遺言書 / 制度解説

自筆証書遺言の要件:全文自書・日付・氏名・押印と財産目録の例外

この記事のもくじ
  1. 自筆証書遺言の4つの要件(民法968条1項)
  2. 財産目録だけは手書きでなくてよい例外(968条2項)
  3. 日付の「吉日」など、無効が争われやすい書き方
  4. 書き間違えたときの訂正の方法(968条3項)
  5. 2026年改正で押印はどうなるか(施行前)

自筆証書遺言が有効になるための要件は、民法968条1項にある「全文・日付・氏名を自分の手で書き(自書)、印を押す」の4つです。例外は財産目録だけで、目録はパソコンで作ったものや通帳のコピーでもかまいませんが、目録の各ページに署名と押印が要ります。日付を「吉日」と書く、夫婦で1枚に連名で書くといった形は、方式を欠くとして争われる典型です。2026年6月に押印を任意にする法改正が成立しましたが、2026年10月時点では施行前なので、今書くなら押印も要件です。

自筆証書遺言の4つの要件(民法968条1項)

まず、条文が求めることを1つずつ確かめます。4つのどれかが欠けると、遺言の方式を欠くことになり、効力が争われます(民法960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めています)。

要件 条文が求めること よくある書き損じ
全文の自書 本文を遺言者が自分の手で書く 本文をパソコンで打つ、家族に代筆してもらう
日付の自書 書いた年月日を特定できるように書く 「令和8年10月吉日」「令和8年秋」と書く
氏名の自書 遺言者の氏名を自分で書く 名字だけで書く、誰のことか分からない呼び名で書く
押印 印を押す 押し忘れる、本文と別の紙にだけ押す

条文は印の種類を定めていません。法務省の保管制度の様式例の注記でも、押印は認印でよいとされ、スタンプ印(インク内蔵の印)は避けるよう案内されています。氏名について、法務省は、民法上は本人を特定できればペンネームでも差し支えないとされると説明しています。ただ、法務局の保管制度では、戸籍どおりの氏名でないと預かってもらえません。制度を使わない場合も戸籍どおりにそろえておくと、後で迷いません。

遺言の中身(記載事項)として最低限そろえたいのは、「誰に」「どの財産を」「相続させる(または遺贈する)」の3点です。推定相続人(相続が開始したときに相続人になる人)には「相続させる」または「遺贈する」、相続人以外の人には「遺贈する」と書くのが法務省の様式例の案内で、財産の特定の仕方は自筆証書遺言の書き方と例文にまとめています。

ほかに、遺言できるのは15歳以上(民法961条)で、書く時点で遺言する能力があることが前提です(963条)。また、2人以上が同じ証書で遺言することはできません(975条)。夫婦が1枚の紙に連名で書いた遺言は、この共同遺言の禁止に触れます。夫婦で遺言を残すなら、1人1通ずつ別の紙に書きます。

早見表:自筆証書遺言で手書きが要る部分・要らない部分
部分 手書き 署名・押印
本文(誰に何を残すか) 必要 末尾に氏名を自書して押印
日付 必要 ―
財産目録 不要(パソコン・コピー可) 目録の各ページに署名と押印
訂正 付記と署名は遺言者本人が書く 変更した場所に押印

財産目録だけは手書きでなくてよい例外(968条2項)

本文に添える財産目録は、自書しなくてかまいません。この例外は2019年1月13日から使えるようになったもので、それより前に書かれた自筆証書遺言は、目録も含めて全文を自書する昔のルールで判断されます。

目録の作り方は、次のどれでもよいとされています。

  • パソコンで不動産や預金の一覧を作って印刷する
  • 不動産の登記事項証明書のコピーを付ける
  • 預金通帳の、銀行名・支店名・口座名義・口座番号が分かるページのコピーを付ける

条件は、目録の毎葉(1枚ごと)に署名し、印を押すことです。両面に自書でない記載がある場合は、両面に署名と押印が要ります。目録に署名や押印が抜けたページがあると、そのページに書かれた財産の扱いが争われるもとになります。

なお、目録の例外は「目録」に限った話です。「長男に自宅を相続させる」という本文そのものは手書きで書きます。財産の書き方の具体例は、自筆証書遺言の書き方と例文で、不動産・預金を特定する文例として示しています。

