限定承認とは?借金がどれだけあるか分からない時の選択肢と流れ
この記事のもくじ
限定承認とは、相続で得たプラスの財産の限度でだけ、亡くなった人の借金や遺贈を払うと決めて相続する方法です(民法922条)。財産で払いきれない借金が残っても、相続人が自分のお金で払う必要はありません。逆に、借金を払い終えて財産が残れば、それは相続人のものになります。借金がどれだけあるか分からないときの選択肢ですが、相続人全員がそろって、3か月以内に財産目録を作って家庭裁判所に申述する必要があり、その後も官報公告と清算の手続きが続きます。
限定承認とは:プラスの財産の範囲で借金を払う仕組み
相続のしかたは3つあります。何もしないまま3か月が過ぎると単純承認になり(921条2号)、借金もすべて引き継ぎます。限定承認と相続放棄は、家庭裁判所での手続きが必要です。
| 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 | |
|---|---|---|---|
| 借金 | すべて引き継ぐ | 相続した財産の範囲で払う | 引き継がない |
| 財産 | すべて引き継ぐ | 借金を払った残りを引き継ぐ | 引き継がない |
| 誰がするか | 各相続人 | 相続人全員が共同で | 各相続人が1人でできる |
| 手続き | 不要(3か月の経過でも成立) | 財産目録を付けて家庭裁判所に申述、その後に公告・清算 | 家庭裁判所に申述 |
| 期限 | ― | 知った時から3か月以内 | 知った時から3か月以内 |
数字の例で見ると、違いがはっきりします(筆者の計算。税金や手続きの費用は入れていない)。
- 財産1,200万円・借金1,500万円の場合:限定承認なら、払うのは財産の1,200万円までで、残る300万円の借金を相続人が自分で払う必要はありません。単純承認なら1,500万円全額を引き継ぎ、300万円は相続人の負担になります。
- 財産1,200万円・借金800万円の場合:限定承認なら、800万円を払った残りの400万円を相続人が受け取ります(1,200万円-800万円=400万円)。相続放棄をしていれば、この400万円も受け取れません。
借金の額が読めないときに、放棄すると財産を失うかもしれず、単純承認すると借金を背負うかもしれない、という板ばさみを避けられるのが、限定承認の意味です。
限定承認が向いている場面・向いていない場面
限定承認は手続きが重いため、どんな場面でも勧められる方法ではありません。
向いていると考えられる場面
- 亡くなった人が事業をしていた、保証人になっていた可能性があるなど、借金の全体がつかめない
- 実家や事業用の財産など、手元に残したい財産がある。家庭裁判所が選ぶ鑑定人の評価額を払えば、競売を止めて手元に残す道があります(932条)。仕組みは限定承認で家を残すには:先買権のしくみで扱っています。
- 財産と借金のどちらが多いか、3か月では見きわめられない
向いていないと考えられる場面
- 借金が財産を明らかに上回り、残したい物もない(放棄のほうが手続きが軽い)
- 相続人の中に反対する人や、連絡が取れない人がいる
- 不動産の値上がり益が大きく、税金の負担が重くなりそう(下の章)
借金を引き継ぐかどうかで迷っている段階なら、3つの方法の選び方を親の借金は相続する?相続放棄の前に借金を調べる方法と払う義務の考え方で比べてください。
要件:相続人全員で・3か月以内に・財産目録を付けて
限定承認の要件は、民法と裁判所の案内から次の3つにまとめられます。
- 相続人全員が共同ですること(923条)。1人でも反対すると申述できません。ただし、裁判所の家事事件Q&Aのとおり、相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされるので、放棄した人を除いた残りの相続人全員で申述します。
- 3か月以内にすること(924条・915条1項)。自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。間に合わないときは、期間内に家庭裁判所に伸長を申し立てます。
- 相続財産の目録を作って出すこと(924条)。相続放棄にはない書類で、預貯金・不動産・借金などを一覧にします。
