相続税と申告 / 悩み整理

相続税が払えない場合の選択肢:延納・物納・売却のどれを選ぶか

この記事のもくじ
  1. まず確かめる:いつまでに・いくら足りないか
  2. 延納・物納・売却・借入れの比べ方
  3. 延納:要件と利子税、申請の期限
  4. 物納:使える財産と、実家の物納が不利になりやすい理由
  5. 不動産を売って払う:期限・取得費加算・査定の進め方

相続税を期限までに一括で払えないときの選択肢は、①年賦で払う「延納」、②相続した財産で納める「物納」、③相続した不動産などを売って払う、④手元の資金や借入れで払うの4つです。延納と物納は、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内、国税庁 No.4205)までに申請しなければ使えません。何もしないまま期限を過ぎると、2026年中は年2.8%(2か月を過ぎると年9.1%)の延滞税がかかります。まず足りない額を計算し、選択肢を比べる順番で整理します。

まず確かめる:いつまでに・いくら足りないか

相続税の納期限は申告期限と同じ日です。払えるかどうかは、延納申請書に添える「金銭納付を困難とする理由書」の考え方で見積もると、延納を申請するときの計算とそろいます。

  1. 納める相続税額を出す
  2. 納期限の時点で持っている現金・預貯金、すぐ換金できる財産(上場株など)の額を出す。相続した財産だけでなく、自分の財産も含める
  3. 自分と生計を一にする家族の3か月分の生活費を引く
  4. 事業をしているなら、当面の運転資金(経費)を引く
  5. 2−3−4が、期限までに金銭で納められる額。1−5が、延納を申請できる上限(延納許可限度額)

この計算は、延納申請書の別紙「金銭納付を困難とする理由書」に書いて税務署に出します。生活費や運転資金の数え方は国税庁の様式と記入の手引で確かめます。預金を持っているのに延納を申請しても、その分は認められません。

もう一つ、相続人どうしの関係も確かめます。相続人には、相続で受けた利益の額を限度に、ほかの相続人の相続税を納める連帯納付義務があります(相続税法34条)。家族のだれかが払えない状態なら、その人の分の段取りも一緒に考えます。詳しくは相続税の申告は誰がする?払う人の決まり方と連帯納付義務で説明しています。

延納・物納・売却・借入れの比べ方

相続税が払えない場合の4つの選択肢
選択肢 使える条件 かかる費用 期限・手続き 向いている場面
延納(年賦で払う) 税額10万円超、金銭で払うのが難しい額の範囲内、担保 利子税(2026年中は年0.6%〜1.0%) 申告期限までに申請書と担保の書類 毎年の収入や賃料で少しずつ払える
物納(財産で納める) 延納でも払えない額の範囲内、国内の相続財産で管理・処分に適したもの 測量・登記などの整備費用、手続き中の利子税 納期限までに申請 売りにくいが国が引き取れる財産がある
売却して払う 遺産分割で売る財産の取得者を決める 仲介手数料、売却益の税金 申告期限に間に合わなければ延納や延滞税と組み合わせる 不動産を持ち続ける予定がない
手元資金・借入れ 相続人の預金、金融機関からの借入れ 借入れの利息 金融機関の審査期間を見込む 不動産を手放したくない、短期で返せる

国税庁の公表では、令和7年度の相続税は、延納の新規の申請が1,342件、同じ年度に許可されたのが891件で、物納は新規の申請が48件、許可が40件でした。物納はごく少なく、多くの家庭は延納か、売却・手元資金で払っています。

延納:要件と利子税、申請の期限

延納の要件は、相続税法38条・39条と国税庁 No.4211 に定められています。

  • 納める相続税額が10万円を超える
  • 期限までに金銭で払うのが難しく、その難しい額の範囲内である
  • 延納税額に見合う担保を出す(延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下なら担保は不要)
  • 申告期限までに延納申請書と担保提供関係書類を出す。担保の書類が間に合わないときは、届出で1回3か月、最長6か月まで延ばせる

延納の期間と利子税は、相続財産に占める不動産等の割合で変わり、2026年中の利子税は年0.6〜1.0%です(国税庁 No.4211)。割合ごとの期間と利子税の表は相続税の延納・物納:要件と利子税、申請から許可までの流れに載せています。

税務署は、延納申請期限から3か月以内に許可か却下を決めます(国税庁 No.4211。担保の状況によっては最長6か月まで延びます)。加算税や延滞税は延納の対象になりません。担保の種類や申請から許可までの流れは相続税の延納・物納:要件と利子税、申請から許可までの流れで詳しく説明しています。

