相続の費用は経費や控除になる?相続税と売却の税金で引ける費用
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相続税の計算で差し引けるのは、「亡くなった人(被相続人)の債務」と「葬式費用」の2つです。 相続人が後から頼んだ司法書士・税理士・弁護士の報酬や、相続登記の登録免許税は、相続税では引けません。一方、相続した不動産を売ったときの税金(譲渡所得の所得税・住民税)では、相続人が払った登記費用が取得費に入り、仲介手数料などが譲渡費用として引けます。どの費用がどこで引けるかを、条文と国税庁の説明で順に整理します。
結論:相続税で引けるのは「被相続人の債務」と「葬式費用」だけ
相続税法13条1項は、課税価格から差し引けるものとして、①被相続人の債務で相続開始の際に現にあるもの(公租公課を含む)、②被相続人に係る葬式費用、の2つを挙げています。14条で、債務は「確実と認められるもの」に限られます。
- 差し引ける債務の例:借入金、亡くなった時点で未払いだった医療費や公共料金、亡くなった後に納めることになった被相続人の税金(準確定申告の所得税、固定資産税など)。
- 差し引ける葬式費用の例:火葬・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の運搬費、通夜など葬式の前後に通常かかる費用、お寺への読経料などのお礼(相続税法基本通達13-4)。
- 葬式費用に入らない例:香典返し、墓石・墓地の購入費や借入料、初七日などの法事の費用(同13-5、No.4129)。
- 債務にできない例:被相続人が生前に買った墓の未払い代金のように、非課税財産に関する債務は差し引けません(No.4126)。
お布施のように領収書が出ないものは、日付・金額・支払先・内容をメモに残しておきます。債務控除の対象外になるものの一覧は相続税の債務控除の対象と対象外で詳しく扱っています。
相続税で引けない費用:専門家報酬・登記費用・遺言執行の費用
亡くなった後に相続人が頼んだ専門家の報酬は、亡くなった時点で被相続人が負っていた債務ではありません。葬式費用でもないため、13条の2つのどちらにも当たりません。さらに国税庁の相続税法基本通達13-2は、民法885条で相続財産から支払う「相続財産に関する費用」は、13条の債務にならないと定めています。
| 費用 | 相続税 | 不動産を売ったときの税金 |
|---|---|---|
| 被相続人の借入金・未払いの医療費 | 引ける(債務) | ― |
| 葬儀・火葬・納骨・お布施 | 引ける(葬式費用) | ― |
| 香典返し・墓石・法要 | 引けない | ― |
| 相続税申告の税理士報酬 | 引けない | ― |
| 相続登記の登録免許税などの登記費用 | 引けない | 取得費に入る(業務用でない不動産)。司法書士報酬の扱いは税務署で確かめる |
| 戸籍などの証明書代 | 引けない | ― |
| 仲介手数料・売主負担の印紙税・貸家の立退料・土地を売るための建物の取壊し費用 | ― | 譲渡費用として引ける |
| 修繕費・固定資産税などの維持費 | ― | 譲渡費用にならない |
| 遺産分割をめぐる訴訟の費用 | ― | 取得費に入らない |
弁護士費用も同じ考え方で、遺産分割や遺留分の争いのために相続人が払った報酬は相続税では引けません。遺言執行者に払う報酬も、亡くなった時点の債務ではないため同じ扱いになります。相続税の申告を自分でできるか、税理士に頼むかを決めるときは、これらの報酬が税額を下げる材料にならない前提で見積もりを比べます。比べ方は相続の費用の見積もりの取り方にあります。
売却したときの税金で引ける費用:取得費に入る登記費用と譲渡費用
相続した土地・建物を売って利益が出ると、譲渡所得に所得税・住民税がかかります。譲渡所得は「売却額−(取得費+譲渡費用)」で計算し、ここで相続のときの費用の一部が効いてきます。
- 取得費:被相続人が買ったときの代金や手数料を引き継ぎます。加えて、業務に使っていない土地・建物なら、相続人が払った登記費用や不動産取得税も取得費に含まれます(国税庁 No.3270)。国税庁は取得費の例に「登録免許税(登記費用も含む)」を挙げています(No.3252)。
- 譲渡費用:売るために直接かかった費用です。仲介手数料、売主負担分の印紙税、貸家を売るための立退料、土地を売るための建物の取壊し費用などが入ります。修繕費や固定資産税などの維持管理の費用は入りません(No.3255)。
- 賃貸などの業務に使う不動産:これらの登記費用や不動産取得税は取得費に含まれません(No.3252)。賃貸中の不動産を相続したときの扱いは、税務署で確かめます。
