相続不動産の売却益の税金:親の取得費と取得日を引き継ぐしくみ
この記事のもくじ
相続した不動産を売って利益が出ると、その利益(譲渡所得)に所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。利益は「売った金額−(取得費+譲渡費用)」で出し、取得費は親が買ったときの代金が基になり、取得した日も親のものを引き継ぎます。親が20年も30年も前に買った家なら、相続の数か月後に売っても「長期」の扱いで、税率は合計で約20.315%です。本文では、4,200万円で売る場合の計算を最後まで追い、親の購入資料がないときに税額がどれだけ変わるかも示します。
相続した不動産の売却益に、税金はいくらかかる?
土地・建物を売った利益は、給与など他の所得とは分けて計算します(分離課税)。国税庁のタックスアンサー(No.3202)の式は次のとおりです。
- 譲渡所得の金額=売った金額−(取得費+譲渡費用)
- 課税される金額=譲渡所得の金額−特別控除額(使える特例があれば)
この課税される金額に、所有期間で決まる税率をかけます。
| 区分 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 長期(売った年の1月1日で所有期間5年超) | 15% | 所得税額の2.1% | 5% | 約20.315% |
| 短期(5年以下) | 30% | 所得税額の2.1% | 9% | 約39.63% |
合計の数字は国税庁のページに書かれた数字ではなく、筆者が内訳から出した値です(長期は15%×1.021+5%)。相続税とは別の税金で、利益が出なければ譲渡所得の税金はかかりません。税率の区分の詳細は譲渡所得税の税率:長期20.315%・短期39.63%と所有期間の数え方に、計算の型は譲渡所得税の計算方法:売却額−取得費−譲渡費用−控除の手順にあります。この記事は、相続で手に入れた不動産に固有の部分に絞ります。
取得費と取得日は、親のものをどう引き継ぐ?
国税庁のタックスアンサー(No.3270)によると、相続した土地・建物の取得費は、被相続人(亡くなった親)が購入したときの代金や購入手数料などを基に計算します。相続税の評価額(路線価などで出した額)が取得費になるわけではありません。取得した日も、親の取得日がそのまま引き継がれます。
| 項目 | 親から引き継ぐか | 売却益の計算での扱い |
|---|---|---|
| 購入代金・購入手数料 | 引き継ぐ | 取得費の基になる |
| 建物の減価償却 | 親の取得時からの年数で計算 | 建物の取得費を減らす |
| 取得した日 | 引き継ぐ | 長期・短期の判定に使う |
| 相続人が払った登記費用(業務用でない土地・建物) | 引き継がない(相続人本人の支出) | 取得費に含められる |
| 相続税の評価額 | 取得費とは別の数字 | 取得費にならない |
相続人が自分で払った登記費用も、事業や貸付けに使っていない土地・建物なら取得費に入ります。相続登記の登録免許税などがこれに当たります。ただし、購入時の代金が分からず**売った金額の5%を取得費とする方法(概算取得費)**を使うと、相続人が払った登記費用などは加えられません(No.3270、No.3258)。
祖父母から親へ、親から子へと相続が続いているときは、取得費と取得日はさらにさかのぼって引き継がれます(所得税法60条)。例外は限定承認(相続した財産の範囲で借金を引き継ぐ手続き)です。限定承認では、被相続人がその時の価額で資産を売ったものとみなされる決まりがあり(同法59条)、取得費と取得日の引継ぎの対象から外れます。限定承認を考える場合は、税の扱いが大きく変わるため、先に譲渡所得税の相談窓口:税務署の電話相談と確定申告会場の使い方で窓口を選び、税理士にも相談してください。
取得日と取得費の資料は、次の順に探します。
- 親が買ったときの売買契約書、領収書、建築請負契約書
- 親の確定申告書の控えや、購入時の借入れの書類
- 登記事項証明書(法務局)の所有権の欄に載る、取得の原因と日付
資料が見つからないときの探し方と5%の扱いは、取得費不明の不動産売却の税金:5%の概算と取得費の探し方にまとめています。
相続してすぐ売ると、短期で税金が重くなる?
