家を売る・貸すどっちが得?収支・税金・手間の比べ方と判断表
住まなくなった家を売るか貸すかは、「今のお金」か「毎月のお金」かだけで決まりません。比べる軸は4つあります。①貸した場合の収支(家賃から固定資産税・管理・修繕を引いた手元の額)、②売る場合の税の特例の期限(居住用3,000万円控除は、貸していても使えますが、期限は住まなくなってから3年目の年末です)、③戻れるかどうか(普通借家だと貸した後に返してもらうのが難しい)、④手間とリスク(空室、修繕、借主とのやりとり)です。この記事では、住んでいた自宅を対象に、4つの軸に自分の数字を入れる手順と判断表を示します。相続した空き家は特例の条件が違うため、空き家を賃貸に出すか売るか:収入・費用・税金の比べ方で比べてください。
売る・貸す・貸してから売るの違い
選択肢は3つあります。
| 売る | 貸す | 貸してから売る | |
|---|---|---|---|
| お金の入り方 | 売却代金が一度に入る | 毎月の家賃が入る | 家賃を受けた後、売却代金が入る |
| 税金の種類 | 売却益に譲渡所得税 | 家賃に不動産所得の税 | 両方 |
| かかる費用 | 仲介手数料、登記費用、税金 | 固定資産税、修繕、管理、保険 | 両方 |
| 戻って住めるか | 戻れない | 契約の種類次第 | 戻れない |
| 家の管理 | 売れた後は不要 | 貸主の責任が続く | 貸している間は続く |
| 居住用3,000万円控除の期限 | 住まなくなって3年目の年末までに売る | 貸している間も期限は進み続ける | 3年目の年末までに売れば対象 |
- 住まなくなった日(引っ越し)
- 〜3年目の年末:売れば居住用3,000万円控除などの対象になる期間(貸していてもよい)
- 3年目の年末を過ぎたあと:この特例は使えない。貸した後で売ると、特例なしで譲渡所得税を計算する
売ると戻れず、貸すと手元に家が残ります。迷う場合は、戻る可能性の有無が最初の分かれ目です。家族が将来住む予定があるなら貸すほうが選択肢を残せますが、その予定がない場合は、貸している間の管理と修繕の負担を数字にして比べます。
貸す場合の収支を出す
貸した場合の手元の額は、次の式で出します。
年間の手元=家賃×12か月×(1−空室の割合)−(固定資産税+管理委託料+修繕費+保険料)
不動産所得の計算は、総収入金額から必要経費を引く方法です。必要経費にできるものとして、国税庁は固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費を挙げています。これに所得税・住民税がかかります。
筆者の計算で例を作ります。数字は仮のものなので、自分の家の数字に置き換えてください。
| 項目 | 仮の数字 | 計算 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 月8万円×12か月=96万円 | |
| 空室(年1か月分) | −8万円 | 96万円−8万円=88万円 |
| 固定資産税 | 12万円 | |
| 管理委託料 | 家賃収入の5%=4.4万円 | 88万円×5% |
| 修繕費の年平均 | 10万円 | |
| 火災保険 | 1.5万円 | |
| 経費の合計 | 27.9万円 | 12+4.4+10+1.5 |
| 年間の手元(税引き前) | 60.1万円 | 88万円−27.9万円 |
今売ったときの手取りを2,000万円と仮定すると、60.1万円は手取りの約3.0%(60.1÷2,000)にあたります。ここから所得税・住民税が引かれ、建物が古くなるにつれて修繕費は増えていく可能性があります。「売って運用する」ほうが良いかどうかは、手取りの額と、売ったお金で何をするかによります。売却の手取りの出し方はマンション売却でいくら残る?手取り額の計算方法とローン・税金にあります。
賃貸が事業として行われているかどうかで、必要経費の扱いが一部変わります。建物の貸付けの場合、貸間・アパートで独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋でおおむね5棟以上なら、原則として事業として扱われます(国税庁)。1軒を貸す場合は事業ではない貸付けの扱いが基本で、青色申告特別控除の最高額なども変わります。
税の特例の期限:貸していても3,000万円控除は使える
居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除は、以前に住んでいた家屋について、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件です。住まなくなった後、どのような用途に使っていてもかまいません(国税庁)。貸していた期間があっても、期限内に売れば対象になりえます。
筆者の例を示します。2027年4月に引っ越して住まなくなった場合、3年を経過する日は2030年4月、その日の属する年の12月31日は2030年12月31日です。それまでに売ります。譲渡の日は原則として引き渡しの日です。
そのほかの要件は、次のとおりです。
- 売る人が所有者として住んでいたこと
- 前年・前々年に3,000万円控除や、買換え特例などを受けていないこと
- 子や配偶者など、特別の関係がある人への売却でないこと
- 確定申告をすること
貸した場合に気をつけたいのは、取得費です。建物の取得費は購入代金などから減価償却費相当額を引いて計算しますが、国税庁の説明では、事業に使われていた場合は取得から売るまでの毎年の減価償却費を合計する方法、使われていなかった場合は耐用年数の1.5倍に対応する旧定額法の率で計算する方法と、方法が分かれます(No.3261)。1軒だけ貸した場合がどちらに当たるかは、税理士か税務署に確かめてから売却益を見積もります。
