金融機関の相続手続き:複数の銀行を同時に進める順番と日数の確かめ方
金融機関が複数あるときは、1か所ずつ順に終わらせるより、全部に同時に連絡し、共通の書類をまとめてそろえ、同じ日に出すほうが早く終わります。共通の書類の中心は、法務局で無料で交付される法定相続情報一覧図の写しです。銀行・信用金庫・農協・ゆうちょの手続きは骨組みが同じで、違いは出資金や古い貯金など一部に限られます。所要日数は書類の準備でほぼ決まるので、期限から逆算して段取りを組みます。
複数の金融機関を効率よく回る順番
いちばん時間を食うのは、戸籍の束を金融機関の間で行き来させることです。次の順番にすると、待ち時間が重なって全体が短くなります。
- 取引先を洗い出す。 通帳、キャッシュカード、郵便物(定期預金の満期案内・取引明細)、スマホの銀行アプリ、引き落としの記録から、口座のある金融機関と支店を一覧にします。
- 全部の金融機関に一度に連絡する。 相続手続きの書類一式と残高証明書を依頼し、あわせて「法定相続情報一覧図の写しを使えるか」「郵送で出せるか」「書類の提出から払戻しまでの日数」を聞きます。
- 戸籍をそろえ、法定相続情報一覧図を申し出る。 被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人の戸籍を集め、法務局へ一覧図の写しを申し出ます。写しは必要な通数を申出書に書いて、金融機関の数だけもらいます。
- 残高証明書を見て、遺産分割協議をまとめる。 全口座の残高が出そろってから分け方を決めると、協議書の書き直しがいりません。
- 協議書に署名・実印をもらい、印鑑証明書をそろえる。 印鑑証明書の有効期限は金融機関が決めているので、一番短いところに合わせて取ります。
- 全部の金融機関へ同じ週に提出する。 不足書類の指摘が来たら、まとめて追加します。
| 金融機関 | 連絡日 | 一覧図の写し | 郵送 | 残高証明 | 提出日 | 払戻し日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A銀行 〇〇支店 | 使える/使えない | 可/不可 | 受取済 | |||
| B信用金庫 | ||||||
| C農協 | ||||||
| ゆうちょ銀行 | ||||||
| (表を埋めながら進めると、どこが止まっているかが一目で分かる) |
一つの口座について、凍結されてから解除されるまでに何が起きるかは、相続で口座凍結されたら:解除までの流れと公共料金・引き落としの対処で先に読んでおくと流れがつかめます。
銀行・信用金庫・農協・ゆうちょの共通点と違い
どの金融機関でも、預貯金は亡くなった時点で遺産になり、遺言か遺産分割協議の結果を示して払戻しを受ける、という骨組みは同じです。遺産分割の前に一部を受け取れる仮払い制度(民法909条の2)も、銀行・信用金庫・農協・ゆうちょの預貯金すべてが対象で、上限は1つの金融機関につき150万円です。
| 項目 | 銀行 | 信用金庫 | 農協(JA) | ゆうちょ銀行 |
|---|---|---|---|---|
| 預貯金の払戻し | 遺言・協議書と戸籍類で手続き | 同じ | 同じ | 同じ |
| 出資金 | なし | 会員の出資金がある。会員の死亡で脱退し、持分は定款に従って払戻しを請求する(信用金庫法17条・18条) | 組合員の出資金がある。死亡で脱退し、持分は定款に従って払戻しを請求する(農業協同組合法21条・22条) | なし |
| 払戻しの時期の注意 | 預金と同時に進む | 持分は脱退した事業年度末の財産で決まるため、預金より後になることがある。請求権は脱退の時から2年で時効にかかる(同法19条) | 同じく事業年度末の財産で決まる。請求権は脱退の時から2年で時効にかかる(農業協同組合法24条) | 預金と同時に進む |
| ほかに確かめるもの | 投資信託・貸金庫 | 共済・貸金庫 | 共済(保険とは別の窓口になる) | 郵政民営化前の貯金 |
ゆうちょ銀行では、郵政民営化(2007年10月1日)より前に預けた定額郵便貯金などは、郵政管理・支援機構が管理する貯金として扱いが分かれます(金融庁の休眠預金のQ&A)。古い通帳や証書が出てきたら、いつ預けたものかを見て窓口で聞きます。
証券口座の株や投資信託は、払い戻すのではなく相続人の口座へ振り替える別の手続きになります。証券会社の調べ方を含めて株の相続手続き:証券口座の調べ方から移管・売却まで、放置の影響で扱っています。
法定相続情報一覧図で並行して進める
法定相続情報証明制度は、相続人が一覧図と戸除籍謄本の束を法務局に出すと、登記官が確認して認証文つきの一覧図の写しを無料で交付する制度です。相続登記のほか、預金の払戻し、相続税の申告、年金の手続きにも使えると法務局が案内しています。
一覧図の写しがあると、金融機関ごとに戸籍の束を出して原本を返してもらうのを待つ必要がなくなり、複数の金融機関へ同時に出せます。申出先は、被相続人の本籍地・最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局で、郵送でも申し出られます。一覧図は申出の翌年から5年間保管され、その間は再交付も受けられます。
戸籍の集め方も2024年3月1日(令和6年3月1日)から楽になりました。本籍地が各地に分かれていても、最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できます(広域交付)。ただし請求できるのは本人・配偶者・父母や子などの直系の親族で、兄弟姉妹は対象外です。窓口へ本人が出向く必要があり、郵送や代理人では使えません。
一覧図の作り方は法定相続情報証明制度とは:一覧図を無料で作り手続きを早くする方法、戸籍の集め方は相続手続きの戸籍謄本の集め方:出生から死亡までそろえる手順と通数にまとめています。
