相続税と申告 / Q&A

相続税の債務控除:借金や葬儀費用は引ける?対象と対象外の一覧

この記事のもくじ
  1. 借金・未払金・未納の税金は引ける:債務控除の条件
  2. 引けないもの:墓地の未払代金・保証債務・相続後の費用
  3. 引けるのは誰か:相続人・包括受遺者と、放棄した人の葬式費用
  4. 葬式費用で引けるもの・引けないもの
  5. 計算例と申告書の書き方

相続税の計算では、亡くなった人の借金・未払金・まだ納めていなかった税金と、葬儀にかかった費用を、遺産の額から差し引けます(債務控除、相続税法13条)。借入金の残高、クレジットカードの未払い、亡くなる前の入院費、準確定申告で納める所得税などが代表例です。一方、生前に買った墓地の未払代金、香典返し、初七日などの法要の費用、原則として保証債務は差し引けません。この記事では、引けるもの・引けないものを一覧にし、誰が引けるか、申告書にどう書くかを示します。

借金・未払金・未納の税金は引ける:債務控除の条件

差し引ける債務は、亡くなった時に現に存在し、確実と認められるものです(相続税法13条・14条)。国税庁は、借入金や未払金のほか、亡くなった人が納めるべきだった国税・地方税でまだ納めていなかったものも含まれると説明しています(No.4126)。

区分 差し引けるもの 確かめる書類
借入金 銀行・カードローンの残高、親族や知人からの借入れ 残高証明書、借用書、返済の記録
未払金 クレジットカードの未払い、亡くなる前の入院費・治療費、公共料金 利用明細、領収書(診療期間を見る)
未納の税金 準確定申告で納める所得税、死亡時に納付義務が確定していた住民税・固定資産税 申告書の控え、納税通知書
事業の債務 事業の買掛金・未払費用 帳簿、請求書

借用書などの書面がなくても、債務が確実と認められれば差し引けます。また、金額が決まっていなくても存在が確実なものは、相続開始時の状況で確実と認められる範囲の金額を引けます(相続税法基本通達14-1)。逆に、亡くなった時点ですでに消滅時効が完成していた債務は、確実な債務に当たりません(同14-4)。

準確定申告で納める所得税は、相続人が亡くなった後に納めるものですが、亡くなった人の税金なので債務控除の対象です。準確定申告の期限と進め方は準確定申告とは?4か月の期限・必要な人・やり方で扱っています。借金の全体像をつかむには、相続財産の調べ方:預金・不動産・借金を漏れなく見つける照会先一覧の照会先から順に確かめます。

引けないもの:墓地の未払代金・保証債務・相続後の費用

債務らしく見えても、差し引けないものがあります。

一覧:相続税の債務控除で「引けるもの」と「引けないもの」
項目 扱い 根拠
借入金・未払金・未納の税金 引ける 相続税法13条、No.4126
生前に買った墓地・墓石の未払代金 引けない(墓地は非課税財産のため) 相続税法13条3項、通達13-6
保証債務(連帯保証を含む) 原則引けない。主たる債務者が弁済できず、肩代わりしても返してもらう見込みがない部分だけ引ける 通達14-3
連帯債務 自分の負担分が明らかならその額を引ける 通達14-3
消滅時効が完成していた債務 引けない 通達14-4
相続財産の管理などに使う費用(民法885条の「相続財産に関する費用」) 債務としては引けない 通達13-2
相続人の申告が遅れて生じた延滞税・加算税 引けない No.4126
葬式費用(通夜・火葬・お布施など) 引ける 相続税法13条、No.4129
香典返し・墓地墓石の購入・法要の費用 引けない 通達13-5

特に間違えやすいのは保証債務です。亡くなった人が誰かの借金の保証人だった場合、相続人は保証人の立場を引き継ぎますが、相続税の計算で差し引けるのは、主たる債務者が返せない状態にあり、相続人が代わりに払っても取り戻せる見込みがない部分に限られます(通達14-3)。保証債務を引き継ぐかどうかという相続そのものの問題は、親が連帯保証人だった場合の相続:保証債務は引き継ぐのかで整理しています。

墓地を生前に買えば非課税財産になりますが、代金が未払いのまま亡くなった場合、その未払代金は差し引けません(通達13-6)。墓地を相続財産に入れない代わりに、その代金も引かないという考え方です。

引けるのは誰か:相続人・包括受遺者と、放棄した人の葬式費用

債務控除を使えるのは、相続や遺贈で財産を取得した人のうち、相続人と包括受遺者(遺産の割合を指定して遺贈を受けた人)です(相続税法13条)。特定の財産だけを遺贈で受けた相続人以外の人は、債務を負担しても差し引けません。

