準確定申告の医療費控除:亡くなった後に払った入院費は入るか
準確定申告の医療費控除に入るのは、亡くなった人が死亡日までに実際に支払った医療費だけです。亡くなった後に相続人が支払った入院費は、準確定申告には入りません。その医療費は、亡くなった人と生計を一にしていた相続人なら自分の所得税の医療費控除で、相続税の申告が要る家なら相続税の債務控除で扱うことになります。この記事では、どの支払いがどこに入るかを分け、高額療養費の差し引き方と還付金の受け取り方を、筆者の計算例で示します。
準確定申告の医療費控除に入るのは「死亡日までに支払った分」
国税庁のコード2022 は、準確定申告の医療費控除について、死亡の日までに被相続人が支払った医療費が対象で、死亡後に相続人が支払った医療費は含めないと書いています。
基準は「治療を受けた日」ではなく「支払った日」です。国税庁の質疑応答事例「未払の医療費」では、年内に治療が終わっていても、未払いの医療費はその年の医療費控除の対象にならず、実際に支払った年の対象になるとしています。入院中に亡くなった場合、最後の月の入院費は死亡後に請求されることが多く、これが準確定申告から外れる典型です。
| 支払いの時期と支払った人 | 準確定申告の医療費控除 | 相続人の所得税の医療費控除 | 相続税 |
|---|---|---|---|
| 死亡日までに本人の口座・現金で支払った | 入る | 入らない | 支払い済みなので債務にはならない |
| 死亡後に相続人が支払った(治療は生前) | 入らない | 治療時に生計を一にしていれば入る(質疑応答事例) | 死亡時に存在した確実な債務として債務控除の対象になりうる(個別の判断は税務署・税理士) |
| 死亡後に受け取った高額療養費・保険金 | 対象の医療費から差し引く | 対象の医療費から差し引く | 受け取る給付は財産の一覧に載せ、扱いを税務署・税理士に確かめる |
亡くなった後に払った入院費の行き先
死亡後に支払った医療費は、次の2つの点を別々に確かめます。
1つ目:相続人の所得税の医療費控除。 国税庁の質疑応答事例「死亡した父親の医療費」では、父の死亡後に請求された入院加療期間の医療費を長男が支払った場合、父が治療を受けた時に父と長男が生計を一にしていれば、長男の医療費控除の対象になるとしています。長男は、支払った年の自分の確定申告で控除します。離れて暮らし、仕送りもなかったなど生計が別なら、この扱いにはなりません。
2つ目:相続税の債務控除。 国税庁のコード4126 は、被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるものを、遺産総額から差し引けるとしています。国税庁のページに医療費という言葉はありませんが、死亡後に請求された生前の治療費は、死亡時点で支払う義務があった債務に当たるのが普通です。控除できるかの最終判断は税務署か税理士に確かめてください。相続税の申告が要るかどうかは相続税の債務控除で引けるもの・引けないものとあわせて確かめてください。相続税がかからない家なら、この点は考えなくてかまいません。
支払いのメモの例:「4月分入院費 120,000円 治療期間 4/1〜4/18(死亡日4/18) 請求日 5/8 支払日 5/12 支払者 長男(口座振込)」
支払った人・日・治療の期間が後から分かるように、領収書の余白か別紙にこの形で書いておくと、準確定申告・長男の確定申告・相続税の3つで迷いません。
計算の手順と筆者の計算例
医療費控除の額は、国税庁のコード1120 の式で計算します。
- 死亡日までに支払った医療費を合計する
- 高額療養費や入院給付金など、補てんされる金額を差し引く(補てんの目的になった医療費を限度に引き、引ききれない分を他の医療費からは引かない)
- 10万円を差し引く。ただし亡くなった人の総所得金額等が200万円未満なら、10万円の代わりに総所得金額等の5%を差し引く
- 残りが医療費控除の額(最高200万円)
筆者の計算例:2026年4月に亡くなった人が、死亡日までに入院費38万円と通院・薬代4万円を支払っていた。死亡後に、生前の入院分の高額療養費15万円が支給された。年金と家賃収入があり、総所得金額等は180万円。 支払った医療費 420,000円 − 高額療養費 150,000円 = 270,000円 総所得金額等が200万円未満なので、1,800,000円 × 5% = 90,000円を差し引く 270,000円 − 90,000円 = 医療費控除 180,000円
