相続税の延納・物納:要件と利子税、申請から許可までの流れ
この記事のもくじ
相続税は申告期限までに金銭で一度に納めるのが原則ですが、税額が10万円を超え、金銭で納めることが難しい事情があるときは、担保を出して年払いで納める「延納」を申請できます。延納の期間は相続財産に占める不動産等の割合で決まり、最長で20年です。その間は利子税がかかり、2026年の割合は年0.6%〜1.0%(一般的な区分)です。延納でも払えない部分に限って、相続した不動産や上場株式などで納める「物納」があります。どちらも納期限までに申請書と書類を出すことが条件なので、払えないと分かった時点で動き始めることが大切です。
相続税の延納とは:4つの要件と申請の期限
延納は、税務署長の許可を受けて相続税を分割で納める制度です。次の4つをすべて満たすと申請できます。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があること。延納できるのは、その納付が難しい金額の範囲まで
- 延納税額と利子税に見合う担保を出すこと。ただし延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下なら担保は要りません
- 延納申請期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を付けて出すこと
延納申請期限は、申告のしかたで変わります。
| 申告の形 | 延納申請期限 |
|---|---|
| 期限内に申告した | 申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内) |
| 期限後申告・修正申告をした | その申告書を出した日 |
| 税務署から更正・決定を受けた | 通知が発せられた日の翌日から1か月を経過する日 |
「納付が難しい金額」は、相続した預貯金も含めて手元にある金銭で払える分を先に充て、それでも足りない部分という考え方です。預貯金が十分にあるのに延納を選ぶことはできません。申請書に添える計算の書き方は、国税庁の「相続税・贈与税の延納の手引」と所轄の税務署で確かめます。
延納の期間と利子税:不動産の割合で変わる
延納できる期間と利子税の割合は、相続税の計算の基になった財産のうち、不動産等が占める割合で決まります。利子税の本来の割合は年3.6%〜6.0%ですが、毎年の「延納特例基準割合」が7.3%に満たない年は低い特例割合が使われます。国税庁の表は、令和8年(2026年)1月1日現在の延納特例基準割合1.3%で計算されています。
| 不動産等の割合 | 対象の税額 | 延納期間(最高) | 本来の割合 | 2026年の特例割合 |
|---|---|---|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に係る税額 | 20年 | 3.6% | 0.6% |
| 75%以上 | 動産等に係る税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 50%以上75%未満 | 不動産等に係る税額 | 15年 | 3.6% | 0.6% |
| 50%以上75%未満 | 動産等に係る税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 50%未満 | 一般の延納相続税額 | 5年 | 6.0% | 1.0% |
| (森林計画立木・特別緑地保全地区等の土地には別の割合がある。特例割合は毎年変わる) |
延納税額が小さい場合は、期間にも上限があります。延納税額が50万円未満(不動産等の割合が50%以上なら150万円未満)のときは、延納税額を10万円で割った数(1未満の端数は1)の年数までしか延納できません(相続税法38条)。
筆者の計算で、利子税の大きさの目安を示します。前提は、延納税額1,200万円、不動産等の割合50%未満で5年、毎年240万円ずつ元本を納め、利子税は2026年の特例割合1.0%のまま変わらないとしたものです。1年目は残高1,200万円に対して12万円、2年目は960万円に対して9.6万円、以降7.2万円、4.8万円、2.4万円で、5年間の合計は約36万円です。実際の利子税は日数で計算され、割合も年ごとに変わるので、正確な額は許可の際の通知で確かめてください。
担保の出し方と、申請から許可までの流れ
延納の担保にできる財産は、次のものに限られます。相続した財産でなくてもよく、相続人自身の財産やほかの共同相続人・第三者の財産も使えます。
- 国債・地方債
- 社債などの有価証券で、税務署長等が確実と認めるもの
- 土地
- 建物・立木・登記される船舶などで、保険を付けたもの
- 鉄道財団・工場財団など
- 税務署長等が確実と認める保証人の保証
申請から許可までは、次の順で進みます。
- 申告期限までに延納申請書と担保提供関係書類を出す。書類がそろわないときは「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を出すと、1回3か月、最長6か月まで延ばせます。
- 税務署の審査を受ける。税務署長は延納申請期限から3か月以内に許可か却下をします。担保の状況によっては最長6か月まで延びます。担保が適当でないと判断されると、変更を求められます。