物納:使える財産と、実家の物納が不利になりやすい理由

物納は、延納によっても金銭で払うのが難しい額が上限です(相続税法41条)。納められる財産には順位があり、第1順位が不動産・船舶・国債・地方債・上場株式等、第2順位が非上場株式等、第3順位が動産です。抵当権がついている、境界がはっきりしない、共有になっているなど、管理や処分に適さない不動産は認められません。相続時精算課税で贈与を受けた財産も物納に充てられません(国税庁 No.4214)。

物納する財産の価額(収納価額)は、原則として相続税評価額で、小規模宅地等の特例を使った土地は特例で減額した後の価額になります。たとえば評価額5,000万円の自宅の土地に80%減額の特例を使っていれば、物納で納めたことになる額は1,000万円です(筆者の計算)。自宅の土地を物納すると、売った場合の手取りよりかなり低い額にしかならないことがあるので、物納を考えるなら、特例を使った土地と、ほかの財産で納めた場合の額を比べてから選びます。測量や境界標の設置、登記にかかる費用と、許可までの固定資産税などは申請した人の負担です。

不動産を売って払う:期限・取得費加算・査定の進め方

相続した家や土地を売って払うなら、申告期限から逆算して動きます。

  1. 遺産分割で売る不動産の取得者を決める:売るには相続登記が要るので、だれが取得するか(または共有で取得して代金を分けるか)を先に決める。
  2. 査定を受けて売り出し価格の見当をつける:複数の不動産会社の査定額と根拠を比べる。
  3. 申告期限までに入金が間に合うかを見る:間に合わないなら、延納を申請するか、延滞税を払って売却代金で納めるかを比べる。2026年中の延滞税は、納期限の翌日から2か月以内なら年2.8%。1,000万円の納付が30日遅れると約2.3万円です(筆者の計算)。
  4. 売却益の税金を見込む:売却益には翌年の確定申告で所得税・住民税がかかるので、相続税と別に資金を残す。

相続税を払った人が、相続開始の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を売ると、払った相続税の一部を売却益の計算で取得費に足せます(取得費加算の特例、国税庁 No.3267)。加算額は「その人の相続税額×売った財産の相続税評価額÷その人の取得財産の価額」で、売却益が上限です。

筆者が置いた例です。相続税額900万円、取得財産の価額1億5,000万円の人が、評価額5,000万円の土地を売ると、900万円×5,000万円÷1億5,000万円=300万円を取得費に足せます。長期譲渡所得の税率(所得税・復興特別所得税・住民税で約20.315%)なら、税額は約61万円下がります(筆者の計算)。相続した空き家の3,000万円特別控除とはどちらか一方しか使えないので、売る期限の早見表は相続不動産の売却期限:3年以内に売ると使える税の特例の早見表、特例の詳しい計算は取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみで確かめてください。

納税のために売るなら、売り出しまでの時間が限られます。一括査定は、複数の会社の査定額と売り方の提案を一度に比べられる選択肢です。使うときは、査定額の根拠と、申告期限までの売却の見通しを各社に聞き、売るかどうかは比べてから決めます。

「相続税 払えない場合」の話が相続税の手続き全体のどこに当たるかは、相続税とは?かかる人の目安・計算の流れ・申告期限10か月の全体像で確かめられます。

よくある質問

Q. 遺産分割の話し合いがまとまらず、預金が下ろせないので相続税が払えません。期限は延びますか?

延びません。遺産分割が終わっていなくても、法定相続分などで分けたものとして期限内に申告と納税をします。預金の一部は遺産分割の前でも各相続人が払戻しを受けられる制度(民法909条の2)があるので、それと手元資金を合わせても足りない分について、延納の申請を考えます。

Q. 延納を申請すれば、延滞税はかかりませんか?

延納が許可されれば、延滞税ではなく利子税がかかります。利子税の割合は財産に占める不動産の割合で決まり、2026年中は年0.6%〜1.0%の特例割合です。延納の申請は申告期限までに出す必要があり、期限を過ぎてから申請することはできません。

Q. 兄が相続税を払わないと、自分にも請求が来ますか?

相続人どうしには、受け取った財産の額を限度に、ほかの相続人の相続税を納める連帯納付義務があります。兄が延納や物納の手続きもせずに放置しているなら、早めに状況を確かめます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

相続税の延納・物納:要件と利子税、申請から許可までの流れ

相続税の申告は誰がする?払う人の決まり方と連帯納付義務

取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみ

相続不動産の売却期限:3年以内に売ると使える税の特例の早見表