山林は相続土地国庫帰属制度で手放せる?負担金と境界の問題
相続した山林も、相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえます。森林の負担金は一律20万円ではなく面積で計算し、法務省の資料の例では1,500㎡で約27万円、3,000㎡で約30万円です。広くなるほど1㎡あたりの額は下がり、1ha(10,000㎡)でも筆者の計算で36万7千円です。山林で難しいのは費用より境界の明示で、隣との境界点に杭などの目印を置き、写真で示す必要があります。さらに、追加の間伐などが要る森林は承認されないことがあります。この記事では、負担金の計算、境界の準備、森林に特有の不承認の理由、ほかの手放し方を順に答えます。
山林は相続土地国庫帰属制度で手放せる?条件と実績
法務省のQ&Aは、森林も申請できると明記しています。条件はほかの土地と同じで、相続か相続人への遺贈で取得した所有者が、土地のある都道府県の法務局本局に申請します。森林が承認されるときは、法務大臣はあらかじめ農林水産大臣の意見を聴き(8条)、国に帰属した後は農林水産大臣(森林管理局など)が管理します(12条1項)。
法務省の速報値(2026年9月30日現在)では、申請6,125件のうち地目が山林のものは928件、国に帰属した森林は229件です。一方、不承認103件のうち37件の理由が「追加の整備が要る森林」でした。山林の申請は全体の約15%(928÷6,125、筆者の計算)ですが、不承認では森林の理由が目立ちます。
申請の前提として、次の3点を先に確かめてください。
- 名義と範囲:相続した山林の地番・面積・名義。名義が祖父母のままの山林も多く、登記の整理と場所の調べ方は山林の相続登記:義務化の対象・場所が分からない時の調べ方にまとめています。
- 市町村の経営管理権:森林経営管理制度で市町村に経営管理権が設定されている森林は、そのままでは申請できず、先に解消が要ると法務省のQ&Aにあります。
- 共有:昔の山林は兄弟やいとこと共有のことがあります。国庫帰属は共有者全員での申請が条件です。
山林の負担金:面積で増える仕組みと計算例
「主に森林として利用されている土地」の負担金は、施行令5条1項3号の表で、地積の区分ごとに「地積×単価+固定額」で計算します。面積は登記記録の地積を使い、1,000円未満は切り捨てます。
| 地積の区分 | 計算式 | 計算例(筆者の計算) |
|---|---|---|
| 750㎡以下 | 地積×59円+210,000円 | 700㎡ → 251,000円 |
| 750㎡超1,500㎡以下 | 地積×24円+237,000円 | 1,500㎡ → 273,000円 |
| 1,500㎡超3,000㎡以下 | 地積×17円+248,000円 | 3,000㎡ → 299,000円 |
| 3,000㎡超6,000㎡以下 | 地積×12円+263,000円 | 5,000㎡ → 323,000円 |
| 6,000㎡超12,000㎡以下 | 地積×8円+287,000円 | 10,000㎡ → 367,000円 |
| 12,000㎡超 | 地積×6円+311,000円 | 30,000㎡ → 491,000円 |
10ha(100,000㎡)でも「100,000×6円+311,000円=911,000円」で、面積が10倍になっても負担金は10倍にはなりません。これとは別に、申請時の審査手数料が1筆14,000円かかります。
隣り合う筆はまとめると安くなることがあります。 隣接する2筆以上がどちらも森林の区分なら、申し出て1筆とみなして計算できます(施行令6条)。1,500㎡の山林が2筆隣り合っている場合、別々なら273,000円×2=546,000円ですが、3,000㎡の1筆とみなせば299,000円です(筆者の計算)。法務省の負担金のページには自動計算シートがあり、区分と地積を入れると試算できます。費用と条件の全体は相続土地国庫帰属制度とは:国に引き取ってもらう条件と費用にまとめています。
- 700㎡:251,000円
- 1,500㎡:273,000円
- 3,000㎡:299,000円
- 1ha(10,000㎡):367,000円
- 3ha(30,000㎡):491,000円
- 10ha(100,000㎡):911,000円 (施行令5条1項3号の式による筆者の計算。1,000円未満切捨て)
境界の明示:山林でいちばんの壁
申請の時点で境界が明らかでない土地は、却下の理由になります(2条3項5号)。法務省のQ&Aでは、確定測量までは求めないかわりに、次のことが求められています。
- 自分が認識している境界点を現地で示せること:範囲が現地で特定できない土地は申請できません。
- 隣の所有者の認識と合っていること:法務局は隣接地の所有者にも境界の認識を確かめます。異議が出ると却下の理由になりますが、解決すれば承認されることもあります。
- 目印のない境界点に目印を設置すること:審査中も帰属後も見分けられる、耐久性のある杭などが要り、仮の目印は認められません。道や塀など既存の物が境界を示していれば、それで足りることもあります。
- すべての境界点の写真を出すこと:写真の上に境界の位置を示します。
山林では、隣の所有者も相続で代替わりして境界を知らない、現地に行くまでの道がない、目印が朽ちている、ということがよくあります。境界の場所が分からないときは、法務省も土地家屋調査士への相談を案内しています。境界確定図などの資料が手元にあれば、写しを出すと審査が円滑に進む可能性があると法務省は案内しています(必須ではありません)。
