遺言書 / 基本ガイド

遺言書の種類と書き方:自筆証書・公正証書・法務局保管の選び方

この記事のもくじ
  1. 遺言書の種類は3つ:まず選び方の結論から
  2. 自筆証書遺言の書き方:4つの要件とひな形
  3. 法務局に預ける・公正証書にする:作り方と費用
  4. 遺言書で決められること・書いても効力がないこと
  5. 遺言書が見つかったら:方式ごとに次の一手が違う
  6. 作る前にそろえるもの・相談先の選び方

遺言書とは、自分が亡くなった後に、財産を誰にどう引き継がせるかなどを書き残す書面で、民法の決めた方式どおりに作ったものだけが、法律上の効力を持ちます(民法960条)。いま使える方式は、主に「自筆証書遺言(自宅で保管)」「自筆証書遺言を法務局に預ける方法」「公正証書遺言」の3つです。費用をかけずにすぐ書くなら自筆証書、紛失や書き換えの心配を減らすなら法務局での保管、方式の不備を避けて確実さを優先するなら公正証書、というのが選び方の軸になります。この記事では、3つの違い、自筆で書くときの要件とひな形、そして遺言書が見つかった後の手続きまでを順に示します。

遺言書の種類は3つ:まず選び方の結論から

民法が定める普通の方式は、自筆証書・公正証書・秘密証書の3つです(967条)。内容を伏せたまま存在だけを公証人に証明してもらう秘密証書遺言は使われる場面が限られるので、実際には次の3つから選びます。

早見表:遺言書の3つの作り方の違い
比べる点 自筆証書遺言(自宅保管) 自筆証書遺言(法務局で保管) 公正証書遺言
誰が書くか 本人が全文・日付・氏名を手書き 同左(法務省令の様式に合わせる) 公証人が本人の話をもとに作る
証人 不要 不要 2人以上
作るときの費用 紙とペンだけ 保管の申請1通3,900円 財産の額に応じた公証人手数料
亡くなった後の検認 必要 不要 不要
なくす・書き換えられる心配 ある 法務局が原本を保管 公証役場側で原本を保管
内容の相談 なし 法務局は内容の相談に応じない 公証人に無料で相談できる

選ぶときは、次の3つの問いに順に答えると決めやすくなります。

  1. 全文を自分で手書きできるか。 書けないなら、公正証書遺言が現実的です。公証人は自宅や病院への出張にも応じます。
  2. 財産や家族の事情は単純か。 「自宅は妻へ、預金は長男へ」程度なら自筆でも書けます。不動産が複数ある、相続人でない人に残す、先妻の子がいるなど、争いの火種があるなら公正証書を考えます。
  3. 費用と手間をどこまでかけられるか。 自筆は無料、法務局保管は3,900円、公正証書は財産の額で決まる手数料と証人の手配がかかります。

方式ごとの費用・検認・保管・無効になりやすさを細かく比べたいときは、サイトの比較表をまとめた自筆証書遺言と公正証書遺言の違い:費用・検認・2026年改正の比較表を見てください。

自筆証書遺言の書き方:4つの要件とひな形

自筆証書遺言は、本文・日付・氏名をすべて自分の手で書き、印を押すことが要件です(968条1項)。2026年10月時点では押印も要件のままです。押印を任意にする法改正は2026年6月に成立しましたが、施行は政令で決まる日で、まだ始まっていません。施行前に押印なしで書いた遺言は、施行後も前の決まりで判断されます。改正の中身は遺言書の押印不要はいつから?2026年の民法改正の中身と施行時期で整理しています。

書くときに押さえる点は次のとおりです。

  • 全文を手書きする。 パソコンの本文や代筆は方式を欠きます。
  • 日付は年月日が特定できるように書く。 法務局の様式の注意事項でも「吉日」のような書き方は認めていません。
  • 氏名を書き、印を押す。 条文は「印」とだけ定めていて、実印に限っていません。本人が書いた証拠にもなるので、ふだん使っている印をはっきり押します(法務局の注意事項はスタンプ印を避けるよう求めています)。
  • 財産目録だけは手書きでなくてよい。 パソコンで作った一覧や、通帳のコピー・登記事項証明書を目録として付けられます。その場合は目録の各ページ(両面に記載があれば両面)に署名して印を押します(968条2項)。
  • 書き直すときは方式に従う。 訂正の場所を示し、変更した旨を書き添えて署名し、その場所に印を押さないと、訂正の効力が生じません(968条3項)。迷ったら全部書き直します。
  • 夫婦で1枚に連名で書かない。 2人以上が同じ証書で遺言することは禁じられています(975条)。

