきか迷っている段階なら、限定承認とは?借金がどれだけあるか分からない時の選択肢と流れで仕組みを確かめてから、手続きに入ってください。

よくある質問

Q. 限定承認の手続きは自分でできますか?

申述そのものは、裁判所の書式と記載例を使って相続人が自分で出せます。負担が大きいのは受理後の公告・催告・換価・弁済で、法律の順番どおりに進めないと損害賠償の責任を負うことがあります(民法934条)。申述は自分で、清算は専門家に、という分け方も検討してください。

Q. 官報公告はいつまでに出せばよいですか?

相続人が1人なら、限定承認をした後5日以内です。相続人が数人なら家庭裁判所が清算人を選び、その選任から10日以内になります(民法927条・936条)。掲載の申込みから掲載までにも日数がかかるので、受理の前から官報サービスセンターに段取りを問い合わせておくと間に合わせやすくなります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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