遺言書とエンディングノートの違い:法的な効力と書き分け方
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遺言書とエンディングノートの違いは、法的な効力があるかどうかです。遺言書は民法の方式に従って作った場合に限り、財産を誰に引き継がせるか、遺言執行者を誰にするかなどについて、亡くなった後に効力を生じます(民法960条・985条)。エンディングノートは、書き方の決まりがない分自由に書けますが、書いた希望を家族に守らせる力はありません。だから、財産の行き先など効力が要ることは遺言書に、財産のありか・連絡先・介護や葬儀の希望・気持ちはエンディングノートに、と書き分けるのが基本です。この記事では、2つの違いを表で比べ、それぞれに書くことの仕分け方と、矛盾させないための手順を示します。
遺言書とエンディングノートの違い:比較表
| 比べる点 | 遺言書 | エンディングノート | 遺書(日常の言葉) |
|---|---|---|---|
| 法的な効力 | 法律が認めた事項について、亡くなった時から生じる | なし | 呼び名では決まらない。方式を満たせば遺言書として扱われうる |
| 書き方の決まり | 民法の方式どおり(自筆証書・公正証書など) | なし | なし |
| 作る費用 | 自筆は無料、法務局保管は3,900円、公正証書は手数料 | ノート代程度 | なし |
| 読まれる時期 | 亡くなった後 | 生きている間(判断力が落ちた時・入院時)にも読まれうる | 亡くなった後 |
| 書き直し | 遺言の方式に従っていつでも撤回・変更できる | 自由 | 自由 |
| 向いている中身 | 財産の行き先、遺言執行者、認知、祭祀主宰者の指定など | 財産のありか、連絡先、医療・介護・葬儀の希望、デジタルの情報、家族への言葉 | 気持ちを伝える手紙 |
表のうち見落としやすいのが「読まれる時期」です。遺言書は亡くなった後に開くものですが、エンディングノートは、入院したときや判断する力が落ちたときに家族が開くこともできます。延命治療についての考えや、介護施設の希望、かかりつけ医の連絡先などは、亡くなった後では役に立たないので、ノートに書く意味が大きい部分です。
遺言書に書くこと:効力が要る事項
遺言で法律上の効果を生じさせられる事項のうち、家族の生活に直結するのは次のものです。
- 財産の行き先:自宅は妻に、預金は長男に、といった指定(民法964条)。相続人でない人(長男の妻、内縁の配偶者、お世話になった人、寄付先)に財産を残すには、遺言(遺贈)が基本の方法です。
- 遺言執行者:預金の解約や名義変更を進める人の指定(1006条)。
- お墓・仏壇を受け継ぐ人:祭祀主宰者の指定(897条)。お墓の希望はノートに書きがちですが、受け継ぐ人を決めたいなら遺言で指定できます。
- 生命保険の受取人の変更:遺言でもできると定められています(保険法44条1項)。ただし、亡くなった後に保険契約者の相続人が保険会社へ通知しないと、保険会社に主張できません(同条2項)。通知の漏れを防ぐために、遺言執行者を決めておくと進めやすくなります。
自筆証書遺言で作るなら、全文・日付・氏名を手書きして押印します(968条。2026年10月時点で押印は要件。押印を任意にする改正は施行前)。夫婦が1枚の紙に連名で書くことはできません(975条)。何に効力があり、どんな場合に無効が争われるかは遺言書の効力:書いて意味があること・ないことと無効になる典型で、方式の選び方は遺言書の種類と書き方:自筆証書・公正証書・法務局保管の選び方で確かめられます。
エンディングノートに書くこと:家族が困る「ありか」と「希望」
エンディングノートは、亡くなった後や入院したときに、家族が探し回らずに済むための台帳と考えると書くことが決まります。項目の例を、遺言書との関係とあわせて並べます。
| 分野 | ノートに書くこと | 遺言書との関係 |
|---|---|---|
| 財産のありか | 金融機関名と支店、証券会社、保険会社と証券番号、不動産の所在、貸金庫、借入れ | 行き先は遺言書に。ノートは「どこにあるか」 |
| 書類の置き場所 | 通帳・印鑑・権利証(登記識別情報)・保険証券・年金の書類 | 遺言書の保管場所もここに書く |
| 連絡先 | 親族、友人、勤務先、かかりつけ医、顧問の税理士など | なし |
| 医療・介護 | 延命治療への考え、介護を受けたい場所、病名を知らせたい範囲 | 遺言事項ではない。家族が判断する材料になる |
| 葬儀・お墓 | 葬儀の形、呼んでほしい人、遺影、納骨の希望 | 祭祀を受け継ぐ人の指定は遺言でできる |
| デジタル | 使っている端末、ネット銀行・証券、定額サービス、写真の保管先 | パスワードそのものを書くかは、ノートの保管のしかたとあわせて決める |
| ペット・その他 | 預け先の候補、かかっている動物病院 | 費用を残すなら遺言で遺贈を検討 |