- 取得費が分からないとき:売却額の5%を取得費にできますが、その場合は相続人が払った登記費用などを加えられません(No.3270・3258)。
筆者の計算で違いを見ます(建物の減価償却を省いた単純な例で、数字は仮のものです)。実家を3,000万円で売り、父が買ったときの代金が1,500万円、取得費に入る登記費用(登録免許税など)が12万円、仲介手数料などの譲渡費用が100万円の場合です。
| 計算 | 取得費が分かる場合 | 取得費が分からず5%を使う場合 |
|---|---|---|
| 売却額 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 取得費 | 1,500万円+登記費用12万円=1,512万円 | 3,000万円×5%=150万円(登記費用は加えない) |
| 譲渡費用 | 100万円 | 100万円 |
| 譲渡所得 | 1,388万円 | 2,750万円 |
検算:3,000−1,512−100=1,388万円。3,000−150−100=2,750万円。取得費の資料が見つかるかで、税金のかかる利益が大きく変わります。売却益の計算全体は相続不動産の売却益の税金、譲渡費用の範囲は不動産売却の税金で引ける費用で詳しく扱っています。
相続税を納めた人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続した不動産を売ると、納めた相続税の一部を取得費に加える特例もあります(No.3267)。相続税で引けなかった費用の代わりに、売却の段階で負担が軽くなる仕組みの一つです。
費用ごとの記録の残し方と、確かめる窓口
どの税金で使うかによって、残すべき書類が違います。相続の直後から、次の3つの束に分けて保管しておくと、申告のときに慌てません。
- 相続税用:被相続人の借入れの残高証明・未払いの請求書、葬儀社の請求書と領収書、お布施のメモ。
- 売却の税金用:被相続人が買ったときの売買契約書・領収書、相続登記の登録免許税の領収書と司法書士の請求書(報酬の扱いは税務署で確かめる)、仲介手数料の請求書。
- 相続人どうしの精算用:専門家の見積書・請求書、誰がいくら立て替えたかの記録(相続の専門家費用を誰が払うか)。
個別の費用が引けるかどうかの最終的な判断は、税務署か税理士の領分です。国税の一般的な質問は国税相談専用ダイヤルで、相続税・贈与税・譲渡所得の窓口につながります(番号と受付時間は相続の無料相談窓口一覧)。申告書の作成や、具体的な税額の計算の相談を仕事として受けられるのは、税理士など法律で認められた人に限られます(税理士法2条・52条)。
よくある質問
Q. 亡くなった父の未払いの入院費は、相続税で引けますか?
亡くなった時点で支払いが残っていた費用は、被相続人の債務として差し引く対象になりえます(相続税法13条1項1号)。請求書と領収書を残しておきます。対象と対象外の一覧は相続税の債務控除の記事にまとめています。
Q. 葬儀費用を長男が全部立て替えました。控除は誰の分から引きますか?
葬式費用は、実際に負担することになった人の課税価格から差し引きます。負担が決まっていないときは、民法の相続分などに応じた負担として扱えます(相続税法基本通達13-3)。立て替えた分を後で遺産から精算するなら、最終的に誰が負担したかが分かるよう、精算の記録も残しておきます。
Q. 遺品整理の費用は、相続税や売却の税金で引けますか?
遺品整理の費用は葬式費用の範囲に挙がっておらず、被相続人の債務でもないため、相続税では引けません。売却のときの譲渡費用としても国税庁の例には載っていないので、入れたい場合は申告前に税務署の電話相談で確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 相続税法 第13条(債務控除)・第14条(デジタル庁 e-Gov法令検索)
- 相続税法基本通達 第13条関係(13-2 相続財産に関する費用、13-4・13-5 葬式費用)(国税庁)
- No.4126 相続財産から控除できる債務(国税庁)
- No.4129 相続財産から控除できる葬式費用(国税庁)
- No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- No.3252 取得費となるもの(国税庁)
- No.3255 譲渡費用となるもの(国税庁)
- No.3258 取得費が分からないとき(国税庁)
- No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)(国税庁)
- 税理士法 第52条(税理士業務の制限)(デジタル庁 e-Gov法令検索)
- No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。