ひな形としては、次のような骨組みが基本になります。人名・財産は自分のものに置き換え、不動産は登記事項証明書のとおりに書きます。

文例(自筆証書遺言のひな形) 遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。 第1条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。所在 〇〇市〇〇町〇丁目 地番 〇番〇 地目 宅地 地積 〇〇.〇〇平方メートル 第2条 遺言者は、遺言者名義の預貯金の全部を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第3条 長男が遺言者より先に、又は遺言者と同時に死亡したときは、前条により長男に相続させるとした財産を、長男の子に均等の割合で相続させる。 第4条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、長男〇〇〇〇を指定する。 令和〇年〇月〇日 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 遺言者 〇〇〇〇 ㊞

第3条は「予備的な遺言」で、受け取る人が先に亡くなった場合に備えます。財産の書き方は自筆証書遺言の書き方と例文に、家族構成ごとの文例は遺言書の書き方の例文集に、要件の一つずつの意味は自筆証書遺言の要件に、無効と言われやすい例は自筆証書遺言のトラブルにまとめています。

法務局に預ける・公正証書にする:作り方と費用

法務局での保管(自筆証書遺言書保管制度)は、手書きした遺言書を法務局が原本ごと預かる仕組みです。申請できるのは遺言者本人だけで、代理や郵送はできず、予約して出向きます。申請先は、本人の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。用紙はA4・片面のみで、余白の幅やページ番号の書き方が決まっています。手数料は保管の申請1通3,900円で、預けた遺言書は家庭裁判所の検認が要りません(遺言書保管法11条)。一方で、法務局は方式の外形を確かめるだけで、内容の相談には応じず、有効性も保証しません。手順と必要書類は遺言書の法務局保管制度に、弱点は法務局保管のデメリットにあります。

公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもとで本人が遺言の内容を公証人に伝え、公証人が書面(現在は電子データの原本)にまとめる方式です(969条)。日本公証人連合会によると、流れはおおむね次のとおりです。

  1. 公証役場に相談する(無料。士業や銀行を通さず本人や家族が直接頼んでもよい)。
  2. 誰に何を残すかのメモと、印鑑登録証明書(または顔写真付きの身分証)・戸籍謄本・不動産の登記事項証明書や固定資産の評価証明書・通帳の写しなどを出す。
  3. 公証人が作った案を確かめ、直したい点を伝えて確定する。
  4. 当日、証人2人の前で内容を改めて伝え、読み聞かせか閲覧で確かめて、電子サインをする。

手数料は公証人手数料令で決まり、財産を受け取る人ごとに額を出して合計し、全体が1億円以下なら13,000円を加えます。妻に3,000万円、子に1,000万円を相続させる遺言なら、26,000円+20,000円+13,000円=59,000円が基本の額です(筆者の計算)。ほかに枚数の加算や、正本・謄本の交付の手数料がかかります。手順は公正証書遺言の作り方、必要書類は公正証書遺言の必要書類、証人は公正証書遺言の証人は誰に頼む?、費用の計算は公正証書遺言の費用で扱います。作った後に変えたいときは公正証書遺言の書き換え、争いが心配なときは公正証書遺言でももめる?、亡くなった後は公正証書遺言は死亡したらどうする?を見てください。

遺言書で決められること・書いても効力がないこと

遺言で法律上の効果を生じさせられることは、民法などの法律で決まっています。代表的なものは、財産を誰に引き継がせるか(相続させる・遺贈する)、遺産の分け方の指定、相続分の指定、遺言執行者の指定、子の認知、お墓や仏壇を守る人(祭祀主宰者)の指定などです。一方で、「兄弟仲よく」「葬儀は家族だけで」といった気持ちや希望は、書いておくことはできても、守らせる力はありません。こうした部分は「付言事項」と呼ばれます。

もう一つが遺留分です。兄弟姉妹以外の相続人は、遺言があっても最低限の取り分を金銭で請求できます(1042条・1046条)。「全財産を長男に」と書いても、ほかの子から請求される可能性は残ります。何が遺言で決められて、どんな場合に無効が争われるかは遺言書の効力:書いて意味があること・ないことと無効になる典型で、遺留分への備えは遺言書があっても遺留分は請求される?作る側・受ける側の備えで詳しく見ていきます。財産の一覧や連絡先など、法的な効力はなくても家族に伝えたいことは、遺言書とエンディングノートの違い:法的な効力と書き分け方のように書き分けると整理しやすくなります。

