生活保護を受けている人の相続手続き:収入の届け出と放棄の考え方
生活保護を受けている人が相続人になったら、まず担当の福祉事務所(ケースワーカー)に、相続人になったことと分かっている財産を届け出ます。生活保護法61条は、収入や生計の状況に変動があったときは速やかに届け出ると定めており、相続で得る財産は保護の判断にかかわるからです。借金が多い相続なら相続放棄も選べますが、放棄には3か月の期限があり、財産が多い相続の放棄は保護の扱いにかかわりうるので、届け出と相談を先にしてから決めます。
生活保護を受けている人が相続人になったら、何をする?
生活保護は、利用できる資産や能力などあらゆるものを、最低限度の生活のために活用することを前提に行われます(生活保護法4条1項)。厚生労働省の制度案内も、預貯金や生活に使っていない土地・家屋があれば売るなどして生活費に充てるよう求めています。相続で預金や不動産を受け取ると、この「活用できる資産」が増えることになります。
相続人になった時点で、すぐに財産の額がそろわなくても、分かっていることから伝えます。下の表は、相続にかかわる生活保護法の決まりをまとめたものです。
| 条文 | 定めていること | 相続の場面での意味 |
|---|---|---|
| 4条(保護の補足性) | 利用できる資産・能力などを活用することが保護の要件 | 相続した預金や不動産は活用を求められうる |
| 61条(届出の義務) | 収入・支出など生計の状況が変わったら速やかに届け出る | 相続人になった・財産を受け取ったら届け出る |
| 26条(保護の停止・廃止) | 保護を必要としなくなったら停止・廃止を決め、書面で通知する | 相続した額によっては保護が止まることがある |
| 63条(費用返還義務) | 急迫の場合等で資力があるのに保護を受けたときは、受けた保護金品に相当する額の範囲で、実施機関が定める額を返す | 相続で資力があったとされた期間の保護費の返還を求められることがある |
| 78条(不正受給の徴収) | 不実の申請その他不正な手段で保護を受けたときは、費用を徴収し、さらに40%以下を上乗せして徴収できる | 届け出ずに受け取り続けると、この規定の対象になりうる |
63条と78条の違いは大事です。63条は、届け出をしたうえで資力があった分を返す仕組みで、78条は不正な手段で保護を受けた場合の徴収です。正直に早く届け出ることが、自分を守ることにもつながります。どの条文がどう当てはまるか、返す額がいくらになるかは、保護の実施機関(福祉事務所)が決めることです。
相続財産は収入としてどう扱われる?
生活保護では、最低生活費と収入を比べ、足りない差額が保護費として支給されます。厚生労働省の案内では、保護費は最低生活費から収入(年金や就労収入等)を引いた額で、受給中は収入の状況を毎月申告することになっています。相続で受け取る預金なども、福祉事務所が保護の計算の中で扱いを決めることになります。
相続の場面でよく出てくる財産を、届け出のときに伝える情報と一緒に整理します。
| 財産の種類 | 届け出で伝えること | 注意点 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 金融機関名、おおよその残高、自分の法定相続分 | 払戻しを受ける前に届け出て、受け取り方を相談する |
| 不動産(実家・土地) | 所在地、持分、住むか空き家か | 自分が住む家か、使っていない家かで扱いが変わりうる |
| 株・投資信託 | 証券会社名、おおよその評価額 | 売るかどうかも福祉事務所と相談する |
| 生命保険金 | 受取人が自分か、金額 | 遺産とは別に扱われる場合でも、受け取れば収入の変動に当たりうる |
| 借金・保証 | 借入先、残高、督促の有無 | 借金が多いなら相続放棄の期限を先に確かめる |
福祉事務所に伝えるときは、口頭だけでなくメモを渡すと、後で「聞いていない」という行き違いを防げます。
届け出のメモの例:「○月○日に父(○○市在住)が亡くなり、私は相続人の一人です。分かっている財産は、A銀行の預金(金額は調査中)と実家の土地建物です。借金があるかは調べています。相続放棄を考えるべきか、保護への影響も含めて相談させてください。」
財産と借金の調べ方は相続財産の調べ方にまとめています。
相続放棄を考えるときの判断材料
相続放棄は、家庭裁判所に申述して行う手続きで、放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法938条・939条)。期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条)。家族の間で「何も要らない」と伝えるだけでは放棄にならず、借金の引き継ぎは止まりません。
放棄を考えるときは、次の材料を並べてから決めます。
