相続登記と名義変更 / 手順

相続人申告登記とは:遺産分割がまとまらない時の義務の果たし方

この記事のもくじ
  1. 相続人申告登記とは:相続登記との違い
  2. 相続人申告登記の必要書類:立場ごとの戸籍の範囲
  3. 相続人申告登記の手順:オンラインと郵送
  4. 申出書の記入例:欄ごとに書く内容
  5. 申し出た後の義務:遺産分割から3年以内の登記
  6. 相続人申告登記が向く場面・向かない場面

相続人申告登記とは、「登記名義人が亡くなったこと」と「自分がその相続人であること」を法務局の登記官に申し出るだけで、相続登記の申請義務を果たしたものとみなされる制度です(不動産登記法76条の3)。遺産分割がまとまらず、3年の期限内に相続登記ができないときに使います。登録免許税はかからず、相続人の1人が単独で、オンラインでも申し出られます。ただし売却や抵当権の設定はできず、その後に遺産分割で取得したら、分割の日から3年以内に相続登記をする義務が残ります。

相続人申告登記とは:相続登記との違い

相続登記の義務(不動産登記法76条の2)は、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記することです。ところが、遺産分割がまとまらない間は、誰がその不動産を取得するか決まりません。法定相続分で全員の共有として登記する方法もありますが、相続人全員の戸籍をそろえる必要があり、手間がかかります。そこで2024年4月1日に、義務を簡単に果たせる方法として相続人申告登記が始まりました。

比べる点 相続人申告登記 相続登記(遺産分割による)
何をするか 相続が始まったことと、自分が相続人であることを申し出る 取得した人の名義に所有権を移す
登録免許税 かからない 不動産の価額の0.4%
必要な戸籍 申出人が相続人だと分かる範囲 亡くなった人の出生から死亡まで+相続人全員
相続人全員の協力 不要(1人で申し出られる) 遺産分割協議書に全員の実印
果たせる義務 3年以内の基本の義務(申し出た人だけ) 基本の義務と遺産分割後の義務
売却・抵当権の設定 できない できる

義務化の全体(起算日・過料の流れ)は相続登記の義務化:期限3年・過料10万円以下・相続人申告登記で扱っています。

相続人申告登記の必要書類:立場ごとの戸籍の範囲

基本の書類は、①申出書、②申出人が登記名義人の相続人だと分かる戸籍の証明書(戸除籍謄本など)、③申出人の住所を証する情報、④委任状(代理人が手続きする場合だけ)です。押印や電子署名は要りません。

③の住所の証明は、申出書に住民票どおりの氏名のふりがなと生年月日を書けば省略できます。②の戸籍は、法定相続情報一覧図の写しを付けるか、その番号を申出書に書けば代えられます。亡くなった人の登記簿の住所と本籍が違うときは、同じ人だと示すために住民票の除票や戸籍の附票の写しが別に要ります。

法務省は、申出人の立場ごとに、一般的に必要な戸籍の範囲を次のように示しています。判断に迷うときは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍と申出人の現在の戸籍を出してもよい、とされています。

早見表:相続人申告登記で出す戸籍(法務省の目安)
申出人の立場 一般的に必要な戸籍
配偶者 亡くなった人の死亡日と、配偶者であることが分かる戸除籍
子 亡くなった人の死亡日が分かる戸除籍、申出人が子だと分かる戸籍、死亡後に発行された申出人の戸籍(1通で足りることもある)
親 亡くなった人に子がいないと分かる全部の戸除籍、死亡後に発行された申出人の戸籍
兄弟姉妹 亡くなった人に子がいないと分かる全部の戸除籍、親などの直系尊属が先に亡くなっていることの証明、死亡後に発行された申出人の戸籍
数次相続(祖父名義で父も死亡、申出人が孫) 祖父の死亡日、父が祖父の相続人であること、父の死亡日、申出人が父の子であることが分かる戸籍と、父の死亡後に発行された申出人の戸籍

配偶者と子がまとめて申し出るときは、それぞれの書類を組み合わせます。法定相続人の範囲や相続分を確定させる必要はないので、親や兄弟姉妹が申し出る場合を除けば、相続登記より戸籍の通数は少なく済むのが通常です。

相続人申告登記の手順:オンラインと郵送

  1. 対象の不動産を確かめる:登記事項証明書で、亡くなった人の名義の土地・建物と、管轄の法務局を確かめる。
  2. 戸籍をそろえる:上の早見表の範囲で取る。親子・配偶者の戸籍は、本籍地以外の市区町村の窓口でも請求できる。
  3. 申出書を作る:法務省のページに様式(Word・PDF)とケース別の記載例がある。ふりがなと生年月日を書けば住民票は付けなくてよい。
  4. 法務局に出す:不動産を管轄する法務局へ郵送か持参する。オンラインなら「かんたん登記・供託申請」で、ウェブブラウザから専用ソフトなしで申し出られる。
  5. 職権の登記を確かめる:登記官が審査して、申出人の氏名・住所などを登記に付け加える。後から登記事項証明書で載っているか確かめておく。