所要日数の目安と、日数を縮める工夫
払戻しまでの日数は、大きく「書類をそろえる期間」と「金融機関の処理期間」に分かれます。全国共通の日数はありませんが、公開されている数字もあります。三井住友銀行の相続の案内ページ(2026年10月23日に確認)では、連絡してから所定の書類が届くまでに10日間程度(土日祝や混雑でさらにかかる)、戸籍謄本は発行から1年以内、印鑑登録証明書は発行から6か月以内のものを求めています。期限の短い印鑑証明書は、協議書の署名がそろう直前に取ると取り直しを避けられます。書類を出してから払戻しまでの日数は、案内に出していない金融機関が多いので、提出前の電話で聞きます。自分で縮められるのは書類集めのほうです。
目安を立てるための段取りの例を示します(日数は筆者の整理で、公的な数字ではありません)。
| 週 | やること | 同時に進めるもの |
|---|---|---|
| 1週目 | 全金融機関に連絡し、書類の送付を依頼。戸籍の請求と一覧図の申出 | 残高証明書の依頼 |
| 2〜3週目 | 銀行の書類が届く(10日間程度)。一覧図の写しを受け取る | 遺産分割の話し合い |
| 4〜6週目 | 協議書に署名・実印、印鑑証明書を取得 | 提出日の調整 |
| 7週目 | 全金融機関へ同じ週に提出 | 不足書類の追加 |
| 提出後 | 各金融機関の処理。日数は最初の電話で聞いた数字に従う | 相続税の期限から逆算 |
| 段階 | 日数を延ばす原因 | 縮める工夫 |
|---|---|---|
| 戸籍を集める | 本籍地が多い、兄弟姉妹が相続人で広域交付が使えない | 直系の親族なら広域交付でまとめて請求 |
| 一覧図の写しを受け取る | 戸籍の抜け・申出書の記入漏れ | 法務局の記載例どおりに作り、必要な通数を書く |
| 遺産分割協議 | 残高が出そろわない、相続人が遠方 | 残高証明書を全部集めてから一度で協議する |
| 署名・印鑑証明書 | 印鑑証明書の期限切れで取り直し | 期限が一番短い金融機関に合わせて取得 |
| 金融機関の処理 | 不足書類の追加 | 最初の連絡で書類一覧を紙でもらい、提出前に照合 |
払戻しの日程は、ほかの期限と重ねて考えます。相続するか放棄するかを決める3か月(熟慮期間)、準確定申告の4か月、相続税の申告・納付の10か月はいずれも「知った日」から数えます。相続税を預金で払う予定なら、10か月の期限より前に払戻しが終わるよう、書類の提出日から逆算して協議書の署名集めの締切を決めます。期限の並びは相続の期限一覧:3か月・4か月・10か月・3年の順番と過ぎたときの影響で確かめてください。
最初の連絡で聞くことと文例
最初の電話で聞き漏らすと、書類の取り直しで日数が延びます。次の項目を一度に聞いて、管理表に書き込みます。
- 相続手続きの書類一式の送付(または窓口での受け取り)
- 残高証明書の発行(死亡日時点の残高・発行手数料)
- 法定相続情報一覧図の写しを戸籍の代わりに使えるか
- 印鑑証明書の有効期限(発行から何か月以内か)
- 郵送での提出の可否と、窓口へ行く場合は予約が要るか
- 書類の提出から払戻しまでの日数(「営業日で何日」と聞き、メモに書く)
- 通帳・キャッシュカード・証書は提出するか
- 出資金・共済・投資信託・貸金庫があるか
文例(電話・窓口):「〇〇(名義人)が〇月〇日に亡くなりました。相続人の〇〇です。相続手続きの書類と、死亡日時点の残高証明書をお願いします。あわせて、法定相続情報一覧図の写しが使えるか、郵送で出せるか、提出から払戻しまでの日数を教えてください。」
通帳やキャッシュカードは、手続きの中で提出を求められることがあります。使えなくなった後も、取引の記録として遺産分割や相続税の確認に使うので、捨てずに保管しておきます。
よくある質問
Q. 法定相続情報一覧図の写しは、どの金融機関でも戸籍の代わりになりますか?
法務局は預金の払戻しにも使えると案内していますが、受け付けるかどうかは提出先が決めるため、最初の連絡で各金融機関に確かめます。使える金融機関には一覧図の写しを、使えない金融機関には戸籍の束を出すと、手元の書類を無駄なく回せます。
Q. 窓口に何度も行かないと手続きは終わりませんか?
書類の受け取りと提出を郵送で受け付ける金融機関もあり、窓口へ行く回数は金融機関ごとに違います。遠方の口座は、最初の電話で郵送の可否と、本人確認の方法を聞いておくと移動を減らせます。
Q. 相続人の一人が代表して、全部の金融機関を回ってもよいですか?
代表者を決めて動くと連絡の窓口が一本になり、早く進みます。ほかの相続人の署名・実印や委任状が要る場面があるので、書類にまとめて署名してもらう段取りを先に組みます。払い戻されたお金の受け取り方(代表者が受けて分けるか、各自の口座へ分けるか)も協議書に書いておくと後でもめません。
出典・参考にした公的な情報
- 法定相続情報証明制度について(法務局)
- 法定相続情報証明制度の具体的な手続について(法務局)
- 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)(法務省)
- 民法 第909条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 信用金庫法 第17条〜第19条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 農業協同組合法 第21条・第22条・第24条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 長い間、お取引のない預金等はありませんか?(金融庁)
- 休眠預金等活用法Q&A(預貯金者の方などへ)(金融庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。