申述先は、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所です。裁判所の案内では、費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに違う)です。書類は申述書に、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍謄本などを添えます。申述する人の順位によって、追加の戸籍が必要になります。民法924条は財産目録を家庭裁判所に出すよう定めているので、目録の書き方は申述先の家庭裁判所で確かめてください。
注意したいのは、目録を作る段階から財産に手を付けないことです。限定承認をした後でも、財産を隠したり、ひそかに使ったり、悪意で目録に書かなかったりすると、単純承認をしたものとみなされることがあります(921条3号)。共同相続人のうち誰かにこうした事情があると、債権者は、財産で払いきれなかった分をその人に相続分に応じて請求できます(937条)。
申述から清算までの流れ
限定承認は、申述が受理されたあとに清算の手続きが続くのが、相続放棄との大きな違いです。流れは次の5段階です。
- 財産と借金を調べ、財産目録を作る
- 相続人全員で、3か月以内に家庭裁判所へ申述する
- 受理後、官報公告と知れている債権者への催告をする
- 申出期間が終わったら、債権額の割合で支払う(必要なら財産を売って現金にする)
- 残った財産があれば、相続人が引き継ぐ
- 申述前:財産目録づくり、相続人全員の同意
- 申述(3か月以内):全員で家庭裁判所へ
- 受理後:官報公告と個別の催告
- 申出期間のあと:債権額の割合で支払い
- 最後:残った財産を相続人が引き継ぐ
日数の数え方や各段階の細かい決まりは、限定承認の手続き:申述・官報公告・清算までのスケジュールで順に説明しています。
知っておきたい負担:税金と手間
限定承認には、相続放棄や単純承認にはない税金の論点があります。所得税法59条1項1号は、限定承認による相続で資産が移ったときは、その時の価額(時価)で譲渡があったものとみなすと定めています。つまり、亡くなった人が安く買った土地が値上がりしていれば、その値上がり益に、亡くなった人の所得税がかかることになります。これは、亡くなった人の所得についての申告(準確定申告)で扱い、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です(国税庁 No.2022)。
手間の面では、目録の作成、公告、債権者への催告、換金、支払いと工程が多く、公告の申出期間だけでも2か月以上あります(927条1項)。清算が終わるまでには相応の期間がかかります。家庭裁判所に出す書類の作成は司法書士、清算の進め方や債権者とのやりとりの判断は弁護士、準確定申告とみなし譲渡の税額は税理士の仕事になります。費用や負担の比べ方は限定承認のデメリット:手間・費用・みなし譲渡の税金、頼み分けは相続手続きの専門家の違いを見てください。
限定承認を選ばずに放棄する場合の手続きは相続放棄とは:期限3か月の手続き・費用・してはいけないことにまとめています。
よくある質問
Q. 相続人の1人が限定承認に反対したら、どうなりますか?
相続人が数人いるときは、全員が共同しないと限定承認はできません(民法923条)。反対する人がいる限り、残りの人だけで申述することはできません。ただし、反対する人が相続放棄をすれば、その人は初めから相続人でなかったことになるため、残りの相続人全員で申述できます。
Q. 公告の期間が終わった後に、知らなかった債権者が現れたら?
公告の期間内に申し出なかった債権者で、限定承認をした人に知られていなかった人は、ほかの債権者への支払いが済んだ後の残りの財産からしか支払いを受けられません(民法935条)。ただし、抵当権など特別の担保を持つ債権者は別です。
Q. 限定承認と相続放棄は、どちらを先に考えるべきですか?
借金が財産を明らかに上回り、残したい物もないなら、1人で手続きでき書類も少ない相続放棄が先に検討されやすい選択肢です。借金の額が読めない、家や事業など手元に残したい財産がある、という場合に限定承認を比べます。どちらも3か月以内に決める必要があります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第915条・第921条〜第937条・第939条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続の限定承認の申述(裁判所)(最高裁判所)
- 家事事件Q&A(裁判所)(最高裁判所)
- 所得税法 第59条・第60条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。