法定相続人がいない場合の財産:相続財産清算人と特別縁故者の流れ
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法定相続人が一人もいない場合、亡くなった人(被相続人)の財産は自動的に国のものになるわけではありません。家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」が借金の支払いなどの清算をし、特別縁故者への分与を経て、最後に残った財産が国庫に入ります(民法951条〜959条)。この流れは申立てがなければ始まらず、選任から国庫に入るまでに、公告と請求の期間だけで最低9か月ほどかかります(筆者の計算。内訳は下の流れ図のとおり)。
法定相続人がいない場合とは:戸籍で確かめる3つの順位
「相続人がいない」と言えるのは、配偶者がいないうえで、次の3つの順位のすべてに相続人がいないときです。親族の誰かが「いないと思う」と言っているだけでは足りず、戸籍で確かめます。
| 順位 | 相続人になる人 | 本人がすでに亡くなっているとき |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子(養子を含む) | 孫・ひ孫が代わりに相続(代襲相続) |
| 第2順位 | 父母・祖父母(直系尊属) | 親等の近い人が先 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 甥・姪まで代わりに相続(その先はない) |
兄弟姉妹の子である甥・姪が代わりに相続人になる点は見落とされやすいところです。代わりに相続する人の範囲と取り分は代襲相続人に遺留分はあるか、孫と甥姪で違う理由でも扱っています。順位の全体は法定相続人とは:どこまでが相続人になるかで家族図にしています。
次の人は、どれほど近い関係でも法定相続人にはなりません。
- 内縁・事実婚のパートナー
- 子の配偶者(いわゆる長男の妻など)
- 養子縁組をしていない連れ子
- 友人・知人・お世話になった施設
相続人が「いる」のに連絡が取れない・行方が分からない場合は、相続人不存在ではありません。この場合は別の手続き(不在者財産管理人など)になるため、相続で兄弟と連絡取れない・行方不明のときの調べ方を見てください。
財産はどうなる?相続財産清算人から国庫までの流れ
相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法律上「法人」として扱われます(民法951条)。そのうえで、次の順に進みます。
- 清算人の選任の申立て:利害関係人(お金を貸していた債権者、遺言で特定の財産をもらう人、特別縁故者に当たると考える人など)または検察官が、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます(952条1項)。
- 相続人を探す公告:家庭裁判所が、清算人を選んだことと「相続人がいれば一定期間内に名乗り出るように」という公告をします。期間は6か月以上です(952条2項)。
- 債権者・受遺者への公告:清算人が、借金の貸主や遺言で財産をもらう人に、2か月以上の期間を定めて申し出るよう公告します。この期間は2の期間内に終わるように置かれます(957条1項)。
- 清算:申し出た債権者への支払い、遺贈の実行などをします。必要に応じて不動産などを換金します。
- 特別縁故者の請求:2の期間が終わってから3か月以内に、特別縁故者が財産の分与を請求できます(958条の2)。
- 国庫への帰属:分与されずに残った財産は国庫に入ります(959条)。
2の期間に相続人が名乗り出なければ、その後に相続人や債権者として権利を主張することはできなくなります(958条)。
- 申立て(利害関係人・検察官)→ 家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶ
- 相続人を探す公告:6か月以上
- 債権者・受遺者への公告:2か月以上(上の期間の中で終わる)
- 公告期間の満了 → 3か月以内に特別縁故者が分与を請求
- 分与されなかった財産 → 国庫
筆者の計算では、公告の6か月と特別縁故者の請求期限の3か月を足すだけで、選任から最低9か月はかかります。実際には申立ての準備や清算の作業がこれに加わります。
なお、2023年4月の民法改正で、以前の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名前が変わり、相続人を探す公告と債権者への公告を並行して行う形に整理されました。古い本やウェブ記事にある「公告を3回」「管理人」という説明は、今の手続きとは違います。
相続財産清算人の申立てに必要な費用と書類
裁判所の案内(2026年10月時点)では、申立てに必要なものは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 収入印紙 | 800円分 |
| 郵便切手 | 申立先の家庭裁判所が決めた額(裁判所ごとに違う) |
| 官報公告料 | 5,582円(家庭裁判所の指示があってから納める) |
| 予納金 | 財産から清算人の報酬などをまかなえないおそれがあるとき、申立人に求められることがある |
戸籍は、相続人がいないことを示すために幅広く集めます。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子(と代わりに相続する人)で亡くなっている人の戸籍
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍
- 被相続人の兄弟姉妹・甥姪で亡くなっている人の戸籍