相続した空き家の特例(被相続人居住用財産の3,000万円特別控除)は、相続時から譲渡時まで、事業・貸付け・居住に使っていないことが要件に入っています。相続した家を貸すと使えなくなる点は、自宅の特例と違います(国税庁、No.3306)。自宅の特例の要件全体は自宅を売った時の譲渡所得税の3000万円控除:要件と期限で説明しています。
貸す前に知る契約の話:普通借家と定期借家
貸す場合、契約の種類で、将来売りたくなったときの自由度が変わります。
| 契約 | 期間が終わったとき | 貸主から終わらせるとき | 売りたいとき |
|---|---|---|---|
| 普通借家 | 当事者が期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨を通知しないと、同じ条件で更新される(借地借家法26条) | 更新拒絶や解約の申入れに正当な事由が要る(同28条) | 借主がいる状態で売る形になりやすい |
| 定期借家 | 更新がなく終了する。公正証書など書面で契約し、更新がないことを記した書面を渡して説明する(同38条)。期間が1年以上なら、貸主は満了の1年前から6か月前までの間に終了の通知をする | 期間満了で終わる | 満了を待って、空いた状態で売れる |
普通借家では、貸主が使う必要があるといった事情だけでは、更新拒絶や解約が認められない場合があります。正当な事由があるかは、貸主と借主が建物を必要とする事情や、これまでの経過などを総合して判断されます。数年内に売るか戻るかを考えているなら、定期借家にするかを管理会社や宅建業者に相談します。
住宅ローンが残る家を貸すときは、ローンの契約内容を確かめ、借入先に先に相談します。
判断表:自分の数字を入れる順番
次の順に数字を出します。
- 売る場合の手取り:査定を取り、ローン残債・手数料・税金を引く。
- 貸す場合の年間の手元:賃料の相場を管理会社に聞き、上の式で出す。
- 特例の期限:住まなくなった日から、3年目の年末を数える。
- 戻る予定の有無:家族が住む可能性、貸し出す期間の見通し。
- 管理できるか:修繕、借主対応を誰がするか。
売る場合の査定額と、各社が示す価格の根拠を見比べたいときは、一括査定を使う方法があります。査定の数字は売却の保証ではなく、各社の見込みです(宅地建物取引業法34条の2で、根拠を聞いて比べる)。申し込み後に複数の会社から連絡が入ることがあります。貸した場合の賃料の見込みは査定では分からないので管理会社に別に確かめ、売るか貸すかは両方の数字がそろってから決めて構いません。
結果を次の表に当てはめて、考え方の目安にします。個別の結論は、税理士や不動産会社に自分の数字で確かめてください。
| 状況 | 向きやすい選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 数年内に家族が戻る予定がある | 貸す(定期借家) | 期間満了で返してもらえる |
| 戻る予定がなく、固定資産税と管理の負担が重い | 売る | 毎年の負担がなくなる |
| 3年目の年末が近い | 年末までに売る | 3,000万円控除の期限があるため |
| 修繕に多額の費用がかかる築古の家 | 売る、または現状のまま買取で売る | 貸すには改修が要る場合がある |
| 売却益が小さく、特例が要らない | どちらも選べる | 収支で比べる |
| ローン残債が売却額を上回る | 売る前に住宅ローンが残っている家を売るには:残債の確かめ方と売り方を確認 | 完済できないと売れない |
売る場合の売却全体の流れは不動産売却の流れ:査定から引き渡しまでの7段階と期間・費用で確かめられます。
よくある質問
Q. 一度貸してしまうと、3,000万円控除は使えなくなりますか?
貸したこと自体で使えなくなるわけではありません。国税庁は、以前に住んでいた家屋について、住まなくなった日以後どのような用途に使用してもかまわないと案内しています。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが期限です。ただし、貸している間の減価償却は取得費の計算に影響します。
Q. 貸した家に借主がいる間は、いつでも売れますか?
売るのは貸主の自由ですが、借主との賃貸借は買主に引き継がれます。借主を退去させたいときは、普通借家契約の場合、貸主からの更新拒絶や解約の申入れに正当な事由が要ります(借地借家法28条)。そのため、売りたい時期が見えているなら、貸す前に定期借家契約にするかを検討します。
Q. 賃貸収入は税金がかかりますか?
かかります。貸付けによる収入は不動産所得として、総収入金額から必要経費を引いて計算します(国税庁)。必要経費には固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などがあります。他の所得と合算して税額が決まるため、実際の負担は収入の全体で変わります。
出典・参考にした公的な情報
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)(国税庁)
- No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき(国税庁)(国税庁)
- No.3261 建物の取得費の計算(国税庁)(国税庁)
- No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)(国税庁)(国税庁)
- No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分(国税庁)(国税庁)
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)(国税庁)
- 借地借家法 第26条・第28条・第38条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 宅地建物取引業法 第34条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。