取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみ
取得費加算の特例(正式には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)は、相続税を払った人が、相続した財産を決められた期間内に売ったとき、払った相続税のうち売った財産に対応する額を取得費に足せる制度です。取得費が増えると譲渡益が減り、譲渡所得税と住民税が小さくなります。売る期限は、相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までで、相続から約3年10か月が目安です。この記事では、要件、期限の数え方、計算式、計算例、使えない場面を、国税庁の案内に沿って整理します。
取得費加算の3つの要件
国税庁のNo.3267に書かれた要件は、次の3つです。すべてに当てはまる必要があります。
- 相続または遺贈で財産を取得した人であること。
- その財産を取得した人に、相続税が課されていること。
- 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、その財産を売っていること。
対象は、土地・建物・株式など、譲渡所得として申告する財産です。事業所得や雑所得になる株式の譲渡には使えません。相続税が課されていることが要件なので、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で、相続税がかからなかった人は使えません。一次判定の目安は相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法で確かめられます。
期限の数え方:相続から約3年10か月
期限の数え方を、筆者の例で示します。
- 2024年5月10日に相続が開始し、同じ日に知った場合。
- 相続税の申告期限は、知った日の翌日から10か月以内なので、2025年3月10日。
- 申告期限の翌日(2025年3月11日)以後3年を経過する日は、2028年3月10日。
- 売る期限は、2028年3月10日までになる。
「3年」は、相続開始からではなく、相続税の申告期限からです。申告期限が相続開始から10か月後なので、実際の期限は約3年10か月後になります。この期限は、空き家の3,000万円控除の期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)と、終わる日が違います。2つの期限の関係は相続不動産の売却期限:3年以内に売ると使える税の特例の早見表で見比べられます。相続の期限全体は相続の期限一覧:3か月・4か月・10か月・3年の順番と過ぎたときの影響にあります。
売った日は、原則として引渡しの日で、売買契約の効力が生じた日を選ぶこともできます(国税庁のNo.3102)。期限の直前に売る場合は、どちらで数えるかを先に決めて、日付を確かめてください。
加算される額の計算式
加算される相続税額は、売った財産ごとに計算します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 加算額 | 売った人の相続税額 × 売った財産の相続税評価額 ÷ 売った人の取得財産の価額(贈与分などの調整あり) |
| 上限 | この特例を使わない場合の譲渡益。加算額が譲渡益を超えるときは、譲渡益が上限 |
| 計算の単位 | 売った財産ごと(同じ年に2つ以上の財産を売れば、それぞれ計算する) |
分母には、取得した財産の価額のほか、相続時精算課税の適用財産の価額や、暦年課税分の贈与財産のうち相続税の計算に加算されるものが含まれます。令和6年(2024年)1月1日以後の贈与がある場合は、相続時精算課税の基礎控除や、3年を超え7年以内の贈与の100万円の控除など、調整があります。贈与を受けていた場合は、国税庁のNo.3267の注記を確かめてください。
分子の「売った財産の相続税評価額」は、相続税の申告で使った評価額で、売った価額ではありません。評価の方法は相続する不動産の評価方法:路線価・倍率方式・建物の評価額の違いで確かめられます。
計算例:231万円が加算される場合(筆者の計算)
仮の数字で計算します。兄弟2人が親の家と土地を相続し、課税価格は合計1億円、売る人が取得した財産の価額は5,000万円(債務や葬式費用、生前贈与はないものとします)です。
- 相続税の総額は、基礎控除4,200万円を引いた5,800万円を法定相続分で分け、各2,900万円に15%をかけて50万円を引いた385万円の2人分で、770万円。国税庁の速算表で、3,000万円以下は15%・控除50万円です。
- 売る人の相続税額は、取得割合(5,000万円÷1億円)で770万円を分けた385万円。
- 売った家と土地の相続税評価額は3,000万円。
- 加算額は「385万円×3,000万円÷5,000万円=231万円」。