立場 債務 葬式費用
相続人 実際に負担した額を引ける 実際に負担した額を引ける
包括受遺者 引ける 引ける
相続を放棄した人・相続権を失った人 引けない 実際に負担した額は、遺贈で取得した財産(死亡保険金など)から引いてよい
一定の非居住者など 範囲が限られる 引けない

放棄した人の葬式費用の扱いは、相続税法基本通達13-1によります。たとえば長男が相続を放棄したあと、喪主として葬儀費用を払い、死亡保険金を受け取った場合、その葬儀費用は保険金の額から差し引けます。

「負担した額」は、相続人が実際に負担した金額です。負担する人が決まっていないときは、法定相続分や指定相続分の割合で負担したものとして計算します(通達13-3)。遺産分割協議で「借入金は長男が負担する」と決めたなら、長男の課税価格からその額を引きます。

葬式費用で引けるもの・引けないもの

葬式費用は債務とは別枠で、相続人が負担した分を差し引けます(No.4129、通達13-4・13-5)。

引ける 引けない
通夜・告別式の費用、火葬・埋葬・納骨の費用 香典返しの費用
仮葬式と本葬式の両方の費用 墓地・墓石の購入費、墓地の借入料
お寺へのお布施・読経料などのお礼 初七日・四十九日などの法会の費用
遺体や遺骨の運搬、遺体の捜索の費用 医学上・裁判上の特別な処置の費用
葬式の前後に通常かかる出費(お通夜の費用など) —

領収書が出ないお布施は、支払った日・金額・支払先・名目をメモにして残します。誰が立て替えたか、遺産から精算するかといった家族の間の取り決めは相続の葬儀費用を立替えたら?遺産からの精算と相続税の控除の扱いで詳しく説明しています。

計算例と申告書の書き方

相続人が母・姉・本人の3人で、財産の合計6,000万円、債務と葬式費用の合計1,000万円の場合を考えます(筆者の設定と計算)。

  1. 課税価格の合計:6,000万円−1,000万円=5,000万円
  2. 基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  3. 判定:5,000万円が4,800万円を超えるので、相続税の申告が必要

もし債務と葬式費用が1,300万円あれば、課税価格の合計は4,700万円になり、基礎控除以下になります(筆者の計算)。債務の漏れは、申告が要るかどうかの判定そのものを変えます。

申告書では、債務と葬式費用を第13表(債務及び葬式費用の明細書)に書き、負担する人ごとの金額を第1表に移します。書くときの注意は次のとおりです。

  • 債務は、種類・債権者・金額・負担する人を1件ずつ書く。
  • 葬式費用は、支払先・支払日・金額を書き、領収書やメモと合わせておく。
  • 各人の財産から債務と葬式費用を引いて赤字になるときは0円とし、そのうえで加算対象の生前贈与を足す。

ほかの控除と合わせた全体は相続税の控除一覧:配偶者・未成年者・障害者・相次相続の早見表で確かめられます。次に読む記事は、相続人の数え方で基礎控除が変わる相続税と養子縁組:基礎控除に数える人数の上限と注意点です。

「相続税 債務控除」の話が相続税の手続き全体のどこに当たるかは、相続税とは?かかる人の目安・計算の流れ・申告期限10か月の全体像で確かめられます。

よくある質問

Q. 借金の額を証明する書類がないと、債務控除はできませんか?

国税庁の通達は、借用書などの書面がない債務でも、確実と認められれば差し引けるとしています(相続税法基本通達14-1)。ただし、申告後に税務署から説明を求められたときに示せるよう、通帳の入金記録や返済の記録、貸した人とのやり取りなど、債務があったことの分かるものを集めておきます。

Q. 亡くなった後に支払った入院費は差し引けますか?

亡くなった時点で病院に支払う義務があった入院費や治療費は、亡くなった人の未払金として債務控除の対象になります(国税庁 No.4126)。支払ったのが死亡後でも、対象は亡くなる前に受けた治療の分です。領収書の日付と診療期間を確かめて、第13表に書きます。

Q. 遺産より借金のほうが多い場合、相続税はどうなりますか?

各人の課税価格は、取得した財産から債務と葬式費用を引いた額で、赤字なら0円になります。遺産全体で借金が多いときは、相続税よりも先に、相続放棄を考えるかどうかが問題になります。放棄には相続を知った時から3か月の期限があるので、財産と借金の調査を急ぎます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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