高額療養費の額が申告の時点で決まっていなければ、国税庁の質疑応答事例どおり見込み額を差し引きます。後で確定額が見込みと違ったら、遡って医療費控除額を訂正します。
死亡後に支払った最終月の入院費は、この計算には入れません。その分は上の「亡くなった後に払った入院費の行き先」で扱います。
還付金は誰が受け取るか
医療費控除で税金が戻る場合、還付金は相続人が受け取ります。付表の書き方では、還付される税金を相続人の協議で分けたならその額を、そうでなければ各人の相続分で分けた額(1円未満切捨て)を、各人の還付金額の欄に書くとされています。受取口座は各人の本人名義の口座です。
代表者がまとめて受け取りたい場合は、付表とは別に「委任状(準確定申告書用)」を出します。各相続人が申告の内容と還付額を確かめて署名する書類です。付表の欄ごとの書き方は準確定申告の書き方と付表の記載例で確かめられます。
還付金は、亡くなった人の所得税が戻ってくるものなので、遺産の一部として分ける対象です。遺産分割協議書を作る家では、還付金を誰が取得するかも書いておくと、後で口座の受け取り方で揉めずに済みます。
医療費の領収書の集め方
- 病院・薬局の領収書:死亡日までの支払い分を、支払日の順に並べます。入院費は月ごとの請求なので、支払日が死亡日の前か後かで分けます。
- 医療費通知:健康保険の医療保険者から届く医療費通知を添付すると、明細書の記載を簡略にできます(国税庁のコード1120)。通知に載らない支払いもあるので、領収書と照らし合わせます。
- 医療費控除の明細書:領収書から作って申告書に添付します。領収書は、確定申告期限等から5年を経過する日まで提示を求められることがあるので、手元に残します。
- 高額療養費の支給決定通知:差し引く額の根拠になります。
ほかに集める書類は準確定申告の必要書類と集め方にまとめています。医療費の振り分けが複雑で自分では難しいと感じたら、頼み先の比べ方を準確定申告は誰に頼むか:税務署の相談と税理士で確かめてください。
「準確定申告 医療費控除」の話が相続税の手続き全体のどこに当たるかは、相続税とは?かかる人の目安・計算の流れ・申告期限10か月の全体像で確かめられます。
よくある質問
Q. 準確定申告の医療費控除はいつまでに申告すればよいですか?
準確定申告を出す義務がある場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です(所得税法125条1項)。税金を納める必要がなく還付だけを受ける申告は125条2項の規定で、1項のような4か月の期限の文言はありません。ただ、相続税の申告や遺産の分け方で還付金の額を使うことが多いので、4か月以内に済ませておくと後の手続きが進めやすくなります。
Q. 亡くなった後に支給された高額療養費は、医療費控除でどう扱いますか?
高額療養費は医療費を補てんする給付なので、その給付の対象になった医療費から差し引きます。準確定申告を出す時点で額が決まっていない場合は、国税庁の質疑応答事例どおり見込み額を差し引き、確定額が違ったら遡って訂正します。
Q. 介護施設の費用も準確定申告の医療費控除に入りますか?
国税庁のコード1122では、介護保険制度で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額が医療費控除の対象に挙げられています。対象になるのは死亡日までに支払った分で、施設が発行する領収書に医療費控除の対象額が書かれているかを確かめて集めます。
出典・参考にした公的な情報
- No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁)
- No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)(国税庁)
- No.1122 医療費控除の対象となる医療費(国税庁)
- 質疑応答事例 死亡した父親の医療費(国税庁)
- 質疑応答事例 未払の医療費(国税庁)
- 質疑応答事例 医療費を補填する保険金等が未確定の場合(国税庁)
- No.4126 相続財産から控除できる債務(国税庁)
- 死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表 書き方(国税庁)
- 所得税法 第125条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。