- 許可を受けたら、毎年の分納期限に元本と利子税を納める。分納が続けられなくなった場合は、申告期限から10年以内に限り、まだ期限が来ていない部分を物納に変える「特定物納」を申請できます。このときの収納価額は、特定物納を申請した時の価額です。
物納とは:延納でも払えない分を相続財産で納める
物納は、延納によっても金銭で納めることが難しい金額を限度として、相続財産そのもので納める制度です。対象は、相続税の課税価格の計算の基になった国内にある財産で、次の順位で充てます。
| 順位 | 財産 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債、地方債、上場株式等(物納劣後財産に当たるものは後回し) |
| 第2順位 | 非上場株式等(同上) |
| 第3順位 | 動産 |
後の順位の財産を充てられるのは、税務署長が特別の事情を認める場合や、先の順位に適当な価額の財産がない場合だけです。相続時精算課税の適用を受けた財産は物納できません。
物納できない財産(管理処分不適格財産)の例は、抵当権などの担保権が付いた不動産、境界が明らかでない土地、権利の帰属に争いがある不動産、共有の不動産、耐用年数を過ぎた建物(通常の使用ができるものを除く)、譲渡制限株式などです。納税する人が現に住んでいる家とその敷地(本人がその物納を申請する場合を除く)、道路に2メートル以上接していない土地、市街化区域外の土地などは「物納劣後財産」で、ほかに適当な財産がない場合にだけ充てられます。
物納の申請期限も延納と同じく納期限までです。物納手続関係書類は延長届で1回3か月、最長1年まで延ばせ、税務署長は申請期限から3か月以内に許可か却下をします(財産の状況により最長9か月延長)。不適格や劣後を理由に却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に1回だけ別の財産で再申請できます。審査中に書類の訂正などをする期間には利子税がかかり、自分で申請を取り下げた場合は納期限の翌日から延滞税がかかります。
延納・物納のデメリットと、選ぶ前に比べること
延納と物納は「払えないとき」の正式な道ですが、負担がないわけではありません。決める前に、次の点を並べて比べます。
| 比べる点 | 延納 | 物納 | 相続財産を売って納める |
|---|---|---|---|
| 追加の負担 | 利子税、担保の手続きと費用 | 書類の整備(測量・境界確定など)、審査中の利子税 | 売却の費用、譲渡所得税 |
| 財産の値段 | 手元に残る | 相続税評価額で収納(小規模宅地等の特例を使った土地は減額後の価額) | 実際に売れた価格 |
| 時間 | 許可まで原則3か月、その後最長20年の分納 | 書類整備に時間がかかりやすい | 申告期限までに売れないと延滞税 |
小規模宅地等の特例で評価額を下げた自宅の土地は、物納すると減額後の低い価額で納めることになります。特例の要件は小規模宅地等の特例の要件(自宅の土地の評価が80%減る仕組み)で確かめられます。売って納める場合の考え方と比べ方は、前の記事の相続税が払えない場合の選択肢(延納・物納・売却の比べ方)にまとめています。納付書や支払い方法など、一括で納めるときの手順は相続税の納め方:期限・納付書・支払い方法を参照してください。
延納・物納の手続きは所轄の税務署が窓口で、申請前の相談もできます。相談の予約と電話の使い方は相続税の相談は税務署でできる?電話相談センターと面接相談の使い方にあります。申告後に税務署から連絡が来たときの備えは、次の相続税の税務調査:時期・調べられる点・申告後に備えることで整理します。
「相続税 延納」の話が相続税の手続き全体のどこに当たるかは、相続税とは?かかる人の目安・計算の流れ・申告期限10か月の全体像で確かめられます。
よくある質問
Q. 延納の担保に、相続した財産ではなく自分の家を出せますか?
出せます。国税庁は、相続や遺贈で取得した財産に限らず、相続人がもともと持っている財産や、ほかの相続人・第三者が所有する財産も担保にできると説明しています。担保にできる種類は国債・地方債、税務署長等が認める有価証券、土地、保険を付けた建物、保証人の保証などに限られます。
Q. 延納の申請をしないまま納期限を過ぎたらどうなりますか?
期限内に申告した場合、延納の申請期限は申告期限(納期限)と同じ日です。申請をしないまま期限を過ぎると、納めていない税額に延滞税がかかります。2026年の延滞税の割合は、納期限の翌日から2か月以内が年2.8%、2か月を過ぎると年9.1%で、延納の利子税より高くなります。
Q. 物納すると、土地はいくらとして納めたことになりますか?
原則として、相続税の計算に使ったその財産の価額(相続税評価額)で収納されます。小規模宅地等の特例を使った土地を物納する場合は、特例で減額した後の価額になります。時価より低い評価額で納めることになりやすいので、売って納めた場合の手取りと比べてから決めます。
出典・参考にした公的な情報
- No.4211 相続税の延納(国税庁)
- No.4214 相続税の物納(国税庁)
- No.4205 相続税の申告と納税(国税庁)
- No.9205 延滞税について(国税庁)
- 相続税法 第38条(延納の要件)ほか(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税の申告のしかた(令和8年分用)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。