日付の「吉日」など、無効が争われやすい書き方

日付は、遺言書を書いた年月日を特定できるように書きます。法務省は保管制度の注意事項で、「令和3年3月吉日」のような記載は不可と明記しています。年月だけで日がない書き方も、どの日に書いたのかが特定できません。遺言が複数見つかったとき、後の遺言が前の遺言に優先する(民法1023条)ため、日付は「どちらが新しいか」を決める手がかりにもなります。

方式の面で争いになりやすい書き方を、点検表にまとめます。

  • 日付が「吉日」「令和8年10月」「私の誕生日」など、いつ書いたかの年月日が分からない書き方になっていないか
  • 本文の一部だけ、パソコンや他人の手で書いた箇所がないか
  • 氏名の自書と押印が、本文の末尾にあるか
  • 財産目録の全ページ(両面に記載があれば両面)に署名と押印があるか
  • 夫婦や親子で1枚に連名していないか
  • 消せるペンや鉛筆で書いていないか

これらは方式の話です。書いた時の判断能力や筆跡、内容のあいまいさといった、方式以外の理由で起きる争いは、自筆証書遺言のトラブル:無効と言われやすい例と防ぎ方で扱います。

書き間違えたときの訂正の方法(968条3項)

自筆証書遺言の加除その他の変更は、次の手順を全部ふまないと、変更の効力が生じません。

  1. 変更した場所を指示する(例:二重線で消し、正しい字を書き加える)
  2. 変更した旨を付記する
  3. その付記に特に署名する
  4. 変更の場所に印を押す

付記の例:「本遺言書3行目中、2字削除し、4字追加した。 氏名(自書)」

手順が欠けた訂正は、その変更がなかったものとして扱われます。訂正が複数になると、どこが有効な変更なのかをめぐって読み方が割れやすくなります。法務省の様式例の注記も、変更がある場合は書き直すことを勧めています。数か所以上を直すなら、新しい紙に全文を書き直し、古いものは破棄するほうが後に問題を残しません。故意に破棄した部分は撤回したものとみなされます(民法1024条)。

2026年改正で押印はどうなるか(施行前)

2026年10月時点では、押印を任意にする改正は成立していますが施行前です。施行日は公布(2026年6月24日)から1年以内に政令で定められる予定で、法務省の案内ページには具体的な日付がまだ載っていません。今の自筆証書遺言は、押印まで済ませて書きます。施行の時期と改正の全体は遺言書の押印不要はいつから?2026年の民法改正に集めています。

時期 自筆証書遺言の押印 財産目録・訂正の押印
今(施行前) 必要(現行968条1項) 必要(同2項・3項)
施行後に書く遺言 任意(全文・日付・氏名の自書は必要) 任意

注意したいのは、押印が不要になるのは施行日以後にする遺言からと説明されている点です。今、押印せずに書いた遺言は、施行後になっても方式を欠くものとして争われるおそれがあります。「どうせ要らなくなる」と考えて押印を省くことはしないでください。

パソコンなどで作ったデータを預ける「保管証書遺言」も新設される予定ですが、まだ使えません。今ある遺言書の法務局保管制度(手書きの遺言を預ける制度)とは別のものです。

自筆証書遺言か公正証書遺言かで迷っている段階なら、先に遺言書の種類と書き方の選び方で全体像を見てから戻ると、どこまで自分で書くかを決めやすくなります。遺言書とメモ書きの違いが気になる人は、遺言書とエンディングノートの違いも参考になります。

よくある質問

Q. 鉛筆やシャープペンシルで書いた自筆証書遺言でもよいですか?

民法968条は筆記用具の種類を定めていません。ただ、鉛筆や消せるペンは後から書き換えられたと疑われる原因になります。法務省も保管制度の注意事項で、消えないボールペンや万年筆で書くよう求めているので、それに合わせるのが無難です。

Q. 自筆証書遺言は封筒に入れて封をしないと無効ですか?

封をすることは968条の要件ではありません。ただし封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもとでしか開けられない決まりがあります(民法1004条3項)。法務局の保管制度を使う場合は、封をしない状態で持参します。

Q. 一度書いた自筆証書遺言の内容を変えたくなったら、どうすればよいですか?

遺言はいつでも、遺言の方式に従って全部または一部を撤回できます(民法1022条)。前の遺言と食い違う新しい遺言を書けば、食い違う部分は前の遺言を撤回したものとみなされます(1023条)。書き足しや削除が多くなるなら、訂正より全文を書き直すほうが争いを残しにくくなります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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