重くなりません。長期か短期かは、親が取得した時から、相続人が売った年の1月1日までの期間で判定します(No.3270)。相続した日から数える決まりではありません。次の筆者の例で見ると分かります。
| 出来事 | 時期 | 判定での扱い |
|---|---|---|
| 親が土地・建物を購入 | 1993年4月 | 取得日として引き継ぐ |
| 親が亡くなり、子が相続 | 2025年3月 | 取得日は動かない |
| 子が売る(引渡し) | 2026年7月 | 判定は2026年1月1日時点 |
| 所有期間 | 1993年4月〜2026年1月1日 | 32年9か月で5年超なので長期 |
売ったのは相続の1年4か月後ですが、所有期間は親の取得から数えるため、長期の税率が使えます。もし相続日から数えて短期だと誤解すると、後の計算例で約465万円も多く見積もります。
2026年に売る場合の目安は次のとおりです。売った年の1月1日で5年を超えるのは、親の取得日が2020年12月31日以前のものです。2021年以後に親が買った不動産は、相続後に売っても短期になります。年が変わると線は1年ずつずれるので、売る年に合わせて数え直します。
親が買った家を4,200万円で売る場合の計算例(筆者の計算)
数字はすべて筆者が組んだ仮の前提です。読者の税額を示すものではありません。
- 親が1993年4月に新築の戸建てを購入。土地1,500万円、木造の建物1,800万円。
- 親が2025年3月に亡くなり、子1人が相続した。相続税はかからなかった。
- 相続登記の固定資産税評価額は土地1,200万円・建物100万円で、登録免許税は子が払った。
- 2026年7月に4,200万円で売り、引渡した。売主は仲介手数料の上限額と印紙税を負担した。
手順1:取得費を出す
建物は、非業務用なら「取得価額×0.9×償却率×経過年数」で減価償却費相当額を出し、取得価額から引きます(No.3261)。木造の償却率は0.031です。経過年数は、親の取得(1993年4月)から譲渡(2026年7月)までの33年3か月で、6か月未満の端数は切り捨てて33年とします。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 土地 | 購入額のまま | 1,500万円 |
| 建物の減価償却費相当額 | 1,800×0.9×0.031×33 | 1,657.26万円 |
| 建物の取得費 | 1,800−1,657.26 | 142.74万円 |
| 子が払った登録免許税 | 評価額1,300万円×0.4% | 5.2万円 |
| 取得費の合計 | 1,500+142.74+5.2 | 1,647.94万円 |
検算は、1,800×0.9=1,620、1,620×0.031=50.22、50.22×33=1,657.26です。減価償却費相当額が取得価額の95%(1,710万円)を超えないことも確かめています。
手順2:譲渡費用と譲渡所得を出す
仲介手数料は、4,200万円が400万円を超えるため上限で「(4,200万円×3%+6万円)×1.1=145.2万円」と見積もります。売買契約書の印紙税は、1,000万円超5,000万円以下で軽減後の1万円です(No.7108。契約書を2027年3月31日までに作る場合)。譲渡費用は合計146.2万円です。
譲渡所得の金額は、4,200−1,647.94−146.2=2,405.86万円です。
手順3:税額を出す
長期なので、次のとおりです。
| 税 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 所得税 | 2,405.86×15% | 約360.9万円 |
| 復興特別所得税 | 所得税額×2.1% | 約7.6万円 |
| 住民税 | 2,405.86×5% | 約120.3万円 |
| 合計 | 約488.8万円 |
検算は、2,405.86×0.20315=488.75万円です。
資料がなく、5%の概算取得費を使った場合
売った金額の5%は210万円です。譲渡所得の金額は4,200−210−146.2=3,843.8万円になり、税額は3,843.8×0.20315=約780.9万円です。実額の資料がある場合との差は約292万円になります。
相続日から数える誤解で短期にした場合
同じ2,405.86万円に短期の約39.63%をかけると約953.4万円で、長期との差は約465万円です。親の取得日の引継ぎを知らないと、判断を大きく誤ります。
この例の家は1993年築で、昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられた家屋という空き家特例の要件に当たりません。次の章で見る特例のどれを使えるかは、建築年と相続税の有無で分かれます。