| 家族への言葉 | 感謝、分け方の理由 | 遺言の付言事項に書くこともできる |
デジタル関係は、ノートに書いた情報が漏れると被害につながるので、ノートの置き場所を家族の1人にだけ伝える、パスワードは別の紙に分けて封をする、といった工夫をします。スマホやネット口座の後始末の流れはデジタル遺品の整理:スマホ・ネット銀行・サブスクの解約手順に、物と書類の片づけ方は生前整理の進め方:物・お金・書類・デジタルの4分野で整理するにまとめています。
ノートに財産の分け方を書いてしまったら:よくある3つのずれ
エンディングノートと遺言書を両方作ると、次のようなずれが起きやすくなります。
- ノートの分け方と遺言書の内容が違う。 効力があるのは遺言書の方です。ノートの記述が古い考えのまま残っていると、「本当の気持ちはどちらか」で家族がもめる種になります。分け方はノートに書かず、「財産の分け方は遺言書に書いた」とだけ記します。
- ノートに手書きで分け方を書き、日付と名前も書いた。 方式を満たしているかどうか、遺言として書いたのかどうかが争われる余地が生まれます。遺言として残したいなら、ノートとは別に遺言書として作り直します。
- 録音や動画で「家は長男に」と残した。 日本公証人連合会も、録音テープやビデオで録音・録画をしておいても遺言としての法律上の効力はない、と説明しています。2026年の改正で録音・録画による遺言の方式が設けられる予定ですが、死亡の危急に迫った場合などの例外的な方式で、施行前でもあります。
遺言はいつでも方式に従って撤回・変更できます(1022条)。気持ちが変わったら、ノートではなく遺言書を書き直すのが筋です。
書き分けの手順:一覧づくりから保管まで
- エンディングノートで一覧を作る。 財産のありかと家族・連絡先を先に埋めます。財産の調べ方は相続財産の調べ方:預金・不動産・借金を漏れなく見つける照会先一覧の照会先が、生前の整理にも使えます。
- 一覧を見ながら、行き先を決める財産を選ぶ。 自宅、預金、相続人以外に残したいものなど。
- 遺言書を作る。 自筆証書遺言か公正証書遺言を選びます。手書きの遺言を法務局に預ければ、亡くなったことが確認された時点で、指定した人(最大3名)に遺言書が保管されていることを通知する仕組みも使えます。
- ノートに遺言書のありかを書く。 「遺言書は〇〇法務局に保管」「公正証書遺言の正本は自宅の金庫」など、場所と方式を書きます。
- 年に1回、両方を見直す。 口座の解約や引っ越し、家族の結婚・出産があれば、ノートを直し、行き先に関わる変化なら遺言書も書き直します。
判断する力が落ちてからでは遺言は作れないので、親に勧める立場の人は、まずノートの一覧づくりを一緒に始めると話を切り出しやすくなります。親の認知症に備える全体の段取りは親が認知症になる前にやること:財産・委任・信託の対策チェック表で、自筆証書遺言の要件の確かめ方は自筆証書遺言の要件:全文自書・日付・氏名・押印と財産目録の例外で確認できます。
よくある質問
Q. エンディングノートに「家は長男に」と書いておけば、遺言の代わりになりますか?
代わりにするのは避けてください。遺言は民法の方式に従わなければできず、自筆証書遺言なら全文・日付・氏名の手書きと押印が要ります。市販のノートの記入欄に書いた一文は、方式を欠いたり、遺言として書いたのか単なるメモなのかが争われたりしやすく、家族を迷わせます。財産の行き先は、別に遺言書として作ります。
Q. 遺言書とエンディングノートは、どちらを先に作ればよいですか?
エンディングノートで財産と家族の一覧を先に作ると、遺言書に何を書くべきかが見えてきます。そのうえで、財産の行き先を遺言書にまとめ、ノートには遺言書の保管場所を書き添えると、両方がつながります。どちらも書き直しができるので、完成を待たずに始めてかまいません。
Q. 「遺書」と「遺言書」は何が違いますか?
「遺書」は亡くなる前に気持ちを書き残す手紙などを広く指す日常の言葉で、法律の用語ではありません。「遺言書」は民法の方式に従って作られ、財産の行き先などに法的な効力を持つ書面です。呼び名ではなく、民法の方式を満たしているかどうかで効力が決まります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第897条・第960条・第964条・第968条・第975条・第1006条・第1022条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 保険法 第44条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証事務「遺言」(遺言の方式・録音や録画は遺言にならない旨)(日本公証人連合会)
- 自筆証書遺言書保管制度 制度の概要(指定者通知)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。