- 借金のほうが多いか。 借金や保証が財産を上回るなら、放棄は生活を守る選択肢になります。相続は借金を含む一切の権利義務を引き継ぐのが原則です(民法896条)。
- 受け取れる財産がどれくらいか。 預金や売れる不動産が多い相続を放棄すると、活用できる資産を手放す形になり、保護の扱いにかかわりえます。
- ほかの相続人への影響。 放棄すると相続の順位が次の人に移ることがあり、兄弟や親族に知らせる必要が出ます。
- 期限までの時間。 財産の調査に時間がかかるときは、家庭裁判所に期間を延ばす申立てができます。
もう一つ、放棄を考えている間にしてはいけないことがあります。民法921条は、相続財産を処分したときは単純承認したものとみなす、と定めています。亡くなった人の預金を引き出して使う、家財を売るといった行為は、放棄ができなくなるおそれがあるので、決めるまでは手をつけません。申述の書類・費用・流れは相続放棄の手続きで確かめてください。
- 相続人になったことを福祉事務所に届け出る
- 財産と借金を調べ、一覧にして福祉事務所に伝える
- 放棄するか、相続するかを、保護の扱いの説明を聞いたうえで考える
- 3か月の期限が近いなら、家庭裁判所に期間の延長を申し立てる
- 決めたら、放棄の申述または遺産分割の手続きへ進む
福祉事務所に先に相談する順番と、相談先
相談の順番は、福祉事務所が先です。生活保護の相談・申請の窓口は、住んでいる地域を所管する福祉事務所の生活保護担当で、市(区)部では市(区)、町村部では都道府県が設置しています。担当のケースワーカーが決まっていれば、その人に連絡します。
福祉事務所で確かめておきたいのは、次の3点です。
- 相続した財産を受け取った場合、保護費の計算や保護の継続にどう影響するか
- 相続放棄をする場合、保護の扱いについて何か求められることがあるか
- 財産を受け取るまでの間、保護費の支給はどうなるか
遺産の分け方を兄弟と話し合うときは、自分が生活保護を受けていて、福祉事務所に届け出ていることを伝えておくと、受け取り方や時期を相談しやすくなります。兄弟での役割分担は相続手続きは誰がする?兄弟で役割を分ける方法を参考にしてください。
借金の多い相続で放棄の書類を自分で作るのが難しいときや、ほかの相続人ともめそうなときは、法テラス(日本司法支援センター)の法律相談の制度があります。収入や資産が一定以下の人を対象にした無料の法律相談や、弁護士・司法書士の費用の立替えの制度で、基準は問い合わせて確かめます。番号と受付時間は相続手続きの無料相談窓口一覧にまとめています。相続人の中に海外に住む人がいる場合の手続きは、次の相続人が海外在住の場合の手続きへ進んでください。
よくある質問
Q. 相続した額が少なければ、届け出なくてもいいですか?
生活保護法61条は、収入や生計の状況に変動があったときは速やかに届け出ると定めていて、金額による例外は書かれていません。少額でも、受け取る前か受け取った時点で担当のケースワーカーに伝えます。保護費にどう影響するかを決めるのは福祉事務所なので、自分で「影響しない」と判断して黙っておくのは避けます。
Q. 相続放棄をすると、生活保護が止められることはありますか?
相続放棄は民法で相続人に認められた手続きで、生活保護法に「放棄したら保護を止める」という条文はありません。ただ、生活保護は利用できる資産を活用することが前提(生活保護法4条)なので、預金や不動産など受け取れる財産がある相続を放棄するかどうかは、保護の扱いにかかわりえます。放棄の申述をする前に、福祉事務所に事情を話して扱いの説明を受けておきます。
Q. 亡くなった親の未支給年金を受け取った場合も届け出ますか?
未支給年金は、生計を同じくしていた遺族が自分の名で請求するお金(国民年金法19条など)で、遺産とは別の扱いです。それでも受け取った人にとっては収入の変動に当たりうるので、受け取ったら福祉事務所に伝えます。届け出たうえで、保護費の計算での扱いを聞くのが先に届け出て扱いを聞く順番です。
出典・参考にした公的な情報
- 生活保護法 第4条・第26条・第61条・第63条・第78条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 生活保護制度(厚生労働省)(厚生労働省)
- 民法 第896条・第915条・第921条・第938条・第939条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続の放棄の申述(裁判所)(裁判所)
- 総合法律支援法 第30条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 未支給年金の請求(日本年金機構)(日本年金機構)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。