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書、預金通帳の写しなど)と、申立人の利害関係を証する資料
予納金の額は、財産の内容や清算の手間に応じて、事案ごとに家庭裁判所が決めます。財産が預金だけで清算人の報酬をまかなえる見込みなら、求められないこともあります。申立ての前に、申立先の家庭裁判所の手続案内で、郵便切手の額と予納金の扱いを聞いておくと準備が進めやすくなります。
特別縁故者として財産の分与を受けるには
特別縁故者は、相続人がいないときに、被相続人と特に近い関係にあった人が財産の全部または一部を受け取れる制度です。民法958条の2は、次の3つの例を挙げています。
- 被相続人と生計を同じくしていた人(内縁の配偶者、同居して家計を一つにしていた人など)
- 被相続人の療養看護に努めた人
- その他、被相続人と特別の縁故があった人
分与は「家庭裁判所が相当と認めるとき」に限られ、全部か一部か、いくらかも家庭裁判所が決めます。申し立てた人が受け取れると決まっているわけではありません。
特別縁故者として請求するときの準備は、次のとおりです。
- 期限を押さえる:相続人を探す公告の期間が終わってから3か月以内です。清算人が選ばれていなければ請求できないため、自分で清算人の選任を申し立てることもできます。
- 申立て:被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、収入印紙800円分と郵便切手、申立書と申立人の住民票または戸籍附票を出します。
- 縁故を示す資料をそろえる:同居していたことが分かる住民票、生活費を出し合っていた記録、通院の付き添いや介護の記録、手紙や写真など、関係の深さを具体的に示せるものを集めます。
特別縁故者の請求は、法律上の主張を組み立てる場面です。縁故の示し方に迷うときは、弁護士への相談を考えてください(個別の事件についての法律事務は弁護士の仕事です。弁護士法72条)。相談先の選び方は相続手続きの専門家の違いと頼み分けにまとめています。
相続人がいない人が生前にできる備え:遺言と遺言執行者
自分に法定相続人がいないと分かっている人は、遺言を書いておくことで、財産の行き先を自分で決められます。遺言では相続人でない人にも財産を渡せる(遺贈、民法964条)ため、内縁の配偶者・お世話になった人・団体に残すことができます。
| 備え | できること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 遺言で遺贈する | 財産の全部または一部を、相続人でない人や団体に渡す | 方式(自筆証書・公正証書など)を守らないと効力が生じない |
| 遺言執行者を決めておく | 遺言の内容を実現する人を指定できる(1006条) | 相続人がいないので、手続きを進める人を決めておく意味が大きい |
| 寄付先を決める | 遺贈寄付で、自治体や団体に財産を残す | 受け取り先が不動産を受け付けるかを生前に確かめる |
| 共有の不動産を整理する | 共有者の一人が相続人なく亡くなり、特別縁故者への分与もされなかった持分は、他の共有者に帰属する(255条) | 生前に売却や持分の整理をしておくか、遺言で行き先を決めておくと、清算の手続きを待たずに済む |
遺言の種類と2026年の法改正(押印の任意化など、施行前)は自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、寄付の書き方は遺言書で寄付する書き方と遺贈寄付の文例で整理しています。
相続人が全員相続放棄をした結果「相続人がいない」状態になる場合もあります。放棄をした人が空き家などを占有しているときの扱いを含め、相続放棄の期限と手続きの全体を確かめてから判断してください。
よくある質問
Q. 内縁の妻(夫)は、法定相続人がいない人の財産を受け取れますか?
内縁の配偶者は法定相続人に入らないため、相続では受け取れません。ただし「生計を同じくしていた者」として特別縁故者の分与を家庭裁判所に請求する道があります(民法958条の2)。分与するか、どれだけ分与するかは家庭裁判所が決めます。生前なら、遺言で遺贈を受ける形にしておく方法があります。
Q. 相続人全員が相続放棄した場合も、相続人がいない扱いになりますか?
はい。裁判所の案内でも、相続人全員が相続放棄をして相続する人がいなくなった場合を含めて、相続財産清算人の選任の対象になると説明されています。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされる(民法939条)ためです。空き家などの管理の問題は、放棄の手続きの記事で整理しています。
Q. 清算人を申し立てないと、財産はどうなりますか?
清算人が選ばれない限り、財産は誰も処分できないまま残ります。預金は払い戻せず、不動産も売却や登記が進みません。お金を貸していた人や、家を管理している親族などの利害関係人が申し立てることで、清算の手続きが始まります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第951条〜第959条(相続人の不存在)・第255条・第964条・第1006条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続財産清算人の選任(裁判所)(最高裁判所)
- 特別縁故者に対する相続財産分与(裁判所)(最高裁判所)
- 家事事件Q&A(裁判所)(最高裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。