遺言書が見つかったら:方式ごとに次の一手が違う

亡くなった人の遺言書を見つけた側は、方式によって手続きが変わります。

見つかった遺言書 最初にすること 根拠・窓口
自宅などで見つかった自筆証書遺言 開封せずに家庭裁判所へ検認を申し立てる(収入印紙800円+郵便切手) 民法1004条、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所
法務局に預けられた自筆証書遺言 遺言書情報証明書(1通1,400円)の交付を請求する。検認は不要 遺言書保管法、全国の遺言書保管所
公正証書遺言 手元の正本・謄本で手続きを進める。見当たらなければ公証役場で検索する 平成元年以降に作られたものは全国の公証役場で無料で検索できる

封のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもとで開封する決まりです(1004条3項)。家庭裁判所の外で開けたり、検認を経ずに遺言を実行したりすると、5万円以下の過料の対象になります(1005条)。検認が要るかは自筆証書遺言の検認は必要?、手順は遺言書の検認の手続き、開けてしまった場合は遺言書を開けてしまったらで確かめられます。開封前の確かめ方は遺言書の開け方:見つけたら開封前に確かめることと検認の流れに、遺言書があるかどうか分からないときの探し方は遺言書があるかどうかの調べ方:法務局・公証役場・自宅の探し方にまとめています。

その後の預金の解約や相続登記の手順の違いは遺言書あり・なしで相続手続きはどう違う?手順の分かれ道を比較で確かめられます。遺言執行者が指定されていれば、その人が手続きを進める権限を持ちます(1012条)。役割は遺言執行者とは?にまとめました。遺言と違う分け方をしたいときは遺言書と違う遺産分割はできる?を見てください。

作る前にそろえるもの・相談先の選び方

遺言書を書き始める前に、次の4点をそろえておくと、自筆でも公正証書でも作業が早く進みます。

  • 財産の一覧:不動産、預貯金、証券口座、保険、借入れ。
  • 家族の一覧:相続人になる人の氏名・生年月日・続柄と、相続人以外に残したい人の住所。
  • 誰に何を残すかの案:先に亡くなった場合の受け取り手も考えておく。
  • 遺言執行者の候補:相続人の1人でも、専門家でもかまいません。

内容に迷う、財産が多い、争いが心配といった場合は、作る前に相談先を選びます。公証役場は無料で相談でき、司法書士・行政書士は原案づくりの支援、弁護士は争いが予想される場合の設計、信託銀行は保管や遺言執行の引受けと、得意分野が違います。違いと費用の調べ方は遺言書の作成の相談先で比べています。家族の事情別には、子どものいない夫婦の遺言書、遺言書で寄付する書き方、遺言書で甥に相続させる書き方があります。遺言は判断する力があるうちにしか作れない(963条・3条の2)ので、まず財産と家族の一覧づくりから始めます。

よくある質問

Q. 遺言書はパソコンで作ってもよいですか?

自筆証書遺言は、本文・日付・氏名を手書きする決まりなので、本文をパソコンで打つと方式を欠きます。手書きでなくてよいのは、本文に添える財産目録だけです(各ページに署名と押印が要ります)。パソコンで作ったデータを預ける「保管証書遺言」は新設の予定ですが、まだ使えません。

Q. 遺言書は何歳から書けますか?

民法961条で、15歳になれば遺言をすることができます。年齢よりも大切なのは、書く時点で内容を理解して判断できる力があることです。判断する力が落ちてからでは作れないので、元気なうちに作り、事情が変わったら書き直す、という順番が現実的です。

Q. 遺言書を書いたことを家族に伝えるべきですか?

伝える義務はありませんが、見つけてもらえなければ内容は実現されません。公正証書遺言は相続人が公証役場で検索でき、法務局に預けた遺言は指定した人へ死亡時に通知が届く仕組みがあります。中身を話さなくても、作ってあることと置き場所は信頼できる人に伝えておきます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い:費用・検認・2026年改正の比較表

自筆証書遺言の書き方と例文:不動産・預金の特定のしかた

公正証書遺言の作り方:公証役場への相談から当日の署名までの流れ

遺言書の開け方:見つけたら開封前に確かめることと検認の流れ