売った価額4,000万円、譲渡費用150万円、取得費は不明で5%の200万円とします。譲渡益は「4,000万円−200万円−150万円=3,650万円」です。取得費加算を使うと、取得費が「200万円+231万円=431万円」になり、譲渡益は3,419万円に下がります。
長期の税率は、約20.315%(所得税15%・復興特別所得税・住民税5%)です。特例を使わないと約741.5万円、使うと約694.6万円で、差は約46.9万円です。検算は、231万円×0.20315=46.93万円です。
取得費が不明な場合の5%の扱いは取得費不明の不動産売却の税金:5%の概算と取得費の探し方に、計算の全体は譲渡所得税の計算方法:売却額−取得費−譲渡費用−控除の手順にあります。
空き家特例との関係と、向く場面
空き家の3,000万円控除と取得費加算は、同じ財産の売却に重ねて使えません。国税庁の手引きにも、空き家の特例を受ける場合は、取得費加算の特例などを重ねて受けられないと書かれています。上の例では、空き家の控除(要件を満たす場合)が使えれば、課税譲渡所得が650万円まで下がり、取得費加算より税額は小さくなります。両方の比べ方は取得費加算と空き家特例は併用できない:どちらを選ぶかの比べ方で示しています。
取得費加算が向く場面は、次のとおりです。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 家が空き家特例の要件に合わない(昭和56年6月以後の建築、マンションなど) | 空き家の控除が使えないため |
| 売却代金が1億円を超える | 空き家の控除の上限を超えるため |
| 空き家の控除の期限を過ぎ、取得費加算の期限は残っている | 期限が約3年10か月で、空き家の控除より後ろになる場合がある |
| 土地や株式など、空き家以外の相続財産を売る | 空き家特例の対象にならないため |
逆に、相続税を払っていない場合や、相続税の申告期限から3年を過ぎた場合は、使えません。
申告で必要な書類と手続き
取得費加算は、確定申告で受けます。確定申告書に、次の書類を添付します。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)。株式の場合は、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書など
計算明細書は、国税庁のサイトからダウンロードでき、相続開始日が令和5年(2023年)1月1日以後か、平成27年(2015年)1月1日以後かで様式が分かれます。書き方は取得費加算の計算明細書の書き方:記載例と添付する書類で順に示します。売った後に相続税の額が変わった場合の手続きは、取得費加算の更正の請求:相続税が後で決まった時の手続きで扱います。
申告全体の流れは、不動産売却の確定申告:やり方・期限・必要書類を順番に解説にあります。
相続税の申告をした税理士が、売却の申告も続けて受けられることがあります。紹介サービスの仕組みと、使う前に確かめる点は、相続で税理士紹介サービスを使う前に:仕組みと確かめる4つの点にまとめています。個別の税額の計算と、申告書の作成の代理は、税理士の仕事です。このサイトは制度の説明までで、読者個人の税額を出すことはしません。
土地を相続して売る場合の税の全体像は相続した土地の税金4種類:相続税・登録免許税・固定資産税・売却時で、売却益の税金の位置づけを確かめられます。
よくある質問
Q. 取得費加算はいつまでに売れば使えますか?
相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売る必要があります。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内なので、相続から約3年10か月が目安です。
Q. 相続税がかからなかったときも、取得費加算は使えますか?
使えません。この特例は、売った人に相続税が課されていることが要件です。基礎控除以下で申告が不要だった人は対象外なので、空き家の3,000万円控除など別の特例を検討します。
Q. 相続した株式を売ったときも、取得費加算は使えますか?
土地や建物のほか、株式なども、譲渡所得として申告するものなら使えます。事業所得や雑所得になる株式の譲渡には使えません。株式の場合は申告書の様式が土地・建物と異なるため、国税庁の案内で確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書(令和5年1月1日以後相続開始用)(国税庁)
- No.4155 相続税の税率(速算表)(国税庁)
- No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁)
- 令和7年分 土地や建物を売却したときの特例(空き家特例との重ね適用)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。