申し出た後に住所や氏名が変わったら、その旨を申し出て登記記録に反映できます。この変更の申出はオンラインでもできますが、ウェブブラウザ上の手続きには対応していません。

申出書の記入例:欄ごとに書く内容

申出書は、法務省のページにある様式(Word・PDF)に、立場別の記載例が公開されています(子1人、配偶者と子の連名、親、兄弟姉妹、数次相続など)。欄の見出しは様式によって少し違うので、自分の立場に近い記載例を横に置いて写します。書く内容は大きく次の六つです。

欄の内容 書くこと つまずきやすい点
申出人 住所・氏名(ふりがな)・生年月日 住民票どおりに書く。ふりがなと生年月日を書けば住民票の添付は省略できる
亡くなった人 登記簿に載っている氏名・住所と、死亡の年月日 登記簿の住所が古いときは、住民票の除票などで同じ人だと示す
申出人が相続人である旨 亡くなった人との続柄(配偶者・子など) 数次相続では、間の相続人との関係も書く
不動産の表示 土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号 登記事項証明書の記載を写す。複数あれば全部書く
添付書類 戸籍の証明書、委任状など 一覧図の写しで代えるなら、その番号を書く
連絡先・申出先・年月日 電話番号、管轄の法務局、申出日 押印や電子署名は要らない

連名で出すときは、同じ様式に全員の住所・氏名を並べます。代理で申し出る場合だけ、委任状が別に要ります。

申し出た後の義務:遺産分割から3年以内の登記

相続人申告登記は、遺産分割が終わるまでのつなぎです。申し出た後に遺産分割がまとまって不動産を取得したら、分割の日から3年以内に、分割の内容どおりの相続登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の3第4項)。これを怠ったときも、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象です。

話し合いで分割がまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停という方法があります。流れは遺産分割調停の流れ:申立ての費用・書類・期間と1回目の準備にあります。ほかの相続人との交渉そのものは弁護士の仕事なので、相手方とのやりとりに困っているときは弁護士への相談を考えます。

相続人申告登記が向く場面・向かない場面

場面 申告登記が向くか 理由
期限が近いのに、遺産分割の話し合いが進まない 向く 1人で、税金なしで義務を果たせる
施行前の相続で2027年3月31日が迫っている 向く 過去分の期限にも使える
近く家を売る予定がある 向かない 売るには相続登記が要るので、二度手間になる
すでに遺産分割がまとまっている 使えない 申し出る前の遺産分割で取得した分は、申告登記では義務を果たせない(不動産登記法76条の2、法務省の相続人申告登記のページ)
相続人の1人だけが申し出て安心している 注意 ほかの相続人の義務は残るので、全員分を申し出るか決めておく
自分が相続放棄をした、または相続人ではない 申し出る対象外 義務の対象者の範囲は相続放棄した人に相続登記の義務化は関係ある?義務の対象者の整理で確かめる

過去分の期限の考え方は昔の相続も相続登記の義務化の対象?過去分の期限2027年3月31日、登記を急げない事情があるときの扱いは相続登記の義務化の正当な理由とは:過料が科されない場合と催告で扱います。

よくある質問

Q. 相続人申告登記をすれば、もう相続登記はしなくてよいのですか?

しなくてよいわけではありません。申告登記で果たせるのは、3年以内に登記するという基本の義務だけです。その後に遺産分割で不動産を取得したら、分割の日から3年以内に相続登記をする義務がかかり、売却や抵当権の設定をするときにも相続登記が要ります。

Q. 兄弟の分も、私がまとめて相続人申告登記できますか?

できます。法務省は、特定の相続人がほかの相続人の分を含めて代理で申し出られると説明しています。代理で申し出るときは委任状を付け、全員が申出書に連名で名前を書いてまとめて出す形なら委任状は要りません。申し出た人だけが義務を果たしたことになるので、全員分をまとめるかどうかを兄弟で決めておきます。

Q. 相続人申告登記をすると、登記簿には何が載りますか?

登記官が審査したうえで、申し出た相続人の氏名や住所などを、亡くなった人の所有権の登記に職権で付け加えます(不動産登記法76条の3第3項)。相続人が誰で、持分がどれだけかを示す登記ではないので、名義人が変わるわけではありません。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

相続登記の義務化:期限3年・過料10万円以下・相続人申告登記

相続登記の義務化の正当な理由とは:過料が科されない場合と催告

遺産分割調停の流れ:申立ての費用・書類と1回目の期日の準備

昔の相続も相続登記の義務化の対象?過去分の期限2027年3月31日