森林ならではの不承認の理由
申請できても、次のような山林は承認されないことがあります(5条1項、施行令4条)。
| 理由 | 中身 | 山林で起こりやすい場面 |
|---|---|---|
| 追加の整備が要る森林 | 市町村森林整備計画に合わず、追加の造林・間伐・保育が要る | 植林した後に間伐されず放置された人工林 |
| 管理の妨げになる樹木など | 法務省のQ&Aの例は、民家・公道・線路の近くで倒木や枝の落下を防ぐために定期的な伐採が要る枯れ木、周りに広がるおそれがあり定期的な伐採が要る竹、果樹園の樹木、補修が要る治山事業の工作物 | 道路や民家に倒れかかる木、広がった竹林 |
| 災害の防止が要る | 土砂の崩壊などのおそれがあり、保護工事などの軽微でない措置が要る | 崩れかけた斜面、沢の流出 |
| 獣害・病害虫 | 森林では、森林病害虫等の発生で駆除や拡大防止の措置が現に要るかを見る。イノシシやクマが生息する可能性があるだけの抽象的な段階なら引き取れる | スズメバチの巣の駆除が要る、害虫が広がっている |
| 崖 | 勾配30度以上かつ高さ5m以上で、崩落の危険があり管理に過分の費用がかかる。崖の近くに民家・道路・線路があると該当する可能性が高い | 急斜面の多い山 |
法務省のQ&Aでは、人工林は適切に間伐されているか、天然林は標準伐期齢などを基準に見るとされています。放置された人工林は、間伐の費用をかけてから申請するか、ほかの道を選ぶかの判断になります。
国庫帰属が難しい山林のほかの手放し方
境界や整備の費用が大きいときは、次の道と比べます。
- 市町村に管理を任せる:森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林について、市町村が所有者から経営管理の委託を受け、林業に向く森林は地域の林業経営体に再委託し、向かない森林は市町村が管理する仕組みです。所有権は残りますが、管理の手間を減らせます。市町村からの意向調査に回答するのが入口です。
- 隣接する山林の所有者や林業経営体に譲る・売る:まとまった面積を求める人がいることがあります。田舎の土地の売り方は田舎の土地が売れない相続:手放す5つの方法と費用の比べ方で比べています。
- 自治体への寄付:使い道がある土地に限られやすいので、事前に相談します。
- 相続放棄:相続の開始があったことを知った時から3か月以内なら選べますが、山林だけでなく全部の財産を手放すことになります。
なお、森林の土地の所有者になった人は、所有者になった日から90日以内に市町村長へ届け出ることになっています(林野庁の森林の土地の所有者届出制度)。国庫帰属を待つ間も届出は別に必要です。田や畑を一緒に相続したときは、農地は相続土地国庫帰属制度で手放せるか:農地法の制限と選択肢も読んでください。申請書づくりを専門家に頼むなら、申請書を作れる専門家と費用で頼み先を比べられます。
よくある質問
Q. 山林の境界を確定する測量をしないと申請できませんか?
確定測量や隣の人との境界確認書は、申請の必須書類ではありません。求められるのは、自分が認識している境界点を現地で示せることと、隣の人の認識と食い違わないことです。目印のない境界点には、審査中も帰属後も残る杭などを設置して写真に撮ります。場所が分からない場合は土地家屋調査士に相談します。
Q. 山林の固定資産税がかかっていないのに、負担金を払ってまで手放す意味はありますか?
税が少なくても、所有者には倒木や土砂の流出で隣や道路に被害が出たときの責任の問題が残り、次の世代にも相続されます。負担金は1回きりで、納めた時に所有権が国に移ります。一方で、手放さずに市町村へ管理を任せる森林経営管理制度などの道もあるので、費用と手間を並べて比べるとよいでしょう。
Q. 相続した山林の場所が分からなくても、国庫帰属を申請できますか?
申請には土地の位置と範囲の図面、境界点の写真が要るので、現地で範囲を示せない土地は申請できません。まず公図や森林簿、市町村の林務担当の資料で位置を調べ、それでも分からなければ土地家屋調査士に相談します。山林の場所の調べ方は、山林の相続登記の記事で扱っています。
出典・参考にした公的な情報
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条・第5条・第8条・第12条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 同法施行令 第4条・第5条・第6条(不承認の土地・森林の負担金の算定)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続土地国庫帰属制度に関するQ&A(令和7年9月1日現在)(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年9月30日現在)(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度の負担金(法務省)
- 森林の土地の所有者届出制度(林野庁)
- 森林経営管理制度(森林経営管理法)(林野庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。