売却益を減らせる特例と、申告・相談の進め方
相続した不動産に使えることがある特例は、主に2つです。どちらも相続した日付に期限があり、同じ物件で重ねて使えません。
| 特例 | 要点 | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 取得費加算の特例 | 相続税を払った人が、払った相続税の一部を取得費に足せる。譲渡は相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに行う(No.3267) | 取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみ |
| 被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除 | 昭和56年5月31日以前に建築された家屋などの条件で、最高3,000万円を控除。売却代金は1億円以下で、家屋を耐震リフォームして売るか、取り壊して土地を売る必要もある。売る期限は2027年12月31日までで、かつ相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。相続人が3人以上の場合は2,000万円が上限(No.3306) | 相続した空き家の3000万円控除:特別控除の要件と2027年末の期限 |
期限の数え方は相続不動産の売却期限:3年以内に売ると使える税の特例の早見表で一覧にしています。申告は、売った年の翌年2月16日から3月15日までに行います。時期と住民税の流れは譲渡所得税はいつ払う?売った翌年3月の申告・納付と住民税の時期で確かめられます。兄弟で共有しているときは共有名義の不動産を売却した時の税金:持分ごとの申告と特例を、代表者が売ってお金を分けるときは換価分割の税金:代表相続人が売って分ける時に贈与税にしない書き方を先に読みます。相続した土地にかかる税金の全体は相続した土地の税金4種類:相続税・登録免許税・固定資産税・売却時で見渡せます。
相談先の選び方です。国税相談専用ダイヤルや税務署は、一般的な取扱いの案内をします。個別の取得費の判断、特例の選択、申告書の作成は税理士の業務です。取得費の資料が足りない、特例のどちらが有利か迷う、共有で持分がそろっていないといった場面では、税理士に頼むという選択肢があります。紹介を受けるときは、譲渡所得の申告の経験があるか、料金の内訳が見積書に書かれているかを確かめます。
よくある質問
Q. 相続税を払っていなくても、取得費加算の特例は使えますか?
使えません。取得費加算の特例は、財産を取得した本人に相続税が実際に課されていることが要件です(国税庁 No.3267)。基礎控除の内側で相続税がかからなかった人は、この特例の対象外です。売却益を減らす道は、空き家の3,000万円特別控除などほかの特例に移ります。
Q. 兄弟で共有のまま売ったとき、売却益の税金は誰に、どう分かれますか?
共有名義で売った場合は、各共有者が自分の持分に応じて申告するのが基本です。親の取得費と取得日は、各人の持分ごとにそれぞれ引き継がれます。代表者が売って代金を分ける方法を取ると、贈与税の心配が出ることもあるため、進め方は専用の記事で確かめてください。
Q. 2027年以後に売ると、売却益の税率は変わりますか?
令和8年度の税制改正(2026年3月31日に成立・公布)で、2027年(令和9年)分以後、復興特別所得税が2.1%から1.1%に下がり、新たに防衛特別所得税が1%かかる内容になりました。合計は2.1%のまま変わりません。国税庁が公表する令和9年分の案内で、売る年の内訳を確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- No.3202 譲渡所得の計算のしかた(国税庁)
- No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁)
- No.3211 短期譲渡所得の税額の計算(国税庁)
- No.3258 取得費が分からないとき(国税庁)
- No.3261 建物の取得費の計算(国税庁)
- No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
- No.7108 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置(国税庁)
- 令和8年度税制改正の大綱(復興特別所得税・防衛特別所得税)(財務省)
- 令和8年度税制改正に関する法律(所得税法等の一部を改正する法律)の成立・公布(財務省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。